この記事は「制度の要点を正確に押さえつつ、iOSエンジニアとして“設計・実装・審査”まで落とし込める」ことを狙ってまとめています。
登場人物
- ユウ(高校生):マンガ・小説アプリをよく使う。疑問は素直に聞くタイプ。
- ケイ(iOSエンジニア):アプリ審査・決済・StoreKit周りも見る。制度を「仕様」に翻訳する役。
0. まず結論:誰が“得”して、誰が“得しない”?
ユウ「Appleが日本でiOSのルール変えたってニュース見た。全部のアプリが得するの?」
ケイ「得するのは主に“アプリの中でデジタル商品を売りたい”アプリ。
一方で、アプリは読むだけ(リーダー専用)で、購入は100% Web(自社決済)というモデルは、もともとAppleの決済制約を受けにくい。だから今回の制度変更の“直接の恩恵”は小さい。」
Appleの公式発表(Newsroom)でも、変更は日本の法令(スマホソフトウェア競争促進法)への対応として説明されています。
1. Apple公式(Newsroom日本)のプレスリリース要点
ユウ「公式発表って、何が書いてあるの?」
ケイ「要点はこう。」
- 日本の スマートフォンソフトウェア競争促進法 に対応するための変更
- 代替アプリマーケットプレイス(第三者ストア的な配信)
- Apple IAP以外の決済でデジタル商品を売る選択肢
- ただし、Appleは セキュリティ・プライバシー・若年層保護 を強く理由付けして、追加の保護策もセットで導入
(この“自由化+保護策+条件”の組み合わせが、実務上の論点になる)
2. そもそも「Apple IAP」って何?
ユウ「Apple IAPって、どんな仕組み?」
ケイ「Apple IAP(Apple In-App Purchase)は、iPhoneアプリ内でAppleが提供する公式の課金手段。
StoreKitを使って実装する。」
- Appleの決済・返金・購入履歴・サブスク管理などが統合されやすい
- その代わり、手数料(コミッション等)が発生する
技術的にはStoreKitの「In-App Purchase」関連が入口。
3. 外部決済リンク(External Purchases / Out-of-app offers)とは?
ユウ「外部決済リンクって、“アプリからWebに飛ばす”やつ?」
ケイ「そう。Appleの表現だと主に2系統ある。」
- アプリ内で“別の決済代行”を使う(alternative payment processor)
- アプリ外(Web)へリンクして購入させる(out-of-app offers)
日本向けの要件はApple Developerのサポートページにまとまっている。
4. 外部決済リンクを出す場合の“必須要件”(ここが肝)
ユウ「でも、外部決済リンク出せるなら、Appleの手数料ゼロにできる?」
ケイ「そこが誤解されやすい。
Appleは“出して良い”代わりに、UI/導線/開示/手数料を要件化している。」
4-1. UI要件:IAPの同時提示+同等以上の目立ち方
Appleは次を明記している:
- 購入を案内する画面では、Apple IAPも同時に提示すること
- Apple IAPの表示は、他の支払い手段と同等以上に目立たせること
- App Storeのプロダクトページには、Web購入や代替決済の案内を書けない
ユウ「つまり“Appleのボタンも並べなさい”ってこと?」
ケイ「そう。結果としてユーザーは、摩擦の少ないIAPを選びやすい構造になりがち。」
4-2. 開示シート(Disclosure sheet):外部決済前にモーダル必須
iOS 26.2では、外部決済を開始する前に Apple指定のデザイン/リソースでモーダル(開示シート)を実装する必要がある。
さらに将来のiOSでは “システム提供の開示シート” に移行予定とも書かれている。
5. 手数料の全体像(ここは“制度を仕様に落とす”ポイント)
ユウ「外部決済にしたらAppleは取れないんじゃないの?」
ケイ「“ゼロ”にはならないケースが普通にある。日本向けページには、手数料が整理されている。」
5-1. App Store内(IAP含む)のコミッション+決済処理費
Appleの日本向け条件では、Apple IAP利用時は主に次の構成:
- App Store commission(例:デジタル商品販売は21%など)
- Apple payment processing fee(Apple IAPの決済処理として5%)
(プログラム参加やサブスク2年目以降で10%などの区分もある)
5-2. アプリ外(Web)購入リンクの「Store services commission」
外部リンクでWeb購入させる場合でも、
Appleは store services commission(例:15%) を規定しており、リンクタップから7日以内の購入が対象と明記している。
6. もう一つのキーワード:コアテクノロジー手数料(CTC)
ユウ「CTCって何? IAPと別?」
ケイ「別。日本の“代替アプリマーケットプレイス(App Store外の配信)”に関係する。」
Apple Developerの「Changes to iOS in Japan」では、
- App Store外(代替アプリマーケットプレイス経由など)で配布する場合
- デジタル商品等の売上に対して Core Technology Commission(CTC)= 5% がかかる、と明記されている。
ユウ「じゃあ“App Storeの外に出ると5%”みたいな?」
ケイ「少なくとも日本の新条件では、そういう理解が入口になる(適用範囲は要原文確認)。」
7. “リーダー専用アプリ”に関係あるのはどこ?
ここからが、電子書籍・マンガ・動画などでよくあるモデルの話。
7-1. 典型的な2モデル
モデルA:アプリ内で売る(Commerce型)
- アプリで商品を並べる
- アプリで購入できる(IAP or 代替決済)
- ⇒ 今回の制度変更の議論の中心
モデルB:アプリは読むだけ(Reader型)
- アプリ内に購入導線を置かない/購入はWeb完結
- アプリはライブラリ表示・閲覧が主
- ⇒ もともとIAPを使わないので、制度変更の“救済”対象になりにくい
ユウ「Reader型って、今回の外部決済リンクを使う意味ある?」
ケイ「基本は薄い。
外部決済リンクを入れると、むしろ IAP併記・同等表示・開示シート・手数料(リンク手数料等) といった追加要件が入ってくる。
Reader型は“購入をアプリに持ち込まない”ことで、ルールの衝突を避けているケースが多い。」
8. iOSエンジニア視点:制度を“実装・審査”に落とすチェックリスト
ここが、現場で評価されやすい部分(=制度理解を仕様化できるか)です。
8-1. 要件定義(PM/法務/CSと合意すべきこと)
- アプリは Commerce型 に寄せるのか、Reader型 を維持するのか
- どの画面が「merchandises a digital good(購入の提示)」に該当するか
- “価格表示”や“購入ボタン”の扱い(UIが購入促進と判断される境界)
- 年齢(13歳未満/13–17歳)に関する保護要件(Kidsカテゴリ等)
8-2. 実装観点(iOS 26.2以降を前提に設計)
- 外部決済を使うなら、StoreKitの外部購入系Entitlementが必要
- 開示シートは Apple提供の仕様・リソースに従って実装(iOS 26.2)
- 事前に外部購入可否(isEligible等)チェックが要求される
- 手数料計算・レポーティング・監査対応(レポート提出、Appleの監査権限)
8-3. 審査(App Review)で落ちやすいポイント
- IAPの併記が不足/目立ち方が弱い(“at least as prominent”違反)
- 開示シートが仕様どおりでない(iOS 26.2はアプリ実装必須)
- App Store商品ページに外部購入案内を書いてしまう(明確に禁止)
9. まとめ:高校生向けに一言で言うと
ユウ「結局、どう覚えればいい?」
ケイ「こう覚えるといい。」
- 日本の法律対応で、iOSは“選択肢”が増えた
- でも 外部決済は“自由”ではなく“要件付き”
- そして 読むだけのリーダーアプリ(購入Web完結) は、もともと制約を受けにくいので、制度変更の“直接の恩恵”は小さい
参考リンク
Apple公式 Newsroom(日本)
Apple Developer:日本の変更まとめ
Apple Developer:日本の決済オプション(外部決済リンク要件・手数料)
- https://developer.apple.com/jp/support/payment-options-on-the-app-store-in-japan
- (英語版/実体URL)https://developer.apple.com/support/payment-options-on-the-app-store-in-japan/
