はじめに
「業務でRHEL系をずっと触っているから」という理由だけで、新規にVPSサーバを立てた際にOSをAlimaLinuxにしたのだが、今めちゃめちゃ後悔してる。特に理由がないなら迷わずUbuntuを使った方がいいというアドバイス。
この記事で分かること
- Ubuntuが個人・検証用途で「一択」と言われる具体的な理由(6項目+α)
- RHEL系(AlmaLinuxなど)を個人用途で選んだ結果、実際に何が面倒だったか(pgvector・LibreOfficeの実体験に加え、インストール以外の場面で効いてくる9つの摩擦ポイント)
- それでもRHEL系を選ぶべきケースと、判断のトレードオフ
- 次にVPS・検証機を立てるときにすぐ使える判断基準
前提知識:ディストリビューションとは何か
Linuxディストリビューションを知らない方向けに一言だけ補足します。Linuxは「カーネル」という中核部分だけを指す言葉で、それ単体ではOSとして使えません。カーネルに、パッケージ管理の仕組みや標準ソフトウェア、設定ファイルの流儀をひとまとめにして配布しているのが「ディストリビューション(配布版)」です。
たとえるなら、カーネルは「ご飯」、ディストリビューションは「ご飯に何のルーをかけるか」のようなものです。同じご飯(Linuxカーネル)でも、かけるルー(パッケージ管理や設計思想)が違えば、使い勝手はまったく別物になります。
大きく分けると以下の2系統があります。
| 系統 | 代表的なディストリ | パッケージ管理 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| Debian系 | Ubuntu、Debian | apt |
個人PC、開発機、クラウドVM |
| RHEL系 | RHEL、AlmaLinux、Rocky Linux |
dnf(旧yum) |
企業システム、金融・官公庁系 |
Ubuntuは前者、AlmaLinuxは後者に属します。業務でRHEL系に慣れている人が「なんとなく」個人用途でもRHEL系を選びがちなのは、この記事の後半で触れる通り、決して不合理な選択ではありません。ただし、それが個人用途にとって最適とは限らない、というのがこの記事の主張です。
業務の慣れと個人用途の最適解は別軸で考える
まず結論から言うと、「業務で使い慣れているから」という理由は、個人用途のOS選定においては判断基準としてかなり弱いです。業務では「その企業のシステムが要求するディストリ」を使う必要がありますが、個人のVPSや検証機には、その制約が一切ありません。にもかかわらず、多くのエンジニアが無意識に業務の延長線上で選んでしまいます。私自身がそうでした。
ここで大事なのは、「業務知識の再利用」と「情報量・対応アプリの広さ」のどちらを優先するかを、選ぶ前に自覚的に決めることです。私は自覚せずに前者を無意識に優先してしまい、後述する手間を後から払うことになりました。
Ubuntuが「個人用途なら一択」と言われる理由
質問でいただいた6つの理由に、追加の理由を加えて整理します。
| # | 理由 | 具体的な裏付け |
|---|---|---|
| 1 | 一番多く使われている | Linuxディストリビューション間の比較でUbuntuが最大シェアを持つ(出典) |
| 2 | サポートが充実している | LTS版は標準5年サポート、個人利用なら5台まで無償のUbuntu Pro ESMでさらに5年、合計10年(出典) |
| 3 | インストーラー対応アプリが充実 | 商用ソフト・OSS問わず「Ubuntu対応」を公式に明記する例が多い |
| 4 | Linux非対応アプリがほぼない | ユーザーベースの厚さから、開発元がまず動作確認するディストリになりやすい |
| 5 | 高い安定性 | LTS版は機能追加を止めてセキュリティ修正に専念する運用モデル |
| 6 | 豊富なソフトウェア資産 |
aptのパッケージ数に加え、Snap・PPAで最新版も追いやすい |
| 7 | 開発者利用率の高さ | Stack Overflow 2025年調査で、個人利用27.8%・業務利用27.7%とディストリ別で最上位水準 |
| 8 | クラウド標準イメージの充実 | AWS・GCP・Azureいずれも公式イメージを提供し、多くの技術記事がUbuntu前提で書かれている |
| 9 | WSL2の既定ディストリ | Windows開発者が最初に触るLinuxが大抵Ubuntuであり、ドキュメント・トラブルシュート情報が集中する |
この中で、個人開発者にとって地味に効くのが9番目の「情報の集中」です。エラーメッセージをそのまま検索したとき、Ubuntu前提の解決策がヒットする確率は、体感としてAlmaLinuxよりかなり高くなります。これは「Ubuntuの技術力が高いから」ではなく、単純に「困っている人の母数が多いから解決策も多い」という話です。母数の多さは、個人開発において静かに、しかし確実に効いてくる要素です。
実体験:AlmaLinuxを選んで実際に躓いたこと
ここからは、私がVPS(AlmaLinux 10.1)でRAG知識基盤を構築した際に実際に直面した2つの手間を紹介します。数字を誇張せず、実際に踏んだ手順ベースで書きます。
めんどくせぇ その1:pgvectorの導入
pgvectorは、PostgreSQLにVECTOR型と類似度検索の演算子を追加する拡張機能で、生成AIのRAG(検索拡張生成)システムで必須級の存在です。
AlmaLinuxの標準リポジトリには含まれていないため、PostgreSQL公式のPGDGリポジトリを追加する必要があります。
# AlmaLinux/RHEL系の場合(EL10の例)
sudo dnf install -y https://download.postgresql.org/pub/repos/yum/reporpms/EL-10-x86_64/pgdg-redhat-repo-latest.noarch.rpm
# EL9以前は標準のpostgresqlモジュールと競合するため無効化が必要
sudo dnf -qy module disable postgresql
# バージョンごとに個別パッケージ名を指定してインストール
sudo dnf install -y pgvector_16
一方Ubuntu/Debian系であれば、同じくPGDGのaptリポジトリを1回aptに登録してしまえば、以降は
sudo apt install postgresql-16-pgvector
の一文で完結します。手順の総量自体はAlmaLinuxとそこまで変わりませんが、「モジュールの競合を意識する」「バージョンごとのパッケージ名を調べる」という追加の認知負荷がRHEL系には乗ります。
正直に書くと、AlmaLinuxでもPGDGリポジトリ経由でDockerなしにpgvectorをネイティブ導入する方法自体は存在します。ですので「AlmaLinuxではDocker以外に選択肢がない」というのは正確ではありません。ただ、私の場合は当時この手順を事前に把握できておらず、「PostgreSQLもpgvectorもコンテナに閉じ込めてしまえば、ホストOSのパッケージ事情に振り回されずに済む」と判断し、結局PostgreSQL+pgvectorをDocker Compose上で動かす構成に倒しました。この判断は、知識基盤のインフラ構成としても現在まで採用し続けています。「本来ネイティブで入るはずのものを、パッケージ事情の複雑さを理由にコンテナに逃がした」というのが実態に近い表現です。
めんどくせぇ その2:LibreOfficeの自動インストール
こちらはより明確な差です。Ubuntuであれば
sudo apt install libreoffice
の一発で、ドキュメント一式のインストールが完結します。バージョンも比較的新しいものが標準リポジトリに載っています。
対してAlmaLinuxには、フルセットを一括導入できる単一パッケージが用意されていません。標準リポジトリのLibreOfficeはバージョンが古いことが多く、最新版を使うには公式サイトからRPMのtarballを手動でダウンロードし、展開してから
sudo dnf localinstall -y ./LibreOffice_*_Linux_x86-64_rpm/RPMS/*.rpm
のように個別インストールする必要があります。これをKickstartなどによる無人インストールに組み込もうとすると、ダウンロード・展開・インストールの3ステップを自前でスクリプト化しなければなりません。Ubuntuならaptのワンライナーで終わる作業が、AlmaLinuxでは小さなインストールスクリプトを書く作業に変わってしまうわけです。
これは「Ubuntuが優れている」という話ではなく、「エンタープライズ運用を前提にしたRHEL系のリポジトリ設計は、デスクトップ系アプリの取り回しには最適化されていない」という、設計思想の違いに起因する差です。
インストール以外にも効いてくる9つの摩擦ポイント
pgvectorとLibreOfficeは「入れる瞬間」の手間でしたが、実際にAlmaLinuxを運用していると、インストール後の日常的な作業でもRHEL系特有の摩擦に何度も遭遇します。改めて調べ直した9パターンを、根拠つきで整理します。
| # | 摩擦ポイント | AlmaLinux/RHEL系 | Ubuntu |
|---|---|---|---|
| 1 | ファイアウォール管理 |
firewalldはゾーン概念(public/trusted等)を理解した上で、--permanentと--reloadを意識しないと再起動で設定が消える |
ufw allow 443/tcpのような一行で完結し、ゾーンの概念自体がない(出典) |
| 2 | セキュリティモジュール | SELinuxが既定でenforcingモードで動き、コンテキストラベルの不一致でNginxやPHP-FPMが動かない、といった「エラーメッセージに原因が出ない」トラブルに遭遇しやすい | AppArmorも既定で有効だが、SELinuxほど厳格ではなく遭遇頻度が低い(出典) |
| 3 | 追加パッケージの入手 | 新しめのソフトはEPELリポジトリを別途有効化しないと入らないことが多い |
universeリポジトリが標準で有効になっており、大半のOSSがそのままapt installで入る(出典) |
| 4 | ミドルウェアのバージョン切替 |
dnf module switch-toでモジュールストリームを切り替える必要があり、一度有効化したストリームの変更に制約がある |
NodeSourceリポジトリの差し替えなど、比較的直感的にバージョンを切り替えられる(出典) |
| 5 | Webサーバ関連パッケージの粒度 |
mod_sslやhttpd-develが個別パッケージに分割されており、必要な機能ごとに何を入れるべきか調べる手間がある |
apt-get build-depでビルド依存関係をまとめて解決しやすい(出典) |
| 6 | 最小構成インストール時のドキュメント欠落 |
tsflags=nodocs運用が一般的なため、manページやドキュメントパッケージが入らずmanコマンドが空振りすることがある |
標準インストールでドキュメントパッケージも通常通り入る(出典) |
| 7 | Let's Encrypt証明書取得 | 公式推奨のsnap版certbotを使うにも、まずEPEL経由でsnapdを有効化する前段が必要 |
snap install --classic certbotだけで完結する(出典) |
| 8 | ネットワーク設定の流儀 |
nmcliが/etc/NetworkManager/system-connections/*.nmconnectionのkeyfile形式で管理し、設定の反映経路を把握する必要がある |
/etc/netplan/*.yamlという宣言的な単一ファイルにIP設定をまとめて書ける(出典) |
| 9 | 管理者グループ名 | sudo権限を持つグループ名がwheelであり、ネットの一般的な「sudoグループに追加」という手順をそのまま実行するとハマる |
管理者グループがそのままsudoという名前なので、汎用的な手順書がほぼそのまま通用する(出典) |
この9つの中で、私が個人のRAG基盤構築で実際に一番時間を溶かしたのは2番目のSELinuxです。pgvectorやLibreOfficeの手間はコマンドを1〜2個多く叩けば済みますが、SELinuxは「なぜ動かないのか」の手がかりがエラーメッセージに出てこないことが多く、専用の調査手順を知らないと詰みます。実際、私のVPS(AlmaLinux 10.1)でも、rsyncでのファイル転送中にSELinuxのポリシーが原因で権限エラーが発生し、ポリシーの追加対応が必要になったことがありました。pgvectorのような「調べればコマンド1本で終わる」種類の手間とは違い、SELinuxは原因の切り分け自体に時間がかかる点が地味に効いてきます。裏を返せば、SELinuxはエンタープライズ用途では強力な防御層なので、「めんどくさいからsetenforce 0で切る」のは個人検証機であっても得策ではないというのが私の考えです。
一方で、8番目のネットワーク設定は、個人のVPS運用ではそこまで頻繁に触らないため、体感の摩擦としては9つの中でも軽い部類です。「触る頻度が低い設定ほど、久しぶりに触ったときの学習コストが相対的に重く感じる」という点は、AlmaLinuxに限らずRHEL系全般に言えることだと思います。
それでもRHEL系を選ぶべきケース
ここまでUbuntu寄りに書いてきましたが、業務でRHEL系に慣れているという前提そのものは、決して無駄にはなりません。以下のようなケースでは、個人用途でもあえてRHEL系を選ぶ判断は合理的です。
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業務知識をそのまま再利用したい検証機:本番と同じディストリで検証すれば、
SELinuxのポリシー設計やdnfモジュールの扱いなど、業務で必要な知見をそのまま深掘りできます - RHCSA/RHCEなど資格学習を兼ねる場合:資格試験の対象ディストリで練習環境を作るのは合理的です
- 商用ISVソフトの動作検証:金融・官公庁系のシステムでは、RHEL系での動作保証が要件になっていることが珍しくありません
- 長期の商用サポート契約が前提の構成:Red Hatのサブスクリプションによる保守体制を含めて検証したい場合
私自身の判断で言えば、業務知識の再利用を最優先するなら今回もAlmaLinuxを選び直すと思います。ただし、それは「pgvectorやLibreOfficeの手間、そしてfirewalldやSELinuxをはじめとする9つの摩擦ポイントを許容する」という選択を自覚した上での話です。今回は、この手間を事前に想定できていなかった点が反省点でした。
よくある落とし穴・注意点
- Ubuntu Proの無償ESMは「個人利用かつ5台まで」という条件付きです。法人利用や6台目以降は有償になる点を見落とすと、後で想定外の請求に驚くことになります
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LTS以外の通常リリース(例:26.10のような奇数月リリース)を誤って選んでしまう罠があります。サポート期間が9か月しかないため、サーバ用途では必ずLTS版(末尾
.04の偶数年)を選んでください - 「Ubuntuだから安定」という思い込みだけでバージョン選定を怠らないこと。同じUbuntuでもLTSと通常リリースでは運用の前提がまったく異なります
- 手間をすべてUbuntuやDockerに逃がすと、OSのパッケージ管理そのものへの理解が育たないという副作用もあります。私自身、pgvectorの一件でDockerを選んだことで一時的には解決しましたが、AlmaLinux上でのPGDGリポジトリ運用の知見は結局身につきませんでした。「早く終わらせる」ことと「理解を積み上げる」ことのどちらを優先するかは、個人の検証環境だからこそ意識的に選ぶ価値があります。
まとめ
業務でRHEL系に慣れているエンジニアほど、その慣性のままに個人用途のOSを選びがちです。しかし業務での習熟と、個人用途における最適解は別の判断軸です。Ubuntuは利用者数・サポート体制・対応アプリの広さ・情報量のいずれにおいても、個人のVPSや検証機としての「詰まりにくさ」で優位に立ちます。一方でRHEL系には、業務知識の再利用や資格学習、商用要件の検証といった明確な強みもあります。
今日やれることとして、次に新しくVPSや検証機を1台立てる機会があれば、業務の慣性でAlmaLinuxやRHELを選ぶ前に、一度「これは業務知識の再利用が目的か、それとも単に動かしたいだけか」を自分に問い直してみてください。後者であれば、Ubuntu LTSを候補の筆頭に置くことをおすすめします。