はじめに
今年のマスタデータ管理関連の案件の傾向として、ERPパッケージなど基幹システム導入と合わせたユースケースが多くなってきており、今回は、基幹システム導入時のマスタデータ管理検討を整理してみたいと思います。
なぜ、基幹システム導入と合わせてマスタデータ管理が必要か
当然ながら、基幹システム導入と合わせなくとも必要となる理由はありますが、ここでは、基幹システム導入とかけあわせてマスタデータ管理が必要となる理由をいくつか考えてみたいと思います。
1. 同一の情報を表すコードが複数システムに存在
基幹システム導入の要件として、複数の既存アプリケーションシステムを統合するというのはよく耳にします。この時に必然と、複数システムに跨った同じ情報(取引先、商品など)をひとつに統合したいという要望が出てきます。
2. マスタメンテナンスを複数システムで実施
As-Isでは、マスタメンテナンスを複数のアプリケーションシステムで実施しておりガバナンスが効いていない、品質もバラバラで活用できない、これをTo-Beで解決したいという要望もでてきます。
3. 既存システムの個別要件に合わせたマスタ構造・変換処理
個別最適化されたマスタ構造を他システムで活用するには当然に変換処理が必要になり、都度、対応工数・リードタイムが発生します。基幹システム導入を機に、マスタ構造を標準化し活用しやすい形に変えていくことも重要です。
4. 分析ツールでの活用
基幹システム導入とあわせて分析ツールの刷新も並行して検討されることが多く、その際の分析軸についても、どこかでまとめて管理できている方が、分析作業にかかる負荷削減や効果も出しやすくなります。
5. マスタ管理意体制の再構築
基幹システムで業務を確実に運用していくには品質・鮮度の高いマスタ情報が必須であり、マスタオーナーそしてそのマスタ情報を責任もって管理する組織が必要になります。
マスタデータ管理観点で検討すべきこと
次に、基幹システム導入と合わせてマスタデータ管理で検討すべきことを考えていきたいと思います。
1. 発生源と用途
そのマスタ情報がどこで発生し何に使われるのか(使いたいのか)を検討します。これがマスタデータ管理のインプットとアウトプットとなり、MDMとしてシステム導入する際のアーキテクチャにつながります。
2. 種類と更新頻度
どんなマスタ種類(取引先、商品、勘定科目、組織など)と属性項目を管理したいのか、マスタの更新頻度も踏まえて検討を行います。これがデータモデル・管理項目につながります。
3. 品質維持と運用
集めて統合したマスタ情報の品質を保つ仕組みが必要となります。そのためには、その仕組みを実現していく運用管理体制とプロセスが必要となってきます。
以降、この3点について、さらに検討を進めていきます。
アーキテクチャ検討
マスタデータ管理をシステム化する際、マスタ発生源と集配信の要件により3つのパターンに分類されてます。
*ここでは、マスタデータ管理を行うシステムを”MDM”、基幹システムを”ERP”、と記します。
コンソリデーション型
- ERPや他周辺システムがマスタ発生源
- それぞれのシステムで登録・更新されたマスタ情報をMDMで集信
- MDMのマスタ情報をBI Toolに配信し分析軸として利用
ハブ型
- ERPや他周辺システムがマスタ発生源
- ERPや他周辺システムで登録・更新されたマスタ情報をMDMで集信
- ERPや他周辺システムにマスタ情報を配信
集中管理型
- MDMでマスタメンテナンスを実施、ここがマスタ発生源
- 登録・更新情報をERPおよび他周辺システムに配信
- 入口を単一に絞りガバナンスを効かせる
なお、Informatica MDMでは、マスタ種類ごとにどの型で実現するかを自由に選択できる特徴があり、ユースケースに応じた導入を進めていくことが可能です。
データモデル・項目検討
ここでは、基幹システム導入時に、マスタデータ管理すべきデータモデル・項目の考え方をまとめていきます。
最大公約数に絞る
基幹システム(ERP)や他周辺システムで共通的に利用する項目だけをマスタデータ管理対象としていくことを推奨します。これを最大公約数型と呼んでいます。
- ERPに依存せず全社活用できるマスタを目指すことで、マスタデータ管理の導入効果が出やすい
- 各システムでのみ必要な項目は、各システムで個別にメンテナンスする
- 更新頻度高の属性情報は慎重に判断する(価格情報、在庫情報など)
標準データモデルを活用
Informatica MDMでは、製品標準のデータモデル(以下例:カスタママスタ)を有しており、そのデータモデルを活用してユースケースを実現していくことが可能です。
運用管理体制・プロセス検討
運用管理体制
マスタデータ管理の仕組みを運用していく体制には、少なくとも以下のようなロールが必要になると考えられます。
各種マスタに関する最終決定者・責任者、マスタ種類毎に配置
各種マスタの業務観点での管理者、業務観点でのマスタ品質課題に対応
グローバルまたは経営上の目標・課題を達成・解決する観点からマスタ品質課題に対応
各システムの業務運用の効率化の観点からマスタ品質課題に対応
マスタ品質課題の発見から課題整理を実施、システム観点での品質管理課題に対応
システム改修による課題解決を実施
マスタデータ管理プロセス
上記ロールとともに、マスタデータ管理における新たなマスタメンテナンスプロセスを検討していくことになります。
- IT部門・業務部門を対象に、As-Isマスタメンテナンス業務プロセスのヒアリングを行います。
- 同時に、As-Isマスタメンテナンス業務プロセスの課題も確認します。
- 課題は、データ品質の観点、ガバナンスの観点、作業負荷の観点、活用の観点でヒアリングを行います。
- そこから、マスタメンテナンスプロセスのあるべき姿(To-Be)、現実的にこれならできそうだというプロセス(Can-Be)を検討します。
最後に
今回は、基幹システム導入時のマスタデータ管理で検討すべきことを最終的に「アーキテクチャ」「データモデル・項目」「運用管理体制・プロセス」の3点から考えてみましたが、今後もさらに知見と経験を深め、少しでも多くのマスタデータ管理導入・運用の成功事例が増えていくことに貢献していきたいと思います。