Raspberry Pi Advent Calendar 2017 2日目です.
結論
SDカードにbootcode.bin
(49kBほど) というファイルを置いておくだけで,全バージョンのRaspberry Piで
- ネットワークブート
- USBストレージブート
ができます.
サーバの設定などは
Network Boot Your Raspberry Pi - Raspberry Pi Documentation
を参考にしてください.
経緯
まずRaspberry Piのブートは,おおまかには3段階からなります.
- 1段目
Raspberry PiのSoCにはROMが載っており,ここにファームウェアが書き込まれています.
Raspberry Piに電源が投入されると,まずこのROM内のファームウェアがメモリに読み込まれます.
読み込まれたコードはGPUにあるVPUというプロセッサによって実行されます. - 2段目
ROM内のファームウェアによってSDカードが検出され,
SDカード内の設定ファイル (config.txt
やcmdline.txt
) と,
ファームウェアがメモリにロードされます.
このコードもVPUによって実行されます. - 3段目
SDカード内のファームウェアがSDカード内のLinuxカーネル等を検出し,メモリにロードします.
また,同時にCPUの初期化も行われ,LinuxカーネルはCPUによって実行されます.
「Raspberry Piにネットワークブートの機能を追加したい」となったときに初めに考えられたのは,3段目でネットワークブートを行う方法です. この方法は,例えばLinuxカーネルのNFS root機能を使うことで実現されます. NFS rootはカーネルの引数に設定を追加するだけなので,比較的容易に行えますが,CPUを起動するためのファームウェアとLinuxカーネルはSDカードに入れなければなりません. これだと,ファームウェアとカーネルをアップデートするたびにSDカードへの書き込みが発生するので,SDカードの寿命が縮んでしまいます. U-Bootを使う方法もありますが,結局SDカード上にファームウェアが必要なので,アップデートによるSDカードへの負荷は避けられません.
そこで考えられたのが,2段目でネットワークブートする方法です. 元々のRaspberry Piのファームウェアにはネットワークブート機能がなく,かつRaspberry Piのファームウェアはクローズドソースなので,2段目でネットワークブートするためには,別途VPU向けのファームウェアを書かなければなりません. VPUの命令セットは非公開なのですが,実は[有志によって解析されており](https://github.com/hermanhermitage/videocoreiv/wiki/VideoCore-IV-Programmers-Manual),これを基に[オープンソース版のファームウェアが開発されています](https://github.com/christinaa/rpi-open-firmware). こちらのファームウェアを使うことでネットワークブートすることは可能なようですが,公式のファームウェアの一部の機能しか対応していなかったり,Raspberry Piの一部のバージョンに対応していなかったりするなど,動作が不安定なところがあるようです. また,この方法にも,結局アップデート時にSDカード上のファームウェアを書き換える必要があるという欠点があります.
そこで考えられたのが,1段目でネットワークブートする方法です. 実は,Raspberry Pi 3からROM内のファームウェアに変更が施されており,SDカード無しでネットワークブートやUSBストレージブートなどができるようになっています. (参考: [Boot flow - Raspberry Pi Documentation](https://www.raspberrypi.org/documentation/hardware/raspberrypi/bootmodes/bootflow.md)) ROMの内容を変更するのはRaspberry PiおよびそのSoCを開発する組織にしかできないので,ROMのファームウェアは中の人である[Gordon Hollingworth](https://twitter.com/gsholling)を中心としたエンジニアによって開発されたようです. この方法はSDカードさえ不要になるので画期的に思われましたが,ROM内のファームウェアにバグがあり,LAN内で他のマシンがbroadcast addressにpingし続けないとRaspberry Piがうまくネットワークを認識できないなど,ネットワークブートできない環境がありました. OTP (one-time programmable) メモリのビットを立ててROMのファームウェアの挙動を制御するなどの対策が取られましたが,ROMの内容は後から変更できないため,バグを完全に取り除くことはできなかったようです.
ここでどうしようもなくなったので,公式のファームウェア (2段目) にネットワークブート機能が追加されました. Raspberry Pi 3のROMに書いたコードを,バグを修正して移植したようです.
Raspberry Piを通常の方法で起動させる場合,SDカードには bootcode.bin
や fixup.dat
,start.elf
,config.txt
,kernel.img
などのファイルが必要です.
しかし,ネットワークブート機能は bootcode.bin
に実装されたので,SDカードにbootcode.bin
だけを入れれば,ネットワークブートができるようになります.
この際,残りのファイルは bootcode.bin
がTFTPサーバ経由で持ってきてくれます.
さらに,bootcode.bin
はアーキテクチャ特有の処理しかしないので,動くバージョンがあれば,基本的にそれを使い続けて大丈夫です(多分).
よって,bootcode.bin
以外のファームウェアや設定ファイルやLinuxカーネル,rootfsなどは全てSDカードでなくサーバ側に置いておくだけで良い のです.
これで,全バージョンのRaspberry PiでネットワークブートとUSBストレージブートができるようになり,アップデートによってSDカードに負荷がかかることもなくなりました.
サーバ側の設定などは [Network Boot Your Raspberry Pi - Raspberry Pi Documentation](https://www.raspberrypi.org/documentation/hardware/raspberrypi/bootmodes/net_tutorial.md) を参考にしてください.
最後に
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