はじめに
お疲れ様です。矢儀 @yuki_ink です。
クラウド人材の育成、してますか??
この記事は
(上司)
今までメインフレームを軸に商売してきたけど、これからクラウド関連の提案もしていかないといけないし
そろそろ本格的にクラウド人材を増やしていかないといけないと思ってるんだよね。
君、AWSとかちょっと詳しいらしいね。
育成施策やってよ。
(あなた)
え~~
となっている方のための記事です。
2020年4月、私が新卒で配属された組織は、大手クレジットカード会社のインフラを専門とする部署でした。
もともと基幹系システムの保守・開発を主領域とする部署で、メインフレームに強く、「クラウドの本格活用はまだまだこれから」というタイミングでの配属でした。
それから4年が過ぎ、業務系システムのクラウドリフトは一巡。
マネージドサービスを積極的に活用したシステム最適化や、基幹系システムのクラウド移行についても、積極的に検討しなければならない時期に差し掛かってしまいました。
ということで、
今までメインフレームしか触ってこなかった方にも、クラウドのスキルを持っていただく必要がある
という背景のもと、クラウド人材育成のため、試行錯誤を重ねています。
その中で、育成施策の1つの形に辿り着いたので、今回はそれについてまとめます。
私のケースでは、クラウド=AWSを指しますが、
クラウド・AWSに限らず、「組織内で新しいスキルを浸透させたい」と考えている方には、何かしらの参考にしていただけるのではないかと思います。
先に結論
この記事でお伝えしたいことは、下図が全てです。
- Step.0 :組織全体の方針の明確化と “健全な危機感” の意識づけ
- Step.1 :クラウドに触れてもらうきっかけ作り
- Step.2 :組織内コミュニティでの継続的なインプットとアウトプットの促進
- Step.3 :実践的研修と技術者間連携の強化
このサイクルを回し、「クラウドのスキルの習得」を1つの組織文化として醸成・昇華することが、育成施策の1つの形と考えます。
Step.0 :組織全体の方針の明確化と “健全な危機感” の意識づけ
育成施策の前提となるものとして、この2つがあると思います。
組織全体の方針の明確化
まず組織として、クラウド人材を増やしていくという方針が明確にされ、メンバーに周知されている必要があります。
ここは組織長の「鶴の一声」が必要な場面です。
この方針があることで、「クラウドのスキルの習得」が組織の方針に沿うこととなり、つまり「スキル習得が組織内での評価に結び付く」という認識が生まれます。
組織の方針が明確にされていないまま育成施策を展開しても、それは「草の根」の活動にとどまってしまい、施策の効果は限定的になってしまいます。
育成施策は「草の根」ではなく「公式」の活動である必要があります。
サラリーマン組織で幅広く育成施策を展開するには、どうしても「評価」を気にする必要があります。
施策に参加する側もそうですが、施策を主催する側(あなた自身)にとっても、その活動を通して評価を得られる状況にしておくということが、モチベーション維持のために不可欠です。
“健全な危機感” の意識づけ
組織内でクラウド人材を増やしていくという方針が明確にされたとしても、組織のメンバーが「なんでそんなんやらんといかんの?」と思っていたら、当然モチベーションは上がらず、育成施策の効果は薄れてしまいます。
なので、なぜこの育成施策が必要なのか、繰り返し伝えておく必要があります。
・国内の大手ベンダーがメインフレーム事業からの撤退を発表
・メインフレームのコストの高止まりが叫ばれる中、メインフレームのシュリンクは避けられない
・お客様にもそのような課題感があるはず
・その解決策の1つとして、クラウドの活用を自分たちから提案していかなければならない
・そのためには、自分たちがクラウドのスキルを習得しておく必要がある
「今のままではダメだ」という意識を、私は “健全な危機感” と呼んでいます。
この健全な危機感を多くのメンバーに持ってもらうために、繰り返し繰り返し、伝える必要があります。
1回じゃダメです。
繰り返し繰り返し、伝えるんです。
これは他人事ではなく自分事なのだと伝わるまで、繰り返し繰り返し。
育成施策の中でおそらく一番重要なプロセスです。
辛いがやるしかない。
Step.1 :クラウドに触れてもらうきっかけ作り
具体的にはこんな活動です。
-
30分くらいの初学者向け勉強会
「クラウドって、自分たちでサーバの手配とかしなくていいんすよ!」 -
1時間くらいのハンズオン
「マネジメントコンソールからEC2とRDS作ってみましょう」
「S3にhtml置いただけでウェブサイトができるんです!」
個人的には 勉強会 ⇒ ハンズオン の流れがおすすめです。
自分でリソースを作って動かしてみるという成功体験を生むことができます。
あくまで「きっかけ作り」が目的なので、内容は平易なもので。
とはいえ、AWS環境の準備などが結構大変だったりするので、AWSなどクラウドベンダーのサポートが得られるなら、是非一度、担当の方に相談してみましょう。
Step.2 :組織内コミュニティでの継続的なインプットとアウトプットの促進
繰り返しになりますが、Step.1 はあくまで「きっかけ作り」でした。
そのきっかけをスタートラインとして、そこから目標を持って自主的かつ継続的に学習し、知識を深めてもらう必要があります。
そのために必要なのが 組織内コミュニティ です。
組織内コミュニティ運営の目的
大きく3つです。
① メンバーに自主学習の習慣をつけてもらうこと
② メンバーにインプットとアウトプットを促し、そのための場を提供すること
③ アウトプットの一環として、メンバーに認定資格を取得してもらうこと
・・・
個人的に一番大事なのは ③ アウトプットの一環として、メンバーに認定資格を取得してもらうこと です。
AWSであれば、Cloud Practitionerから始めると良いでしょう。
メンバーにとって認定資格は「目に見える成果」となり、自身のエンジニアとしての価値を客観的に示すものになります。
他者/他組織との競争を促す定量的な指標としても使いやすく、結果的に、メンバーのモチベーションを得やすくなります(モチベーションこそ、自主学習の要!)
また、主催者側にとっても、メンバーの認定資格取得は定量的な成果になるので、上席への報告などがしやすいというメリットがあります。
「認定資格だけ持っていてもダメ」という意見は至るところで耳にしますし、その内容にも概ね同意ですが、メンバーにモチベーションを上げてもらう手段としては、認定資格ほど最適なものもないかなと思います。
実際に手を動かして経験を積んでもらうのは、後からやればいいかなと!
組織内コミュニティ運営の手段
どのような手段で上記の目的を達成するか?
大きく6つです。
① SlackやTeamsで専用のチャネルを用意する
② チャネルで日々情報共有をする
(資格取得に向けた学習コンテンツや、直近のアップデートなどを発信)
③ リレー形式の企画をいくつか回し、メンバーにアウトプットを促す
④ 定期的にMeetupを実施し、メンバー間で直接会話する機会を設ける(月1くらい)
⑤ 資格試験に合格した人には、チャネルでその旨を報告してもらう
⇒ とにかく褒める!!Meetupでもヒーローインタビューする!!
⑥ 対面の勉強会を開催する(たまに)
・・・
② チャネルで日々情報共有をする は、主催者側の負担にならない程度の頻度で続けます。
こちらが投稿してもメンバーから反応が得られないこともありますがw
継続が大事です。
「では何を投稿するか」ですが、AWSのラーニングパス、AWS Skill Builderのおすすめの講座、勉強会、外部セミナーの情報など、学習に有用な情報を共有するといいと思います。
JAWS-UG初心者支部のイベント情報も有益です。
③ リレー形式の企画をいくつか回し、メンバーにアウトプットを促す については、1つの案として「週刊AWSアップデート共有」というものをご紹介します。
週刊AWSは、AWSの最新アップデートや重要な情報を週単位でまとめて提供してくれる、AWS公式のブログ記事シリーズです。
各週1人担当を決め、その人が週刊AWSを読んで一番気になったアップデートを、チャネルの中で共有してもらいます。
「こんなアップデートがあったんだけど何かうれしいの?」という疑問形の投稿でも歓迎というスタンスがおすすめ。
また、投稿へのリアクションが今後のモチベーションにも繋がるので、リアクションを積極的に行い、他メンバーにも積極的なリアクションを呼びかけましょう。
「リレー形式」とはいえ、「今週投稿する人が来週投稿する人を決めてね!」という形だと、絶対に途中で途絶え、企画が自然消滅します。
「来週の投稿者の調整」という非常に面倒なタスクは、メンバーのモチベーションを下げるだけです。
少なくともメンバー間の人間関係が十分にできていないうちは、主催者が各週の担当を決め、投稿が滞ればリマインドするという進め方のほうがよいでしょう。
④ 定期的にMeetupを実施し、メンバー間で直接会話する機会を設ける については、以下の狙いがあります。
- メンバー間の交流を活性化し、「教え合い」「助け合い」「褒め合い」の雰囲気を作る
- チャットベースではやりにくい質問・相談をしてもらう場を設ける
- 主催者が直接メンバーにアプローチできる機会を定期的に設け、モチベーションを引き上げる
- 継続してMeetupに参加してくれる高いモチベーションを持つメンバーを見極める
⇒外部の限定イベントなどに声をかけたり、業務で実際にAWSを触ってもらえるようなタスクをお願いしたりしやすいw
⑤ 資格試験に合格した人には、チャネルでその旨を報告してもらう(そしてとにかく褒めまくる) については、「資格取得=すごいこと/目指すべきこと」という意識を組織全体に根付かせるためにも非常に重要なことだと思っています。
Meetupの場でもヒーローインタビューを行い、その人の勉強法やモチベーションを、メンバー間で共有するようにします。
「この資格の勉強法で分からないことがある人はこの人に聞いてください!」という声かけをすることで、「育てる側の人間」を自然に増やすことにも繋がります。
コミュニティの魅力を高め、メンバーを飽きさせないための打ち手として、たまに ⑥ 対面の勉強会を開催 します。
「資格対策集中勉強会」のようなものでもいいですし、生成AIなど注目のトピックや、あるいは1つのサービスを深堀りするような会もいいですね!
・・・
ずいぶん長くなってしまいました😅
コミュニティ運営は「継続することに価値がある」ので、主催者が息切れしない程度にやっていくのが重要です!
育成をやるような人はきっと実務も忙しいので、ホントに無理のない範囲で、、
Step.3 :実践的研修と技術者間連携の強化
なんのために育成をやるのか?
そのスキルを実業務で使うためだろ!!!
ということで、中級~上級レベルの認定資格を取得したような方には、そのスキルを実業務で活かしてもらうため、そしてより高いレベルに進んでもらうための機会を提供します。
そこで重要になるのが、実践的研修と技術者間連携の強化です。
実践的研修
「資格は取りましたが、AWSマネジメントコンソールは触ったことがありません」という方も当然出てきてしまいます。
そこで、アウトプットに全振りの実践的研修を行います。
例えば、チーム対抗で「3層Webシステムを作ってください」というお題だけ出して、時間内にどれだけクオリティの高いものが出来たかを競う、というようなケースが考えられるでしょう。
AWSなどクラウドベンダーのサポートが得られるなら、GamedayやJamの開催もおすすめです。
是非一度、担当の方に相談してみましょう。
このようなイベントを開催すると、多くの資格を持っている方でも「分からないことが多すぎた」という感想を持たれることが多いです。
それが更なる学習に繋がるようにモチベートするのが、主催者の腕の見せ所です!!
技術者間連携の強化
どんなプロフェッショナルでも、1つの案件を全て1人で回すことはできません。
そして、誰にでも得意・不得意があります。
なので、実際に案件を進めるときには「困った時に相談できる人がどれだけいるか?」という、つまり人脈が重要になってきたりもします。
技術者間連携の強化 とカッコよく書いていますが、実態は懇親会(飲み会)ですw
業務を進めるにあたり、仲が良い人を増やしておいて損はありません。
組織の壁を超えた繋がりを作れると、それが将来、大きな案件に繋がったりするかも?
個人的にいつかやってみたいのは、懇親会の中で、「好きなAWSサービス」というテーマでitoをやることですw
おわりに
繰り返しになりますが、この記事でお伝えしたいことは、下図が全てです。
そして大事なのは、育成施策(上図のサイクル)を継続し、組織文化として定着させることです。
そのためには、育成施策を主催するあなた自身が、モチベーションを維持する必要があります。
やれる範囲で、頑張りましょう!!
また、上記では触れませんでしたが、(そしてこれは育成担当のあなたが考えることではないのかもしれませんが)「これからはクラウド!」と言うだけではなく、実際にクラウドのお仕事があるということも大事だと思います。
近くでクラウドの案件が動いているかどうかで、自分事として学習を進められるかどうかが左右されます。
個人的には、今後は育成だけでなく、案件を作るという部分(提案活動)にも注力していきたいと思っています。
最後までお目通しいただき、ありがとうございました!