自動化の究極目標「自己修復機能」への挑戦
現役エンジニアのHITOSHIです。本シリーズでは、設定ドリフトを根絶するため、SSOT(Single Source of Truth)データベースの構築から、安全なデプロイ、そしてDBセキュリティまでを段階的に解説してきました。しかし、インフラの真の安定とは、「異常が発生しても、人に頼らず自ら元に戻る力」を持つことにあります。
これは、SSOTの設計思想をインフラ全体に拡大し、次世代構成管理を実現するための最終章です。
本章では、SSOTを基軸としたGitOpsの連携、インフラの構成ドリフト検知と自己修復機能の実装に焦点を当てます。さらに、Cato NetworksのようなSaaSベースのサービスへSSOTの知見をどう拡張するかという、未来の運用高度化へのロードマップを示します。
🌐 SSOTとGitOpsの融合:構成ドリフトを許さない仕組み
SSOTの「真実の源」としての情報を、コード管理のベストプラクティスであるGitOpsと連携させることで、運用者は常にGitリポジトリとDB SSOTの2つの真実を確認できるようになります。
SSOTとGitOpsの役割分担:なぜ SSOT > Git なのか
GitOpsはGitリポジトリを宣言的なシステムの状態を表す唯一のソースとする運用モデルですが、私たちのSSOT戦略では、DB SSOTがGitよりもさらに上位の「設定の元データ」を保持します。
役割分担の明確化: SSOTは「構成の元データ(パラメータ・ポリシー・参照テーブル)」を保持し、Gitは「SSOTから生成された宣言的構成(YAML/Jsonnet/設定ファイル)」のみを保持します。この二段構造が、構成管理の責務を完全に分離します。
- 優先順位: SSOTから設定を生成し、その生成物をGitリポジトリにコミットします。そして、Gitリポジトリの情報を基にインフラ(実環境)がデプロイされます。この優先順位を崩さないことが、次世代構成管理の基礎です。
- K8s連携: Kubernetes環境では、生成された設定YAMLをGitにコミットし、Argo CDやFluxといったGitOpsツールがクラスターに自動適用することで、SSOTの情報を実現します。
なお、Kubernetes 以外でも Terraform や Ansible Pull など、GitOps と同様のモデルをとる構成管理ツールは増えており、SSOT との相性は同じく良好です。
構成ドリフト検知の「3階層ロジック」による完全監視
構成ドリフトとは、実環境がGitやSSOTで定義された状態と異なる状態になってしまうことです。ドリフト検知は、次の三層で行うと、検知漏れが実質ゼロになります。
| 検知レイヤー | 監視対象 | 主な検知ツール/手法 |
|---|---|---|
| ① SSOT → Git | 設定生成物の整合性 | 生成エンジンの差分チェック |
| ② Git → 実環境 | 宣言的状態の差分 | GitOpsツールの差分監視 (Argo CD, Flux) |
| ③ 実環境内部 | OS/Configの直接変更 | ファイルハッシュ比較 or Ansible/Terraform drift 検知 (check_mode) |
実環境のファイルの内容のハッシュ値と、DB SSOTに格納されたゴールデンハッシュを比較する手法が、最終的な整合性を確認するために最も重要となります。
🤖 構成ドリフトの自動修復とセキュリティ拡張の実例
ドリフトが検知された場合、人手を介さずに正しい状態へ自動で戻す機能が自己修復機能です。
自己修復機能の強度レベル設定によるリスク管理
自己修復の核となるのは、SSOTで定義された「あるべき姿(State of the World)」を実環境に強制的に適用することですが、特に本番環境ではリスクを考慮した強度レベルを設定します。
| 強度レベル | 動作 | 主な適用環境 | 実務上の推奨 |
|---|---|---|---|
| レベル1 | 差分検出時の通知のみ | 本番環境の重要度の高い設定 | 本番環境の基本 |
| レベル2 | Dry-run実行後、承認を経て自動修復 | 検証環境、Staging環境 | 中リスク設定 |
| レベル3 | 完全自動修復(即時適用) | 閉域かつ変更インパクトが限定的な領域(VDI テンプレート、Kiosk 端末、Ephemeral 環境など) | 現場の誤爆リスクをゼロにする |
SASE/SD-WANへのSSOT適用によるサービス拡張
SSOTの適用範囲はサーバー設定に留まりません。SaaSベースのネットワーク・セキュリティサービスへの応用は、次世代構成管理の重要な要素です。
- Cato Networks連携: Cato Networksのような SASE/SD-WAN 製品は API を提供しており、SSOT DB から生成されたネットワークポリシーやアクセス制御設定を一元管理できます。
- サービス拡張: これはサーバー領域を超え、クラウド・ネットワークへ SSOT を拡張する実例です。ネットワークのポリシー変更をDBのデータ変更だけで完結させることで、インフラ全体の整合性が保たれます。
H2: 🤝 まとめ:信頼と希望を育む次世代インフラの設計
本章をもって、設定ドリフトを根絶するためのSSOTシリーズは完結します。
- GitOps連携: DB SSOTを最上位の真実として、GitOpsによる宣言的運用へ組み込みました。
- 構成ドリフト検知: 3階層ロジックとハッシュ値比較を用い、検知漏れを撲滅する手法を解説しました。
- 自己修復と拡張: リスクを考慮した強度レベルを設定し、SaaSサービスへの次世代構成管理の適用可能性を示しました。
この自動化されたパイプラインは、まるで日本の豊かな四季の移ろいのように、静かに、しかし確実にシステムの状態を正しく保ち続けます。人の手によるミスを減らし、安定した運用を実現することは、多様化する働き方、特にテレワークがもたらす可能性を肯定的に捉える上で、不可欠な信頼の土台です。
最終的に、本アーキテクチャは「すべての構成変更が SSOT → Git → 実環境 の順序で必ず流れる」という、破綻しない実務モデルとして確立します。
※本記事は筆者が所属する株式会社 十志での研究開発知見を一般化したものであり、特定製品の宣伝目的ではありません。
個人的な感想:SSOTの設計から始まり、自動修復機能という最終ゴールに至るまでの道のりは、技術者にとって深い達成感を与えてくれます。この一連のシステムが完成したとき、私たちのインフラは、ただ動くだけでなく、自ら正しさを保ち続けるという、未来への希望を育む土台になります。この喜びを、多くのIT担当者の方々と分かち合いたいと心から願っています。
