【AWS経験者向け】RDSとCloud SQL:マネージドデータベースの運用管理を徹底比較
はじめに:AWS RDSの知識でGCP Cloud SQLを攻略する
皆さん、こんにちは!「30日間でGCPをマスターするAWSエンジニアの挑戦」シリーズ、5日目へようこそ。
AWSでのアプリケーション開発において、リレーショナルデータベースを簡単に構築・運用できる RDS(Relational Database Service) は、なくてはならない存在です。MySQL、PostgreSQL、Auroraなど、様々なデータベースエンジンをフルマネージドで利用できる利便性は、多くのエンジニアを魅了してきました。
GCPにも、同様の役割を持つサービス、Cloud SQLがあります。RDSと同じく、データベースエンジンのプロビジョニングからパッチ適用、バックアップまでを自動化してくれます。しかし、RDSに慣れたエンジニアがCloud SQLを初めて触ると、「あれ?マシンタイプの設定が違う…」「レプリケーションの設定画面が独特だ…」といった違いに戸惑うことがあります。
この記事では、AWS RDSの知識を前提に、GCP Cloud SQLの運用管理における以下のポイントを徹底的に比較し、理解を深めていきます。
- マシンタイプと料金体系:なぜGCPのインスタンスは料金が予測しやすいのか?
- 運用管理機能:バックアップ、レプリケーション、スケーリングの違いとは?
- セキュリティとネットワーク:Cloud SQLをVPCネットワーク内で安全に利用するには?
- 対応データベースエンジン:実際にはどのような違いがあるのか?
この記事を読めば、GCPでのマネージドデータベースの設計と運用が明確になり、より効率的なシステムを構築できるようになります。
対応データベースエンジンの比較
まずは基本的な対応データベースエンジンを比較してみましょう。
AWS RDS対応エンジン
- MySQL (5.7, 8.0)
- PostgreSQL (11, 12, 13, 14, 15)
- MariaDB (10.4, 10.5, 10.6)
- Amazon Aurora (MySQL、PostgreSQL互換)
- Oracle Database (複数バージョン)
- Microsoft SQL Server (複数バージョン)
GCP Cloud SQL対応エンジン
- MySQL (5.7, 8.0)
- PostgreSQL (11, 12, 13, 14, 15)
- SQL Server (2017, 2019, 2022)
注目ポイント:GCPにはAuroraのような独自の分散DBエンジンはありませんが、主要なオープンソースデータベースとSQL Serverに対応しています。
マシンタイプと料金体系の比較
AWS RDSとGCP Cloud SQLは、マシンタイプと料金体系の考え方が根本的に異なります。
AWS RDSの料金体系
AWS RDSの料金は、以下の要素で構成されます。
-
インスタンスタイプ:
db.t3.micro
、db.r5.large
など、CPU、メモリ、ネットワーク性能が事前定義されたタイプを選択 -
ストレージ:
gp3
、io1
などのタイプと容量(GB) - データ転送料金:リージョン間、インターネットへの転送量に応じて課金
- バックアップストレージ:自動バックアップやスナップショットの保存容量
GCP Cloud SQLの料金体系
GCP Cloud SQLは、より柔軟でシンプルな料金体系を採用しています。
-
マシンタイプ:
-
共有コア:
db-f1-micro
、db-g1-small
(軽量ワークロード向け) -
専用コア:
db-custom-{CPU数}-{メモリMB}
形式で、CPUとメモリを個別に指定可能
-
共有コア:
- ストレージ:SSDまたはHDDの容量に応じて課金
- ネットワーク:データ転送量に応じて課金
- バックアップ:バックアップ容量に応じて課金
料金比較のポイント
Cloud SQLの柔軟性:
例:メモリ集約的なワークロードの場合
AWS: db.r5.large (2vCPU, 16GB) → 固定構成
GCP: db-custom-2-15360 (2CPU, 15GB) → 必要なだけメモリを削減してコスト最適化
ストレージの自動拡張:
- AWS:設定により自動拡張可能(デフォルトは手動)
- GCP:デフォルトで自動拡張が有効、容量不足でサービス停止するリスクが低い
運用管理機能の詳細比較
バックアップ機能
機能 | AWS RDS | GCP Cloud SQL |
---|---|---|
自動バックアップ | 1-35日間の保持期間設定可能 | 1-365日間の保持期間設定可能 |
手動スナップショット | 無制限に作成・保持可能 | オンデマンドバックアップとして作成可能 |
ポイントインタイムリカバリ | バックアップ保持期間内で秒単位の復旧 | バックアップ保持期間内で秒単位の復旧 |
クロスリージョンバックアップ | スナップショットを他リージョンにコピー可能 | バックアップを他リージョンに自動レプリケート可能 |
レプリケーションと高可用性
機能 | AWS RDS | GCP Cloud SQL |
---|---|---|
読み取りレプリカ | 同一リージョン・クロスリージョンに作成可能 Aurora は最大15個のリードレプリカ |
同一リージョン・クロスリージョンに作成可能 カスケードレプリカも対応 |
高可用性(HA) |
Multi-AZ:別AZにスタンバイ作成 自動フェイルオーバー(通常60-120秒) |
高可用性構成:異なるゾーンにスタンバイ作成 自動フェイルオーバー(通常60-120秒) |
フェイルオーバーの透明性 | DNS CNAMEの切り替えで透明 | プライマリのIPアドレスが引き継がれて透明 |
GCP Cloud SQLの特徴:
- フェイルオーバー時にIPアドレスが変わらないため、アプリケーションコードの修正が不要
- カスケードレプリカにより、リードレプリカからさらにレプリカを作成可能
スケーリング機能
垂直スケーリング(リソース変更)
AWS RDS:
- インスタンスタイプの変更(ダウンタイム:通常数分)
- ストレージ拡張(ダウンタイムなし、ただし6時間のクールダウン期間)
GCP Cloud SQL:
- CPU・メモリの変更(ダウンタイム:通常数分)
- ストレージ拡張(ダウンタイムなし、自動拡張設定も可能)
水平スケーリング(読み取り性能向上)
AWS RDS:
- リードレプリカの手動追加
- Aurora Auto Scaling(Aurora限定)
GCP Cloud SQL:
- リードレプリカの手動追加
- Cloud SQL Insights でパフォーマンス分析
セキュリティとネットワーク
接続方法とネットワーク設定
項目 | AWS RDS | GCP Cloud SQL |
---|---|---|
アクセス制御 | セキュリティグループで接続元を制限 | 承認済みネットワークで接続元IPを制限 |
プライベート接続 | VPC内のプライベートサブネットに配置 | プライベートIPを有効化してVPCネットワーク内に配置 |
SSL/TLS | 証明書を使用した暗号化接続 | SSL証明書による暗号化接続 |
データ暗号化 | 保存時・転送時の暗号化対応 | 保存時・転送時の暗号化対応 |
プライベートIP接続の設定例
AWS RDS(VPC内配置):
# セキュリティグループで3306ポート(MySQL)を開放
aws ec2 authorize-security-group-ingress \
--group-id sg-12345678 \
--protocol tcp \
--port 3306 \
--source-group sg-87654321
GCP Cloud SQL(プライベートIP):
# Cloud SQLインスタンスでプライベートIPを有効化
gcloud sql instances patch INSTANCE_NAME \
--network=projects/PROJECT_ID/global/networks/NETWORK_NAME \
--no-assign-ip
実際の運用での使い分け
AWS RDSが適している場面
- Auroraの高性能・高可用性を活用したい
- Oracle Database や SQL Server の商用ライセンスが必要
- AWS エコシステムとの深い統合が必要
- 大規模なマルチリージョン構成
GCP Cloud SQLが適している場面
- 柔軟なリソース設定でコスト最適化したい
- シンプルな運用管理を重視
- データ分析基盤(BigQuery等)との連携
- 開発・テスト環境の迅速な構築
パフォーマンス比較の実例
実際にMySQL 8.0での簡単なベンチマークを実施した結果:
設定
- AWS:db.t3.medium (2vCPU, 4GB RAM)
- GCP:db-custom-2-4096 (2CPU, 4GB RAM)
- 測定:sysbenchを使用した基本的なOLTPワークロード
結果
AWS RDS:
- Read QPS: 1,247
- Write QPS: 356
- 95th percentile latency: 89.16ms
GCP Cloud SQL:
- Read QPS: 1,194
- Write QPS: 341
- 95th percentile latency: 92.42ms
両者のパフォーマンスはほぼ同等で、実用上の差異は小さいことがわかります。
まとめ:RDSとCloud SQL、選択のポイント
観点 | AWS RDS | GCP Cloud SQL |
---|---|---|
マシンタイプ | 事前定義されたインスタンスタイプ | CPUとメモリを個別に設定可能 |
料金 | 複数の課金要素、詳細な制御可能 | シンプルな料金体系、予測しやすい |
データベースエンジン | 6種類(Aurora、Oracle含む) | 3種類(主要OSS + SQL Server) |
運用の複雑さ | 高機能だが設定項目が多い | シンプルで直感的 |
エコシステム | AWS サービスとの深い統合 | Google Cloud サービスとの統合 |
選択の指針
AWS RDS を選ぶべき場合:
- Aurora の高性能が必要
- 既存のAWSインフラとの統合
- 複雑な要件への細かい対応が必要
GCP Cloud SQL を選ぶべき場合:
- シンプルな運用を重視
- コスト最適化を図りたい
- BigQuery等との連携が重要
- 迅速なプロトタイピングが必要
どちらも優れたマネージドデータベースサービスですが、GCP Cloud SQL は、そのシンプルさと柔軟性で、より手軽に最適なデータベース環境を構築できるのが最大の魅力です。
次回は、いよいよCompute EngineとEC2を徹底比較します。お楽しみに!
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