「『ソードアート・オンライン』 仮想から現実へ。 小説とゲーム技術のお話。 ~ソードアート・オンラインが現実になる日まで。~」レポート
概要
このセッションはCEDEC2017、8/30の基調講演として行われたものです。本レポートはセッションを見返した時にポイントがすぐわかるようにまとめたものとなります。
講演の内容
来場者にSAOにまつわる、VR、AR、AIの話を、ゲーム技術の話を交えて伝えることが目的。
登壇者
川原礫さん
アクセルワールドやSAO、絶対ナル孤独者<アイソレータ>などを発表している人気作家。
原田勝弘さん
鉄拳やソウルキャリバーなどのアクションゲーム系に携わったりサマーレッスンなどのVR研究にも携わっている。
二見鷹介さん
SAOゲームシリーズのプロジェクトを始め、リトルウィッチアカデミアなどのハイターゲットアニメのゲーム化プロデュースに携わっている。
SAOとは?
「これは、ゲームであっても遊びではない」
2001年からwebで連載開始。そこから大進撃。2022年、VRMMORPGを舞台とした少年少女達の物語。
世代
昔だと、バーチャルボーイ。今だと、Oculusなど。ハードルの高さを感じるのはいつの時代も同じかもしれない。
VRMMORPGを舞台としたSAOでの小説視点でのゲーム表現について
川原先生が、事あるごとに表現したのは自分の感覚はゲーム内にあるという事。自分が注視した部分をより精密に描画する(高解像度)ディティールフォーカシングシステムというものを小説内で定義している。
二見さんが好きな箇所として挙げていたのは、デジタルな空間内で女の子が普段の生活の一環である髪をくくってお風呂に入るという動作をしている場面。そこの表現がとてもうまい、リアルなんだけどリアルじゃない感じがする、とコメントがあった。
川原先生曰く、小説内で三大VR環境で表現が難しいものは以下の通り。
- 髪の毛
- 液体
- 食べ物
水は現実だと液体であって、手から溢れる表現がある。それはVRでは将来的にどうなるのか?と質問。
原田さんは、そこにどれだけ処理が当てられるかが問題であるとコメント。ここで、SAOが将来的に実現された場合は、SAOはフルダイブなのでエンターテイメントにはならないんじゃないか、現実との境界線が無い「もう1つの現実」という状態ではゲームという感覚にはなっていないんじゃないかという意見が出た。
川原先生は、SAOのキャラクター達は最初こそログアウトできない設定だったからではあるが、そのあとに現実と切り替えができていて、もう1つの人生という風に感じている、とコメント。
原田さんは、ドッキリやエンターテイメントは、他の人から見たら面白おかしいけど、本人の感じ方次第では体験が違ってくるというのがあって、これはVRとしても1つのテーマであると考えているらしい。映像や音は今後も美麗になっていくが、どこかで現実との切り離し要素を作らないと、SAOやマトリックスのようになってエンターテイメントではなくなるんじゃないか。
二見さんはゲーム内で宿題をしているキャラ達を見ていて、現実に寄り添っていると感じているとコメント。
VRMMOをプレイしている主人公視点でのフィクションストーリーから何故ゲーム化へ持って行ったのか?
ライトノベルからゲーム化へ持っていった時に、想像以上にガチなやつが作られると知って驚いた川原先生。どうやらノリで作られることになったらしい。
2001年連載時、オーバーテクノロジーを使った小説からVR時代へ
連載当時はVR自体があまり認知されていなくて、VRMMOという言葉もまずなかった。仮想世界をテーマにした小説自体は昔からあった。川原先生はそれを読んだり、ファンタジー系のMMO廃人をして、そこで得た経験を小説にぶつけた結果、大ヒットした。
ゲーム小説からSF小説になりすぎないように調節は入れていた。HMD自体の構想は他の作品にもたくさんあった。
原田さんとしては、HMDをもっと手軽にしていかないと、VRはもう次のステップはないんじゃないかと思っている。今できることという風に考えると、もうVRの壁にはぶち当たっていると思っている。まずは装着の手軽さが必要。
川原さんは、コンタクトレンズレベルまで行ければ手軽さは増すんじゃないかと考えている。
VRは脳を80%まで覆うと現実の境目はなくなるが、ドーム型になると歪みが出始める。現在はスクリーン型が限界だと思われる。
脳から出る、インプットやアウトプットの脳波をどう取るか、またアウトプットによって身体が勝手に動いてしまう問題もあることを川原先生は考えている。なので小説内では脊髄を麻痺させるようなことをしている。
VRを使ったゲーム外の可能性
SAOでのデバイスはナーブギアというヘルメット型のものと、アミュスフィアというナーブギアの後継機が存在している。
メディキュボイドや、AR型情報端末(どちらかといえばMR)なども存在していて、川原先生はこれらをいつか書きたいと思っていた。
インドア派から見たとき、AR型端末はハードルが高く感じる。ただ旅行などのアウトドア時に情報を参照できる方向へと進んでくれるととても助かる。
SAOでの映画では、ARをメインとして使っている。これはテーマを東京にし、最初はVR内で東京を再現しようとしたが、それはイメージが違うということで、生身でARをやってもいいんじゃないかということになった。
劇場版SAOオーディナルスケールにおけるVRとARが融合した世界観について
ARバトルなのでステータス一切なしで構成している。ランキングによって攻撃力補正がある程度。
このオーディナルスケール自体は現代と近いと原田さんは考えている。
高度AIキャラクター「ユナ」における実現化の問題
ユナはARアイドル。川原さんからしたらAI自体もオーバーテクノロジーと感じている。
原田さん的にはAIはゲームにもエンターテイメントにも使える分野だと考えている。また、個人の経験や知識を残していくこともできる。
現代のAIはユナレベルのAIへどんどん近づいていて、これから人間かAIか区別つかなくなり、ライバルという演出などができるようになるんじゃないかとも考えられている。
原作小説の後半「アリシゼーション編」で描かれるSAOのAIに関して
SAOにおける人工知能には、大きく分けて二種類が存在している。
- トップダウン型
- ボトムアップ型
トップダウン型はユイとかユナとかのような、限界まで進化して人間からの問いに完璧に答えられるようになった状態。
ボトムアップ型は脳を再現すれば知性が生まれるんじゃないかという状態。ボトムアップ型とは違い、会話を理解した上で受け答えができるレベルになる可能性がある。
原田さんは、ボトムアップ型はきっとすぐに実現すると考えている。
感想
開発者視点と小説家視点での考え方や感じ方で存在している差異がはっきりとわかる対談講演だったと思います。まさかSAOの原作者の方が登壇すると思っていなかったのですが、どんな考えを持ってSAOを構築しているのかがわかって、とても面白かったです。