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人はなぜ刀の柄にロケットランチャーを仕込みたくなるのか

Last updated at Posted at 2022-12-01

誰向けの何

  • これから事業やプロダクトを立ち上げようとしている人向け
  • エセ昔話風にあるあるな落とし穴を話す記事

注意

  • 全てフィクションです。架空の戦国時代です。
  • あるあるを想像して書きました。具体的な人物・組織を思い浮かべて書いたわけではありません。
  • 筆者は世界史選択なのでお殿様のシステムとかなにも知りません。

昔々あるところに

新しいもの好きで発想力の豊かな殿様がいました。殿様はあるとき思いつきました。

「刀とロケットランチャーを融合させれば近距離、中距離、遠距離、隙がないのではないか!!」

弓よりも破壊力があり、なんなら砦や城にも大きなダメージを与えられます。より強い国になれること間違いなしです。
自国で実績をあげれば良い値段で同盟国に売りつけることも視野に入ります。
逆に弓に刀を取り付けてしまうとか、槍にチェーンソーをつけるというアイデアも追って湧いてきました。ロケラン刀がウケたら融合シリーズとして次々と売り出すビジョンまで見えてきました。
この画期的なアイデアが盗まれないよう気をつけつつ、いちはやく実践投入しなくてはなりません。

殿様は早速高名な鍛冶屋を呼びつけ、すぐ作るよう命じました。
鍛冶屋は(遠距離は弓兵、城攻めは攻城部隊がいるし、運用もメンテもだるいんじゃねえか?)と思いましたがそんなこと言うと大変なことになるので、おとなしく作ることにしました。

できた

さすが高名な鍛冶屋、半年くらいで作ることができました。情報が漏れてしまうと大変なので工房に缶詰でしたし誰とも話さず過ごしてきましたが、ようやく報われます。
鍛冶屋は「ASAPで」という殿様のオーダーに応えるための激務でげっそりした、しかしもらえる報酬への期待から口角の上がりきった顔でお城に馳せ参じました。

「お殿様、ご依頼いただいていたものができあがりました」

しかし、殿様は怪訝な顔をしています。

「柄ってあれじゃろ、最近は滑り止めつきのが流行っとるじゃろ?みんなもうあれに慣れてるからそんな普通の柄じゃ誰も使わないんじゃないか?」

ラバーグリップ。輸入素材を活用したもので、滑りづらさが売りです。10年ほど前に外国船が訪れてから最先端の鍛冶屋が取り入れたオプションでした。
武士たちの評判はぼちぼちですが、加工難易度の高さや籠手との相性、湿気によってむしろ滑りやすくなってしまう点などから鍛冶屋界隈では敬遠されているものです。しかも言うほど普及してないので「あれに慣れてる」というのはダウトです。

「しかもなんじゃその形。トレンドは半月形じゃろ?そんなまっすぐな刀、古臭くて外に出せんわい」

ハーフムーンシルエット。少し前に公開された小説によって「反りこそすべて」という風潮が生まれ、過剰な反り競争の結果、半円程度まで反るのが最も美しいとされるようになりました。
都で見せびらかす分には良いですが、実用性についてはもちろん不評です。しかも加工に非常に手間がかかります。

さて、逆らえない鍛冶屋は泣く泣くロケラン刀を抱え工房に帰りました。

改修した

技術力や情報収集能力は一流の鍛冶屋。見事にトレンドを取り入れた最高の刀を作り上げました。
素材や加工の手間により、もはや量産は不可能な代物と化しましたがなんとか希望通りです。
「今度こそ」という期待と「また何かクソオーダーが出てくるんじゃないか」という不安を胸にお城に向かいます。

「おお!見事じゃ!今風な刀に、最先端の組み合わせ!早速明日の紅白戦に投入しようぞ!!」

テンションの上がったお殿様は報酬そっちのけでそう言いました。こうなったら手が付けられません。落ち着いたころに報酬の話をしようと、鍛冶屋は一旦あきらめることにしました。

おしまい

ロケラン刀のデビュー戦。鍛錬を目的とした、国を二分しての紅白戦が終了しました。
重くて握りづらい柄、慣れないラバーグリップ、実用性のないおしゃれなハーフムーンシルエット、そして使いどころ不明なロケットランチャー…。

現場では大不評でした。しかしそれを殿様に伝えると激怒するに違いないので、
「量産されて安くなったら買いたい」
「確かに自分が城攻めできたらなって思うタイミングはあった」
「現代では遠距離を主体にした製品の方がニーズが高いかもしれない」
「槍の方が得意な人向けにそういうオプションがあるともっとよさそう」
といった一見すると好意的なフィードバックを行いました。

大成功だと思った殿様は近隣の同盟諸国とNDAを結び、ロケランとラバーグリップとハーフムーンシルエットを扱えるシニア鍛冶屋たちを招集し、莫大な費用をかけロケラン刀の量産体制を整えました。

数年後、例の鍛冶屋は腕を買われ都に移籍し、刀でも槍でも弓でもない全く新しい製品の開発プロジェクトに関わることになりました。
一方でお城の倉庫は売れ残ったロケラン刀で埋め尽くされ、国は量産にかかわる多額の借金によって貧困にあえいでいました。

おしまい。

教訓

いま考えている画期的なアイデアも、他人からみたらロケラン刀ばりに怪しいものかもしれません。

論理的に考えて良さそうだったり様々な課題を解決できるように思えても、実現してみると非合理的だったり多くの課題を抱えていたりします。
いきなりロケラン刀を作るのではなく、「刀の使用者は遠距離も対応したいのか?」「刀の柄にロケランを仕込むのは実用的なのか?」などをユーザーヒアリングプロトタイピングで検証するのがよいでしょう。

みんなが見慣れているものは贅沢品です

みんながよく使うアプリは、莫大な資金や時間がつぎ込まれた最高級品です。
そこで活用されている「現代のスタンダードな仕様」は不足すると致命傷のように思いがちですが、実はプロダクトの成否にそこまで大きな影響はないです。
狩野モデルのような思考法を活用して採否を検討するのがよいでしょう。

ユーザーからの正しいフィードバック(=本音)こそが正義です

「好意的・肯定的な意見が出る」 と、「購入や確約といったアクション」 の間には大きな隔たりがあります。
また、自分に都合の良い解釈はしないようにしましょう。
フィードバック者は「自分がほしいもの」ではなく 「作ってみてもらいたいこと」 を話すことがあります(真偽不明、肌感)。
しっかり見極めましょう。

武士にヒアリングしたり、まずは弓刀をつくってみたり、フィードバックを匿名化したりしたらもうちょっと建設的だったかもしれません。知らんけど。

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