ビジネスの現場では、「もっと多くの機能を、もっと早く開発してほしい」という期待を耳にすることがあります。
これは、プログラミングを工場での製品製造のような「量産」作業と捉えていることから生じる誤解かもしれません。
一方で、エンジニア自身も「もっと効率的に、質の高いソフトウェアを届けたい」と常に考えています。
この記事では、まずプログラミングがなぜ単純な「量産」ではないのか、その「設計」としての側面を解説します。
そして次に、エンジニアがその「設計」を工夫することで、いかにして「量産しやすい状態」、つまり真の効率化を目指せるのかを掘り下げていきます。
なぜプログラミングは単純な「量産」ではないのか? ~エンジニア以外の方へ~
ソフトウェア開発の現場では、しばしば「人や機械を増やせば生産性が上がる」という工場モデルの発想が当てはまらないことがあります。
それは、プログラミングが本質的に以下の特性を持つ「設計」活動だからです。
思考と創造のプロセス:
プログラミングは、キーボードを叩く単純作業ではありません。
与えられた課題を深く理解し、それを解決するための論理を組み立て、最適な構造を設計し、そして初めてコードという形に落とし込む、一連の思考と創造のプロセスです。
目に見える機能の裏側には、無数の判断と選択が隠されています。
見えない部分の重要性:
ユーザーが直接触れることのない部分、例えば、将来の変更に耐えうる柔軟なアーキテクチャ、効率的なデータ処理、セキュリティの担保、そして他のエンジニアが理解しやすいコードの書き方など、これら「見えない部分」の設計がソフトウェアの品質や寿命を大きく左右します。
安易に「量産」を求めると、この見えない部分が疎かになり、後々大きな問題(技術的負債)となって跳ね返ってくることがあります。
変化への対応:
ビジネス環境やユーザーの要求は常に変化します。ソフトウェアもそれに合わせて進化し続けなければなりません。
そのためには、変更に対して柔軟に対応できる「設計」が不可欠です。場当たり的な修正を繰り返す「量産」的なアプローチでは、すぐに限界を迎え、改修が困難な、いわゆる「塩漬け」のシステムを生み出してしまいます。
つまり、プログラミングにおける「設計」とは、単に見た目や機能を作るだけでなく、将来にわたって価値を提供し続けるための土台作りなのです。
エンジニアが目指す「賢い量産」とは? ~エンジニアの皆さんへ~
プログラミングが「設計」であることは論を俟ちません。
しかし、私たちエンジニアは、その「設計」を工夫することで、開発プロセスを大幅に効率化し、「量産しやすい状態」を作り出すことも可能です。
これは、前述した単純な工場モデルの「量産」とは異なり、知的な工夫に基づいた「賢い量産」と言えるでしょう。
その鍵となるのは、やはり**「設計」**です。
ルール化とパターン化によるスコープの限定:
コーディング規約の整備、共通処理のライブラリ化、デザインパターンの適用など、開発における「ルール」を明確にし、「パターン」を見出すことで、個々のエンジニアが考えるべき範囲(スコープ)を限定します。これにより、判断に迷う時間が減り、個々のタスクに集中しやすくなります。
自動化の徹底:
パターン化された箇所や反復作業は、積極的に自動化の対象とすべきです。
コード生成:
Laravelのようなフレームワークが提供するartisan
コマンド(例: php artisan make:controller TaskController --resource --model=Task
)は、定型的なコードの雛形を瞬時に生成し、開発の初速を上げます。
※Laravelではbladeを使うことで簡単に自動生成コマンドを作成することができます(別記事で詳細を書きます)
テスト自動化:
パターン化された機能は、テストケースもパターン化しやすくなります。
単体テスト、結合テスト、E2Eテストを自動化することで、品質を担保しつつ、回帰テストの負担を大幅に軽減できます。一般的なテスト観点については、AIの方が網羅的な知識を持っている可能性もあり、将来的にはDevinのようなAIがテスト作成を支援することも期待されます。
CI/CD (継続的インテグレーション/継続的デリバリー):
ビルド、テスト、デプロイのパイプラインを自動化することで、手作業によるミスを防ぎ、迅速かつ安全なリリースを実現します。
生成AIの活用:
単純なコードスニペットの生成、ドキュメント作成の補助、あるいは新たな視点でのアイデア出しなど、生成AIを賢く活用することで、開発の様々なフェーズで効率化を図れます。
これらの取り組みにより、「設計」という創造的な活動の質を維持しつつ、開発プロセス全体を効率化し、ある種の「量産体制」を構築することが可能になります。
これにより、エンジニアは単純作業から解放され、よりドメイン知識が求められる高度な課題解決や、新しい技術の探求といった、本質的な業務に集中できるようになるのです。
まとめ
エンジニア以外の方へ:
プログラミングは、目に見える機能だけでなく、その裏にある複雑な「設計」によって支えられています。
短期的な開発量だけでなく、長期的な視点での品質や保守性をご理解いただけると幸いです。
エンジニアの皆さんへ:
私たちは「設計者」であると同時に、その設計を活かして「賢い量産」を実現する工夫も求められています。
ルール化、パターン化、そして自動化を推進し、より生産性の高い開発を目指しましょう。
プログラミングの「設計」としての側面と、「量産」を可能にする工夫。この両輪を理解し、それぞれの立場から協力し合うことで、私たちはより良いソフトウェアを、より効率的に世に送り出すことができるはずです。
今日の一言
Sentry導入したいなぁ
デバッグの効率が大幅に上がる未来が見える