第2刷のあとがき(p.199)によると、p.20で定義される前層$A$から定義される$\mathfrak{F}$上の同値関係は、推移律を満たすとは限りません。
推移律を満たさない例を以下に示します。
同値関係の定義
前層 $<A, E, \neg>$ が与えられたとき、
\mathfrak{F} = \{ F \subseteq A | Fの元は互いに両立している \}\\
{\rm E}F = \bigcup_{f \in F}{{\rm E}f}\\
F \neg U = \{ f \neg U | f \in F \}\\
として$\mathfrak{F}$を定義する。
ただし、$f$と$g$が互いに両立していることは、$f \neg {\rm E}g=g\neg{\rm E}f$であることと定義されている。
このとき $\mathfrak{F}$上の同値関係$ F_1 \equiv F_2 (F_1, F_2 \in \mathfrak{F})$を次の条件で定義する。
{\rm E}F_1 = {\rm E}F_2 \land (F_1 \cup F_2 \in \mathfrak{F})
推移律を満たさない例
次のような$X$とその開集合系$\mathfrak{O}(X)$を考える。
X := \{ x, y \}\\
\mathfrak{O}(x) = \{ X, \{x\}, \{y\}, \emptyset \}\\
この$X$の上に、次のような前層$A$を考える。
A := \{ a, b, c, d_1, d_2 \}\\
{\rm E}a := \emptyset\\
{\rm E}b := \{x\}\\
{\rm E}c := \{y\}\\
{\rm E}d_1 := X\\
{\rm E}d_2 := X\\
この前層$A$の$\mathfrak{F}$に対して、次のような$F_1, F_2、F_3 \in \mathfrak{F}$を考える。
F_1 := \{ d_1 \}\\
F_2 := \{ b, c \}\\
F_3 := \{ d_2 \}\\
- $F_1 \equiv F_2$
- ${\rm E}F_1 = {\rm E}F_2 = X$
- $F_1 \cup F_2$の元 $b, c, d_1$について、以下のように互いに両立する。
$b, c : {\rm E}b \cap {\rm E}c = \emptyset$より両立
$b, d_1 : $
{\rm E}b = \{x\} \subset \{x, y\} = {\rm E}d_1\\
b \neg {\rm E}d_1 = b
\begin{eqnarray}
{\rm E}(d_1 \neg{\rm E}b) &=& {\rm E}d_1 \cap {\rm E}b\\
&=& \{x, y\} \cap \{x\}\\
&=& \{x\}\\
\end{eqnarray}\\
前層$A$の定義より、${\rm E}\alpha = \{x\}$となる$\alpha$は$b$のみなので、$b \neg {\rm E}d_1 = b$
したがって、$b \neg {\rm E}d_1 = d_1 \neg{\rm E}b$より両立
$c, d_1 : b, d_1$の場合と同様に両立
-
$F_2 \equiv F_3$
- ${\rm E}F_2 = {\rm E}F_3 = X$
- $F_1 \cup F_2$の場合と同様に、$F_2 \cup F_3$の元は互いに両立する
-
$F_1 \not\equiv F_3$
- ${\rm E}F_1 = {\rm E}F_3 = X$
- ${\rm E}d_1= {\rm E}d_2$かつ$d_1 \not= d_2$より、$F_1 \cup F_3$の元は互いに両立しない
$F_1 \equiv F_2$ かつ $F_2 \equiv F_3$ で $F_1 \not\equiv F_3$なので、この$\mathfrak{F}$上の同値関係について推移律が満たされていない。