Swiftの@propertyWrapperを使ったスレッドセーフなAtomicプロパティとactorの比較

Swiftには@propertyWrapperという便利な機能があり、プロパティの挙動をカプセル化できます。本記事では、スレッドセーフなプロパティラッパーAtomicを実装し、さらにactorとの違いを比較してみます。

Atomicの実装

以下のコードは、スレッドセーフなプロパティを実現するためにNSLockを利用したAtomicプロパティラッパーです。

import Foundation

@propertyWrapper
public struct Atomic<Value> {

    private var value: Value
    private let lock = NSLock()

    public init(wrappedValue value: Value) {
        self.value = value
    }

    public var wrappedValue: Value {
        get { return load() }
        set { store(newValue: newValue) }
    }

    func load() -> Value {
        lock.lock()
        defer { lock.unlock() }
        return value
    }

    mutating func store(newValue: Value) {
        lock.lock()
        defer { lock.unlock() }
        value = newValue
    }
}

Atomic の使い方

この Atomic プロパティラッパーは、以下のように利用できます。

class Counter {
    @Atomic var value: Int = 0
    
    func increment() {
        value += 1
    }
}

let counter = Counter()
DispatchQueue.concurrentPerform(iterations: 1000) { _ in
    counter.increment()
}

print(counter.value) // 1000 になるはず

actor を使った場合の実装

Swift 5.5 以降では、actor を使うことで、データ競合を防ぐことができます。

actor AtomicCounter {
    private var value: Int = 0
    
    func increment() {
        value += 1
    }
    
    func getValue() -> Int {
        return value
    }
}

actor の使い方

let counter = AtomicCounter()

Task {
    await counter.increment()
    print(await counter.getValue()) // 1
}

Atomic (NSLock) と actor の違い

特性	Atomic (NSLock)	actor
スレッドセーフ	NSLock を用いた明示的なロック制御	actor による自動的なデータ分離
排他制御	lock.lock() による同期処理	await による逐次処理
データ競合回避	明示的にロックを確保しながら値を読み書き	actor 内部の状態はデフォルトでスレッドセーフ
非同期対応	基本的に同期処理 (NSLock は非同期に適さない)	async/await に対応し、スレッドをブロックしない
パフォーマンス	ロックのオーバーヘッドがあるが、高速に動作	actor はタスクの順番待ちが発生するため、状況によっては遅くなることがある
スレッド制約	NSLock は特定のスレッドでロック/アンロックを制御	actor のプロパティには他のスレッドから直接アクセスできない

Atomic vs actor の使い分け

状況	Atomic (NSLock) を使うべきケース	actor を使うべきケース
同期処理	シンプルなスレッドセーフな値の読み書きを行う	スレッド間で安全にデータを管理しつつ非同期処理を活用する
パフォーマンス	ロックが短時間で済む場合 (Atomic のほうが高速)	並行処理が多く、タスク順序管理が必要な場合
可読性	@propertyWrapper を利用し、通常のプロパティのように扱いたい	await を活用しながら安全に非同期データ管理を行いたい
非同期処理	Atomic は基本的に同期処理のため非同期には向かない	actor は async/await で並行処理を管理できる

まとめ

@propertyWrapper を活用することで、スレッドセーフなプロパティを簡潔に管理できる Atomic について書いてみました。一方で、Swift 5.5 以降の actor を活用すれば、非同期環境でより安全にスレッド競合を防ぐこともできそうです。

• 単純なスレッドセーフな値の管理 → Atomic (NSLock)
• 非同期タスクと組み合わせる場合 → actor