はじめに
こんにちは!watnow のアドベントカレンダー 15 日目を担当させていただきます!![]()
この記事が自分の初めての投稿になります。
今回は、自分が所属する学生 IT 団体「watnow」やインターンシップでチームとしてプロダクト開発を進める中で感じたこと、そしてそこから学んだ 強いチーム についてまとめていきます。
私の所属するサークルには学年も得意領域もスキルレベルも異なるメンバーが集まり、複数のプロダクトが同時並行で走っています。そのような環境に加え、インターン先の現場でも「技術力だけではどうにもならない瞬間」 に何度も直面しました。
そこで、チームの成長を左右する大きな要因は必ずしも技術そのものではなく、 コミュニケーション・心理的安全性・意思決定構造・文化 といった「人とチーム」に関わる領域であると強く感じました。
これは、Google社内の研究「Project Aristotle(プロジェクト・アリストテレス)」や、Googleのエンジニア文化をまとめた名著『Team Geek』によって深く裏付けられています。
本記事では、チームでのプロダクト開発と、実務での経験を踏まえながら、「強いチーム」を築くためのエッセンスをまとめられればと思います。
この記事がチーム開発に挑戦する誰かの助けになれば嬉しいです。
それでは、本題に入っていきます!
1. なぜ技術だけではうまくいかないのか
私の所属するサークルには、未知の技術にも積極的に挑戦するメンバーが多く、個々の技術力は非常に高いと感じています。しかし、開発を進める中で
「メンバーのスキルが高い=チームとして成果が出る」わけではない
という現実に直面しました。
これはサークルだけの特有の問題かと思っていましたが、複数の企業でインターンとしてチーム開発に参加した際にも、同じような状況を何度も経験しました。そこで痛感したのは、本質的な課題は技術の問題ではなく、むしろ非技術的な要素にあるということです。
1-1. 技術力の差より怖い 「認識のズレ」
サークルでもインターン先のチームでも共通して実感したのは、チーム開発における最大のボトルネックは、個々の技術力ではなく、メンバー間の 「認識のズレ」 でした。
特に以下の2つの ズレ が自分は主に大切だと感じました。
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方向性のズレ
プロダクトの目的や優先順位がメンバー間で一致していない状態です。メンバーそれぞれが異なる方向を向いたまま進めてしまうと、努力のベクトルがすべて平行になってしまい、プロダクトとしてまとまりません。方向性のズレは序盤では気づきにくい一方、終盤で致命的な手戻りを生むことが多いと感じました。 -
粒度のズレ
タスクを「どの範囲・どの深さ」まで仕上げるかという認識が一致していない状態です。同じタスク名でも、メンバーによって想定している完成イメージが大きく異なることがあります。このズレは開発初期では表面化しませんが、レビュー段階で「思っていたのと違う」という差分として一気に現れ、手戻りや遅延の原因になります。粒度のズレが続くと、作業量の偏りやストレスが蓄積し、チーム全体の推進力が目に見えて落ちていくことを何度も経験しました。
チームが強くなるかどうかには、方向性(Why / What) と 粒度(How far / How deep) の認識をどれだけ揃えられるかが大切だと感じました。
この2つのズレを早い段階で揃えるだけで、年齢や技術力の差が大きいチームでも一気に戦えるチームになるのではないかと考えます。
1-2. 「個の最適化」が引き起こす全体の非効率
個々のメンバーが高い技術力を持つことはとても大切なことだとは思いますが、それゆえに罠に陥ることもあるのかなと思います。それは、メンバーが自分の担当タスクに集中しすぎる「個の最適化」に走り、結果として「全体の非効率」を引き起こしてしまう現象です。その背景には、チーム開発に欠かせない プロダクトオーナーシップ(プロダクト全体を良くするという当事者意識) の欠如ではないかと思いました。
プロダクトオーナーシップが欠けていると、次のような現象が起こります。
- 仕様の理解や情報共有が後回しになり、チーム内の前提が揃わなくなる
- CI整備や共通ライブラリの更新など、全体を良くする作業が誰もやらない
- バグや課題に気づいても「自分の担当ではない」とスルーされる
結果として、
プロダクト全体に負債が蓄積し、後から触れない部分が増えていきます。
個人のスキルをチームの成果に結びつけるためには、技術力だけでなく、「私たち自身がこのプロダクトの責任者である」というオーナーシップを持つことが不可欠です。
2. 強いチームを作るための土台:「心理的安全性」
技術的な問題を解決する前提として、チームが健全に機能するための「土台」が必要です。それが、Googleの研究でも最重要とされた心理的安全性ではないでしょうか。
2-1. Googleの研究「Project Aristotle」
Googleの研究の中に、「Project Aristotle(プロジェクト・アリストテレス)」というものがあり、生産性の高い効果的なチームの条件を特定するために大規模な調査が行われました。社内の 180 以上のチームを対象に「成功するチームにはどんな共通点があるのか?」を徹底的に調査しました。その結果、以下の5つの要素が大切だと特定されました。
-
心理的安全性 (Psychological Safety)
チームの中で、無知や懸念をさらけ出すことを恐れず、安心して発言し、自分らしくいられる環境。 -
信頼性 (Dependability)
メンバーがお互いに、質の高い仕事を期限内に完了することを信頼できている状態。 -
構造と明瞭性 (Structure & Clarity)
チームの目標、役割、実行計画が明確であること。 -
仕事の意義 (Meaning of Work)
チームにとって、仕事が個人的に重要であると感じられること。 -
影響 (Impact of Work)
チームの仕事が重要であり、変化を生み出すと信じられていること。
Project Aristotleは、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」が成功を決めるという結論を導き出しました。私が経験した問題は、まさにこの5項目が満たされていないことによって起こっていたのだと感じました。
この中で1つだけ、成功するチームに必ず存在していた要素がありました。
それが 心理的安全性 (Psychological Safety) です。
2-2. なぜ心理的安全性が“最重要”なのか?
理由はシンプルで、
心理的安全性が欠けると、他の4つの要素が機能しなくなるから
です。
チームメンバーのスキルレベルや経験などが異なる環境で学習と成長を止めないためには、「不安なく質問し、ミスを報告できること」が不可欠です。
もし、チームの雰囲気が「質問しづらい」「意見を言うと否定される」状態だと、
- メンバーは疑問点を黙ったまま進めてしまう
- 設計方針の食い違いに気づいても指摘できない
- ミスを恐れて挑戦できなくなる
- 不安や不満が溜まり、離脱や燃え尽きにつながる
といった問題が発生します。
その結果、
- 信頼性(Dependability)→ 互いを頼れない
- 構造と明瞭性(Structure & Clarity)→ ズレの修正ができない
- 仕事の意義(Meaning)→ 意見が反映されず意味を感じにくい
- 影響(Impact)→ チームへの貢献実感が薄れる
など、ほかの要素が次々と崩れてしまいます。なので、心理的安全性は、チームがミスや無知を「責めるべき個人」の問題ではなく、「学び、改善すべきチームの問題」として捉えるための土台となると考えています。
2-3. 心理的安全性を実現する3つの行動規範「HRT」
最近、Googleのエンジニア文化をまとめた『Team Geek ―Google のテクニカルカルチャーとチームビルディング』という本で、心理的安全性について読みました。
この本の中で、心理的安全性という土台を具体的にどう築くかについて、エンジニアがチームで働く上での行動規範として、以下の3本柱を提唱しています。これは、エンジニアとしてのチーム開発だけでなく、どんなことにおいてもチームとして協働する中で大切なことだと感じました。
-
謙虚 (Humility)
世界の中心は君ではない。君は全知全能ではないし、絶対に正しいわけでもない。常に自分を改善していこう。
謙虚なチームは、意見の違いを歓迎し、互いの知識や視点を尊重し、学び合う姿勢を保てるため、チームに柔らかさと成長力をもたらします。一方で、謙虚さが欠けると、「質問を拒絶する」、「指摘を受け入れない」、「マウントを取る」といった行動につながり、心理的安全性が一気に崩れます。
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尊敬 (Respect)
一緒に働く人のことを心から思いやろう。相手を1人の人間として扱い、その能力や功績を高く評価しよう。
敬意があるチームになると、意見が違っても人格ではなく“考え方”を議論でき、初学者の質問も丁寧に扱え、レビューが攻撃ではなく建設的になります。一方で、敬意が欠けてしまうと、沈黙や遠慮が増え、本来得られるはずの情報やアイデアが失われていきます。
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信頼 (Trust)
自分以外の人は有能であり、正しいことをすると信じよう。そうすれば、仕事を任せることができる。
信頼があるチームでは、任せるべきタスクを気持ちよく委譲でき、マイクロマネジメントが不要になり、挑戦しやすくなって、メンバーが安心して主体性を発揮できます。一方で信頼がないチームでは報告・相談・承認が過剰に多くなり、スピードが極端に落ちてしまいます。
この3つの頭文字をとって 『HRT』 と呼ばれています。
HRT は心理的安全性を「雰囲気づくり」ではなく 具体的な行動 に落とし込むための指針で、実際に強いチームほどこの3つを自然に体現しています。
『Team Geek』で語られる、
優れたチームは、技術力よりも HRT をどれだけ大切にできるかで決まる
という言葉はこの本質を端的に表しています。
HRT が根づいたチームでは、前述の方向性や粒度のズレも早期に発見・解消され、メンバー同士の支え合いが加速します。結果として、チーム全体の推進力が大きく高まっていくと感じました。
2-4. 心理的安全性は「エッセンス」であり「目的」ではない
心理的安全性は、健全なチームが成長して学び続けるためのあくまで 土台 です。
そして、心理的安全性さえあれば万事解決、というわけではありません。
心理的安全性 ≠ 成果
心理的安全性はチームのふるまいが自然と積み重なった結果として、あとからにじみ出る空気のようなものなので、重要ですが、意図的に作り込むものではないということです。
そして、心理的安全性が高いだけのチームは「雰囲気は良いのに成果が出ない」という状態に陥ることもあります。
だからこそ、次に必要なのが チームを高速で動かすための構造設計だと思います。
3. チームを高速化する「構造」の設計
心理的安全性という土台が整っても、役割が曖昧で、意思決定のスピードが遅く、タスクが宙に浮いたままではチームは前に進めません。
そこで大切なのが チームを迷わせないための構造を設計すること だと感じました。
私はサークルでもインターンでも、技術的な詰まりよりも「構造の曖昧さ」がチーム速度を大きく下げている場面を多く見てきました。その中でも特に効果を感じたのが次の3つです。
3-1. 役割の曖昧さをなくす「責任の明確化」
強いチームは、「誰が何に責任を持つのか」が明確だと感じました。
逆に、役割が曖昧なチームでは、
- レビューが遅れる
- 仕様の判断が止まる
- タスクが宙に浮く
- 最後に「これ誰がやるんだっけ?」が連発する
という状態になりやすいと感じました。
そこで、小さなタスクでも
- 最終責任者(誰が OK を出すのか)
- 実行担当者(誰が手を動かすのか)
- 相談役(必要なとき誰に聞くべきか)
を最初に決めておくことで、迷いが減り、チーム全体の速度が大きく向上した経験があります。
この記事では詳しく触れませんが、これは RACI というフレームワークに基づいた考え方です。
3-2. 意思決定を速くする「権限とルール」
技術的な議論が長引く原因の多くは、「誰が最終的に決めるのか」が曖昧であることでした。
優れたチームは、「小さな判断は各メンバーが即決してよい」というルールを持っています。
逆に、大きな判断・仕様変更だけはチームで合意を取る。この線引きがあるだけで、意思決定のスピードは驚くほど上がります。
実際にインターンでも、レビューや設計相談のたびに「担当者が判断して良い範囲」を明確にしたことで、開発が前に進むスピードが目に見えて改善された経験がありました。
3-3. タスクの粒度を揃える「最初の短い同期時間」
1章でも触れた 粒度のズレ は、チームを最も静かに蝕む問題だと感じています。
そこで私たちが実践して、特に効果を感じたのが、「タスクに取りかかる前に、短い時間でもいいので完成イメージを擦り合わせる」という習慣です。
時間は5分でも10分でもよく、重要なのは「コードを書く前に認識を合わせる」という行為そのものです。
あたりまえのことかもしれませんが、この小さな同期を習慣化するだけで、レビュー時の手戻りが驚くほど減り、チームの推進力が大きく向上したと実感しています。
3-4. 認識ズレを防ぐ「情報の透明化」
また、チームで起こる認識ズレの多くは、メンバーの理解不足ではなく、必要な情報が適切に共有されていないことから生じると感じています。
- 誰かは知っていたが、全員に伝わっていなかった
- Slack に流れて終わり、後から参照できなかった
- 仕様変更の理由が共有されていなかった
- 判断がどこにも記録されていなかった
といった 透明性の欠如 が原因でした。
情報が部分的にしか共有されていないと、メンバーは不足分を推測で補ってしまい、気づかないうちに前提がズレていきます。その結果、レビューで「そういう意図じゃなかった」という齟齬が発生し、手戻りのコストが増えてしまいます。
強いチームは、こうしたズレを防ぐために、情報を チーム全員の資産 として扱い、誰でも必要なときにアクセスできる状態を作っていると感じました。具体的には、
1. 情報の “流れる場所” と “残す場所” を分ける
- 流れる情報:Slack(相談・議論)
- 残す情報:Notion / GitHub(仕様・判断・履歴)
この線引きをすることで、「どこに情報があるのか」を探す手間が大きく減り、後から認識を追いかける負担が少なくなりました。
2. 仕様変更には “理由” まで残す
仕様だけが変わっても、理由が共有されていないと判断が揺らぎます。
背景が記録されていると、新規メンバーでも文脈が理解しやすくなり、不要な再確認も減りました。
3. 詰まりは早めに共有する
詰まりを抱え込むと、後続の作業も止まってしまいます。
心理的安全性があるチームほど、詰まりを個人の問題ではなく「チーム全体の課題」として扱えるため、早期共有が自然と生まれます。
その結果、認識のズレも起きにくくなり、チーム全体の推進力を維持しやすくなりました。
情報の透明化は、単に「共有量を増やすこと」ではなく、
推測に頼らずに前に進めるチームをつくる仕組み
だと感じています。
透明性が高まると、判断の背景が共有され、無駄な衝突が減り、方向性や粒度のズレも最小限に抑えられます。
そして何より、透明なチームは「安心して進めるチーム」になります。
これは心理的安全性と構造をつなぐ、とても重要な要素だと思います。
まとめ
強いチームは「技術」ではなく「関わり方」でつくられる
この記事では、サークルやインターンでの経験をもとに、強いチームに必要だと感じた要素をまとめてきました。
チームで開発をしていると、つい、技術力や個々のパフォーマンスに意識が向きがちですが、実際にチームを止めていた要因の多くは、技術そのものではなく 認識のズレ・心理的安全性・構造の曖昧さ といった「人とチームの関わり方」にありました。
強いチームの本質を一言で言うなら、
心迷わず、安心して、同じ方向に進めるチーム
だと思います。
そのために必要だったのが、この記事で触れた 3 つのことでした。
① 認識を揃えることの重要性(Why / What / How deep を合わせる)
- チームを止める最大の敵は 認識のズレ
- 特に「方向性」と「粒度」のズレは、後半の手戻りにつながりやすい
- 個々の技術力が高くても、認識が揃わなければ成果にはつながらない
② 心理的安全性という土台(HRT)
- 心理的安全性は チームを学習させるためのエッセンス
- HRT(謙虚・尊敬・信頼)は、チームの空気を“協力できる場”へ変える
- 安心して質問・提案・指摘ができるチームは成長速度が圧倒的に速い
③ チームを高速化する“構造”(責任・権限・同期・透明化)
- 役割の曖昧さは、意外なほどチームの速度を奪う
- 小さな意思決定は任せ、大きな判断はチームで決める
- タスク開始前の小さな同期が、粒度のズレを未然に防ぐ
- 情報の透明化は、推測に頼らず進めるための基盤になる
これらは、どれも特別なテクニックではなく、
「チームとしての当たり前」を丁寧につくることに近いのかもしれません。
しかし、実際に現場でもサークルでも、
この“当たり前”が整っているチームは驚くほど強いと感じました。
さいごに
「いや当たり前やん!」って思う部分もあったと思います。
でも、チーム開発の中で自分が大事だと感じたことを、メモ感覚でそのまま書き出してみました。
ゆるい気持ちで読んでもらえたら嬉しいです。
そして、これからチームで何かをつくっていく誰かのちょっとしたヒントになったらもっと嬉しいです!
長々と書きましたが、最後まで読んでいただきありがとうございます! 🙌