Amazon Working Backwards
Amazonが生み出した「Working Backwards」という手法をご存知でしょうか?
最近ワークショップ形式でこのフレームワークを学ぶ機会があり、とても考えさせられることが多かったので、今回はそのレポートをお届けします。
そもそもWorking Backwardsとは?
Working Backwardsは、直訳すると「逆算する」という意味です。
Amazonが製品やサービスを開発する際に用いる手法で、お客様の視点を重視した製品開発を可能にするためのフレームワークです。
この手法では、何かを企画する際に、まずそれが形になったと仮定してプレスリリースを作成し、その内容を元に製品を開発していくというものです。
ワークショップの内容
ワークショップは前半が座学、後半が実践という構成で進められました。
座学では、Working Backwardsの基本的な考え方やAmazonの事例を学び、後半の実践では実際にプレスリリースを作成する体験をしました。
座学で学んだこと
以下に、座学で学んだ内容をまとめます。
イノベーションの目的
- お客様の暮らしを便利に、より楽しくするための新しい顧客体験の創出
- 「ありそうでなかった」革新で、お客様に「わぉ!」と言わせる体験を目指す
アマゾンのイノベーションの仕組み
- カルチャー
- 顧客中心の考え方が組織全体に浸透している
- メカニズム
- Working Backwards
- 組織
- 少人数で権限が移譲された「2 Pizza Team」
- アーキテクチャ
- マイクロサービスを活用し、柔軟でスケーラブルなシステムを構築
アマゾンの行動指針である「OLP」
その中でもカルチャーについて、Amazonの行動指針である「OLP」について学びました。
これは社員ひとりひとりが持つべきリーダーシップの原則だそうです。
- Customer Obsession
- リーダーは常にお客様のニーズを起点に考え、行動する
- Think Big
- 大胆な視点と方針を持ち、想像を超える成果を目指す
- Bias for Action
- ビジネスにおける迅速な行動が重視され、計算されたリスクを取ることが奨励される
参考: リーダーシッププリンシプル
Working Backwardsのプロセス
5つの質問
「お客様は誰なのか ?」からなる5つの質問を元に、プレスリリースを作成します
- お客様は誰ですか ?
- お客様が抱える課題や改善点は明確ですか ?
- お客様が受けるメリットは明確ですか ?
- お客様のニーズやウォンツをどのように知りましたか ?
- お客様の体験が描けていますか ?
プレスリリースの作成
- プレスリリースを作成して、利点を端的に伝える
- プレスリリースを書き上げること自体は目的ではない
- あくまでやることを明確にするための発見や探求プロセスのひとつである
- FAQで製品やサービスの詳細を深掘りし、ステークホルダーの疑問に備える
- プレスリリースは1~2枚程度のドキュメントで簡潔にまとめるのに対し、FAQは20枚を超えることもある
- それだけではなく、お客様体験をビジュアル化したイメージ図を作成する
- この段階ではモックや仮実装ではない
- あくまでFAQと同じプレスリリースの補助資料にあたるため、画面遷移などを完璧に作りこむ必要はない
プレスリリースの利点
- プレゼン資料やパワポを作らないことで「発表者のプレゼンスキル」に依存しない
- また世界中の人からレビューを受けられる
- それ自体が一度の作成で完成するものではなく、
ver x.x.x
のようにレビューを受けて都度アップデートしていくことができる
Amazonの成功事例
Amazon Go
- そもそものお客様&課題
- シアトルで働くワーカーのランチ難民問題
- 急激に働く人が増えたことでランチ難民が出てきた
- Amazon Goの価値
- すぐほしいものほど近くにある
- 店舗回遊を目指していないので、普通のコンビニと違ってよく手にとられる飲食物は手前にある
- レジがないので待ち時間がない
- すぐほしいものほど近くにある
実践で学んだこと
後半は、実際に5つの重要な質問を元にプレスリリースを作成する体験をしました。
このプロセスを実際に体験することで、お客様の課題から考えていかなければ、製品やサービスの価値が伝わりにくくなってしまうことを実感しました。
また、普段いかにHowやWhatに囚われているかを実感し、お客様の視点を常に意識することの重要性を再認識しました。
印象に残ったこと
このワークショップを通じて、いくつかの重要な学びが得られました。特に印象深かったのは、以下のポイントです。
- 成功指標と撤退ラインを事前定義すること
- プレスリリースを作成する際には、成功指標と撤退ラインを事前に設定しておくことが重要である
- 何かを開発(作成)する際に、開発者はそのニーズが自明であると考えてしまいがちであるため、成功指標を事前に定義しておくということを忘れてしまいがちになるのかもしれない
- 仮にニーズが存在したとしても、解決策が正しいかどうかは別の問題であるため、成功指標を事前に定義しておくことが重要であると感じた
- One Way Doorのリスク
- Two Way Doorは、「素早く始めるためには、計算されたリスクを取ることが重要である」という考え方である
- 裏を返すとOne Way Doorのリスク(取り返しのつかないリスク)を取るしかない状況に陥らせないような設計が必要であり、仮にその決断を下す際には熟慮が求めらる
- 期限のないプロジェクト・議論の危険性
- Bias for Actionの考え方を通して期限を設定することの重要性を感じた
- 期限を設定することで、プロジェクトの停滞を防ぐことができる
- これは実際に半日という限られた時間でプレスリリースを作成することで、いかに期限が重要であるかを実感した
- また作成したプレスリリースにおいて、そのリリースが「具体的にいつ発表されるのか明確にすべき。時機を逸するとそれだけでメリットが出なくなる可能性もある」という指摘があったことからも、期限の重要性を再認識した
- 製品を開発者だけのものにしない
- プレスリリースを作成する際には、実際にお客様によく接している人の意見を取り入れなければ「机上の空論」になってしまう
- そのためには実際に存在する一つの具体的な課題から出発し、あとからスケールさせていくことが重要であると感じた
まとめ
Working Backwardsは、お客様視点を確立するための強力な手法であることを実感しました。
また「お客様の課題を正確に捉えなおす」ことこそが、製品やサービスを開発する上で最も重要なことであることを再認識しました。