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コンパイラのコード生成: 繰返し

Last updated at Posted at 2019-04-22

はじめに

このテキストでは簡単なC言語プログラムを元にコンパイラがRISC-Vのアセンブリコードをどのように生成するかについて,考え方を示しました。

C言語のソースコード(繰返し)

プログラムを実行する時に,元になったプログラムコードのことをソースコードと言います。

このテキストで用いるC言語のソースコードはこちらです。

int calc(int n) {
    int sum = 0;
    for(int i = 1; i <= n; i++) {
        sum += i;
    }
    return sum;
}

RISC-Vのアセンブリコード

次のようにコンパイルします。

riscv64-unknown-elf-gcc -S -O0 -march=rv32i -mabi=ilp32 -o sample.s sample.c

得られた RISC-V のアセンブリコードは次の通りです。

    .file   "sample.c"
    .option nopic
    .text
    .align  2
    .globl  calc
    .type   calc, @function
calc:
    addi    sp,sp,-48
    sw  s0,44(sp)
    addi    s0,sp,48
    sw  a0,-36(s0)
    sw  zero,-20(s0)
    li  a5,1
    sw  a5,-24(s0)
    j   .L2
.L3:
    lw  a4,-20(s0)
    lw  a5,-24(s0)
    add a5,a4,a5
    sw  a5,-20(s0)
    lw  a5,-24(s0)
    addi    a5,a5,1
    sw  a5,-24(s0)
.L2:
    lw  a4,-24(s0)
    lw  a5,-36(s0)
    ble a4,a5,.L3
    lw  a5,-20(s0)
    mv  a0,a5
    lw  s0,44(sp)
    addi    sp,sp,48
    jr  ra
    .size   calc, .-calc
    .ident  "GCC: (GNU) 8.2.0"

レジスタマップは次の通りです。

レジスタ 意味
sp スタックポインタ: スタック領域の先頭を表します。
s0 フレームポインタ: スタック領域の中に記憶されている変数引数を参照するときに使います。
zero 定数0
a0 第1引数,戻り値
a5 一時レジスタ
a4 一時レジスタ
ra 戻り先アドレス

メモリマップは次の通りです。

アドレス 変数
44(sp) 以前のフレームポインタ
-36(s0) n
-20(s0) sum
-24(s0) i

コード生成の考え方

このようなアセンブリコードはどのように生成されたのでしょうか? ソースコードと対比しながら見ていきましょう。

関数の定義

次のようなコードは関数の定義の一例です。

int calc(int n) {
  ...
  return sum;
}

関数の定義をアセンブリコードに変換するときには次の原理に従います。

  1. 関数名を表すラベルを定義します。
  2. スタックポインタをフレームサイズの分減らします。(後述)
  3. フレームポインタをスタックにバックアップします。
  4. 元のスタックポインタの内容をフレームポインタにコピーします。
  5. 引数の値をフレームの該当場所にコピーします。
  6. ...をコード生成します。
  7. フレームに記録された戻り値をレジスタa0にコピーします。
  8. スタックにバックアップしたフレームポインタの内容を元に戻します。
  9. スタックポインタをフレームサイズの分,増やします。(後述)
  10. サブルーチンから復帰します。

アセンブリコードとしては次のようになります。

calc:               # 1
    addi    sp,sp,-48   # 2
    sw  s0,44(sp)   # 3
    addi    s0,sp,48    # 4
    sw  a0,-36(s0)  # 5
...             # 6
    lw  a5,-20(s0)  # 7
    mv  a0,a5       # 7
    lw  s0,44(sp)   # 8
    addi    sp,sp,48    # 9
    jr  ra      # 10

7 は2つの命令にまたがっています。

なお,jr ra は jump register ということで,レジスタ ra にジャンプするという意味です。

自動変数の定義

C言語の関数の中で定義した変数のことを自動変数と言います。

次のようなコードの断片は自動変数の定義の一例です。

    int sum = 0;

自動変数はスタック領域に確保されたフレームというメモリ領域に記憶されます。フレームには他にレジスタ退避などにも使用します。

RISC-V では,フレームサイズは,次の和で表されるようです。

  • 自動変数に必要なメモリサイズを16バイト単位で切り上げた値
  • 引数に必要なメモリサイズを16バイト単位で切り上げた値
  • 16バイト

メモリマップは次のようになります。(ただし全ての変数,引数は32ビットであるものとします)

変数 アドレス
元のフレームポインタ (fs-4)(sp) (=-4(s0))
自動変数 ((vn - vi) * 4 + an * 4 - fs)(s0)
引数 ((an - ai) * 4 - fs)(s0)
  • fs = フレームサイズ = 16 + vs + as
  • vs = 自動変数サイズ = (vn * 4)
  • as = 引数サイズ = (an * 4)
  • vn = 自動変数の個数を4単位で切り上げた値
  • an = 引数の個数を4単位で切り上げた値と8のうち小さい方
  • vi = 自動変数の番号 (vi >= 1)
  • ai = 引数の番号 (ai >= 1)

変数の初期化・代入

変数の初期化や代入は次のようにします。

  • 0 を代入するとき:
    • sw zero, 変数のアドレス
  • それ以外を代入するとき:
    • li 一時レジスタ, 値
    • sw 一時レジスタ, 変数のアドレス

for 文

for(初期化式; 条件式; 継続式)
  ブロック

という記述があったとします。

次のようにアセンブリコードにします。

    (初期化式のアセンブリコード)
    j   .Ljudge
.Lblock:
    (ブロックのアセンブリコード)
    (継続式のアセンブリコード)
.Ljudge:
    (条件式のアセンブリコード)
    (条件式に合った分岐命令) .Lblock

この例では条件式が i <= n なので,in以下の時に.Lblockに分岐します。
したがって,.Ljudge:以降は次のようにアセンブリコードを生成します。

    lw  (一時レジスタ1), (iのアドレス)
    lw  (一時レジスタ2), (nのアドレス)
    ble (一時レジスタ1),(一時レジスタ2),.Lblock

加算

i++i += 1 と同じ意味です。
sum += isum = sum + i と同じ意味です。

a = b + c のような式は次のようにアセンブリコードを生成します。

    lw  (一時レジスタ1), (bのアドレス)
    lw  (一時レジスタ2), (cのアドレス)
    add (一時レジスタ2), (一時レジスタ1), (一時レジスタ2)
    sw  (一時レジスタ2), (aのアドレス)

a = b + 定数 のような式は次のようにアセンブリコードを生成します。

    lw  (一時レジスタ), (bのアドレス)
    addi    (一時レジスタ), (一時レジスタ), (定数値)
    sw  (一時レジスタ), (aのアドレス)

一時レジスタの割り当て

空いているレジスタを割り当てることレジスタ割り当て(register allocation)といいます。レジスタを使用している区間のことをレジスタ生存区間といい,それぞれのレジスタのレジスタ生存区間が重なり合わないよう,かつできるだけ少ないレジスタ数で割り当てるようにします。

類題

では次のようなC言語のプログラムをアセンブリコードにコンパイルすると,どのようなコードを生成するでしょうか?

int calc(int m, int n) {
    int sum = 0;
    for(int i = 1; i <= n; i++) {
        sum += m;
    }
    return sum;
}
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