これはMIERUNE Advent Calendar 2021の記事です。
MIERUNEの鈴木です。
今回は技術的トピックではない箸休め回です。
私は映画やドラマが好きで、暇をみては自宅や映画館で様々な物語を楽しんでいますが、ドラマのなかには弊社 MIERUNE が、扱っている地理位置情報と関係がありそうなテーマの作品もいくつか存在するので、今回紹介をしてみたいと思います。
「ビハインド・ザ・カーブ -地球平面説-」
紹介するのは、Netflix でみられる 2018 年制作のアメリカで制作されたドキュメンタリー映画 「ビハインド・ザ・カーブ:地球平面説」 です。(1時間35分)
リンクは特に貼りません。Netflix のサイトでタイトルを検索してみてください。
地球平面説とは?
私たちが暮らす地球は太陽系に属する惑星の一つであり、赤道の半径は6378kmにも及ぶ巨大かつ楕円状の球体。
地球はおおよそ365日をかけて太陽の周囲を公転し、さらに、おおよそ24時間をかけて自転を繰り返す天体です。
なお、地球の自転速度は時速約1700キロメートルで、公転速度は10万8000キロメートルにも及びます・・・いうのが、私たちが学校や書籍などで学んできた知識です。
そんな科学的常識に対し、
「地球は球体であるわけがなく、自転も公転も行われない。」
「とてつもなく大きい円盤状の平面プレートの上に海や大陸が存在している」
といった 地球平面説 を信じる人々がいます。このドキュメンタリー映画は、こんな突拍子もない考えを信じる、知る人ぞ知る地球平面説の支持者たちが主役です。彼らがなぜこの説を信じるに至ったか?彼ら自身の取材を通して、その秘密を探っています。
以降はネタバレを含む、この映画の解説です。
見てから読むのがいいですが、別に見なくても大丈夫かもしれない。
地球平面説の支持者たちが巨大コミュニティを築いていく
地球平面説はワシントン州・ウィドビー島に住むマークさんが3年ほど前から唱え始めた説です。
- 「地球が球体であるなら、島の対岸からなぜシアトルの街が見える?」
- 「南半球に直行便の航路が存在しないのはなぜ?」
こんな疑問から、地球が平面である根拠を説明する動画を日々撮影・編集した動画を作成し、日々 YouTube にアップロードしています。
そんな動画を最初は面白がったり、論破してやろう・・・としてた人の中から、やがてこれは真実だと思いこむ人があらわれ、同様に地球が平面である根拠を並べるようになり、それらが繰り返されて情報が拡散することで、日に日に平面説に賛同する人たちが増えていきます。
賛同者の中から似た考えを持つ人が集まったいくつかのコミュニティが生まれ、ついには彼らの研究活動を発表する場である、フラットアース国際会議が開催されるまでに至ります。
地球平面説を唱える人たち
地球平面説を唱える人々は
- 自分が見聞きしたものしか信じられない
- 教育で教えられたことに納得ができない
ということが共通しています。
彼らの一人は、NASAの職員に聞いてみたが、「ナサ」という言葉はヘブライ語で「欺く」という意味だ・・・と怪しげな説を自信たっぷりにカメラに向かって語ります。
地球が自転する速度が、発砲した銃弾より速いことにも納得ができていません。
中心人物の一人は、平面説を唱える際、信用してる情報源を問われて「私自身よ」とドヤ顔で答えます。彼女はボストンマラソンで起こった爆発テロ事件すらも自分がみてないから信じられないと語ります。
地球平面説を信じる人の中に科学者は存在しません。なぜなら、ある程度の教育を受けたあとだと、そこで身に付けた知識から抜け出すことが難しくなるから。
地球平面説に関わる人たちはなんだか楽しそう
地球平面説に関わる人の中には、地球平面説を盲目的に信じてる風でもなく、説の発想に面白さを感じ、彼らに協力している人もいるようです。
平面説の説明で使われる平面地球のイメージを得意の木工技術を駆使して模型を仕上げる職人が登場します。また、腕時計・テーブル等のグッズを多く作ったりしています。
マークと配信を通じて出会った女性が実際に出会い、彼らにとっての敵地であるNASAの宇宙博物館に出かけて、一緒に仲良く配信なんかもしています。
なんだかこのコミュニティは色々楽しそうな事をやってるなぁ。
地球平面説を冷ややかに見つめる科学者たち
本作は、地球平面説支持者の無邪気な活動を紹介するだけにとどまりません。
平面説支持者たちが自らの主張を披露したあと、ほぼ必ず、地球平面説と相対する立場である天文学者・物理学者・精神医・元NASA宇宙飛行士・サイエンスライターといった科学者・科学コミュニティに属する人たちのコメントを載せています。
科学者たちにとって、地球平面説は
「多くの場合、学説とすら呼べない。たいていは反証不可能か、すでに反証されている」
といった取るに足らない考えという扱いですが、平面説を熱く語りつづける様子や、なぜか増殖をし続ける支持者たちには困惑し、若干圧倒されているようにも見えます。
それでも科学者らしく、彼らを分析する心は忘れていません。
「科学者はよくインポスター症候群になる。あるトピックを知れば知るほど自分は専門家ではなく成功に値しないと感じてしまう。」
「対局にあるのがダニング=クルーガー効果。知能が低い人ほど誤った自信を持ち、自己評価が高くなる。証拠は全て揃っていると考えがち」
「心理学でいうところの確証バイアス。信念があればそれを裏付ける証拠ばかり探そうとする。同じ思考の人たちが集まる」
これは多くの平面説の支持者たちの心理を的確に表しており、科学者としての矜恃も感じさせてくれます。
なぜ陰謀説が広まるのか?
それにしても、陰謀説として何度も使い古されたネタといえる地球平面説が、どうしてここまで支持を集めたのでしょうか?
先に、地球平面説を唱える人は自分が見聞きしたものしか信じられない、教えられたことに納得ができない・・・と書きましたが、彼らはそれが故に、誰が言うことも信じることができず、通常の生活においては、話が通じない人だと排除される側になりがちです。
そのため、彼らは常に孤独を感じていることが、劇中たびたび登場する平面説支持者たち発言から垣間見ることができます。平面説のグループに入る事で、初めて孤独を忘れることができたと感謝する人もいます。
そんな社会のシステムから排除された人を救い上げる役割としてこれまでは宗教の存在がありましたが、ネット時代では、この地球平面説のようなわかりやすい陰謀説が、宗教の代替物として機能しているようにみえます。
ただ、地球平面説を信じることで、友達や家族と疎遠になった人も多く登場します。そんな彼らには行き場がなく、ますます平面説にのめり込む傾向があります。
地球平面説の証明実験にサイエンス魂を感じる
平面説支持者の中には、実験を通じて平面説を証明しようとするグループも存在します。
地球が自転していないことを証明するために、2万ドルするレーザージャイロを購入して地面に固定。もし本当に地球が自転しているなら15度回転しているはず・・・と仮説を立て、実際にやってみると、1時間後にジャイロは15度傾きを感知していました。
ただ自転が存在することは、彼らにとっては困る事態。
すると、彼らは上空から降ってくるエネルギーが邪魔だったと言い出し、ジャイロ自体をカバーで覆い計測してみました。それでも結果は同じ。今後は素材を変えた別のカバーで覆う実験を行う予定があるようです。
平面説を否定する実験結果は、彼らがこのコミュニティでは生きていけない事を示します。それが故、彼らは自分たちの主張に都合の良い結果がでるまで、時には現実の方を変更しつつ、実験自体は諦めません。
もうひとつ行われる実験は、地球が平面であるなら、離れた場所に同じ長さの棒を建て、一方から照らすレーザー光が、もう片方の棒から見えるかどうかを観察。地球が曲がってるなら光源の高さを変えないと光が見えない。
でも、こういった仮説を立てて検証を行うというのは、ほぼ普通の科学実験なんですよね。
この実験の結果がどうなるかは、映画の最後に明かされます。
私たちは地球平面説支持者とどう接すればいいか?
科学者の一部に、これほどまでに平面説を信じる人が多いことに「教育の失敗かもしれない」と嘆く人もいます。ただ、教育の過程で彼らのように教えた事に納得しない人を取りこぼすことは、社会の片隅に追いやる事だとも指摘しています。
フラットアース国際会議の会場の近所のパブで、天文学者たちの集まりが行われています。その会場で、平面説について語る天文学者が現れます。彼は、彼ら平面説支持者は考えがクレイジーかもしれないが、彼ら自体は聡明であり、世界を疑問視する力は科学に通じれば宝になる・・・とまで述べています。
科学者と平面説支持者が相対することなく、一緒に手を取りあって歩み寄ることができれば、ある意味人類はさらに進歩できるのかもしれません。
疑問を持て。そして科学を楽しめ。
平面説を提唱するマークも、皆既日食がみれる現場に向かい集まった人たちに自説を広めようとしましたが、そこで起こった皆既日食の様子を日食グラスでみて「よかった。ここに来てよかった」とこぼすほどに感動します。
これはマークが一瞬平面説を忘れ、自然科学の楽しさに触れたが故だと思います。(とはいえ、その後は結局、平面説に合わせた日食の仕組みを語ってるんだけど)
フラットアース国際会議の会場でメディアから取材を受けたマークは、皆に伝えたい事として「疑問を持て。すべてを鵜呑みにするな」と述べています。
科学者と平面説支持者、お互い世界の見方は違っていても、世界を疑問に思う事は共通しており、科学はやはり楽しいものなのです。
おわりに
途中で悪質な平面説支持者も出てきますが、そうでない普通の平面説支持者が語る主張は微笑ましいものでした。
こういった変わった考えの人たちを取り上げる作品の場合、片方のプロバガンダ、もしくは、徹底的に片方を否定する・・・となりがちなところを、平面説だけにまさにフラットなバランスで、科学者と平面説支持者どちらにも寄りそわない内容になってるのが素晴らしいなと感じました。
クリスマスが過ぎたあと迎える年末年始など、お時間ができた機会にご覧になってみるのはいかがでしょうか?
それでは。