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GPUはなぜAIに効くのか?行列演算・並列処理・CUDAスタックで腹落ちする入門

Last updated at Posted at 2025-12-16

はじめに

🧠 近年のAI(特に深層学習)は、学習・推論ともに「膨大な行列演算」を高速に回すことが性能の鍵です。そこで得意領域が噛み合うのがGPUです。
本記事では、なぜGPUがAIで強いのかを「計算特性」「メモリ特性」「ソフトウェアスタック」の観点で整理し、実務での判断(いつGPUを使うべきか、どこがボトルネックか)まで一気通貫で理解できることを目指します。

想定読者:AI/機械学習を触り始めた〜運用を始めた中級者(GPUの全体像を短時間で押さえたい人)

目次

対象読者

  • GPUがAIで重要と言われる理由を、感覚ではなく構造で理解したい人
  • 学習(training)と推論(inference)で、GPUがどう効くか整理したい人
  • PyTorchなどで「GPUを使っているつもりなのに遅い」原因を切り分けたい人
  • CUDA / cuDNN / TensorRT といった用語の関係を俯瞰したい人
  • マルチGPUや混合精度(AMP)をいつ使うべきか判断したい人

この記事でわかること

  • GPUがAIで強い根本理由(並列性・行列演算・メモリ帯域)
  • 学習と推論でGPU最適化の論点が違う理由
  • 「GPU本体」だけでなく、CUDA/cuDNN/TensorRTのような周辺ソフトが効く構造
  • PyTorchでGPUを確実に使う最小コードとチェック方法
  • よくあるボトルネック(データ転送、メモリ不足、バージョン不整合)の見分け方
  • NVIDIA以外(AMD ROCm、Triton等)の立ち位置の概要

動作環境

再現のため、以下は“例”です(手元の環境に合わせて読み替えてください)。

  • OS: Ubuntu 22.04 / 24.04 など(Linux推奨)

  • Python: 3.10+

  • フレームワーク: PyTorch(CUDA利用時はCUDA対応ビルド)

  • NVIDIA環境(代表例)

    • NVIDIA Driver(OSに依存)
    • CUDA Toolkit(12.x系が主流)
    • cuDNN(DNN向けプリミティブ集) (NVIDIA Docs)
  • AMD環境(代表例)

  • 課金・権限注意(クラウド利用時)

    • GPUインスタンスは単価が上がりやすい
    • マルチGPUはネットワーク帯域や配置制約が効く

※:PyTorchのpip/condaバイナリはCUDAランタイム依存を同梱するため、通常は“実行するだけ”ならローカルCUDA Toolkitの別途インストールは不要です(ソースビルドや独自CUDA拡張のビルド時は別)。


本編

全体像

🧩 AIワークロードにおけるGPUは、単に「計算が速い部品」ではなく、**モデル計算をGPU向けに最適化して流すための“スタック全体”**として効きます。

  • 学習(Training):Forward/Backward/Optimizer を大量反復。計算量・メモリ量ともに重い
  • 推論(Inference):レイテンシ/スループットが重要。量子化・カーネル融合など“実行時最適化”が効く(例:TensorRT) (NVIDIA Docs)

基本概念

1) なぜGPUがAIで強いのか(計算の形がGPU向き)

深層学習の中核は、ざっくり言うと以下の繰り返しです。

  • 行列積(GEMM / matmul)
  • 畳み込み(Convolution)
  • Attention(最近は特に重要)

これらは「同じ種類の演算を大量の要素に対して」適用しやすく、GPUの得意な大規模並列処理と噛み合います。cuDNNがAttention・畳み込み・行列積などのプリミティブをGPU向けに高チューニング実装しているのも、まさにここを最短経路で速くするためです。 (NVIDIA Docs)

2) Tensor Core・混合精度が“効き方”を変えた

近年のGPUは、深層学習向けに低精度(FP16等)を高速に回す専用演算器を備え、混合精度(FP16/FP32併用)によって高速化と精度維持を両立します。NVIDIAの混合精度トレーニング解説でも、Tensor Coreや半精度スループットを前提に高速化する設計が説明されています。 (NVIDIA Docs)

実務的には、

  • 学習:AMP(Automatic Mixed Precision)で速度とVRAM効率が改善しやすい
  • 推論:FP16/BF16/INT8などの量子化・最適化でスループットが伸びやすい
    という整理が有用です。

3) GPU×AIは「ソフトウェアスタック」が主役になりやすい

GPUを使うとき、性能はハードだけで決まりません。

  • cuDNN:DNN演算プリミティブ(畳み込み、attention、matmul等) (NVIDIA Docs)
  • TensorRT:推論向けの最適化ランタイム(低レイテンシ/高スループット狙い) (NVIDIA Docs)
  • NCCL:マルチGPU/マルチノード通信(all-reduce等) (NVIDIA Developer)
  • Triton:GPUカーネルを比較的高い生産性で書くための言語/コンパイラ (Triton)
  • ROCm(AMD):AMD GPU向けのオープンな計算基盤(AI/HPC最適化) (ROCm Documentation)

実装サンプル

ここでは「GPUを本当に使えているか」を最短で確認する手順を示します(PyTorch例)。

Step 1: GPUが見えているか確認

  • NVIDIA: nvidia-smi が通るか(ドライバ/認識確認)
  • PyTorch側での確認:
import torch

print("torch:", torch.__version__)
print("cuda available:", torch.cuda.is_available())
print("cuda version:", torch.version.cuda)
if torch.cuda.is_available():
    print("device:", torch.cuda.get_device_name(0))

PyTorchでは torch.cuda がGPUデバイス選択やCUDAテンソルを管理します。 (PyTorch Documentation)

Step 2: テンソルをGPUへ移して計算

“遅い”の典型は、モデルはGPUでもデータがCPUのままなどの不整合です。まずは最小例で「GPU上でmatmul」できることを確認します。

import torch, time

device = "cuda" if torch.cuda.is_available() else "cpu"

a = torch.randn(4096, 4096, device=device)
b = torch.randn(4096, 4096, device=device)

# ウォームアップ(特にGPU)
for _ in range(10):
    _ = a @ b

t0 = time.time()
for _ in range(50):
    _ = a @ b
torch.cuda.synchronize() if device == "cuda" else None
t1 = time.time()

print("device:", device, "sec:", t1 - t0)

ポイント:

  • GPUは非同期実行が多いので、計測時は torch.cuda.synchronize() を挟む
  • 4096程度の行列だとGPUの旨味が出やすい(小さすぎると転送・起動コストが勝つ)

Step 3: 学習での“効く最適化”を入れる(AMPの導入)

混合精度は、Tensor Coreを活かして速度やVRAM効率が改善しやすい代表例です。 (NVIDIA Docs)
(具体コードはプロジェクトに依存するため、ここでは概念として「AMPを使うと効果が出やすい」点を押さえてください。)

Step 4: 推論での“効く最適化”を入れる(TensorRT等)

推論は「学習よりもさらに実行時最適化が効く」ケースが多く、TensorRTは学習済みネットワークを最適化した推論エンジンに変換して実行します。 (NVIDIA Docs)


検証結果

🧪 ここでは“結果そのもの”ではなく、実務で比較すべき観点と計測テンプレを提示します(環境差が大きいため)。

何を比較するべきか

  • 学習

    • 1stepあたりの時間(ms/step)
    • VRAM使用量(最大/平均)
    • スループット(samples/sec)
  • 推論

    • レイテンシ(p50/p95)
    • スループット(req/sec, tok/sec)
    • バッチサイズ依存(小バッチでの劣化)

よくある落とし穴と対策

1) 「GPUは速いはず」なのに遅い:転送と前処理がボトルネック

  • 症状:GPU使用率が低い、CPUが張り付く

  • 対策:

    • DataLoaderの並列化(workers/prefetch)
    • 前処理の見直し(CPUで重すぎないか)
    • CPU→GPU転送回数を減らす(まとめて転送、pin_memory等)

2) CUDA Out of Memory(OOM)

  • 症状:学習開始直後や途中でOOM

  • 対策:

    • バッチサイズを下げる
    • AMPでVRAM削減を狙う(精度影響は要検証)
    • 勾配蓄積(gradient accumulation)
    • 不要なテンソル参照を切る(キャッシュ解放の妨げを除去)

3) バージョン不整合(ドライバ/CUDA/PyTorch)

  • 症状:cuda available: False、実行時に謎エラー

  • 対策:

    • PyTorchのCUDA対応ビルドか確認
    • ドライバとCUDAツールキットの整合を取る
    • コンテナ利用(CUDA依存を封じ込め)

4) マルチGPUで伸びない:通信が勝つ

  • 症状:GPUを増やしてもスループットが比例しない

  • 背景:勾配の同期(all-reduce等)の通信コスト

  • 対策:

    • 通信に強い実装(NCCL等)を使う (NVIDIA Docs)
    • バッチ/並列方式(Data Parallel / Tensor Parallel等)の再設計
    • ネットワーク帯域・トポロジの見直し

まとめと次のステップ

  • GPUがAIで強い理由は「行列演算中心の計算」と「大規模並列」が噛み合うため

  • さらに実務では、cuDNN/TensorRT/NCCLなどの最適化ソフトウェアスタックが性能を大きく左右する (NVIDIA Docs)

  • “GPUを使っているのに遅い”は、転送・前処理・通信・精度設定・バージョン不整合が典型原因

  • 次のステップとしては以下がおすすめ

    • 学習:AMP導入とプロファイリング(どこが詰まっているか可視化)
    • 推論:バッチ/量子化/エンジン化(TensorRT等)検討 (NVIDIA Docs)
    • マルチGPU:分散学習の通信設計(NCCL、ネットワーク、並列方式) (NVIDIA Docs)
    • カーネル最適化が必要ならTriton等も選択肢 (Triton)

免責事項: 本記事は当社が確認した時点の情報に基づく参考情報であり、正確性・完全性・最新性を保証せず、利用により生じたいかなる損害についても弊社は責任を負いません。

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