はじめに
今年の3月末からタスクボードを初めて導入してみた。
それから3ヶ月が経過し、多少は知見が溜まったので記述しておく。
筆者を取り巻く環境は以下の通り。
- 組み込みソフトの開発案件
- 客先常駐。機器の製造・販売会社(発注元)-筆者の会社(1次請け)-協力会社(2次請け)という体制
- 筆者以外は協力会社のメンバ。一応、筆者がリーダ。
- 3チーム(2名、1名、1名という構成)
- 使用ツールや仕事の進め方は、典型的なSIerといった感じで遅れている
- 筆者のチームではRedmineでタスク管理
- スクラムの活動の1つである朝回は実施している
- チームメンバーは自身の作業状況がよく分かっていない(特に遅れている時)
チームの士気は低い(言われたことだけやります感、明らかに作業が遅くても改善する気なし)
一言でいえば、意識が低い現場ということ。
導入の動機
「カイゼン・ジャーニー 」という本を読んだことがきっかけ。
これまでプロジェクトの環境に不満だらけだった。チームメンバの作業が遅い、作業の優先度が分かっていない、組織としてノウハウが蓄積していかない、生産性を向上させようとしている人が誰もいない、会社の作業の進め方が90年代くらいで止まっているなどなど。そんな時にこの本を読み、不満を抱え込むだけでなく、小さいことでも良いから環境を改善する活動をしていこうと思い立った。
この本で最初にやるべきこととして、タスクマネジメント、タスクボード、朝会、振り返りの4つが挙がっていた。この内、タスクマネジメントと朝回は一応は実施していたので、タスクボードと振り返りを導入してみることにした(振り返りについては、この記事では触れない)。
タスクボードに期待したことは以下の通り。
- メンバとのコミュニケーションを取りやすくする
- メンバ自身で問題点に気づいたり、メンバ間で議論をするきっかけになって欲しい
- 生産性向上や問題解決の議論のとっかかりになって欲しい
- タスク分割できるようになって欲しい
- 付箋としてタスクを記述することで、ある程度は自然にタスク分割ができるのではという考え
導入時に検討したこと
物理ボードか電子ボードか
物理ボードを採用。いつでもボードを見れることを重視。
電子ボードを採用しなかった理由は2つ。1つは、チーム専用の大きいディスプレイが確保できないため。これがないと、ボードの常時表示は無理。2つ目は、電子系のツールは意外と更新が面倒なため。物理ボードだと付箋を移動するだけなので更新が楽に思えた。
材質
スチレンボードを採用。始末のしやすさと持ち運びやすさを重視。
本当はホワイトボードにしたかったが断念。ホワイトボードは、いろいろ書き込みができたりマグネットが貼れるので非常に魅力的だったが、高価、始末しにくい、持ち運びしづらいなどの理由により不採用。
段ボールでも良い気がしたが、見た目がしょぼいのと、厚みがないのがいまいちだったので不採用(空席の机の上に立てかける形で設置する予定だったので、厚みがないと設置しづらいと考えた)。
板の大きさ
大きいということを重視してA1を採用。
大きいほうが示せる情報量が多い。スペースが余ったとしても、凡例、チーム内の合意事項といった情報を示すことができる。
運用ルール
2つのルールで運用。最初は、全チームとも1つ目のルールで運用。途中から筆者だけ2つ目のルールに切り替え(タスクボードの知見が少ないので違う方式も試そうと思った)。
ルール1:シンプルなルール
- ルール
- 作業の性質は色で表す(赤:緊急、黄:納期厳守、緑:納期の調整可能、青:暇な時やる)
- 作業項目の単位は、機能開発や不具合修正など(ストーリーにしようかと思ったが説明が面倒だったのでこのようにした)
- Todo/Doing/Doneには作業項目の細かいタスクを記述する
- 図には示していないが、期日やRedmineのチケット#を記述
- 付箋には、やること(必須)、期日(あれば必須)、Redmineのチケット#(あれば必須)を記述
- "やること"は大体意味がわかるような短い記述。長い記述や正確な記述は面倒なので
- ステータスをTodo/Doing/Doneにした理由
- チームメンバに慣れてもらうために、最もシンプルなものにした
- 担当でレーンを切った理由
- 担当を分かりやすくするため。ホワイトボードならマグネットで担当を示せるのでこのレーンは要らないのだが・・・。
- 作業項目でレーンを切ってタスクのステータスを更新する方式にした理由
- 環境的に作業項目に着手してから完了するまでの時間が長いため(1ヶ月以上ざらにかかる)
- 作業項目をTodo/Doing/Doneで移動させるルールにすると、長時間Doingから動かないことになるので状況がつかめない
ルール2:一般的なカンバンに近いルール
- ルール(ルール1との違いのみ記述)
- 粒度は作業項目。タスクは示さない
- こちらのルールも試した理由
- ステータスが細かい方がボトルネックとなる工程が分かりやすいのではと考えた
- 担当でレーンを切った理由
- 上と同じ。
導入結果
成功したこと
- 朝会での意思疎通がしやすくなった
- 単に口頭で情報を共有するよりも、ボードの付箋を指したりしながらの方が何を話しているのか分かりやすい
- 各メンバーの作業状況が分かりやすくなった
- 作業の漏れが減った
- Todo/Doing/Doneのタスクを見ることで、何をやっていないかが分かるため
- 作業項目の優先度の認識違いが早期に発見できるようになった
- 各人の状況が把握するコストが減った
- タスク管理ツールを開くよりボード見た方がはるかに早いので
- 良くない兆候が発見しやすくなった
- 2,3日以上経過してもボードが更新されない = 行き詰まっている or 作業を理解していないといったことが判断できる
課題
- 生産性を改善する具体的なアクションにつなげるのが難しい
- リードタイムなどの指標を計測していないから
- 問題を改善をしようという議論に発展しない
- チーム内での協調活動(遅れている作業を手伝うなど)が促進された感はない
- WIPを設定していないから?
- 運用がトップダウン方式になっている
- ルールを決める際に議論をしようとしたがあまり意見が出ず、筆者が発言したことがほぼそのままルールになっている
- これだとやらされている感が出る。問題改善の議論につながらない一因か?
- 自発的にメンバが問題に気づくことが増えた感はない
- 筆者が問題を指摘した時に、何が問題なのかを理解してもらいやすくはなった
- ルール1だと、同じようなタスクが毎回出てくる
- たとえば、「評価」「レビュー」
- 書くの面倒
- この観点だとルール2の方が良いと感じた。「評価」「レビュー」はステータスとして表現されているので。
- ルール2だと、作業項目のステータス分析から全然進まない
- 結果、今の状況が分かりづらい
- 分析の工程がボトルネックであることが浮き彫りになっているので、ある意味成功している?
- この観点だとルール1の方が良いと感じた。ルール1の方が情報の粒度が細かいため
- 周囲にタスクボードを取り入れている人がいないので、困った時に相談できない
- たとえば、ここで挙げたような課題はどう対処すれば良い?
雑多な感想
- 物理ボードを選択して良かった
- Redmineのチケット画面やカンバンボードは開くのに時間がかかる(通信やページ表示が遅いので)
- 物理ボードの方が状況の確認や更新が素早くできる
- Redmineと物理ボードの同期は意外と手間でない
- 筆者は物理 or 電子だと電子を好むことが多いが、タスクボードについては物理ボードの方が良いと感じる
- スチレンボードも悪くない
- 担当者のレーンがないと作業の担当者が分からなくなる点のみ不満
- 付箋の色は、特定の色(納期厳守の黄、納期あるけど調整可能の緑)の消費が激しい
- 5色セットで買うのが楽だが、それだと黄と緑以外の付箋がどんどんたまる・・・
- タスクボードのようなツールを入れても、別に士気や能力の問題は改善しない・・・(当たり前だが)
まとめ
作業の見える化はそれなりにできた。具体的な改善活動につなげることはあまりできていない。
運用コストは低く、タスクボードがあることでチーム内の意思疎通はしやすくなっていはいるので、運用は続けたいと思う。