この記事は LITALICO Engineers Advent Calendar 2023 カレンダー2の15日目の記事です。
はじめに
2023年4月から、QAエンジニアとして児童発達支援や放課後等デイサービス、保育所等訪問支援事業所向け業務システムのQA活動をしています。
LITALICOには2014年4月に入社し、上記の児童発達支援や放課後等デイサービス事業所で、おもに発達障害のある子どもに対して、9年間療育(発達支援)をしてきました。
学生時代も特別支援教育を専攻しており、エンジニア未経験の私がなぜQAエンジニアになったのかはさておき、
異動してからは毎日『「分かりそう」で「分からない」でも「分かった」気になれるIT用語辞典』なるサイトを駆使して、難しい言葉が飛び交うミーティング中に「うんうん」と頷くスキルだけが上がっていきます。
療育(発達支援)とは?
療育(発達支援)とは、障害のあるお子さまやその可能性のある子どもに対し、個々の発達の状態や障害特性に応じて、今の困りごとの解決と、将来の自立と社会参加を目指し支援をすることです。
児童福祉法に基づく事業所において、小学校入学前の子どもを支援する施設を「児童発達支援」、小学生から18歳までを支援する施設を「放課後等デイサービス」と呼びます。
例えば発達障害と言っても幅広く、自閉症スペクトラム障害や学習障害、ADHDなど様々な種類がありますし、
一口に「〇〇障害」といっても、その困難さは一人ひとり違うものです。
今回の記事は「すべての障害」または「ある特定の障害」を指しての説明ではなく、「いわゆる発達障害のなかでこういうケースがある」という、ふんわりとした説明であることをご了承ください。
また、記事内のエピソードは、これまでの経験をもとにしたフィクションです。過去の支援をする中での個人を特定するものではありません。
障害児の困りとは
療育をしていると、こんな相談を受けることがあります。
「学校で先生の指示を聞いて動けないんです」
たとえば、小学4年生のクラスで、担任の先生が
「次は体育の授業なので、準備ができたらグラウンドに集合してください」
と指示があったとします。
ですが、実際の場面でその子どもは
- 授業開始時間になっても集合しない
- 持ち物が足りない
- グラウンドの全然ちがう場所にいる
など、先生の指示通りに行動できていない、ということが起こります。
どう支援するか
そのような困りのある子どもへの支援としてどんなことをするか、少しこまかく説明します。(あくまで支援の一例です)
「先生の指示を聞いて行動できた」という成功体験を積むことで、指示理解のスキルを上げていく必要があります。
1. まずは指示の内容を細分化して、ひとつの指示でひとつの行動をしてもらうことから始めます。
「グラウンドの鉄棒の前に集合して」
先程の先生の指示では「グラウンドに集合して」としか指定されていないので、グラウンドのどこに行けばよいのか分からなかったかもしれません。
「縄跳び・紅白帽・水筒の3つを持って集合して」
「準備ができたら」とは何の準備だったのでしょうか。もしかしたら、多くの他の子どもは、これまでの先生の発言から推測できる内容だったのかもしれません。
他にも時間を具体的に指定してあげるなど、指示の内容を具体的かつ細分化してあげることで、まずはひとつの指示を聞いて行動できるように練習します。
2. 次に、複数の指示を組み合わせることで、より多くの情報を覚えておくことができるようにします。
「縄跳び・紅白帽・水筒の3つを持って、グラウンドの鉄棒の前に集合して」
↓
「10時30分までに、縄跳び・紅白帽・水筒の3つを持って、グラウンドの鉄棒の前に集合して」
先程の練習をふまえて、文章を長くしてもその通りに行動できるようにしていきます。
でも、いきなり長くするとまた分からなくなるかもしれないので、段階を踏んで指示を長くしていきます。
3.イレギュラーなことがあっても行動できるとよい。
これまでの練習で、指示の内容や長さを変えて練習することで、指示を理解して行動できるようになってきました。
ですが、子どもの中にはイレギュラーなことが起こると、どうしてよいか分からなくなり、時にはパニックになる子どももいるので、そうならないための練習も必要かもしれません。
「10時30分までに、縄跳び・紅白帽・水筒の3つを持って、グラウンドの鉄棒の前に集合してください。もし他のクラスがいた場合は、サッカーゴールの前に集合してください。」
など、いくつか別の条件でも練習してみます。
*
このように段階を踏んで、内容や順序を具体的にして指示することで成功体験を積み、
「学校で先生の指示を聞いて動けないんです」と相談されていた子どもも
先生の話を聞いて行動できるようになっていきます。(あくまで支援の一例です)
療育とプログラミングの共通点
私が師と仰ぐ『「分かりそう」で「分からない」でも「分かった」気になれるIT用語辞典』で「プログラミング」を調べてみました。
プログラミング(英:programming)とは
プログラムを作ること。
あるいは
人間語で書いたプログラムの元ネタ(ソースコード)を作ることです。
うんうん
分かりそうで分かりません。
パソコンに詳しい人に聞いてみたところ
「プログラミングとは、コンピュータにしてもらいたいことを実現するために、コンピュータがわかる言語で順番に命令や指示を組み立てること」だそうです。
そういえば、放課後等デイサービスの支援で、スクラッチというプログラミング言語で子どもと一緒にゲームを作ったことがあります。
スクラッチキャットというアイコンを使って、鬼ごっこのゲームを作るのですが
鬼の動きを指定するとき、当たり前ですが「いい感じに追いかけて」というコマンドはなく、「スペースキーが押されたとき」「ずっと」「スクラッチキャットへ向ける」「◯歩動かす」というように、正しい順番で具体的にコマンドを入力しなければ「いい感じに追いかけて」はくれませんでした。
療育では、その子どもが分かるように、順番に具体的に説明することが肝要です。
プログラミングでも、コンピュータが分かるように、順番に具体的に指示を組み立てなければなりません。
まとめ
日々、コンピュータに対してこの考えでプログラミングをしているエンジニアは、
療育で大切にしたいことの素養を既に持っているのではないか、というのが結論です。
プログラミング的思考を持って、療育をすることで、よりその子どもにあった関わりができるのではないかと思います。
療育をするなかで、先に述べたように順番に具体的に説明しても、説明通りに行動してもらえなかったこともたくさんあります。
そういう時に大切にしていたのが
「学び手は常に正しい」 という言葉です。
その指示で伝わらなかったのは、子どもに要因があるのではなく
その指示が子どもに合っていなかったということ。
学び手に合わせて、教え手(自分)が変化することを大切にするということです。
キャリアに悩んだら、療育も選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。
補足.活かせるのは療育だけではない
療育の視点で、プログラミング的思考について考えてきましたが、活かせるのは療育だけではないと思っています。
お子さんがいる方は、日々の子どもとの関わりにも置き換えることができるかもしれません。
「お片付けして」と言っているのに、一向におもちゃを片付けない我が家の3歳児は、おままごとセットはこの箱に入れる、お絵描きの道具はこの棚にしまう、と(妻が)指定して伝えたら、上手に片付けをしてくれるようになりました。
チームで仕事をしている方は、チームコミュニケーションでも同じことが言えるかもしれません。
プログラミング的思考は色々な場面で活用できそうです。