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固定残業代とかいう悪魔の制度を即刻取りやめろ 〜IT業界における残業の作業効率を考える〜

Last updated at Posted at 2025-05-11

※この投稿は物語仕立てです。溢れ出る教訓を得てください。

プロローグ

千年前、とある鍛冶屋が言ったらしい。
『仕事?天命だよ天命。生きるってことは、これをするってことなんだ』
素晴らしきかな過去の世界。彼の目はキラキラ輝いて、彼は無限に働いた。一本の包丁を打てば隣に授けられるお金には目もくれなかったとさ。
やりがいとはかくも美しい。
めでたしめでたし。

それから幾年月が過ぎました。

1章.おじいちゃんの金言・残業は善か悪か

十年前、僕の前に立つおじいちゃんは言ってました。
『残業は必要悪だよ』。
人間は必要悪が大好きです。理想よりも現実的で、善行よりも利己的だから。

おじいちゃんが言っています。『若い時の苦労は買ってでもしろ』。昔々、どこかの誰かは言ったんだって。『24時間戦えますか』。『楽しいことなら、どんなにやっても楽しい』『週80時間の激務に備えるか、退職するか選択せよ』etc...。

しかしこのおじいちゃんは僕の血の繋がったおじいちゃんではなく、それどころか赤の他人だったのです。しかも不幸なことに彼はどこかの社長だったようで、貧乏人が倒れ山となった中(寝不足)で真っ赤に染まった手を見せながら(高級いちご)言いました。

『誇りはないのか?尊厳はいらないのか?』

でもおじいちゃん、実は必要ではない必要悪のことを、この世では不必要悪と言って、それは悪なんです。

『生きがいはいらないのか?手に入るものを増やしたくはないのか?それで生きていると言えるのか?』

でもおじいちゃん、あなたが大好きな尊厳、僕はいらないんです。だってそれは血みどろだから。あなたは沢山の人たちの死体の上に立っているから。

完。
というわけにもいきません。なぜなら僕は知っています。休日に嬉々としてプログラムをいじっていた、あの学生の頃の日々を。
千年前の鍛冶屋の魂を。

2章. 続く戦い・IT編

先日とある人事部職員とSEが、こんな話をしていました。
「残業って本当に必要なのかねぇ」
人事部職員は少し考えて言いました。
「必要っていうか.....どうしようもないって感じでしょ。ケースバイケース」
彼は続けて言いました。

「まあでも、人事部にとって、常態化した残業は敗北だけどね。だって1年中必要な人員が雇えてないんだから」

フゥン、とSEは言いました。「でも人事部が必要な人員を把握するってのも、酷な話だね」
「なんで?」
「だってさ、ITの...無理でしょ。急に発生する作業とか完全に把握するのって...」

そして彼らは話合い、整頓しました。それはIT業界での残業の必要性についてです!

2.A.残業が必要である理由

残業が必要である理由...それは以下のようなものであると考えられました。

  1.  不要なコストをかけず、いざというときの過剰作業を吸収する必要がある。
  2.  1人が5ヶ月でできる仕事と、5人が1ヶ月でできる仕事は違う。
  3.  『必要最低限以上』を目指すなら、どこかでコストを支払う必要がある。  

具体的に以下のようなことを考えたのです。

1. 不要なコストをかけず、いざというときの過剰作業を吸収する必要がある。

残業とは余過剰のないスケーリング環境です。

仕事とは、常に一定量ではありません。
ITの関わるお仕事はさらにそうです。一定の作業を機械的にこなしていく属性の仕事ではありません。答えの出ていない問いについて考え、話し合い、どうにかこうにか処理して一つの枠の中に収めていく、その連続です。
だからどうしても仕事が想定より多くなる時期はある。もちろん忙しくなる時に合わせて余剰は見込んでおくわけですが、一番忙しい時に合わせて人員を常に確保していたら、余剰分のコストはそのまま損失になります。
忙しくなると決まっているわけでもないですからね。

ところで、人々はなぜオンプレではなくクラウドを利用するのでしょうか?
その理由の一つは、余過剰のないスケーリング環境が素晴らしいからでしょう。不必要な時は少なく。必要な時にだけ多く。そう、それがどうしようもない残業時間なのです。

2. 1人が5ヶ月でできる仕事と、5人が1ヶ月でできる仕事は違う。

1人が5ヶ月働いた時、そこにはさまざまな経験が集まります。難しかった作業も、困った作業も、彼には全ての知識が入っているのです。作ったプリについて質問をされれば彼はすぐそれに答えられます。『そこは、テスト効率のために、分割しました』
翻って、それを5人で分けてやった場合にはどうでしょうか。一つのアプリの中でそれぞれの知識はまちまちです。わかっている部分もあれば、わからない部分もあります。導入コストも、管理のコストもかかります。
1人がより多く働くということは、ある側面では効率的で効果的なのです。もちろん、別の側面ではそれは『属人化』と言われるものなのですが。

能力の問題もあるでしょう。リーダやマネージャーの仕事が増大するのは、管理タスクだけでなく『優秀なプレイヤーとしての作業』が集中する傾向もあります。
自分がやれば他の2人分の作業ができるのだという時、人を増やすとは『非効率的なこと』のようにも考えられます。だから1人がたくさん残業するのです。

3. 『必要最低限以上』を目指すなら、どこかでコストを支払う必要がある。

実は、『必要最低限』で良いと誰もが思ったなら、残業は発生しないのかもしれない....という話があります。それだと生き残れないと言いますが、実際にはそれでも生き残っているゾンビのような会社はたくさんあります。
今ここにないもの、今できていないことには、無限の成果と無限のコストが隠れています。詳細な品質にはコストが問われにくく、ここに手をかければかけただけ、コストは増大します。
でも、良いものは作れる。

だから挑戦的なことを行う会社は、どうしてもある程度残業が増大する可能性があります。

3.B.やりがいとスキルアップというもの

そして、この『チームとして必要なもの』とは別に、個人が必要としているものがあります。
それは、やりがいとスキルアップです。みんなで居残り、みんなでスキルアップ。難しい仕事も頑張ってこなそう。

『若い時に残業も恐れずこなせない人間が、スキルアップできるわけない』
おじいちゃんの声が天啓のように鳴り響きます。
必要とかは置いておいても、人間はミスをする生き物ですから残業は発生するものです。繰り返しの機会こそがスキルアップにつながると言えるかもしれません。
個人レベルで考えれば、そういう『必要な時間』に変換することもできるということです。

そして地獄の釜は開きました。人事担当の彼が地獄の釜を覗き込みながらつぶやきます。
「こういう自己暗示があると、残業が減らんのだよね。残業は企業体制側の問題でも、個人が解決できる気持ちのレベルに落とされちゃうから」

しかし企業としては、喜んで残業してくれるならばありがたいことは沢山あります。
地獄の釜の蓋は開いたまま、人はその上でカイジばりの綱渡りをすることになりました。

3章. 邪悪な残業

数年後。
SEの彼は、気がつけば邪悪な残業の中にいました。何故彼がそれを邪悪だというのか?

それはいつしか交わした会話を覚えていたからです。必要悪としての残業ではなく、非効率で責任者不在の残業の中に、彼は巻き込まれていました。慢性的に人手は足りず、誰もがギスギスと終わりの見えない作業に従事していました。

初めテスト作業からアサインされた彼は、複雑な環境構築作業に1週間をかけ、ようやくテストを動かしました。記載された結合テスト1000件のうち、800件にエラーが出た瞬間、彼は笑っていました。

「ふはははっ」

いえ、実際心は泣いていました。前担当者は一体何をやっていたのか?
ギャグみたいな実際にあった話です。

修正にも過剰な作業が必要な現場でした。古いCOBOLを直すと同時に、直した部分をexcelに一覧化して残していく作業が必要だったのです。直属の上司とそのさらに上の顧客とのコミュニケーションが取れておらず、excelの記載のレビューは二転三転し、何度も差し戻されました。
これは少なくとも『スキルアップできる作業』とは言わないと彼は思いました。学習とは、それを学んだことにより作業効率が上がるものであるべきです。いつまでも仕事が終わらない時間が続くということは、滝行のような状態に置かれているということです。

いやぁ、『苦労は良いもの』論者には、絶対に管理側には立ってほしくないですね。一生下っ端かフリーランスでいてほしい。

そう、残業が大好きな上司が、彼の直属の上司でした。残念ながら残業をやり抜ける類の人種は生命のエネルギーに溢れ、声もでかいです。残業時間が90時間を超えているのに、上司の笑顔はとどまるところを知りませんでした。


人事部の彼もまた、その時転職していました。
こちらは彼自身が満足のいく転職をできたようです。
意思と目的が、対話と尊敬が、そこにはありました。
しかし人事部の彼は厳しい競争をなんとか抜けてそこに立っています。
人の尊厳は無条件に確保されないようです。

ふと見渡すと、地獄の釜の底から声が...。
『人手が足りない....』
インターネットの発達した社会においては、より良い条件の場所はそこかしこに見えます。金銭的な条件ももちろんですが、仕事とは生きていくことそのものです。
だからより良い条件の場所に、人は流れていきます。
誰もが幸福を尊重されるべきだと彼は思いましたが、それでも地獄の釜の底には人が居続けます。
そこd作られるものは美しく、輝かしいものもありました。地獄の熱で打たれた刀は、それだけ見事にも見えたのです。

4章.固定残業代とかいう悪魔の制度

そしてそれから400年が経った頃
誰かが ふと思った
『生物(みんな)の未来を守らねば...』

高度な医療技術により富裕層の人間の寿命は300年を超えた。コールドスリープ技術を利用すればもっと長いだろう。
国の力は弱まり、市場の力は強まる一方だ。とある場所では革命により、全員がその企業の社員となる、今までにない形態の国も生まれたらしい。協力産出主義、略して協産主義である。

一方で労務管理は厳しくなった。AIの活用により人間の効率的な働き方に重きが置かれ、不必要な残業で効率的にリソースが配分されないことが問題となったのである。
すなわち、時間で勤怠を管理し、残業させぬべし。するならば激しく高い残業代を払うべし。
そのような旧時代な判断をAIが下したことに世界は動揺した。ざ、残業代?みんな裁量性労働になったのに?

とある富裕層は考えた。

(残業代をきちんと出さなければ怒られる。最近は働き方改革だのなんだのとうるさい。しかし、企業側から労務管理などやりたくはないのだ。収入が増えるわけでもなし。手間に対してリターンが小さい。
む、そうだ。であれば残業代を固定にしてしまえば良いのだ。7ヶ月連続だと法律違反になる45時間MAXでつけておけば計算が必要な残業は結構減るぞ。採用情報でもその額を出せば額面が上がって人が来よう。ほへへぇ。いいことばかりであるのぉ...。)

『人は 愚か....』

天がいいます。

『それでは従業員はその固定残業代を基本の給与として考えて就職することになります...。しかし、実際には基本給が激低でボーナスが少なく、その上残業してもお金は出ない...。従業員にメリットがありません...』

「ろ、労働時間を自己管理させたいのだ。残業しても損だから、残業しないという意識が個々人に芽生える。そのほうが個人の時間も増えるだろう」

『残業は個々人の意識の問題なのですか...? 不要な残業を防げないのは、残業を切り詰める管理を会社が行っていないからでは?』

「そもそも、その分こちらは多めに給与を出しているのだ。あくまでこれは残業代だ。従業員は得してるばっかりだろう!」

『基本給....月15万なのに....?』

「...」

『基本給だと年収...250万以下ですよね...?』

「...それは双方納得の上であるから。周りが文句をいうことではない」

終章.荒廃した世界の果てで

『24時間戦えますか』
リバイバルブームで再び現れたその文言の看板の前に、立ち尽くす女がいた。
そう...あの鍛冶屋である。鍛冶屋は過酷な労働環境下で働いていたために仕事中に突如気絶し、溶鉱炉の中に頭から突っ込んで死んだと思いきや転生したのである。

その体は女性のものであり、鍛冶屋の仕事はもはやなかった。彼女の他には人影の一つもない。そこは砂漠になってしまった東狂(東京)の中なのである。

『...とよ...人の子よ...』
「は、神!?」
『すみません、手違いで人が滅んだ後に転生させてしまいました....つい、うっかり...』
「一体何がどうなってこんなことに」

『人はAI時代に仕事を取り合うことで滅亡しました...。AIは偏った学習を注入され続けた結果、人間の仕事を無制限に増やすようになったのです...。何せ、最先端技術の労働現場でも、声のでかい人は仕事が好きですから....』
「え、エーアイ?なんですか?」
『あなたまだ働きたいですか...?』
「まあ、一応....でも死んじゃったしな。前みたいにぎっちりは厳しいかも」
『素晴らしい! あなたのように転生者が増えれば世界ももう少しまともになるとは思うんですが...』

『とにかく、世の中に蔓延しているものが全て自分の味方だとは思わないことです。刀を打つどころか、頭を打って転生して、タイピングどころか、ダイビングすることになりますからね。この荒廃した世界の底で』
「……で、次は何の仕事をすればいいんですか?」
『いい質問ですね』

天はおっしゃいました。これが人類に残された最後の仕事。
『こればっかりは人にしかできません。おめでとうございます、人類最後の“カスタマーサポート”。あなたはAIの苦情受け止め係です』
「意味はわからないんですけど、嫌な予感はします」
『まあ、あなたも気楽に生きてください。死んでも働ける時代ですから』

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