§1 この記事について
先日、弊校にて運動会が行われて、保護者向けの同時配信を行いました。前例はなく、1からの構築でした。 私自身ネットワークに疎いので結構初歩的なところでも詰まりました。詰まったところやそれをどう対処したか(もしかしたら、もっといい解決法があるかもですが)についてと、今回の配信システムの全体を書いていきます。
§2 使用した機材と構成
使用した機材の一覧です。
機材名 | 詳細 | 数量 | 備考 |
---|---|---|---|
ノートパソコン | 2台 | カメラ映像の配信用PCへの送信用 | |
デスクトップパソコン | i9 9900K、RTX3070、メモリ16GB | 1台 | 配信用 |
LANケーブル | CAT 7 | 沢山 | 映像送信用 |
スイッチングハブ | TPLink TL-SG105 | 2台 | LAN延長用 |
一眼 | Canon EOS Kiss M2 | 2台 | |
ビデオカメラ | Panasonic HC-WX995M | 1台 | |
オーディオインターフェース | AUDIENT evo4 | 配信マイク取り込み用 | |
配信コントローラー | Stream Deck + | ||
キャプチャボード | 1台 | ビデオカメラの取り込み用 | |
ルーター | BUFFARO WSR-1166DHPL2/N | 2台 | うち1台のみ使用 |
機材の雑な配置図です。一部省略していたり、PAの系も記載していたりします。
(「グラウンド配信機材」のカメラはビデオカメラを使用しています。)
・映像送信系の概要
カメラ用PCに一眼から(今回使用した一眼はUSBでwebカメラとして取り込めるものだったので、USBを使用しました。)カメラ映像をOBSに取り込み、NDIを使い送出しています。それを配信用PCで俯瞰を2台分受け取り、さらにビデオカメラ映像を外部カメラとして、計3つの視点のカメラを取り込んでいます。そこから1つのカメラに対して1つのシーンを割り当て、StreamDeckを用いてシーン切り替えをすることで、カメラスイッチングを行っています。そして出来上がった放送映像を配信用PCからYouTubeに配信しています。
・細かい仕組み
1.映像のやりとり
今回は、初めてながら複数視点配信にしようという無謀な計画でしたが、そもそも映像をカメラで撮っても、配信用PCに取り込めなければいけません。
映像を伝送するというとHDMIを思いつくと思いますが、①HDMIは長距離伝送に向いていない、②ケーブルが高価、で諦めました。
次に、映像を長距離伝送する際によく使われるSDIという規格があります。これは、業務用機器で主に用いられているもので、同軸ケーブルを使って伝送する規格です。HDMIと違い100m程度は伝送可能です。弊校の講堂でも用いられていますが、①HDMIとSDIのコンバーターが1万円前後で高価、②同軸ケーブルもある程度高価、で諦めました。
最終的に思いついたのが今回使用したNDIです。
NDIというのは、AV over IPというものの方式の一つで、NewTek社によって開発された規格です。同一ネットワーク内のPCなどの機器同士でLANケーブルを介して映像と音声の送出・受信ができます。フリーソフトとOBSのプラグインが存在し導入も比較的簡単で、幸い長距離のLANケーブルは学校に備品としてあり、比較的安価で扱いやすいため、採用しました。
2.音声のやりとり
グラウンドに対して音楽を常に流していて、著作権の観点から配信にはマイクで喋った音声のみを乗せることにしました。今回マイクはワイヤレスマイクを使用して、校舎ワイヤレスレシーバーとグラウンド側のワイヤレスレシーバーの番号を合わせて1本のマイクを校舎スピーカーとグラウンドに置いたスピーカーの両方から出力できるようにしました。
そのグラウンドにあるミキサーから音声をオーディオインターフェースに入力し、配信用PCに取り込みました。ここで、オーディオインターフェースに卓上マイクを一本つなげて配信専用マイクを置きました。
§3 準備日に詰まったこと
グラウンドは常に部活が使用していて空かない、日曜日はそもそも学校が開かないということから、グラウンドで実際に機器を置いてテストできるのが運動会準備日しかありませんでした。準備日では、全体が当日のプログラムに沿って動きを確認するので、1日中グラウンドが使用できます。
準備日前日までにすべて配置の仕方などを打ち合わせして、万端で準備日を迎えました。迎えたはずでした。
ここで、①映像が受け取れない、②配信用PCとカメラ用ノートPCの両方がネットに接続されない、という2つの問題が起こりました。よくよく調べたところ、ルーター電源入れる→起動状態→電源落ちる という具合に壊れていました。ルーターは替えがその日ありませんでしたので、準備日は諦めました。また、LANケーブルが100mを超えることに気づいたので(LANのイーサネットの規格上限は100m)、学校の備品としてあったスイッチングハブを用いて延長することにしました。
結局、唯一グラウンドを使える日をルーターの故障で諦めることになってしまいました。
焦って、ルーターをスイッチングハブで代用してみましたが、スイッチングハブにPCと壁のコネクタ(上図内左上「ネットワーク」の部分)から引っ張ってきたWANを直接つないで、接続されないなぁと思っていました。どうやらルーターを挟まないとダメみたいです。
以上の解決として
・ルーターを別のものに替える
・ルーターを二台用意してもしもに備える
・ルーター以外で故障があった際どうするかを考えておく
ex)俯瞰カメラがだめ→直接つなぐグラウンド上のカメラのみで配信、スイッチングハブがだめ→PCの場所移動+カメラをグランドのみetc
の3点をしました。
また、グラウンドではなく学校の部屋でPCを用いて(LANケーブルを伸ばし切らずに)映像の送受信と配信ができることを事前に確認しました。
§4 妥協ポイント
スポーツ中継などで必ずある必要なものがあります。そう、歓声です!「わー」とか「がんばれー」とか、そういうのがあってこそ、現地の盛り上がりや熱量を配信を通して伝えることができます。しかし、弊校では昔から競技中に音楽を流すことになっていました。もちろん、歓声(ガヤ)だけを録ろうとしても絶対にその音楽が入ってきてしまいます。それが配信に乗ってしまえば、著作権的に完全アウトです。そこで、選択肢としては
①音楽を著作権フリーオンリーにする
②音楽を流すのやめる
③生徒の近くにマイクを設置してしまい音の大きさで誤魔化す
④歓声を乗せない
の4つがありました。しかし①、②は配信がどのくらいの需要があるのかもわからない+あくまで現地が主役の中、現地サイドの環境を妥協させるわけにはいきませんでした。③は生徒がマイクの近くで変なことを発言すると終わる、音楽がうっすらでも乗ってしまうのでそれが平気かわからない、の二点で却下しました。
以上から、残念ながら④の歓声なしでの配信となりました。
§5 本番時に大変だったこと
ネタバレをすると幸いルーターは安定して動き、サブルーターは使用しませんでした。
以下は当日に起こってしまったことなので、大体原因が不明のままです。
①Wi-Fi使えない問題
本番前には、Wi-FiとNDIアプリを用いてiPhoneをハンディカメラのように使用しようとしていました。前日の事前確認では遅延はあるものの綺麗に映像を送受信できていましたが、当日行おうとしたところ遅延も、画質も、フレームレートも終わっていたので、諦めました。なぜそうなったかは分かりませんが、トラフィックが多すぎて使用できる帯域が狭かったか、Wi-Fiがダメだったかのどちらかだと思います。
②カメラの充電問題
一眼の充電がPCからUSBを介してされず、バッテリーを使用する仕様だったためバッテリーが切れてしまうことがありました。これは、4つのバッテリーパックを利用して、充電と使用を交互に行うことで解決しました。
グラウンド側にあったビデオカメラは、ACから充電しながらHDMI出力を得ることができたためこの問題はありませんでした。
③画質がたまに終わる問題
ビデオカメラから得た映像は、(NDIを用いてないからか)常に安定していましたが、NDIを利用していた俯瞰カメラはときどき乱れていました。送出側のOBSは安定していたそうなので、NDIの問題だと思いますが、原因はわかりません。しかし、2/3は安定しているので、乱れているカメラの映像は使わないだけで解決できました。
④音質終わってる問題
何故かワイヤレスレシーバーから受け取って配信に乗せた声がガビガビするという現象が起きました。まじで原因わかりません。一応聞き取れるけど、予算少ないラップバトルの動画みたいになってしまいました(伝われ)。スマホなどで見ている分にはそんなに影響はないものの、ヘッドフォンなどを使用して聞くとかなり気になりました。
§5 本配信の需要とインプレッション
本配信は、事前に配信告知を紙で配布したうえで、前日夜にメールで限定公開のURLを送信の形としました。また、アーカイブを終了後1か月公開しました。
弊校は中高6学年で生徒数1000人ほどと小規模ですが、大体、配信では同時接続が平均して250人、アーカイブの視聴回数は7600回、ユニーク視聴者数が2000人近くと予想より多くの親御さんに見ていただきました。
終了後、ご両親だけではなく遠くに住まわれているおじいさまやおばあさまにURLを送信して、見ていただいたという例も耳にしました。
コロナ禍が終わりつつあるころに今更オンライン配信か、(今回は保護者の来校も可能だったため)という気もしましたが、お仕事や場所、時間的要因で来校が厳しい、酷暑なので家からあまり出たくない、などが今回のオンライン配信が盛り上がった理由ではないかと思います。
§6 おわりに
最後までお読みいただきありがとうございました。この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。