この文書の目的
先日、スライダックで低電圧の交流を作って実験しようとしたときに(私にとって)不思議な現象に遭遇しました。この文書は、同様の問題に引っ掛かった人の参考になるかもしれないと考えて、(私自身が)よく分かっていないままに情報共有するものです。
現象
家庭用電源 100V AC からスライダックで 6V AC を作り、これで定格 6V 35W のハロゲンバルブ(バイク用ヘッドライト)を点灯させようとしたところ、まったく点灯しませんでした。このとき電圧は 0V 付近に降下していました。
これが過負荷による電圧降下なら分かりやすいのですが、実験に使ったスライダックの定格は 100V-140V, 10A のもので、ラベルには最大 1.4KW とありますから、これで過負荷になるとは思えません。
無負荷時には 6V が目盛り通りに出ているところを出しておきます。
AC? DC?
念のために手元にあった DC Power Supply で 6V DC を作ってこのバルブに与えてみると、きれいに発光し、このとき5A ほど消費していることが確認できています。もちろんハロゲンバルブ(電球)ですから、DC/AC 関係無く発光するはず、です。(私の理解では。)
この後に掃除機を繋いだらちゃんと動きましたし、スライダックのツマミを回して供給電圧を上下すると掃除機のモータ回転数が変化するのも確認しています。つまりスライダックそのものは正しく機能しています。
しかしスライダックの出力にバルブを接続した瞬間に、何故かそれまで 6V 出ていたのがほぼ 0V に落ちてしまいます。何故なんだ。。。
突入電流?
ところでこのバルブの定格は 6V/35W です。すると抵抗値はおよそ 1Ω 程度のはずですが、球切れでないことを確認するために(電源を繋がない状態で)抵抗値を測ると 0.2Ω しかないことに気が付きました。おそらくすぐ発熱によって所定の 1Ω 程度にまで抵抗値が上がるんだろうと検索してみると、確かにそのような記述がありました。
以下、ウシオ電機株式会社の用語解説「突入電流(ハロゲン電球の)」から引用:
ハロゲン電球では、点灯時のタングステンフィラメントの温度を高くして、発光効率を高めたりしているものが多い。このため、点灯前の常温状態ではフィラメントの抵抗が小さく、電圧を印加した瞬間には、定格電流の5~10倍程度の突入電流が流れることがある。その後、フィラメントの温度が上昇し、抵抗値が高くなり、定格電流に到達する。
確かに 6V で 0.2Ω は 30A も流れる(180W)ことになりますが、そんなことは起きていないようです。スライダックの出力側にある 10A のヒューズも切れてはいません。
この突入電流で電源供給側が瞬間的に出力を絞り、そのためにフィラメントが熱されることが無いまま供給電圧はほぼ 0V で推移する、といったことは「ちょっと賢い」安定化電源装置などならあり得ます。しかしこんな古いスライダックにそんな上品なものが付いているはずも無く、、、一瞬ポリスイッチみたいなものが入ってる?と思いましたが、こんな大電流製品に付くはずもないし(*1)、、
*1) と思いきや普通にある... リテル(旧レイケム) ポリスイッチ /MonotaRo
提案
この現象について Facebook に出したところ、電気電子に慣れた知人が以下のような提案をしてくれました。
突入時の挙動を疑って制限抵抗を入れよう、というアイディアと解釈して、ちょっとやってみました。(いまこの記事を書きながら「バラスト抵抗」について調べています。ははあなるほど。こういう用語なんですね。)
実験
結論から言うと、適当な抵抗を入れてやることでバルブは点灯しはじめました。上の推定が当たっていたようです。
以下の手順で確認しています。
抵抗を接続
先ほどの AC 6V が供給されている状態のスライダックに、適当にセメント抵抗を組み合わせて作った実測 1.4Ω の負荷を接続すると、供給電圧は 4.2V になりました。降下したとは言え 12W 程度流れていたはずで、抵抗器がほんのり温かくなりました。
この状態でセメント抵抗に直列にハロゲンランプを入れると 2V 程度の電圧となり、ほんのりオレンジに熱された状態になりました。
このとき電圧は徐々に上がっていってる感じがするのですが、デジタルテスターはそういう状況をうまく表現できなくて困ります。(動画の下端、半分見切れてますが、バルブがゆっくり赤熱していくのがわかるでしょうか。)
12V で確認
そこで、開放状態で 12V が供給されるようにスライダックをセットし、再びハロゲンバルブと抵抗を入れると、そこに掛かる電圧は 4.6V 程度となってちゃんと(その電圧にそぐう程度に)発光しました。
やはりこのときも徐々に電圧が上がる感じがします、が、やっぱりデジタルテスターでは分かりませんね、、、(更にGIF アニメーションではもう、、)
ともあれ、この状況から見てバラスト抵抗として入れた 1.4Ω の合成抵抗を 1Ω 程度にして AC 12V をスライダックから供給してやれば、ちゃんと 6V がバルブに掛かりそうに思えます。素手ではやけどしそうなので今回はこれ以上追いませんが、とりあえず問題は把握・対処できたように思います。
何が起きているか
以上のことを助言してくださった知人に報告しました。
このあといろいろと解説してくださいました。ざっくりまとめてみます。
- トランス側からハロゲン球を見ると、低い電圧設定で二次側がほぼショートさせられた状態なので、一次側 100V の巻線で励磁された鉄芯にいきなり低いインピーダンスが 0-6V 間につなげられ、(二次側に)サージが起きてあっという間に鉄芯そのものが磁気飽和してしまったのだろう。
- たとえば(出力超過などで)一次側の最大電流を超えた電流が流れて鉄芯全部が磁気飽和してしまうと(一次側に)サージが発生する(*2)。
- しかし今回の場合は二次側(出力側)のごく一部だけが飽和を起こした状態であり、そこだけがトランスとして機能しなくなった、
- つまり「電力が伝達できなくなった」という現象ではないか。
私はこの辺りのことをよく分かっていないので、上の要約はいい加減な記述になっているかもしれません。何となく「充分に励磁された一次側に対して、極端に小さな領域(140対6の巻き線数)でしか機能しない状態の二次側にサージ的な大電流を吐かせると、二次側が瞬間的に飽和してトランスとして機能しなくなる(エネルギーが伝わらなくなる)」といったことかなと想像しています。
*2) このあたりの現象については例えば「重要チェックポイント:トランスの飽和」(ROHM) などを参照。
というわけで、、、
もしスライダックでかなり低い出力電圧を設定し、そこに突入電流が出るようなものを接続してまったく電圧が出てこない場合は、制限抵抗を入れると良い(ようだ)。
という経験知を得ました。
おまけ
そもそもこの点灯実験は、私の古いバイクのヘッドライトを LED 系のものに置き換える際の予備実験のつもりでした。元の 6V/35W のハロゲンバルブに対して、LED バルブがどの程度明るいか机上で比較したいなと。夜を待って寒い外でカウルを付け外しして繰り返し作業するのが辛かったんです。はい。
私のバイクではヘッドライト系には交流が供給されています。つまりジェネレータコイルからそのまま配線が届いており、間にレクティファイヤー(整流器)もレギュレータ(定電圧ダイオード)もつながっていません。ネットに転がっているドキュメントを見ても、AC とあります。そこに出ているのはバイクのエンジンの軸にくっついてるジェネレータから出てくる交流ですから、AC 電源の周波数 60Hz は 3600rpm 相当だから何とかテストになるかな、と思ってスライダックを引っ張り出して来ました。
これにまずハロゲンバルブをつないで発光量を見て、次に(整流器つきの)LED バルブを付けて比べて、、、と思ったら、いきなりこの不思議な現象に遭遇したわけです。
まあお陰でちょっと交流周りのことが勉強できました。今の仮説は間違っているかもしれませんが、SNS を通じてああだこうだ知人らと考え事ができて楽しかったので良しとします。何が起きているのか、より良い説明などあればコメントいただけると嬉しいです。