文字コード
文字Day 2

「『かき』は9画、『こけら』は8画」とは言い切れない

漢字のトリビアでこんなの聞いたことはありませんか。
「こけら落とし(劇場の初公演)は漢字で『柿落とし』と書くが、この『柿』は果樹の『柿』の字とは違う」
というもの。

『かき』は9画、『こけら』は8画説

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上の図のように、木偏に市と書く9画の字が果物のかき、似ているけど縦棒が上から下まで突き抜けているので8画なのがこけら、という説明がよくされます。「かき こけら」でぐぐってみてください。この図のような説明図が大量に出てきます。

実際、文字の成り立ちをたどるとこの説はおかしくありません。市(5画)を音符とするかきはシと音読みし、巿(4画)を音符とするこけらはハイと音読みします。しかし、成り立ちだけで字形を決めるわけにいかないのが漢字。例えば肺はハイと音読みするとおり巿(4画)を音符としていたはずなのですが今は完全につくりを市(5画)とする字形になっています。10^24を意味する𥝱(ジョ)にいたっては市(5画)を音符としていたはずのに書き間違えから予で定着してしまいました。
成り立ちだけでなく、実際どう書かれている(きた)かも重要なのです。

歴史的にどう書かれてきたか、それはわれらがJISがJISコードを定めるにあたって調査してくれました。

字形揺れ

JISコードは、文字を収載した根拠をちゃんと記録に残して公開しています。
結論から言うとかきとこけらは19区33点「柿」の一字に包摂されたのですが、そう判断された経緯もJIS X0208の附属書7に書かれており、多くの文献から事例を引いています。

9画の字形をA型、8画の字形をB型とここでは呼んでいるのですが、

文献 時代 かき こけら
龍龕手鏡 遼代 B型(と附属書7にはありますがA型に見えますね⋯) 別字形 龍龕手鏡.png
五経文字 唐代 別字形(龍龕手鏡のこけらの字形) B型 五経文字.png
色葉字類抄 平安時代 A型 B型 色葉字類抄.png
新撰字鏡 平安時代 A型でもB型でも同じと記載 新撰字鏡.png
清原宜賢自筆本 室町時代 A型 A型 清原宜賢自筆本.png
康熙字典  清代 別字形(枾) A型 康熙字典.png

かき・こけらを異なる字とし字形も別とする文献も多いながら字形には揺れがあり、字形揺れの範囲はかぶっています。これはJISの資料にはない解釈ですが、広義の同形異字というべきかもしれません。

JISコードは同形異字を容赦なく一字に包摂します。23区61点「芸」なんかそうですね。字形の差が歴史的に明確でなかったかき・こけらはJISコード的には包摂対象でした。実際の書かれ方という観点からするとかきはA型字形、こけらはB型字形なのだとは言い切れないのです。

今後誰かに「『かき』は9画、『こけら』は8画」という蘊蓄を聞かされることがあるかもしれません。そのときは(成り立ちだけを考えたらね)と心の中でつぶやくのがよろしかろうと存じます。