社内データを生成AIに渡していいか、という話になると、だいたい「そのサービスは学習に使わないって書いてあるから大丈夫」で終わります。
終わりません。
「学習に使いません」と書いてあるページは、少なくとも4つの違う状態を指しています。しかも同じ会社の中で、入口が違うと状態が逆になることがあります。
2026年8月4日に、OpenAI・Anthropic・Google・Microsoft の公式ページを1件ずつ開いて、該当する文だけを抜き出しました。要約サイトや比較記事は一切見ていません。 原文と、そのページの最終更新日を並べます。
先に結論
| 提供元 / 入口 | 既定の状態 | 型 |
|---|---|---|
| OpenAI API / ChatGPT Business・Enterprise・Edu | 学習に使わない | 契約で担保 |
| ChatGPT 個人版(Free / Plus / Pro) | 学習に使う | オプトアウト式 |
| Anthropic API / Claude for Work・Enterprise | 学習に使わない | 契約で担保(ただし例外あり) |
| Claude 個人版(Free / Pro / Max) | 学習に使わない | オプトイン式 |
| Gemini API — Unpaid(無料枠・素の AI Studio) | 学習に使う+人手レビューあり | 明示 |
| Gemini API — Paid | 学習に使わない | 「Paid」の定義が直感と違う |
| Azure OpenAI / Foundry Models | 学習に使わない | 契約で担保 |
同じ「OpenAI」で、APIと個人版が真逆です。そして OpenAI 個人版と Anthropic 個人版も方向が逆です。片方の記憶でもう片方を判断すると外します。
補足:この記事が扱うのは、汎用の生成AI基盤(OpenAI / Anthropic / Google / Azure)です。
議事録・文字起こしの専用サービスは、この4類型に収まりません。中が「音声認識エンジン」と「要約LLM」の2層に分かれていて、層ごとに扱いが違う会社があるためです。要約側の説明ページには「学習には使いません」、利用規約には「プランに応じて音声を学習に使う場合がある」。どちらも本当で、読む場所を間違えると結論が逆になります。
この件と、情シスに出す1枚に何を書けば通るかは note に無料で書きました → 情シスに「その音声を外に出すな」と言われたとき、何を出せば通るか|個人情報保護委員会の資料だけで作る5項目
型1:契約で担保されている(OpenAI API / Azure / Anthropic 商用)
OpenAI ビジネス規約
"OpenAI will not use Customer Content to develop or improve the Services, unless Customer explicitly agrees to such use."
(Business terms — Effective 2026-01-01 / Last updated 2025-12-01)
同社の Enterprise privacy には "By default, we do not use your business data for training our models."(2026-01-08 更新)。保持については "OpenAI may securely retain API inputs and outputs for up to 30 days to provide the services and to identify abuse."、そして条件を満たす組織は API でゼロデータ保持を選べる、と書かれています。
Azure OpenAI / Foundry Models
Microsoft の data privacy ページ(2026-05-19 更新)は、否定を箇条書きで並べるという珍しい書き方をしています。
"are NOT available to OpenAI or other providers of Models sold by Azure."
"are NOT used to train any generative AI foundation models without your permission or instruction."
保存場所も明示されています。
"Is stored at rest in the Foundry resource in the customer's Azure tenant, within the same geography as the resource"
**なお、よく「Azure は30日保持」と書かれていますが、この2ページ(data-privacy と abuse-monitoring、いずれも 2026-05-19 更新)に30日という数字を私は見つけられませんでした。**確認できていないので、この記事では書きません。
Anthropic 商用 — ただし例外がある
"Anthropic may not train models on Customer Content from Services."
(Commercial terms Section B — Effective 2025-06-17)
ここまでは他社と同じです。問題は、同社のプライバシーセンターにあるフィードバックの扱いです。
"We may use your feedback to analyze the effectiveness of our services, conduct research, study user behavior, and train our AI models as permitted under applicable laws."
"we will store the entire related conversation, including any content, custom styles, conversation preferences, or model settings, in our secured back-end for up to 5 years."
(プライバシーセンター 2026-03-16 更新)
👍👎ボタンを押すと、その会話全体が対象になり、最長5年保存されます。
社内で「Claude は学習に使わないから安全」と説明したうえで、メンバーが良かれと思って👍を押す——という事故はあり得ます。規約の本文ではなく、UIの1クリックが分岐点になっているタイプです。
型2:オプトアウト式(ChatGPT 個人版)
"ChatGPT, for instance, improves by further training on the conversations people have with it, unless you opt out."
設定名は Settings > Data Controls の "Improve the model for everyone"。オフにすると、
"Your conversations will still appear in your chat history but won't be used to train ChatGPT."
つまり個人アカウントは、何もしなければ学習対象です。 会社の会議の文字起こしを個人の ChatGPT に貼る、が一番やってはいけないパターンなのはここです。
ヘルプ記事の更新日は相対表示("Updated: yesterday" など)でしか出ないため、絶対日付は確認できていません。上記は 2026-08-04 時点の表示です。
型3:オプトイン式(Claude 個人版)
"We will use your chats and coding sessions (including to improve our models) if: 1. You choose to allow us to use your chats and coding sessions to improve Claude"
(プライバシーセンター 2026-03-16 更新)
OpenAI 個人版と方向が逆です。 さらに、
"Your Incognito chats are not used to improve Claude, even if you have enabled Model Improvement in your Privacy Settings."
許可した場合の保持は "up to 5 years in our model training pipelines"、削除した場合は "Deleted from our back-end storage systems within 30 days"(保存期間ページ 2026-07-01 更新)。
なお
privacy.anthropic.comはprivacy.claude.comに302リダイレクトします。古いURLを社内資料に貼っていると将来切れます。
型4:条件付き — ここが一番事故る(Gemini API)
Gemini API の規約(Effective 2026-03-23)は Unpaid と Paid で完全に別の扱いです。
Unpaid Services:
"Google uses the content you submit to the Services and any generated responses to provide, improve, and develop Google products and services and machine learning technologies"
"To help with quality and improve our products, human reviewers may read, annotate, and process your API input and output."
"Do not submit sensitive, confidential, or personal information to the Unpaid Services."
**学習に使うだけでなく、人間が読みます。**そして公式が「機密情報を入れるな」と明記しています。
Paid Services:
"When you use Paid Services, including, for example, the paid quota of the Gemini API, Google doesn't use your prompts (including associated system instructions, cached content, and files such as images, videos, or documents) or responses to improve our products."
ここまでは分かりやすい。問題は Paid の定義です。
"Your access to Google AI Studio is a 'Paid Service' even when it is offered free of charge, as long as the account you are using to access Google AI Studio has access to a Cloud Project with an associated and active Cloud Billing account or is a Workspace enterprise account."
「無料で使っているかどうか」と「Unpaid Services かどうか」は別です。 課金アカウントが紐づいた AI Studio は、1円も払っていなくても Paid 扱い=学習に使われない。逆に、個人の Google アカウントで素の AI Studio を開いて社内資料を貼ったら Unpaid です。
**画面はほぼ同じです。**規約を読まないと区別できません。
なお保持期間は、Paid 側が "a limited period of time" とあるだけで日数の明示がなく、Unpaid 側は記載自体を見つけられませんでした。
規約を読むときに見る7つの語
上を踏まえて、次にサービスを増やすときのチェックリストです。そのままコピーして社内資料に貼れる形にしておきます。
## 生成AIサービス 規約チェックリスト(対象:____________)
- [ ] 1. "by default" / 「既定では」があるか
→ あるなら「既定でない状態」が存在する。切り替えがどこにあるかまで確認
- [ ] 2. オプトアウトの動線が実在するか
→ 「設定で変更できます」と書いてあっても、設定画面にその項目が無いことがある
- [ ] 3. フィードバック送信の扱い
→ 👍👎・バグ報告・「役に立ちましたか」。ここだけ例外になっている規約が実在する
- [ ] 4. "human review" / 人的レビューの有無
→ 「学習には使わない」と「人が読まない」は別の約束
- [ ] 5. 保持期間とゼロ保持設定の可否
→ 学習に使わなくても残るなら、開示請求と漏洩の射程には入る
- [ ] 6. 保存リージョン
→ 越境移転の論点は、学習利用とは独立に発生する
- [ ] 7. 「サービスの改善」と「モデルの学習」を混ぜていないか
→ "improve our services" は学習を含むことも含まないこともある。
含むと決めつけるのも、含まないと決めつけるのも間違い。定義を別の場所で探す
確認日:____ 確認者:____ 根拠URL:____ ページ最終更新日:____
7番目が一番効きます。個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)が実際に問題にしているのも「学習」ではなく「当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合」です。機械学習はその一例にすぎません。
確認できなかったこと
この記事の信頼性のために、確認できなかったものを明記します。
- Azure OpenAI の「30日保持」 — 現行の公式2ページに数字を確認できませんでした。書いていません
- Gemini API の保持日数 — Paid / Unpaid とも日数の明示なし
- OpenAI ヘルプ記事の絶対更新日 — 相対表示のみ
- 原文とのバイト単位照合 — 各引用はページ取得ツール経由です。社内資料に転記する場合は、リンク先で原文を確認してください
議事録・文字起こし専用サービスは、もう1段ややこしい
ここまでは汎用の生成AI基盤の話でした。文字起こしサービスは、これに加えてもう1つ軸が増えます。
サービスの中が「音声認識エンジン」と「要約LLM」の2層に分かれていて、**この2層で扱いが違う会社があります。**要約側の説明ページには「学習には使いません」と書いてあり、利用規約のほうには「プランに応じて音声を学習に使う場合がある」と書いてある。**どちらも本当です。**読む場所を間違えると結論が逆になります。
さらに、プラン差ではなく契約時期差のサービスもあります。「今は学習に使っていません」と書きつつ、ある日付より前に契約したデータは対象だったと規約自身が書いている例です。
そして規約が読めても、社内で「じゃあ使っていい」と言ってもらう工程が別に残ります。
この工程については、冒頭で触れた note の記事に書きました(個人情報保護委員会の注意喚起・令和5年6月2日と、クラウド例外のFAQ 1-7-53 / 1-7-54 / 1-12-3 を原文で引いています)。
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誤りがあれば指摘してください。原文で確認して直します。