Swift スレッドセーフなDictionary

はじめに

Swift で Dictionary をマルチスレッド環境で安全に使用したい場合、スレッドセーフなデータ構造 が必要です。標準の Dictionary はスレッドセーフではないため、複数のスレッドから同時にアクセスすると、データ競合が発生する可能性があります。

なぜスレッドセーフな Dictionary が必要なのか？

スレッド競合の問題

通常の Dictionary は、複数のスレッドから同時に読み書きするとクラッシュする可能性 があります。

var dictionary: [String: Int] = [:]

DispatchQueue.concurrentPerform(iterations: 10) { index in
    dictionary["key\(index)"] = index // クラッシュの可能性あり
}

このコードでは、複数のスレッドが dictionary に対して同時に書き込みを行うため、データ競合が発生する可能性があります。

解決策：ロックを使う

スレッドセーフな Dictionary を作るには、データの読み書き時にロック（NSLock など）を適用し、排他制御 を行う必要があります。

スレッドセーフな SynchronizedDictionary を作ってみる

以下は、NSLock を使用したスレッドセーフな Dictionary の実装です。

スレッドセーフな Dictionary の実装

import Foundation

public final class SynchronizedDictionary<K, V>: @unchecked Sendable where K: Hashable {
    private var dictionary: [K: V] = [:]
    private let lock = NSLock()

    public init() {}

    public subscript(key: K) -> V? {
        get {
            lock.lock()
            defer { lock.unlock() }
            return dictionary[key]
        }
        set {
            lock.lock()
            defer { lock.unlock() }
            dictionary[key] = newValue
        }
    }
    
    public func removeValue(forKey key: K) {
        lock.lock()
        defer { lock.unlock() }
        dictionary.removeValue(forKey: key)
    }
    
    public func removeAll() {
        lock.lock()
        defer { lock.unlock() }
        dictionary.removeAll()
    }
}

@unchecked Sendable の意味

Swift では Sendable を使って型のスレッドセーフ性を保証します（マルチスレッドにしても値が壊れないことを保証する）。しかし、NSLock を使って手動でスレッドセーフを保証している場合、コンパイラはそれを自動的に検出できません。そのため、開発者が明示的に「この型はスレッドセーフである」と保証するために @unchecked Sendable を使います。

⚠️ 注意点:

• @unchecked Sendable は コンパイラのチェックをバイパスする ため、実際にスレッドセーフな実装になっているかは開発者の責任 となります。
• NSLock などを適切に使用しないと、データ競合のバグが発生する可能性があります。

where の意味

where K: Hashable

この部分は、K を Hashable に制限しています。

✅ 理由:

• Dictionary のキーは Hashable である必要があるため、この制約を追加しています
• K が Hashable でない場合、コンパイル時にエラーとなり、不正な型が Dictionary に使われるのを防いでいます

SynchronizedDictionary の使い方

基本的な使用例

let syncDict = SynchronizedDictionary<String, Int>()

DispatchQueue.concurrentPerform(iterations: 10) { index in
    syncDict["key\(index)"] = index
}

print(syncDict["key5"] ?? "No value") // 正しく値が取得できる

✅ スレッドセーフな Dictionary のおかげで、データ競合を防ぎながら安全に値を設定・取得できます。

非同期処理での活用

let syncDict = SynchronizedDictionary<String, String>()
let queue = DispatchQueue.global()

queue.async {
    syncDict["message"] = "Hello, World!"
}

queue.async {
    if let message = syncDict["message"] {
        print("Received: \(message)")
    }
}

✅ 異なるスレッドからの読み書きでも、データ競合を防ぐことができる。

4. まとめ

✅ Swift の Dictionary はスレッドセーフではないため、マルチスレッド環境では注意が必要
✅ NSLock を使うことで、スレッドセーフな Dictionary を実装可能
✅ @unchecked Sendable は開発者がスレッドセーフを保証するためのマークであり、適切なロックが必要
✅ where K: Hashable を指定することで、型の安全性を強化できる