ソフトウェアテスト Advent Calendar 2022 の18日目をお送りします、@yurizonoです。一人目QAとして働き始めて1年半ほどになります。それまでは日本でSEをしたり、ベトナムでQAをしたりしていました。
本記事では「一人目QA」という働き方について、私の思う良い点を書きます。悪い点はあまり思いつきませんが、少しだけ書きます。なお、組織論とか品質文化とか、難しいことは書きません。個人のキャリアとしての話、またライフワークバランスやみんな大好きな待遇の話などだけを取り扱いますので、気楽に読んでください。
良いこと
まずは良いことから。2つあります。
(良いことその1) 目的を持って働ける
働く上で、キャリア上の目的がハッキリしました。私の場合、30代も中盤に入るところでの転職だったので、今後のことを考えると「何を成し遂げた人なのか」「どんなことを高い再現性でもって成し遂げられるのか」を分かりやすくアピールする材料が欲しいという気持ちがありました。ヨコシマですね。
たとえば「テストの腕には自信があります」「自動テストをガリガリ書けます」という方向性もひとつはありなのですが、私のスキルではその主張を今後もし続けるのはちょっと辛い。天才プログラマですとか、あのバグ見つけたの私ですとか、業界で5本の指に入るような何かがあれば良いのですが、それはなさそうだ、と。
そこで、「QA組織を作ったことがあります」「QA組織を作り上げられます」というアピールであればどうでしょうか。なかなかマネジメント層にウケの良さそうなキャッチコピーに見えます。年を取ってからもアピールとして使えそうです。亜種としては「QA組織を育てられます」なんかもありそうですね。
しかし私自身は組織を作ったこともなければ、マネージャーとして長期間の実務経験があるわけでもありません。あったのは、プログラマ(SE?)、およびQAエンジニア(主にテスト分析・設計、それと自動テスト)としての経験だけ。つまり「組織作り」については完全なるチャレンジです。
とはいえ、完全未経験の業種でゼロから組織を立ち上げて、責任も全て自分で取るんだ、みたいなベンチャースピリット溢れる人たちの壮大なチャレンジに比べたら、私のようにお給料を貰い、得意なテストをしつつ組織を作るなんてのはこどもちゃれんじみたいなものです。そのくらいの不確定要素はあって然るべきですし、逆にそれがなければ、つまり今の私が「ただひたすらテストしてていいですよ」と言われるような環境に身を置けば、それは緩やかに老後に向かうだけになると思いました。
今はとにかく「自分はこれをやった、と言える何かを得る」ことに専念しています。この、ある程度の時間軸でもって「目的」を持ち、それに向かって働くという感覚は、一人目QAという身になってからやっと分かるようになりました。最近は大企業に入ればゴールという価値観が崩壊し、上位1%でない人も含めて新卒の時点でそういうキャリア意識を求められる時代のようですが、若い人は大変だなぁと思います。
(良いことその2) 試行錯誤できる
めちゃくちゃ失敗できます(ごめんなさい)。これはビックリするくらい、ほんとにたくさん失敗できます(各方面にごめんなさい)。たとえば50人のQAを抱える大きな組織に入社したとしましょう。すると、私レベルのQAエンジニアが考える試行錯誤なんて社内の他の人が既に済ませており、なんなら「正解」が既にプロセス化されているでしょう。ともすれば私の仕事は、その安定しているプロセスの上で、少しばかりの裁量と少しばかりの挑戦を日々繰り返すことになりかねません。この、個人の失敗の機会が極端に少ない状態を、人はマンネリズムと呼びます。それはそれで精神は安定しますし、意外と良いお給料を貰えたりします。強い意志があれば、その環境でも挑戦を繰り返し、成長できるでしょう。しかし、私はおそらく安定にあぐらをかき、成長が止まると思います。
一方、一人目QAとして入社した多くの人は、社内で一番QAに詳しいのは自分、という状況になると思います。すると、何かやることを決める、何か意思決定をするというときに、「自分が」決断を下すしかありません。あってるかな、大丈夫かな、と思いながらも、決めます。そして、自分が決めたことを遂行し、失敗します。また決めて、失敗し、何度目かで少し成功します。この繰り返しで、「正解」がプロセス化されていき、組織として成熟していくわけです。
ここでのポイントは、挑戦に強制力が働くという点です。何をするにもほぼゼロからのスタートで、あらゆることが挑戦となりますから、「挑戦しない」という選択肢がそもそもありません。安定した環境でも挑戦を繰り返すことのできるメンタルの持ち主であればよいのですが、世の中、私も含めてそんな人ばかりではありません。追い込まれないと挑戦しません。失敗することは怖いですから。
しかし失敗すると成長できます。他人の過去の成功から学ぶことなどたいしてありませんが、自分が犯した失敗から学ぶことはたくさんあります。失敗を自らの血肉とできる、というのはゼロからイチを作り上げるポジションの特権かもしれません。
悪いこと
次に悪いことを3つ。大変なところ、の方が正確かもしれません。
(悪いことその1) 周囲からの期待値が高い
おそらく大半のプログラマは、開発組織をゼロから作ったことはないはずです。しかし、QAエンジニアならQA組織くらい立ち上げられるんでしょ、と思われがちなところはある気がします。私自身も、デザイナーってデザインはもちろんCSSも書けるしチーム作りも得意で凄いなー、と思ってますが、多分私のイメージ像の元となっているデザイナーが凄いだけだと思います。
QAエンジニアと言ってもテスト分析・設計が得意なテストエンジニアもいれば、自動テストの仕組みづくりが得意なSETもいて、はたまた品質文化に近いところを仕事にしているQAコンサルもいます(最後のテストコンサルはあまり実態を知らないので、想像で言ってます)。しかし、QAと言ってもスキルセットは幅広いよね、という話が通じるのは同じQAエンジニアの中だけで、その外から見れば全部「テストとか品質に詳しい人」です。よって、あらゆる方面での活躍を期待されるというわけです。
そうやって期待値がめちゃくちゃ高くなったところに飛び込み、期待された通りの成果を出し続けるためには、幅広いスキルセットの全てを持ち合わせ、圧倒的推進力を発揮し、調整もそつなくこなし、試行錯誤を高速で行い、そして目も眩むようなハードワークが必要です。結論、私には無理でした。子育てにもそれなりに工数を割きたいですし、なによりSaaS業界自体が初めてで、文化に慣れるだけでそれなりの時間を要しました。
ということで、周囲からの期待に押しつぶされそうな一人目QAの皆様には、そんな期待をある程度は受け流しつつ、いろんなことを丁寧に説明し、組織にとっても個人にとっても失敗は糧であると割り切り、マイペースに成果を出すことに集中するのをオススメします。急かされたら、「いやいや品質は1日にしてならずですよ」とか適当言って誤魔化しましょう。ちょっと極端なことを言っていますが、そのくらいの心持ちでいた方が仕事に前向きでいられます。
ただし、勉強は欠かさずに続けましょう。過度な期待は受け流さないと体が保ちませんが、とはいえ自分に足りない分野は全て社外から吸収して社内に還元していくという姿勢は必要です。なんの裏付けもないトライ&エラーが許されるほど社会に余裕はありませんし、一人目QAは研修コースではありません。というか、その辺りの心構えやそもそもの技術的バックグラウンドがないと、なかなか一人目QAとしてお声がかかることはないと思いますが。
(悪いことその2) 孤独に苛まれる
先ほどの話とも重なるのですが、周囲からのプレッシャーに加え、試行錯誤を通じて自らの能力不足が次々と露呈し、それでいて社内で一番QAに詳しいのは自分である、という状況はなかなかにストレスフルです。それも徐々にそうなるのではなく、転職したてで右も左も分からないタイミングでそうなります。
これは今回の一人目QAに限った話ではありませんが、専門性を武器に戦う、というのはある種、孤独なのかもしれません。
対策としては、社外でQAのことを相談できる人を探すこと(wacate参加などはオススメです)と、社内の周りの人に頼りまくる、というところですね。さきほど、社内で一番詳しい、と書きましたが、そんなこと本気で思っているわけではなく、例えばiOSの自動テストならiOSエンジニアの方が詳しいでしょうし、バグ管理の手法ならそういうサービスを実際に売っていた人の方が一家言ありそうです。私の例でいうと、実績のアピールやその他調整ごとが得意な方ではないので、常に周りに助けてもらいます。なんなら、私がそんなこと得意なわけないでしょ、くらいの気持ちで堂々としてます。助ける方は大変かもしれませんが。
周囲からの期待値が高いとか、孤独だ、と感じる理由の大部分は自分にあったりしますので、うまくいったら儲けもんだくらいの気持ちで、苦手なことは周りに助けてもらいつつやっていきましょう。
(悪いことその3) ポジションが少なく高リスク
たとえば世の春を謳歌するキラキラのメガベンチャーがあります。新卒みながそこへの就職を目指すような、故郷の友達もみんな名前を知っているような。そんな会社の一人目QAになれるでしょうか?……おそらく、既に10人を超えるQAエンジニアが働いていることでしょう。あなたがどんなに優秀でも、一人目というポジションにはなれません。
(ちなみに、私も「一人目」とか言ってますが、グループ全体で見るとそこそこの数のQAエンジニアが働いています。ただ、私の見ているtoCに対して他のサービスは主にtoBで、開発体制から何から大きく異なり、物理的にも別会社である、ということで一人目QAを名乗っています。)
というわけで、「人を割いてでも、そろそろQAちゃんとしないとね」という限られたフェーズにある会社にしかそのポジションは存在しません。そして、そのフェーズを通り過ぎた大きな会社に比べれば、個人としての金銭的リスクは高くなるでしょう。大企業の方が給与が良い、という単純な社会でもなくなってきている印象はありますが、とはいえ例えばマイホームを持ちたいと思っているなら、住宅ローンを貸す側からどう見られるかは調べておいた方が良いと思います。
私は冒頭でも言いましたが、キャリア上の目的があって今の選択をしています。チャンスが欲しければリスクを取るしかありません。とは言っても今の会社がリスクか?というと、お給料もしっかり貰えていて、一般的な知名度もあり、働きやすくオフィスもおしゃれで、ありがたいことばかりです。組織作りの実績もない私には望外のお話でしたが、こればっかりは運が良かったのかなと思います。再現性は低い気がしています。
おわりに
一人目QAとして働くことに踏み出せない人がこの記事を読んで、なんや意外といけそうやん、と思って頂けたらそれ以上のことはありません。もし実際に会って話を聞いてみたいよ、という方がいらっしゃれば、お気軽に@yurizonoまでご連絡ください。