SaaSを個人で作り始めて、最初にやったことがある。X(旧Twitter)で「作っています」と日本語で発信することだ。
反応はほぼなかった。たまにくる反応は、応援ではなかった。「似たサービスがある」「需要あるの?」「どこで差別化するの?」——言葉が刺さる方向に飛んできた。悪意ではないと思う。だが萎縮した。投稿する手が止まった。
英語に切り替えた日から、空気が変わった。
BuildInPublicとは何か
BuildInPublicとは、プロダクトの開発過程をリアルタイムで公開していくスタイルの発信だ。売上、失敗、迷い、技術的な決断——そのすべてを包み隠さず発信する。完成したものだけを見せる従来のマーケティングとは真逆の思想である。
私はSlack向けのSaaSツール「Ordia」を開発しながら、この発信スタイルを続けている。JiraやGitHubを監視して停滞しているチケットやPRを検知し、朝のダイジェストをSlackに届けるツールだ。海外のエンジニアリングチームをターゲットにしている。
受託開発の傍ら、ソロファウンダーとして一人で作っている。マーケティング予算はない。だからBuildInPublicしかなかった。
失敗を投稿したら、初めて人が集まった
最初は「良い報告だけをしよう」と無意識に思っていた。機能が完成した、ユーザーが増えた——そういう話だけを選んでいた。反応は薄かった。
転機は、Product Huntのローンチが振るわなかったときだ。正直に「うまくいかなかった」と英語で投稿した。それまでの何倍もの反応が来た。見知らぬ人からアドバイスが届いた。「自分も同じだった」という共感のリプライが来た。
失敗や嘆きは、弱さではなく接点になる。
完成した成功談より、途中の苦労話のほうが人は反応する。理由は単純だ。成功はまだ自分には関係ない話だが、失敗は今日の自分に刺さるからだ。本音で話すことは戦略ではなく前提だ。計算して「失敗を演出する」のではなく、ただ正直に書く。それだけでいい。
同じBuildInPublicの仲間に反応する
BuildInPublicは孤独な活動だ。反応が来ない日が続く。プロダクトが動かない夜がある。
そういうときに、同じように発信している誰かの投稿に「いいね」を押すこと、一言のリプライを送ることが、じわじわと効いてくる。コミュニティは作るものではなく、参加するものだ。自分の発信に反応してほしければ、まず自分が反応する。これは義務ではなく、単純に気持ちが楽になる行為でもある。同じ苦労をしている人の投稿を見て「自分だけじゃない」と思える。それだけで続けられる。
日本と海外で、空気がまったく違う
これが最も重要な気づきだった。
日本でBuildInPublicをすると、どうしても足を引っ張る反応が混ざる。指摘、懐疑、比較——言葉の方向が「減点」に向きやすい。コミュニティの文化というより、日本語圏のSNSの空気感の問題だと思っている。
海外は、意外なほどフレンドリーだった。
失敗を正直に書くと「Keep going」と返ってくる。迷いを投稿すると「Here's what worked for me」とアドバイスが来る。誰かが頑張っていることに対して、一緒に応援する文化がある。「一緒に作ってくれている感覚」とでも言うべきものが、フォロワーが増える前からあった。
BuildInPublicというスタイルは、英語圏の土壌に明らかに合っている。日本語で同じことをやろうとすると、スタイル自体が機能しない。
まとめ
BuildInPublicで学んだことを整理する。
- 本音で話す ── 完成した話より、途中の正直な話が刺さる
- 失敗を話す ── 弱さを見せることが接点になる
- 嘆く ── 共感は苦労から生まれる
- 同じBuildInPublicの仲間に反応する ── コミュニティは参加することで生まれる
- 日本語で発信しない ── BuildInPublicというスタイルは、英語圏でしか機能しない
マーケティング施策を考える前に、「どこで誰に話すか」を決める。それだけで、発信の手応えはまったく変わる。
個人開発やソロファウンダーとして動いているなら、一度英語圏のBuildInPublicコミュニティに飛び込んでほしい。想像より、はるかに温かい場所だった。