はじめに
これまで、心理的安全性に関する以下の本を読んで
最高のチームはみんな使っている 心理的安全性をつくる言葉55
恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
自分なりに理解をまとめ、記事にしてきました。
今回は、ピョートル・フェリクス・グジバチ氏の『心理的安全性 最強の教科書』について読んだので、その学びをアウトプットします。
心理的安全性を育むには
本書の主張を、私は以下のように解釈しました。
- 心理的安全性を育むベースとなるのは、「明確な構造」と「対話」
- 「構造」:ビジョンや目標、役割分担が明確になっていること
- 「対話」:相互理解の上に行動の変化を生み出していく創造的な会話
- どんな時でも 【人にやさしく、結果に厳しく】 をモットーに行動することが重要
- 「人にやさしく」:「対話」を通して、相手の考えを認め、尊重する
- 「結果に厳しく」:「構造」に基づき、間違いや指摘など厳しい意見も伝える
- 「率直な意見」は「建設的な意見の対立」を生み、その対立を乗り越えると深い「相互理解」につながる
- 「相互理解」が深まると、さらに「率直な意見」を言えるようになる
- このループがうまく回っている状態が、心理的安全性が高い状態であり、ループが回れば回るほど、心理的安全性は高まっていき、これは大きな成果につながる
心理的安全性をもっと深く理解する
エイミー・エドモンドソン氏1による心理的安全性の定義
「対人関係においてリスクある行動をとっても、『このチームなら馬鹿にされたり罰せられたりしない』と信じられる状態」
これをもとに、私は「心理的安全性があるから、率直な意見が言えて、建設的な対立が起こせる」と理解していました。すなわち、
「心理的安全性 → 率直な意見 → 建設的な対立」という依存関係
をイメージしていました。しかし、本書を読み、私の理解は間違いではないですが不十分なのではないかと気づきました。
ピョートル氏は、心理的安全性を次のように解釈しています。
「メンバーがネガティブなプレッシャーを受けずに自分らしくいられる状態」
「お互いに高め合える関係を持って、建設的な意見の対立が推奨されること」
また、心理的安全性の本質について、次のように述べています。
自分にも相手にも誠実であること。それによって、一時的に対立が生じたとしても、相互理解が深まり、人間関係が構築されていきます。これが心理的安全性の本質ではないかと僕は考えています。
加えて、「結果に厳しく」することの必要性について、次のように述べています。
心理的安全性を高めるためには「人にやさしく」だけではダメで、「結果に厳しく」なければいけません。結果が出ない、つまりチームに貢献できないメンバーをそのままにしておくと、他メンバーにとってストレスとなったり、「結果を出さなければならないのか、出さなくてもいいのか」と構造が不明確になり戸惑うことになります。だいいち、チームで結果が出なければ「人にやさしく」する余裕もなくなり、最悪の場合は組織もなくなります。
上記の内容から、心理的安全性があるから率直な意見を言えるというだけではなく、率直な意見を言うこと自体が心理的安全性を高めることにもなると理解できます。
したがって、依存関係というよりは前節の図解の通り、
「率直な意見 → 建設的な対立 → 相互理解」の中心にあるのが心理的安全性
というイメージがより正しい理解なのではないかと感じました。
対話Tips
本書で紹介されていた、Tipsの中で印象に残ったものを記載します。
ライフジャーニー
ライフジャーニーとは、お互いの価値観を知り、相互理解を深めるためのワークです。
- 方法
- 大きな紙を用意する
- 自分が歩んできた人生を振り返り、人生の転機や印象に残っている出来事を絵で表現する
- 完成したライフジャーニーをもとに、各自が5分程度で発表する
- それぞれの人生の転機で、①どんな行動をしたのか、②その意図は何か、③どんな感情を味わったのか
- 効果
- 「自分が普段の仕事の場面でなぜそのような行動を取るのか」「なぜそう考えるのか」を回りの人に知ってもらえる
- 人生の転機で感じたことや行動したことを通して、自分という人間や自分の価値観をメンバーに知ってもらえる
反対意見・指摘の伝え方
まず、途中で相手の話を遮らずに、受け止める
一通り聞いてから、「なるほど。あなたはそう考えるんですね。あなたの言いたいことはよくわかりました」と受け止めます。これによって相手は、今度は自分の話に対して意見を受け止める準備ができます。
相手が言ったことに対して、断定的に意見するのではなく、メリットとデメリットを考えてもらうように伝える
これにより、相手に会話を通して相手の視野を広げ、新しい見方に気づかせることができます。「これは正しい、これは間違っている」と断定的に指摘されるよりも、納得感が得られて、受け入れやすくなります。
厳しい指摘は、主語を「You」ではなく「I / We」にして伝える
- 「You」が主語の場合
- 「あなたは話し方がきつい」
- 「I」が主語の場合
- 「僕はあなたの話し方が少しきついように感じた」
- → 「私はこう感じた」「私はこう思った」と言われる方が、直接的に批判されている感じが薄れるので、相手の心理的安全性は保たれる
- 「We」が主語の場合
- 「我々はチームとしてもっとパフォーマンスを出して、前に進んでいかなければなりません。なのに、今日の打ち合わせを見ていると、かなりきつい言葉が飛び交っていましたね。こんなきつい言葉で指摘し合うことで、より良いパフォーマンスにつながるのでしょうか」
- → 自分と相手は対立する間柄ではなく、「一緒になって問題を解決していく仲間だ」という思いが伝わり、心理的安全性が保たれる
会議のチェックイン
会議のチェックインとは、会議を始める前にメンバーが近況を報告し合う時間のことです。
- 例
- 「実は寝不足で、途中で眠気に襲われるかもしれません」
- 「風邪をひいてしまいました。いつもの元気がないのですが、許してください」
- 「すみません。ここ数日はトラブル処理に走り回っていて、準備不足なままこの会議を迎えてしまいました」
- 効果
- 会議でのメンバー同士の関わり方がいつもよりやさしくなる
- 存在のありのままを理解し認め合うことで、職場の心理的安全性が育まれていく
聞く「雑談」
雑談は相手の状態を知るための「診察」
→ 声をかけることで相手の状態を知り、どんな形でサポートすればいいかを探る
例えば、冬の寒い日に、薄手のコートを着たメンバーが凍えそうな表情で部屋に入ってきたら、「寒そうですね。温かいお茶はどうですか?」と声をかけると、相手はあなたの気遣いに触れてほっとします。
自分のことを無理に話す必要はなく、好奇心を持って相手の状態を観察して、「今、相手が何を必要としているか」に集中するだけなので、誰でもできるようになります。
おわりに
今回は、『心理的安全性 最強の教科書』を読んで、その学びをアウトプットしました。心理的安全性についていくつかの書籍を読んできましたが、その中でもこの本は特に読みやすかった印象です。本記事ではあまり触れませんでしたが、心理的安全性を育む上でのマネージャーとしての心得にも大部分を割いているので、幹部社員やリーダーの方にも非常におすすめです。最後に、このような素晴らしい本を書いてくれた、ピョートル氏、本当にありがとうございました。このアウトプットが少しでも誰かのお役に立てれば幸いです。
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心理的安全性の提唱者 ↩