最初に
本記事の内容は、私がエンジニアリードとして経験した学びに基づいています。1対1の面談(1on1)の難しさと、その後のアクションの重要性について、言語化をしてみました。この記事が、効果的な1on1の実施方法と課題への対処法を考える一助となれば幸いです。
本記事の対象者は以下の通りです。
- エンジニアリードやエンジニアマネージャーを目指している方
- マネジメントに興味がある方
- 1on1の意義を知りたい現場の方
1. 1on1実施の検討
1on1は、ただやみくもに取り入れれば良い、という訳ではありません。
チーム規模やプロジェクトのフェーズに応じて、1on1が必要かどうかを考える必要があります。また1on1を行う場合は、準備や実施に対してもそれなりに時間がかかります。プロジェクトのタスクをこなす時間を、1on1に割く余裕がチーム(会社)にあるのか、そこも含めて考える必要があります。
例えば、会社やプロジェクト自体が立ち上がったばかりで人数も少なく、とにかく実績を作るというフェーズならば、月1の1on1よりも、まずは開発環境やプロジェクトを安定させることが優先されます。環境が安定し、メンバーが3人以上になったタイミングで1on1の必要性を再検討するのが良いでしょう。
では、実際に人数が増えて1on1を再検討する段階になった時、どこから手を付ければ良いでしょうか?
まず、チームとして達成したい目標を明確にしましょう。
これは会社やプロジェクト、またはエンジニアチームでミッションとして掲げているものでOKです。例えば以下のようなものが挙げられます。
- 会社目標の例:
- 最先端の技術を駆使して、業界標準に挑戦し、新しい技術的解決策を開発する
- プロジェクト目標の例:
- 多言語対応や文化的適応を計画し、質の高いソフトウェアをグローバル市場へ届ける
- プレイヤーに新しいタイプのインタラクションやゲームプレイを通じて、未体験の楽しさを提供する
- エンジニアチーム目標の例:
- 社内で開発したユニークなツールやライブラリをオープンソースとして公開し、業界への貢献を通じて会社の技術ブランドを築く
- アジャイル開発手法を用いて、迅速なプロトタイピングと改善を行う
- 社内で開発された技術や解決策を文書化し、ナレッジを形成する。ナレッジは新入社員のトレーニング資料や、他のプロジェクトでのリファレンスとして活用する
1on1の実施は、掲げた目標を達成するための重要な足掛かりとなります。それと同時に、会社と従業員の相互成長の機会を提供する場でもあります。組織の目標と個人のキャリア目標が相互に助長し合う関係であるべき、ということは、皆さんもご存じの通りでしょう。
したがって、全体としての目標がまだ定まっていない場合は、まず目指すべきビジョンを明確にしましょう。
1on1を行う環境と目標が整ったら、次はいよいよ1on1の準備に取り掛かります。
2. 1on1の事前準備
1on1をするにあたって、いくつか事前準備が必要です。
お互いの時間を使って実施することになるので、極力事前に準備をし、当日はスムーズに話すことができるように努めましょう。
事前準備として必要な項目の例を以下に挙げます。
- 1on1の実施アナウンス:日時、時間、内容を通知
- カレンダーへの予定入れ(その際に詳細の記載も忘れず)
-
話す内容の精査:以下例
- 個人での抱えていそうな問題の予測
- 1on1対象者のキャリアパスについて
- 最近のタスクの進捗や方向性の確認
- 1on1で得た情報を記載するためのメモの用意
当たり前だと思われる項目もありますが、これらは意外と忘れてしまいがちなものです。
特にカレンダーの予定入れに関しては、1on1を1日の中に、過度に詰め込まないことをおすすめします。1on1中は頭を使う場面が多くなるので、多くても1日に3人程度で留めておきましょう。
上記の項目の中で特に重要なのは以下の2点です。
- 1on1対象者のキャリアパスについて
- 最近のタスクの進捗や方向性の確認
相手がどんなキャリアパスを歩みたいのか知るためには、本人から直接情報をもらったり、採用時の書類を再確認する必要があります。
その人のキャリアパスは、その人のスキルそのものを表すと言っても過言ではありません。ただし、当人が現在やりたいことは別軸で考える必要があります。会社やチームとしてサポートできることは限られていますが、相手に寄りそった対話を行い、可能な限りサポートをする姿勢が重要となります。
この1on1の場を活用して、できる限りメンバーのやりたい事とチーム内でのやらなければいけない事、やってほしい事をすり合わせていきましょう。
- 個人での抱えてそうな問題の予測
こちらについては、問題の内容にも寄ってきます。例えば、あまり公にできない個人間での問題や体調面での悩みなどについては1on1で打ち明けてもらう方が良いでしょう。打ち明けてもらえるような関係性を築くことも大事です。しかし、例えば、現在のタスクに関する問題などであれば、それは1on1の目的とは少し外れてしまいます。なので、その話題に関しては別途時間を設けてミーティングを行うようにしてください(とはいえ、1on1の場で打ち明けてくれていることには変わりないので、感謝はしつつ話しやすい雰囲気作りを継続してください)。
- 1on1で得た情報を記載しておくためのメモ用意
1on1で得た情報を今後に活かすため、メモをしっかりと用意しましょう。1on1は継続して行うものですので、数回前の内容を忘れがちです。そういった時に見返せる資料を自身で用意しておくことは大事でしょう。また、これらのメモはアーカイブとしての役割だけではなく、現在どういった問題がチーム内で起きているか、プロジェクトとして目に見えていない問題があるかどうかを知る大事な資料にもなり得ます。
3. 1on1の実践
1on1を実践するにあたって、気を付けることは以下のみです。
- できるだけ時間厳守
- 自分の話ではなく、相手の話を聞くに務める
そして、もし可能なら、会話中にメモを取ることも推奨します。もし同時並行が難しいようでしたら、1on1が終わったあとに要点をまとめる時間を取りましょう。
- できるだけ時間厳守
1on1では時間を厳守しましょう。話が脱線したり、細かく聞いているうちに時間がオーバーすることはよくあります。だらだらと話し続けることが悪いわけではありませんが、お互いの作業時間が削られることを忘れないようにしましょう。可能な限り、最初に決めた時間内で話を終えるようにしてください。
- 自分の話ではなく、相手の話を聞くに務める
こちらは当たり前のように見えて、実は難しいものです。1on1では相手の話を聞くことを心がけましょう。相手の悩みや問題についてヒアリングすると、自分の体験談や武勇伝を語りたくなることがあります。もちろん参考になる場合もありますが、基本的には相手の意見を引き出す形で話を聞いてください。キャリアパスの相談を受けた際には以下の例を参考にしてください。
- Q : 「自分が何をしたいのかわからない」
→ 得意なことを掘り下げたり、どんなタスクをこなしている時に楽しさを感じるか質問 - Q : 「やりたいことはあるけど、どういった形でキャリアパスに繋げていけばいいかわからない」
→ やりたい事に繋がる技術やスキルは何かを洗い出し、そこからプロフェッショナル路線で行くのか、マネジメント路線でいくのかを考えてみる - Q : 「プロフェッショナル路線とマネジメント路線、どちらが自分に向いているのかわからない」
→ 技術とマネジメント、どちらのほうがより好きかどうかや、これまでの経験の中でうまくいった事柄などを探りつつ、向いてるほうに主軸を置けないか話し合ってみる(どちらか一方だけ、ではなく、どちらの適正も伸ばしていく形でも良いと思います)
4. 1on1後のサポートやアクション
上記までを実践したあと、満足してそのまま放置してしまうとせっかく1on1で得た知見がそのまま流れてしまいます。1on1を行ったあとは、「1on1で得た情報を記載したメモ」の有効活用を検討してみましょう。
もしあなたが1on1をした後で、「チームやプロジェクト内部に問題がありそうだ」と感じたのであれば、1on1で得た情報をまとめた上で、プロジェクトリーダーや他のセクションリーダーと共有するのも非常に良いアクションとなるでしょう。私自身もメンバーの名前を匿名化し、1on1で得た情報をNotionの1ページにまとめ、他のリードやPM、ディレクターに共有していました。このアクションにより、他のプランナーやアートから「原因は何か?」「解決策はあるか?」などの意見をもらうことができます。エンジニア視点だけでは意見が偏るため、他部門との共有は非常におすすめです。
上記のようなアクションを起こしたうえで、上層部や他セクションと共有した結果を再度エンジニアチームに展開することもおすすめします。1on1で出た意見がどのように反映されるかを共有することで、チームとしての一体感やプロジェクト状況の改善に向けたモチベーションが高まります。
まとめ
1on1の面談は、エンジニアリードやマネージャーにとっても非常に重要な機会となります。
1on1を効果的に実施するためには以下の点が重要です。
- 必要性の検討: 1on1が必要かどうか、チームやプロジェクトの状況を見る。特にプロジェクトの立ち上げフェーズでは、まずは環境を安定させることが優先される。
- 目標設定: チームとしての目標やミッションを明確にし、その目標に向かって1on1を活用する。個人のキャリア目標とも連携させることで、メンバーのモチベーションを高めることができる。
- 事前準備: 1on1をスムーズに進めるために、事前に十分な準備を行う。話す内容の精査やメモの用意をすることも大事。
- 実践: 1on1では時間を厳守し、相手の話をしっかり聞くことを心掛ける。相手の悩みやキャリアについて深く掘り下げることで、お互いに気付きを得られる。
- フォローアップ: 1on1後は得た情報を活用したアクションを起こしていく。他部門との共有やチームへのフィードバックを通じて、チーム全体の一体感とプロジェクトの改善を促進する。
1on1を通じてメンバーとの信頼関係を築き、チーム全体の成長を支えることができます。積極的に1on1の検討をしていくことを強くおすすめします。