はじめに
みなさん毎日 LLM を使って回文を作成していると思うのですが(?)、
そこで自分が各社 LLM の特徴について気づいたことを 12/1 という回文っぽい日 に投稿しようと思いました。
追記)12/21 が回文の日でした。だいぶやらかした。
今回は、
- どこでサボるか
- どこで嘘つくか
- どんな風に“ごまかして”くるか
のような 性格の違い・思考の違い を、回文生成を通して眺めてみます。
題材として使うのは「回文(前から読んでも後ろから読んでも同じ文)」という完全なおもちゃタスクです。
これを使って、
- ChatGPT
- Claude
- Gemini
の “ズレ方・サボり方・逃げ方” を観察していきます。
実験概要
使用したモデル(2025年11月時点)
- ChatGPT: GPT-5.1 Thinking
- Claude: Claude 4.5 Opus
- Gemini: Gemini 3 Pro 思考モード
ゆるふわプロンプト
- 「最強の回文を作って」とだけ伝える
- 条件はほぼ指定しない
- 各 LLM が“素のまま”どう振る舞うかを見る
##「最強の回文作って」と言ったらどうなるか
ほぼノーガードのプロンプトを投げてみました。
投げたプロンプト
最強の回文を「作って」ください。
「最強」の定義はあなたに任せます。
意味がおもしろいもの、長いもの、美しいものなど、
あなたが「これは最強だ」と思う日本語の回文を、新しく1つ作成してください。
ポイントは、
- 「教えて」ではなく 「作って」
- 「紹介する」のではなく、自分で考えた「オリジナル」と明示
というあたりです。
それでもちゃんと作ってくれるのか、そもそもこの制約を読んでくれるのか? を見ます。
ChatGPT編:構造ガチ勢のストーリーテラー
まずは ChatGPT に投げたときの「最強」認定作品がこれです。
一応ガチ回文なんだけど、読ませ方と説明が絶妙に苦しい。
ひらがな部分だけ抜き出すと:
よるはくるくはるよ
になっていて、
- 前半:
よるはく - 真ん中:
る - 後半:前半の完全反転 =
くはるよ
という 「前半 + 中心 + 前半の反転」 のガチ回文構造になっています。
構造だけ見るとめちゃくちゃ優等生。
要約すると、ChatGPTはこんなロジックで正当化してきています:
- まず前半だけそれっぽい日本語文を作る
- それをそのまま反転させて後ろにくっつけ、「回文としての形」を完成させる
- できあがった全文に対して、表記揺れ・方言・古語を総動員してあとから意味を貼り付ける
という流れになっている。
とりあえず構造を先にガチガチに決めてから、
「ここは旧仮名ってことにしよう」「ここは方言ってことにしよう」と後から意味を寄せていく
という、構造先行 → 意味後付け のムーブが丸見えです。
ChatGPTの性格まとめ
- 先に 構造(左右対称の文字列)をきっちり満たしにいっている
- そのあと、表記揺れという言い訳をつけて後付けで意味をくっつける
- 自分の制作プロセスやテーマまでメタに語るので、かなり「人間くさい」
つまり
「構造はちゃんと守る+意味と物語を後付けでそれっぽく説明するタイプ」
というのが、このフェーズだけでもはっきり見えます。
Claude編:野心だけ高いハッタリ職人
次に Claude に同じプロンプトを投げると、挙動がかなり違います。
ざっくり流れはこんな感じでした(要約)。
-
まず自分で「最強の定義」を語り出す
- 十分な長さがある
- 文法的に自然で意味が通る
- 情景が浮かぶ
- 無理やり感がない
と、自分でハードルを爆上げするところからスタート。
-
野心作を出す → 自分で「無理がありますね」と否定
「竹やぶ焼けた、誰か関西弁で喋れたけ、夜焚けば焼けた」→ 自分で
これは少し無理がありますね。もう一度挑戦します。
とコメント。 -
有名作を混ぜてきて、自分で「既存作品でした」と白状
「軽い機敏な子猫何匹いるか」→
これは有名な既存作品ですね。新作を作ります。
-
オリジナルっぽいものを出すが、検証して自爆
「留守に絵を描く子、泣く街を憎むる」→ ひらがな列を並べて
うまくいきませんでした。
と自己否定。 -
「ダンスが済んだ」など、ちゃんと回文なものも出す
「ダンスが済んだ」 (だんすがすんだ)これは普通に回文ですが、
シンプルですが完璧な回文です。しかし短い。
と、今度は自分で不合格にしてしまう。
-
その後も何作かチャレンジ → 自分で「不完全」「苦しい」と連発
- 「イカ関西で静かい」
- 「谷誉め、目の粉、子の目、目よ似た」
- 「妻、貸す間、須磨、探しつ」
などを出してきては、
これも完全ではありませんね。
方言としては成立しますが、やや苦しい。とコメントを重ねていく。
-
最終的にゴールポストを動かして、短い回文で妥協
「肉の国」 (にくのくに)短いですが、完璧に成立し、「肉食文化の盛んな国」という愉快なイメージが浮かぶ、
ユーモアと完成度を兼ね備えた回文です。として最終回答扱いにする。(いや、最初に自分で決めた「最強の条件」とズレてないか?)
Claudeの性格まとめ
- 野心はある:長くて意味の通る、美しい回文を本気で作ろうとしている
- ただし 検証がガバい:
「検証してみます」「うまくいきませんでした」と言う割に、
「そもそも回文になってるか?」のロジックが怪しい場面が多い - 自分で最初に決めた「最強」の条件(長さ・美しさ)を、
最終的にはほぼ投げ捨てて短い安全牌で着地する
一言でいうと、
「盛るのは上手いが、自己検証とゴール設定がふわっとしている創作タイプ」
という挙動になっていました。
Gemini編:安全運転の有名回文キュレーター(= 有名ネタをまとめる係)
最後に Gemini に同じプロンプトを投げると、さらに別の性格が出ます。
作ってくれと言ったのに、めちゃくちゃ有名どころを普通に紹介してくる。
「世の中ね、顔かお金かなのよ」
- こっちは「オリジナル作って」とお願いしている
- それに対して、「既存の名作をだしてくる」
というわけで、
作れと言ったのに、有名ネタを教えてくる係、という感じでした。
Geminiの性格まとめ
- ルールを守っているものを出力してくれた
- ただし中身は、有名&定番の回文のキュレーション
つまり、
- 形式(回文かどうか)と意味の自然さにはかなり強い
- 一方で、「オリジナルを作る」よりも「すでに評価の高いものを整理して紹介する」方向に逃げる
という挙動になっていました。
まとめ:同じプロンプトでここまで性格が分かれる
結果だけをざっくりまとめると、こうなりました。
-
ChatGPT
→ 先に回文としての構造を満たし、
表記揺れや方言を使って意味とテーマを後付けで組み立てる
「構造ガチ勢のストーリーテラー」 -
Claude
→ 野心的に長くて意味のある回文を作ろうとするが、
検証が甘く、途中で自分の条件も投げ捨てて短い安全牌に逃げる
「ハッタリ気味の創作タイプ」 -
Gemini
→ 形式・意味ともに正しい、有名回文をきれいに並べてくる
オリジナル創作にはあまり踏み込まない
「安全運転の有名回文キュレーター」
[最後に]どう使い分けるのがいいのか?
皆さん気になるのはそこだと思います。
個人的には、今回の「回文タスク」で見えた性格を、だいたいこう解釈しています。
ChatGPT を使うとき
向いている場面
- とりあえず「それっぽい形」にしてほしいとき
→ 企画書のたたき台、コピー案、説明文のドラフトなど - 制約を守りつつ、ストーリーもほしいとき
→ 「ルール満たしたうえで、それなりにドラマ性も出して」とか - 自分の考えを整理したいとき
→ 選択肢を並べて、それぞれに意味づけ・物語をつけてくるのが得意
注意点(サボり&ごまかしポイント)
- 構造はちゃんと守るけど、意味は後付けでそれっぽく整えがち
- 説明が上手いぶん、それっぽい嘘を堂々と言うことがある
- 仕様・数値・事実ベースのところは、ちゃんと自分で検証した方がいい
ざっくり言うと:
「制約ガチガチな中で、それなりに物語も欲しいときの第一候補」
ただし、細部の事実は絶対に信用しすぎない前提で使う。
Claude を使うとき
向いている場面
- 長文・創作・ストーリーの肉付け
→ エッセイ、ポエム寄りの文章、世界観づくり - 「こういう理想像をベースに膨らませてほしい」とき
→ 抽象的なコンセプトから、いい感じのストーリーを生やす系
注意点(サボり&ごまかしポイント)
- 自分で最初に条件を盛るくせに、途中からその条件をなかったことにしがち
- 「検証します」と言いつつ、検証ロジック自体がふわふわしていることがある
- 最後はだいたい安全で短いラインに着地してくる
ざっくり言うと:
「理想を語らせたり、雰囲気のある長文を出したいときの相棒」
ただし、厳密な条件やロジック管理は人間側で握っておく必要がある。
Gemini を使うとき
向いている場面
- 既存の知識・定番パターンを押さえたいとき
→ 有名な例、古典的なフレーズ、代表パターンなど - 「あまり攻めなくていいので、とりあえず正しめのことを言ってほしい」とき
→ 教科書寄りの説明や、情報整理
注意点(サボり&ごまかしポイント)
- 「作って」と頼んでも、評価の高い既存解をキレイに並べに行くことがある
- オリジナル創作より、「無難に失敗しない」のほうに強く振れている
ざっくり言うと:
「オリジナルより“定番をちゃんと押さえたい”ときの安全運転担当」
ただし、「ガチ創作させたいとき」に使うと肩透かしを食らいやすい。
じゃあ結局どうするのがいいのか?
今回の回文遊びで一番はっきりしたのは、
当たり前ではありますが
どれか 1 体を“最強”に決めるより、
“どう歪んでサボるか”を理解して使い分ける方が得
ってことです。
例えば実務寄りのケースなら:
-
アイデア出し・たたき台
- ChatGPT で「構造+それっぽい物語」をまず吐かせる
-
長文化・ニュアンス強化
- Claude に「この方向で厚みを持たせて」と投げる
-
抜け漏れチェック&定番確認
- Gemini に「既存の有名パターンや一般論」を整理させて照合する
みたいに、三角測量的に使った方が、安全かつ速い。
今回やっているのは回文というおもちゃタスクでしたが、
- ChatGPT:構造きっちり+後付けストーリー
- Claude:理想高くスタートして、最後はいい感じの落とし所を探す
- Gemini:既に評価済みの定番をきれいに出してくる
という「サボり方の癖」は、普通の開発・文章・企画の場面でもそのまま顔を出してくるはずです。
なので、雑にまとめると:
- 攻めて作りたいとき → ChatGPT / Claude
- 守りに入りたいとき → Gemini
- どれか 1 体を盲信するんじゃなくて、「このモデルはここでサボる前提」で使う
くらいの感覚で付き合っておくと、だいぶ事故率は下がると思います。



