はじめに
ChatGPTをはじめとするLLMが隆盛をきわめており、科学やエンジニアリングの世界にもその波が強烈に押し寄せています。科学的な活動の一部でもちろんLLMは補助的に用いていますが、どんなことができるかをあらためて俯瞰してみようと思い、論文「Exploring the role of large language models in the scientific method: from hypothesis to discovery」(Y. Zhang et al., https://doi.org/10.1038/s44387-025-00019-5, open access)を読んでみました。気になったところをまとめてみます。
論文の章だて
(1) Current use of LLMs—from specialised scientific copilots to LLM-assisted scientific discoveries
文献要約、レビュー支援、コード生成、注釈付け、テキスト変換により研究生産性を大幅に向上。
大量文献の構造化抽出、データアノテーションの自動化を実用水準で達成。
学際分野間の「言語・専門用語ギャップ」を緩和。
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Prompting LLMs: from chatbot to prompt engineering
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LLMs as practical scientific copilots
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Foundation models for science
(2) Toward large language models as creative sparring partners
LLMプランナー+外部ツール連携により、化学合成や反応条件探索を自律実行。
CRISPR-GPTやBioDiscoveryAgentなど、遺伝子編集設計・実験設計の自動化が実証。
硬直的な手続き型ソフトより柔軟で、想定外事象にも適応可能。
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Augmenting the scientific method

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科学的方法への統合フレーム
論文は科学的発見を以下の反復探索プロセスとして整理する。
観測 → 仮説生成 → 実験 → 検証・自動化 → 知識更新
各段階でのLLMの役割は以下の通り。-
観測
注釈・分類・情報抽出の自動化。
ブラックボックスシステムの定性説明。
マルチモーダルデータ(画像、ゲノム、スペクトル等)の解析。 -
仮説生成
LLMによる文献横断統合とアイデア連結。
Role-play、反復フィードバックによる新規仮説創出。 -
実験・計画
CoT(Chain of Thought)、ReAct等による計画立案。
API/ロボット/シミュレーションと連携した実験の実装。 -
自動化
LLMエージェント化による大規模探索・並列実行。
失敗事例を含む反復最適化。
スキルライブラリによる知識累積。 -
検証
複数回答の自己整合性投票、Python等による反証実験。
Human-in-the-Loopによる最終保証。
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観測
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Expanding or narrowing the observation process
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Experimentation and automation
- Sclaing, Enhancing, Validation
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Expanding the literature review and the hypothesis horizon
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Human scientists in the loop
- 人間は判断・誘導役
文献探索や仮説生成でLLMに視点設定・選別を与え、誤推論や曖昧さを修正して精度を担保。 -
実験実装の最終責任は人間
LLMの実験計画を現場で確認・是正し、失敗時の対応や安全管理を担う。 - 実運用は“LLM in the loop”
主体は人間で、LLMは補助役として創造性・効率を増幅する位置づけに留まる。
- 人間は判断・誘導役
(3) Challenges and opportunities
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Hallucinations as putative sources of unintended novel hypotheses
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The value of reasoning and interpretation in AI-led science
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The challenge to understand LLMs, and the opportunity to understand by using GenAI and LLMs
- ブラックボックス性が高く、自己説明は信頼性が低い。
- Logit Lens、Activation解析、Attention可視化などは探索途上。
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The impact on scientific practice and the community
(4) Conclusions
- LLMは現時点では強力な知識処理補助であり「創造主体」ではない。
- 基礎科学の発見に不可欠な要素
- 高度な推論。
- 自律的仮説生成と自己評価。
- 厳格な検証・信頼性定量(algorithmic confidence)。
- AlphaGo型の「問いが自然に次の問いを生む対称構造」が科学探究AIにも必要だが、現段階では未発達。
- 将来像
- Domain-specific foundation models+多モーダル統合。
- エージェント自動化+形式検証。
- 人間とAIの協働知能としての科学探索エコシステム。
所感
当論文を読んでみて、「そうだな〜」と思うポイントがたくさんありました。
- たくさん得た知識から人間がディシジョンしアクションに落とし込まない限りはただの知識で終わる。
- LLMの提案は画一ではない(画一だとすればデータやハードウェア、つまり資本を持つものが優位)。画一でない回答のどこが琴線にふれるか。客観的な正しさはもちろん重要だが、主体として何に取り組むかが問われている。
- LLMのロジックが正しいか正しくないか(ブラックボックスの中身を想像・推測できるかどうか)、LLMの提案に付加価値を与えられるか否かは、人間側の「強さ」が要求される。人間側も成長を止められない。
- 現時点ではLLM(活用)に課題はあるだろうが、LLMはさらに賢くなっていくだろう。悲観せず優しい目で見ていけば、どんどん期待に応えていってくれるようになるのではないか。打てば響く。打ち手も研ぎ澄まされる。