あてのないバス旅
私はよく予定を立てずに出かけます。行き先も決めません。
バスか電車でどこかへ行き、着いた先でまた別のバスに乗り継いで、知らない場所まで行ってみる。車窓から街の風景を眺めることも、降り立った先での散策も楽しい。はじめての土地に立つのは、いつもワクワクします。
そんな気ままな散策のなかでも、私がとくに好きなの時間が、乗り継ぎの合間です。
ターミナルに降り立って、「さて、ここから次はどこへ行けるだろう」と探しているあいだ。目的地は決めていません。決めていないからこそ、選べるものを見渡している時間が面白い。
ただ、その時間の中身はというと、まず乗り場案内板を探して、行き先と乗り場を把握する。気になる候補が見つかったら、その路線の時刻表を一つずつ確かめる。そういう作業です。
経路検索は使えません。次にどこへ行くかを、決めていないからです。
次に乗る便を探す時に集める情報は3つ
「ここからどこへ行けるだろう」を確かめるとき、要る情報は3つあります。
- 乗り場の場所 - どこに乗り場があるのか
- 行き先 - その乗り場から、どこ行きに乗れるのか
- 時刻 - 何時何分に出るのか。次は何分後か
この3つが揃って初めて、次に乗るものを選べます。
場所と行き先は、乗り場案内が1枚で見せてくれる
駅前など複数のバス停が存在する場所には、乗り場案内板があります。これが本当に便利です。
どこ行きのバスが、どの乗り場から出るのか。周辺の乗り場が地図に落とされていて、どちらの方向へ向かう路線かも読める。1枚を見るだけで、その場所から乗れるものが頭に入ります。
ただ、時刻は載っていません。
時刻は、1つずつ調べることになる
では、時刻をどうやって知るか。
すべての乗り場を歩いて回り、掲示された時刻表を確かめる。理屈の上ではそうですが、実際にはやりません。乗り場が5つあれば5か所を回ることになります。
多くの場合、スマホで調べます。乗換案内アプリで乗り場ごとの時刻表を見ることもできますが、最近は地図アプリで乗り場をタップすることが多いです。
それでも、1つずつであることは変わりません。 タップして、見て、戻って、次をタップする。都心のターミナル周辺なら、乗り場は数十カ所あります。
まとめて比べられないのが、いちばんつらいところです。 あの乗り場は10分後、こちらは40分後、あちらは3時間後。並んでいれば選べるのに、1つずつしか見られません。
結局、気になった行き先をいくつか調べて、「じゃあ10分後に来るこれにしよう」と決めることになります。残りは見ていません。 見渡したうえで選んだのではなく、途中で打ち切って選んでいる。
例外は、ターミナルのサイネージ
3つの情報がまとまっている場所もあります。
大きなバスターミナルや、鉄道との乗り継ぎ地点に立っているデジタルサイネージです。乗り場の位置が地図で示され、その横に路線と次の発車時刻が並んでいる。1社の情報のみであることもあれば、複数の事業者がまとめて出ていることもある。
そこでは3つが1枚にまとまっています。 立ち止まって眺めるだけで、「ここからどこへ行けるか」が分かる。スマホを開く必要もありません。
ただ、それは限られた場所にしかありません。 気ままに歩いている途中で行き当たるものではないし、降り立った先にあるとも限らない。
地図が持つ表現力を、交通情報に
ここで、最初の乗り場案内の地図に戻ります。
あの案内板は、本当に分かりやすくて便利です。どこに乗り場があって、どこ行きが出ているのか。1枚を見るだけで、周辺の乗り場が頭に入る。ある場所と、その場所に関わるものとを、まとめて示す。地図にはその力があります。
足りなかったのは時刻の方だけです。
では、現在地のまわりにある乗り場と、そこから出る便の行き先と時刻が、何もしなくても手元に並んでいたらどうか。データはすでに公開されているのだから、できないことではありません。
ターミナルにしかないサイネージが、どこにでもあるような表現です。
ただ、サイネージではなく地図を中心に
つくりたかったのは、サイネージそのものではありません。
サイネージは、立っているその場所のことしか映しません。地図が中心なら、そこから離れた場所ののりばも同じように見られます。少し先の通りには何が来るのか。次の街ではどうなのか。地図を動かせば分かる。
行き先を決めていないときに要るのは、まさにそれです。いま立っている場所だけでなく、その先も含めて見渡せること。
地図を中心にしたインターフェースの中で、乗り場と行き先と時刻を、まとめて見やすく表現できないか。
これが、つくるうえでいちばんやりたかったことです。
つくったもの
現在地のまわりにある乗り場 (このアプリでは「のりば」と呼びます) を地図に出し、同じ画面にそれらの発着便を並べます。場所も、行き先も、時刻も、1枚の上にあります。 事業者も問いません。1社分ではなく、その場所から乗れるものをまとめます。
目的地への経路を検索するのではなく、今ここからの選択肢を並べる。限られた場所にしかなかったものを、どこにいても開けるようにする。
目的地を入力しない乗換案内
バス、鉄道、フェリー。地図に溶け込んだ交通データを「面」で見渡す発着案内へ
Athenai Transit とは
Athenai Transit (あてのない乗換案内) は、目的地を入力しない乗換案内の Web アプリです。経路検索を持たず、「A から B への行き方」ではなく「今、ここからどこへ行けるか」を提示します。扱うのは GTFS などの静的な公共交通オープンデータです。
Web ブラウザで開くだけで使えます。右下の 🎲 を押すと、色々な場所へ移動します。降り立った先で「さて、次はどこへ行こう」を試してみてください。



