はじめに(なぜこのテーマで書くのか)
もし、価値観を変えることができれば、行動を変えることができます。しかし、難しいのは、その前に、自分が変えるべき価値観を持っていることに気づくことです。
筆者は中学生になった我が子と接するうちに、仕事で悪さする価値観のいくつかは、学生時代にすりこまれることに気づきました。
そこで、この記事では、学生時代に、先生・友達・先輩から植えつけられる価値観のうち、仕事に悪影響を与えうるものを挙げてみます。
読者が思い込みに気づき、行動を変える一助となれば幸いです。
記事には筆者の思い込みも必ずあるので、批判的に読んでください。
1.「一人ですべてやりきらねばならない」
「責任感のある人」というと、どんなイメージを持ちますか? 一人だけですべてなんとかするスーパーマンの響きを持ちますよね?
それは、学生時代につくられた思い込みかもしれません。たとえば、次のような場面を思い出します。
- 学校の宿題は、全員が、全部を、自力で、やるべきものでした。もし、先生に「自分はこの学習範囲を十分理解しており、宿題をやるのは無駄ですので、辞退します」などと口走しろうものなら、反抗的な問題児として扱われるに違いありません。
- 体育会系の部活では「できない」など弱音を吐くと、先輩から怒鳴られることがあります。
一方、仕事の場合、"責任をもって"何かをやるということは、必ずしも、その何かを「一人ですべて」やることではありません。
その間違った"責任感"が強すぎて、仕事を抱え込み、マネジメントがおろそかになるプレイングマネジャーが、マネジメントに問題のある組織でよく見られます。そうした人たちは、むしろ、他人の力を借りるべきです。そのために、人を動かす能力を発揮すべきです。
なぜなら、仕事は組織のものであり、チームワークでなんとかなっていればよいからです。特定の個人が一人で特定の仕事を抱え込むことは、むしろ、組織のリスクです。
また、依頼主との事前合意があれば、仕事の範囲を減らすこともできます。やりきれない仕事は、早めに打ち上げて、早めに手を打つべきです。よって、仕事の範囲を狭めるよう交渉することは、有望な打ち手の一つです。
その意味では、手遅れになる前に弱音を吐くことは、むしろ望ましいことです。
筆者は前職でWebのプログラマだったときに、「できないかもしれない」の一言が言えず、北海道から東京に5人を緊急招集し、1週間くらい拘束するという迷惑をかけたことがあります。ちなみに、その際、筆者も2晩徹夜しました。
2.「あきらめてはいけない」
やってきたことを途中でやめることに抵抗感がありますか? それも学生時代につくられた思い込みかもしれません。
そもそも学校を中退するという選択肢は、ほぼないに近いのだから当然です。反対を押し切って高校を中退した友人を思い出します。今思えば、すごい勇気だと尊敬します。中退して立派に生きている人はたくさんいますので、我が子が「高校を中退したい」といえば認めるつもりです。
また、部活では筆者は「あきらめるな」と言われて育ちました。
一方、仕事では、事業の撤退や、仕事の中止など、やめる決断も必要です。もっといえば、嫌な仕事をずっと続ける人生が幸せとは思えません。
3. 「みんな同じようであらねばならない」
自分だけよい思いをすることは許されない空気、みんなで苦労し、我慢することがよしとされる空気を感じませんか?
これも、学生時代につくられた思い込みかもしれません。たとえば、次のような場面を思い出します:
- 先生によるえこひいきは、子供たちから非難されます。大人になって思えば、子供によって接し方を変えるのは合理的な態度といえます。
- 最近「ブラック校則」が話題になります。わが子の中学校の校則には、首をかしげるものがあります。
- 部活には「自分たちも苦労してきたのだから後輩たちも同じように苦労すべきだ」という文化が根強くありました。
一方、会社が社員に求めるのは、苦労や我慢ではなく、付加価値、効率、そして、成長です。だから、自分の仕事を楽にする工夫は、むしろ合理的です。
前向きな反対意見は、よりよい意思決定のためには大切です。多様性こそがイノベーションの種になります。しかし、違いを排除しようとする圧力は根強くあります。
PTAの役割の押し付け合いも「逃れようとする人はずるい」という論理があります。家庭ごとの事情を無視し、表面的な"平等性"をよしとする風潮が、社会問題になっています。
筆者が毎年発行する部内規(開発プロセス規程)は、必ずしも、「みんな同じようにすること」を求めているわけではなく、アウトプットイメージを合わせるためのコミュニケーションの道具にすぎません。
4.「休んではいけない」
前節に関連しますが、「休むことはよくないこと」という価値観を感じませんか? あるいは、休むことに罪悪感がありますか? 電話応答で「申し訳ありません。【同僚の名】はお休みを頂いております」というテンプレートを使いますか?
「休んではいけない」という価値観は学生時代にすりこまれています。たとえば、次のような場面を思い出します:
- 学校に毎日行くことは、皆勤賞に値します。すなわち「学校を休むことは悪いことだ」という価値観がありました。
- 理不尽なことに、以前は、不登校児童は問題児扱いされていました。最近は、幸い「みんなと同じ」が難しい子のための居場所(フリースクールや通級)がありますが。
- 筆者の所属した野球部では、水を飲むために練習を休む機会さえ制限されていました。
一方、会社員は違います。
会社が社員に求めるのは、出社ではありません。持続的な業績です。
だから、有給休暇や休憩、早い帰宅は、怠慢などではなく、生産的であり続けるために、合理的に必要なものです。
育児休業もしかりです。もっとも、それをとっている間、大変で大切な仕事が家にあるわけで、「休み」とさえいえませんが。
5.「正解を見つけなければならない」
筆者が受けた、小学校から高校くらいまでの教育では、先生が正解を知っていて、それを言い当てる子が評価されました。
しかし、ビジネスの世界に、唯一の正解はありません。上司すら「正解」を知りません。
おおざっぱにいえば、世の中でわたしたちが解く価値がある問題は、「あちらを立てればこちらが立たず」のトレードオフ問題ばかり。変数が多すぎて、解が定まらない方程式を解くことを要求されるのです。
すなわち、求められるのは、"正しい"解ではなく、いくつかの前提の下に得た 納得できる解 です。なので、自分でもっともらしいと思えるたたき台を作って、それを見せ、話し合うことで、前に進んでいけます。
6. 「成長のために時間をかけなければならない」
「場数を踏む」ことは、成長のためにある程度必要です。しかし、それだけが成長の絶対条件ではありません。
野球の投手を投球数だけで評価するような価値観は、"炎上"することもあります:
ダルも長友も『NO』を突き付けた張本発言、高校球界も怒り爆発
ビジネスでは、長く時間をかけて多くの成果を出すことをよしとする価値観は、過去のものです。残業の温床であり、令和の時代では捨てるべきものです。
むしろ、求められる基準は、費やした絶対時間ではなく、時間当たりの生産性です。人事評価制度の基準も同様に変えるべきです。それこそが"働き方改革"です。
7. 「年長者に従わなければならない」
学生の頃は、親や先生や先輩に逆らうのは、難しかったものです。これには、前項の「時間をかければ成長する」が前提にあります。
しかし、社会は常に変化しています。ですから、年長者の経験は、今後も通用するとは限りません。
たとえば、AWS DeepRacerのハンズオンセミナーに参加しました。機械学習を援用したシステムでは、「設計」の意味も、「設計モデル」の意味も、「テスト」の意味も、筆者が思っているのとはだいぶ違うと感じました。
一方、年をとればとるほど、周りから教えてもらえることは少なくなります。なぜなら、フィードバックしてくれる人が減るからです。
さらに、成功体験を積めば積むほど、頭が固くなってきて、プライドもあってか、自ら変わる、すなわち成長するのも難しくなります。
そんななか、年上の部下を持つことは、昔ほど珍しくなくなってきています。「年長者の言うことは絶対」という価値観のもとで、年長者のマネジメントなどできません。
8. 「人に勝たなければならない」
運動会のかけっこで序列をつけられるくらいならまだいいですが、我が子が中学生になって驚きました。学業成績の順位が張り出され、我が子が一喜一憂しているのです。
筆者は、親として、我が子を誰かと比べる発言はしません。子どもたちにも、自分を誰かと比べないように指導しています。なぜなら、自分を他人と比べて、幸せになれる気はしないからです。 自分が幸せかどうかは自分が決められます。自分の人生は自分の基準で生きたいものです。
あ、もちろん、勝ち負けの世界に身を置く人を否定するものではありません。自らそう決めたなら、それはむしろ尊いことです。
要するに「No.1にならなくてもいい」です。正確に、SMAPが「世界に一つだけの花」で歌うとおり。
だから、我が子には、どんな目標を目指すのかを自分で決めてもらい、それに向けて親として支援する姿勢を見せるようにしています。
キャリア開発もそんな感じでやればいいのです。
まとめ
というわけで、学生時代に植えつけられる価値観のうち、仕事に悪影響を与えうるもののを挙げました:
- 一人ですべてやりきらねばならない
- あきらめてはいけない
- みんな同じようであらねばならない
- 休んではいけない
- 正解を見つけなければならない
- 成長のために時間をかけなければならない
- 年長者に従わなければならない
- 人に勝たなければならない
この間まで学生だった皆さんも含め、思い込みに気づき、よりよい仕事やよりよい人間関係に役立てば幸いです。