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三相全波整流回路を解析する(MATLAB/Simscape)

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始めまして。Blitz1127です。
以前単相全波整流回路のシミュレーションを行いました
今回は、MATLAB/Simscapeを用いて3相全波整流回路の動作をシミュレーションします。

3相全波整流回路とは

3相全波整流回路は3相交流から直流に変換する回路です。3相交流から直流に変換する回路(AC/DCコンバータ)にはいろいろありますが、その中で一番簡単な回路になります。この回路は電源品質などに課題があり、(私見ですが)あまり使用されていないです。そもそも3相交流は身近なところでは使用されていないので、一般の方には縁がないことでしょう。

three_phase_full_bridge.png
図1 3相全波整流回路構成

図1のとおり、3相交流回路に対して、ダイオードが6つ並べられた回路になります。ダイオードを通過した後は、負荷(抵抗にて模擬)が接続されています。図中では、途中に平滑用にインダクタとコンデンサが接続されています。

回路特性概要

教科書に書いてある特性を以下の図に示します。赤・青・黃の破線が3相交流回路の波形を、黒の実線が3相全波整流回路通過後の波形になります。ダイオードの特性により、3つの交流波形のうち、上側のダイオード3つにより最大の電圧を出力し、下側のダイオード3つにより最小の電圧を出力します。上側の電圧と下側の電圧の差分が負荷にかかる直流電圧となります。直流電圧をなぞっていくと雲形の波形となり、直流に対して交流が重畳した波形になります。このときの交流成分をリップルと呼びます。

three_phase_full_bridge_waveform_Time.png
図2 3相全波整流回路の入出力波形

回路特性詳細

三相全波整流回路の回路特性は以下の式で与えられます。
3相交流電源のA,B,C相の電圧は時間表現と位相表現で以下の通り記述できます。
$V_A=\sqrt{2}V_{acrms}\sin{(2\pi f t)=\sqrt{2}V_{acrms}\sin{\theta}}$
$V_B=\sqrt{2}V_{acrms}\sin{(2\pi f t - \frac{2\pi}{3})=\sqrt{2}V_{acrms}\sin{(\theta- \frac{2\pi}{3}})}$
$V_C=\sqrt{2}V_{acrms}\sin{(2\pi f t- \frac{4\pi}{3})=\sqrt{2}V_{acrms}\sin{(\theta- \frac{4\pi}{3}})}$
確認ですが、正弦波の位相と時間の間には以下の関係があります。
$2\pi f t = \theta$
これらを用いて、直流電圧の平均値$V_{dc}$を算出します。平均値を算出するためには1周期の間の平均を計算すればよいです。対称性が高いので、位相が$\frac{\pi}{6}$~$\frac{\pi}{2}$の間の平均を計算すればよいです。(交流周期が$2\pi$であるのに対し、直流周期は$\frac{\pi}{3}$であり、$\frac{1}{6}$倍になります。)この区間は直流電圧の正側はA相電圧を、直流電圧の負側はB相電圧を出力します。したがって直流電圧は次の式で表せます。

$V_{dc} = \frac{1}{\frac{\pi}{2}-\frac{\pi}{6}}\int_{\frac{\pi}{6}}^{\frac{\pi}{2}} (V_{A}(\theta)-V_{B}(\theta))d\theta$
$=\frac{3}{\pi}\int_{\frac{\pi}{6}}^{\frac{\pi}{2}}\sqrt{2} V_{acrms} (\sin{(\theta)-\sin{(\theta-\frac{2\pi}{3}})})d\theta $
$=\frac{3\sqrt{2} V_{acrms}}{\pi}\int_{\frac{\pi}{6}}^{\frac{\pi}{2}} (\sin{(\theta)-\sin{(\theta-\frac{2\pi}{3}})})d\theta$
$=\frac{3\sqrt{2} V_{acrms}}{\pi}\int_{\frac{\pi}{6}}^{\frac{\pi}{2}} \sqrt{3}(\sin{(\theta+\frac{\pi}{6})d\theta}$
$=\frac{3\sqrt{6} V_{acrms}}{\pi}$
$≒2.34V_{acrms}$
つまり、交流電源の相電圧の2.34倍の直流電圧を取り出すことができます。

MATLABでの解析条件

それでは、MATLABで解析してみましょう。解析は以下の3種類を検討しましょう。条件3のときの解析回路を図3に示します。

条件1)抵抗負荷のみの場合の特性を調べる。
MATLABにはダイオード素子の他、フルブリッジ回路も用意されているので、解析結果を比較する。
条件2)平滑コンデンサの影響を調べる
条件3)平滑リアクトルの影響を調べる

three_phase_full_bridge_MATLAB.png
図3 シミュレーション回路

回路パラメータは以下の通りとします。
表1 回路パラメータリスト

パラメータ 備考
電源電圧 100$V_{rms}$
50Hz
ダイオード 順方向電圧低下 0.8V
オン抵抗 1mΩ
スナバ抵抗 500Ω
スナバコンデンサ 250nF
インダクタ 0mH
10mH
条件1,2
条件3
コンデンサ 0uF
1mF
100uF
条件2
条件3
抵抗 100Ω

MATLABでの解析結果

それでは、各条件での解析結果を記述していきます。
条件1) 3相全波整流回路の特性把握
3相全波整流回路の出力電圧は図4のとおりです。まず、自作のダイオードブリッジ(青線)とMATLABのフルブリッジ回路(黃線)が同じ出力をしていることがわかります。また、図2のような波形が出力されていることがわかります。DC電圧の平均値はざっくりとですが、先述の234V付近にありそうなのも読み取れます。

Cond1_voltage.png
図4 三相全波整流回路の負荷電圧波形

条件2) コンデンサ付き回路
次にコンデンサありの場合の出力波形を図5に示します。青線がコンデンサなしの場合、黄線がコンデンサありの場合です。コンデンサの作用により、電圧が安定化していることがわかります。一方、図6のとおり大量の突入電流が流れてしまうため、各種機器が故障することが予想されます。

Cond2_voltage_C_1mF.png
図5 三相全波整流回路の負荷電圧波形

Cond2_current_C_1mF.png

図6 三相全波整流回路を通る電流

条件3) インダクタ付き回路
コンデンサ及びインダクタ付きのシミュレーション結果を図7に示します。起動時の突入による電圧は高いものの、420V程度です。一方定常状態のリップルはL・Cがない場合より抑制できています。また、突入電流ですが、24A程度です。決して小さい値ではないですが、Cのみの場合よりは抑制できています。なお、Lの値を大きくしていくと突入電流が小さくなっていくので、定常状態に至るまでの時間が伸びていきます。

Cond3_voltage.png
図7 3相全波整流回路の負荷電圧波形

Cond3_current.png
図8 3相全波整流回路を通る電流

まとめ

全波整流回路の特性を見ていきました。全波整流回路では交流電圧(相電圧実効値)の2.34倍の直流電圧が出力されることを確認しました。また、直接抵抗負荷に印加した場合はリップルが乗っているが、CやLを活用することで電圧や電流のリップルを抑制できることを確認しました。ただし、これらの素子を使うと突入電流が流れるという課題があり、あらゆる課題を解決するパラメータを見つけるのは簡単ではありません。そのような中、MATLAB/Simulinkのようなシミュレーションは試行錯誤をするのに役立つツールの一つといえるでしょう。

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