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PA基礎知識+α

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§0 はじめに

§0-0 この記事を読む前に

この記事は、PAを行う上で必ず覚えておく知識を書いたものではなく、とりあえず読み流していただこうと思って書いています。(もちろん、すべて覚えるのに越したことはありませんが...)また、多少必要なのに欠けていたり間違っていたりすることがあると思います(もし間違えがあったら編集リクエストを送ってください)。以下の警告

で囲まれた部分については、PAに全然必要のない、物理や物理学史、数学や雑学について触れているものですので、興味がある人のみ読むのをお勧めします。

この記事を読むうえで参考になると思われるサイトたちを以下にまとめます。

サイト名とURL 詳細
YAMAHA PAビギナーズガイド YAMAHAによるPA初心者向けの解説サイトです。基本事項が分かりやすくまとまっています。初心者向け。
サウンドハウス PAシステム講座 PA機器等を取り扱うサウンドハウスによる解説サイトです。機材の詳細な説明や選定方法等が載っています。中-上級者向け。
YAMAHA How To Mix Live Music YAMAHAによるPA初心者向けの説明動画です。基本の接続方法からそのミキシングまで幅広く基礎事項を丁寧におじさんが英語で説明してくれています。日本語字幕がついているので英語で喋られるけど安心。初心者向け。(一番オススメ)
【この記事の目次】
§0 はじめに
§0-0 この記事を読む前に
§0-1 PAとは
§0-2 音とは (発展)
§1 PAで使われる用語
§2 PAで使う主な機材
§2-1 マイク(microphone)
§2-2 ミキサー(mixer)
§2-3 スピーカー(speaker)
§3 PAで使う主なケーブルと端子
§3-1 ケーブルの伝達方法
§3-2 よく使われるケーブルや端子

§0-1 PAとは

PAは、Public Address の略で、しばしば「公衆伝達」とも訳されます。
本来、PAという言葉自体はシステム機器を指す言葉ですが、PA機材を操作する人を指す言葉としても使われます。(→PAさん)

PAは、基本的に 音を、「:microphone2:集音→(調整→)伝達:speaker:」することが仕事 です。ライブハウス等でのPAの仕事が一番想像しやすいのではないでしょうか。要するに各楽器やボーカルマイクの音を、機材を使い調整したうえで、スピーカーから出す、というのが仕事です。

§0-2 音とは(発展)

発展:物理
PAをする上で、私たちは「音」を扱います。まず、「音」とは何でしょうか。普段、音は空気の疎密として耳に入り、鼓膜が振動し電気信号に変換され脳に伝達されます。実際は、音は空気以外にも固体、液体の構成粒子を振動させることで、音を伝える物質(媒質)の状態にかかわらず伝達されます。
逆に、絶対零度(粒子が完全に運動を停止した状態)の媒質を音が伝わっていくことはできません。これを考えるうえで、よく教科書等で目にする「音速(m/s)= $331.5 + 0.6t$ ($t$:摂氏)」に $t=-273$ を代入すると167.7(m/s)と与えられますが、これはこの式がもっと正確な式の $t=0$ 周りの1次のテイラー展開(近似)(=マクローリン展開)であることに由来します。
また、音は疎密波という波の一つです。波というものは、ある物質の状態や情報が、伝える物質(媒質)によってどんどん伝達されていく現象のことです。音は、媒質の振動(圧)が隣の媒質に伝わっていくことで、伝達されます。また、音が進む方向と同じ方向に媒質が振動しているので、音は縦波です。(進行方向と垂直な方向に振動する波を横波といいます。)
また、波の特性として、回折というものがあります。音源と自分との間に板を置いたとしても、その板を回り込んで音が聞こえます。この現象を回折と言います。PAを行う上で注意しなければならないのは、マイクとスピーカーの間に障壁があったとしても回り込んでしまい、ハウリングしてしまう可能性があるということです。(もちろん、障壁があれば、ない時よりも観測できる音量は小さくなります。)
ざっくりとここまでをまとめると、「音」は「波」であり「空気(など)の疎密」であり、「回折」する、ということです。

発展:数学
上で、音速の式が正確な式の1次のテイラー展開である、と書きましたが、実際に計算して近似式を出してみましょう。 ちなみに、下にある $f(t)$ に $t=-273°C$ を代入するとしっかりと0になることが確認できます。音速が以下の $f(t)$ になることは、音速について考えてみよう! 金沢工業大学 中村晃(直接PDFへのリンクになっています)を参考にしてください。

気体定数 $R=8.31 \quad J/(mol・K)$  空気の平均分子量 $M=2.89\times10^{-2} \quad kg/mol$  乾燥,0°C空気の比熱比 $γ=C_p/C_v=1.40$ (ただし $C_p$ は定圧比熱、 $C_v$ は定積比熱)  とする。

$t°C$ での音速 $\begin{aligned}f\left( t\right) =\sqrt{\dfrac{273Rγ}{M}}\sqrt{1+\dfrac{t}{273}}\end{aligned}$ とおく。
すると
$\dfrac{d}{dt}f\left( t\right) =\sqrt{\dfrac{273R\gamma }{M}}\dfrac{1}{273}\dfrac{1}{2}\dfrac{1}{\sqrt{1+\dfrac{1}{273}t}}$ である(合成関数の微分)。

よって、 $f(t)$ の $t=0°C$ 周りの1次近似式(テイラー展開)は、 $f\left( t\right) =f\left( 0\right) +t\dfrac{d}{dt}f\left( 0\right)$ で、

\begin{aligned}f\left( 0\right) &=\sqrt{\dfrac{273R\gamma }{M}}\sqrt{1+\dfrac{0}{273}}\\
&=\sqrt{\dfrac{273R\gamma }{M}}\\
&=\sqrt{\dfrac{273\times 8.31\times 1.40}{2.89\times 10^{-2}}}\\
&\simeq 331.51\end{aligned}

\begin{aligned}\dfrac{d}{dt}f\left( 0\right) &=\sqrt{\dfrac{273R\gamma }{M}}\dfrac{1}{273}\dfrac{1}{2}\dfrac{1}{\sqrt{1+\dfrac{0}{273}}}\\
&=\dfrac{1}{2\times 273}\sqrt{\dfrac{273R\gamma }{M}}\\
&=\dfrac{1}{2\times 273}\sqrt{\dfrac{273\times 8.31\times 1.40}{2.89\times 10^{-2}}}\\
&\simeq 0.6071\end{aligned}

なので、以上より $f(t)$ の $t=0°C$ 周りの1次近似式(テイラー展開)は、 $f(t)=331.5+0.6t$ とわかった。

ちなみに、2次近似式を求めると、

\begin{aligned}\dfrac{d^{2}}{dt^{2}}f\left( t\right) &=\sqrt{\dfrac{273R\gamma }{M}}\dfrac{1}{273}\dfrac{1}{2}\left( -\dfrac{1}{2}\right) \dfrac{1}{273}\left( 1+\dfrac{t}{273}\right) ^{-\dfrac{3}{2}}\\
&=-\dfrac{1}{4}\sqrt{\dfrac{R\gamma }{M}}\left(273\right) ^{-\dfrac{3}{2}}\left( 1+\dfrac{t}{273}\right) ^{-\dfrac{3}{2}}\\ &=-\dfrac{1}{4}\sqrt{\dfrac{R\gamma }{M}}\left( 273+t\right) ^{-\dfrac{3}{2}}\end{aligned}

であるので、 $f(t)$ の $t=0°C$ 周りの2次近似式(テイラー展開)は、 $f\left( t\right) =f\left( 0\right) +t\dfrac{d}{dt}f\left( 0\right) +\dfrac{t^{2}}{2!}\dfrac{d^{2}}{dt^{2}}f\left( 0\right) $ で、

\begin{aligned}\dfrac{1}{2!}\dfrac{d^{2}}{dt^{2}}f\left( 0\right) &=\dfrac{1}{2\times1}\left(-\dfrac{1}{4}\sqrt{\dfrac{R\gamma }{M}}\left( 273\right) ^{-\dfrac{3}{2}}\right)\\
&= -\dfrac{1}{8}\sqrt{\dfrac{8.31\times 1.40}{2.89\times 10^{-2}}}\left( 273\right) ^{-\dfrac{3}{2}}\\
&\simeq -0.000556\end{aligned}

なので、以上より $f(t)$ の $t=0°C$ 周りの2次近似式(テイラー展開)は、 $f(t)=331.5+0.6t-0.000556t^2$ とわかった。
ちなみに、正しい式と1次近似式、2次近似式を、縦軸音速[m/s]横軸温度[°C]として並べて描くと以下のようになる。緑線fが正しい式青線gが1次近似式赤線hが2次近似式である。もちろん、 $t=0$ 付近では二次近似のほうが近いが、そこから大きくなっていくと一次近似のほうが近くなる。
geogebra-export.png



§1 PAで使われる用語

以下で、PAをしていてよく聞く用語等を解説します。
機材名称は、§2で扱います。

イヤモニ・インイヤーモニター・IEM・耳中(みみなか)
ステージ上にいる出演者への返し用イヤホンやそのシステム。イヤモニを使用することで、ボーカルにはボーカルを強めに返したり、PAなど裏方側からの指示を通すことが可能になる。ボーカル用のフットが不必要になるため、ハウリングの危険性が減少する。
SR(えすあーる)
サウンドリインフォースメント(Sound Reinforcement)。PAの中で特に舞台音響で音楽を扱うものを指す。PAは業務放送等の拡声、伝達の意味合いが強いのに比べて、SRは音楽等を調整(増強:Reinforcement)して聴衆に聴かせる意味合いが強い。
SE(えすいー)
効果音のこと。サウンドエフェクト(Sound Effect)。
音出し
楽器やマイク等の入力機器とスピーカーまでの接続を済ませた状態で、実際に楽器等から音を出して正しく接続され、出力されているか確認したり、ミキサー(ミキサーのリンク)の調整を行ったりすること。本番前に行われる。
オンマイク・オフマイク
楽器からマイクの距離が 近いこと=オンマイク <-> 遠いこと=オフマイク

ゴッパー・ゴッパ・ゴッパチ・ゴーハチ
SHUREのマイク、SM58の愛称。詳しくは§2-1参照。
コンソール
機材のこと。特に、大きくて固定されているものを指す。例)ミキシングコンソール≃ミキサー。

ステレオ<->モノラル
音の信号を、左右で別々に扱う方法(ステレオ)。音に立体感を持たせることができる。<->音の信号を一つの電気信号で扱う方法(モノラル)。モノラル信号を左右あるスピーカーに送ると、左右同じ音量で出力される。音質はモノラル、ステレオで差はない。
PAN:入力された音を右左に振る機能=左右の出力度合いを調整できる。
外音(そとおと)・中音(なかおと)
ステージ外の音=観客が聞いている音を外音、ステージ中の音=演者が聞いているのを中音と言う。

DI(ダイレクトボックス)
エレキギターやエレキベースからの信号を変換してミキサーに取り入れるための機器。これを挟むことで、楽器から送られるアンバランス信号をバランス信号に変換しノイズが抑えられ、さらに楽器とミキサーを直接接続するとおきるノイズの発生と高域の減衰を抑えられる。(バランス信号については§3-1参照)電源が不必要なパッシブタイプ、電源が必要なアクティブタイプ等色々な種類が存在する。
機器のことを指す。例)音響操作卓、照明卓
トランスミッタ
有線信号を無線信号に変換し送信する機器のこと。transmitter。逆に、無線信号を受信して有線信号に変換する機器のことはレシーバという。
緞帳(どんちょう)
ステージと観客を仕切る幕。一般的には音楽目的で使用する際は緞帳は使用されないことが多い。

ハウリング
スピーカーからでたマイクの音が増幅されスピーカーから出力され、それをマイクが集めた音が増幅されスピーカーから出力され、それをマイクが集めた音が増幅されスピーカーから出力され、それをマイクが集めた音が増幅されスピーカーから出力され、それをマイクが集めた音が増幅されスピーカーから出力され、.....ることによって起きる現象で、キーーンという音が大爆音で鳴る。PAが本番中かなり怖がっているもの。
ファンタム電源
コンデンサーマイクなど、外部電源を必要とする機器を動かすために必要な微弱な電流(→おばけ(ファンタム))のこと。48Vが一般的だが、9V,12V,18V,24Vなども存在する。
フェーダー
音響調整卓や、照明卓についている、上下(奥手前)に動かして連続的に(音量や明るさ等を)調整できるつまみのこと。
フット・転がし・跳ね返り・フォールドバック・FB
フットモニタースピーカー(=フロアスピーカー)のこと。ステージ上に置かれるスピーカーで、演者側へスピーカーから演奏音を流す。これがないと演者は基本的に観客側に流れている音はよく聞こえない。
プロセニアム
ホールを長方形と考えたとき、ステージがある面の、ステージ以外の部分(ググるとわかりやすい画像が出てきます)。
使用例)プロセニアムスピーカー

マイクスタンド
マイクを立てるためのスタンドのこと。ボーカル等に使われるまっすぐ伸びているストレートスタンド、弾き語り等に使われる途中から折れ曲がるブームスタンド、ドラムや集音に使われる高い位置でT字になっているオーバーヘッドスタンド、アンプ等に使われる背の低く折れ曲がるショートブームスタンド、机の上において使う卓上マイクスタンド等色々な種類がある。



§2 PAで使う主な機材

以下では、PA業務をするときによく使う、基本的な機材等を説明します。

§2-1 マイク(microphone)

マイクは、人間や楽器等から発せられた音を集音する機械です。簡単なセレモニーから、複雑なバンドPAまで、いろいろな場面で使用されます。
マイクは、主にその仕組みによって大きく ダイナミックマイクコンデンサーマイク に分けることができます。また、もちろんその仕組みが違うので、特性や、適している場面も異なります。その違いを見ていきましょう。

・ダイナミックマイク

ダイナミックマイクは、ダイヤフラムと呼ばれる振動板が音を受けて振動→それに付属するコイルが振動→コイルを磁場が貫通しているので電磁誘導により、コイルに誘導電流が流れ、電気信号を出力します。(フレミングの右手の法則)

発展:物理学史
1820年に、デンマークのハンス・クリスティアン・エルステッドが初めて電流が磁気(方位磁針)に及ぼす影響を発見しました。また、フレミングの右手/左手の法則は、フレミング自身が事象を発見したわけではなく、この覚え方を提案したことから名付けられています。

(これを逆に利用し、電気信号により振動板を揺らし音を出すのがダイナミックスピーカーです。)
今説明した方式の物は、ダイナミックマイクの中のムービングコイル型と呼ばれるもので、この他にリボン型というものがありますが、あまりPAで使用する機会はありませんので、今回はリボン型の説明は省略します。
PA界隈で大きな支持を得ているSHURE SM58や57、AKG HT470がダイナミックマイクです。
ダイナミックマイクは、その耐久性の高さからよくライブのボーカルマイクとして使われます。SM58は、12口径のショットガンで撃たれても耐えるそうです(詳しくはこちら)。

ちなみに、SM58はスイッチ部分のネジを外し、取れるカバーを逆転させてねじを締めることで、スイッチをオンのまま固定することができます。(画像一番右)

SHURE SM58

・コンデンサーマイク

コンデンサーマイクは、ダイヤフラム側の可動電極板とバックプレート側の不動電極板に電圧をかけておき、ダイヤフラムが音をうけて振動することで、二電極間の距離が縮まり静電容量が変化することを利用して、電気信号を出力します。
電極に電圧をかけておく必要があるので、 使う際にはファンタム電源が必要になります。

一部のコンデンサーマイク( 真空管コンデンサーマイク : 主にレコーディングに使用されます )は別に電源ユニットがあり、そちらから給電するのでファンタム電源は必要としません。

「THE FIRST TAKE」で使用されているボーカルマイクや、AT-2020、お笑いで使われるSONYのC-38B(サンパチ)などがコンデンサーマイクです。
コンデンサーマイクは、その仕組みから、とても細かい音の変化を記録することが可能なので、ボーカルやピアノ等の生楽器のレコーディングなどの広い幅の自然な音を取りたいときに使われます。ただし、耐久性はあまりなく、湿気に弱く、さらにファンタム電源を使用することから、取り扱いに注意が必要ですので、ライブ等でのボーカルマイクとしての使用など、激しく使われる場面には適していません。
また、ボーカルの録音の際には、基本的に下画像左についているようなポップガードというものを付けて使用します。ポップガードを使用することで、「は」や「ぱ」といった破裂音等によっておこるポップノイズを(物理的に)抑制することができます。(本来ポップノイズにはケーブルの抜き差し等によっておこる「ポン」「ポッ」といったノイズも含まれます。)
コンデンサーマイク AT2035
コンデンサーマイク(Audio Technica AT2035 (個人撮影))
(左:ポップガードあり、右:コンデンサーマイク単体)

発展:物理学史
コンデンサー(またはコンデンサ)は、オランダのライデン大学で発明された「ライデン瓶 (Leyden jar または稀に Leyden vial)」が起源となっています。ライデン瓶は、瓶の内側と外側に金属コーティングをしたもので、そこに静電気を蓄えることができます。1746年にクライスト氏が現象を発見、ライデン大学のミュッセンブルグ氏によって発明されたとされています。

発展:物理学史+α
・グレイの送話機
1876年2月14日、世界で初めて、電話に関する特許が二件、出願されました。イライシャ・グレイとグラハム・ベルの二人によるものでした。グラハム・ベルは電話を開発した人、(また、ベル研究所の名前の由来でもあります)として有名ですが、じつはグレイも同時期に電話を発明していたのです。(偶然同時期であったわけではないとされています。)これに関して、特許出願のタイミング等から、ベルではなくグレイが本当の電話を開発した人だ、とする人など、様々な議論が広げられています。グレイの送話機は、水面に対し発話することで水面を揺らし、水の抵抗値を変化させることで音を電気信号に変更するものです。どちらかというとコンデンサーマイクに近いですね。

・ベル研究所と歌声合成
現在では、VOCALOIDやUTAU、CeVIO AI、NEUTRINO等様々な歌声合成ソフトが発売(頒布)され、利用されています。それらの歌声合成の始まりは1961年、ベル研究所のIBM 7094が世界で初めて「Daisy, Daisy, Give me your answer do...」と「Daisy Bell」の一節を歌ったことでした。(検索すれば、音声が出てきます。)(使われたのは、現在の歌声合成では全く使われていない「音響管モデル」という声帯の物理シミュレーションによるものでした。)また、VOCALOIDはここから、2000年のプロジェクトスタートから2003年のプレスリリースまで、社内で「Daisyプロジェクト」と呼ばれていました。

以下で、この2つの違いを見てみましょう。

ダイナミックマイク コンデンサーマイク
耐久性 ×
音の感度
ファンタム電源 不必要 必要
ライブでの使用
レコーディングでの使用

マイクの特徴

マイクには、いろいろな特徴・特性があります。それらを把握することで、欲しい音を拾うことが可能となります。

マイクの指向性

マイクには、そのマイクの特性として「指向性」というものを持ち合わせています。指向性は、どの方向から、どのくらい音を拾えるかという特性のことです。マイクによっては、指向性を切り替えることのできるモデルも存在します。ダイナミックマイク、コンデンサーマイクでの二分により指向性が異なるのではなく、それぞれのマイクがそれぞれの指向性を持っています。大体はそのマイクの仕様欄にグラフが載っています。指向性は、主に 無指向性単一指向性双指向性 の三つに大きく分けられます。それぞれの特性を見てみましょう。それぞれの指向性は、ポーラーパターンというグラフで表されます。ポーラーパターンは、円形のグラフで、マイクに対してどの角度からどのくらい音を拾うかを表します。

・無指向性(Omni-direction)

無指向性のポーラーパターン
無指向性のポーラーパターン
from Galak76 on Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0

ポーラーパターンの0°向きがマイク前側、180°向きがマイク後側です。黒い太線が、拾う音の大きさを表していて、無指向性はすべての角度から均一に音を拾えることがわかります。このことから、会議の録音用などに用いられます。

・単一指向性(Cardioid)

単一指向性のポーラーパターン
単一指向性のポーラーパターン
from Nicoguaro on Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0

単一指向性は、主にマイク前側から集音し、適度に側面からも音を拾います。多くのマイクが単一指向性です。SM58も単一指向性のマイクです。

発展:数学
単一指向性は「カーディオイド」とも呼ばれます(Cardioid)。数学にはカージオイドという曲線があり、それを以下の極座標 ( $r,\theta$ ) の方程式を満たす曲線としています。
$r = a(1+cos\theta)$ (aは定数)
この数学の「カージオイド」と単一指向性の「カーディオイド」は同じCardioidを指します。実際、上の極方程式を満たす曲線は、上に記載したポーラーパターンを横に倒したようなグラフになります。カーディオイドという名前は、このグラフの形が心臓に似ていることから名付けられました。

・双指向性(Bidirectional)

双指向性のポーラーパターン
双指向性のポーラーパターン
from Galak76 on Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
双指向性は、マイクの前方と後方からよく音を拾い、側面からはあまり拾いません。この性質から、ラジオの録音や、小型マイクの場合はノイズキャンセリング用に用いられます。

近接効果

単一指向性や、双指向性など、指向性をもつマイクについて起こるもので、マイクの近くに音源があると低音が強調されてしまう現象です。これは、二枚のダイアフラムに、音が時間差をもって到達することと、低音の周波数が低いことが原因となります。一部マイクには、これによる低音の増幅を抑えるために、ローカットフィルターというものがついています。(※電磁気学でも、同名の現象がありますが、これは違うものです。)


§2-2 ミキサー(mixer)

ミキサーとは、PAを行う上でなくてはならないといっても過言でない機材です。
主に集めてきた 音を 入力し、このミキサーで聞きやすく 加工し 、集めて(mix)スピーカーなどに 出力します。 音の大きさの調整から、エコーをかけたり、音自体を調整したり(低音を強く、etc.)することができます。音の調整には、いろいろなエフェクトが使われます。

ミキサーは大きく、 アナログミキサーデジタルミキサー に分けることができます。以下で、二つの違いを見てみましょう。

・アナログミキサー

アナログミキサーは、入力された音データ(電気信号)に対し、そのまま物理的に信号を変調することで、エフェクトをかけたり、大きさを調整したりします。
YAMAHA MGPシリーズや、個人向けに人気だったAG03などが、アナログミキサーです。
YAMAHA MGP16X

・デジタルミキサー

デジタルミキサーは、アナログミキサーとは違い入力された音データ(アナログ)をデジタルに変換(A/D変換)してから処理を加えます。YAMAHA TFシリーズや、MIDAS M32、PerSonus(→有名なDAWのStudioOneの会社) StudioLive等がデジタルミキサーです。
YAMAHA TF3

以下で、軽くアナログミキサーとデジタルミキサーの違いについてみてみましょう。

アナログミキサー デジタルミキサー
値段 安い 高い
操作 簡単 難しい
シーンの記憶 できない できる
値の細かい設定 できない できる
音の"流れ" わかりやすい わかりにくい

エフェクト

エフェクト(FX(エフェックス)とも呼ばれる)は、文字通り入ってきた音に対しかける効果(Effect)のことです。(FXと呼ばれるのはEffectsとFXの音が似ていることからと言われています。)エフェクトと一口に言ってもいろいろありますが、以下では主にミキサーに搭載されていてよく使用するものを紹介します。どのような設定で実際使用するかは YAMAHA PAビギナーズガイド を参照してください。以下に、エフェクトが主にどの楽器に使用されるかが記載してありますが、これはあくまでPAを行う上での話です。DTMでのMix等ではここに書かれていない楽器に使用されることもあります。

・リバーブ(REVERB)

音にその残響(Reverb)音や反射音を加えます。Hall,Room,Stage等、その場所で発したものをシミュレーションするものもあります。主にアコースティック楽器に使用したり、Plate reverbという、金属板の振動により残響を得る手法をシミュレーションしたものを、ボーカル用に使用することが多いです。

・ディレイ(DELAY)

音を時間的に反復させます。特徴的なものに、ピンポンディレイ(Ping Pong Delay)というものがあります。これは、ディレイを左右を往復しながらかけるものです。ディレイはボーカル用に限らず、ギター等にも使われることが多いです。

・コンプレッサー(COMP)

大きすぎる音を小さくし、小さすぎる音を大きくして、音量差を圧縮します。このエフェクトはボーカルだけでなくベースやドラム等色々な楽器に使用されたり、マスター(音をすべて集めた最終出力)に対して、大きな音やノイズを防ぐために使用されたり(→リミッターと言います)、音を整えるために使用されたりします。

・イコライザー(Equalizer,EQ)

音の特定の周波数成分を増減させます。低音域(低周波数)はLOW、中音域はMID、高音域(高周波数)はHIGHと表されます。周波数帯域が数個に分けられていて、特定の周波数以下を減衰させる(⇔特定の周波数以上(high)を通過(pass)させる)ハイパスフィルター(HPF)、同時に調整するパラメトリックイコライザー、周波数ごとに細かく調整できるグラフィックイコライザー(主にデジタルミキサーに搭載されています。ミキサーと一体化していない独立した機器もあります。)などがあります。イコライザーを使用して楽器ごとに"周波数のすみわけ"をしてあげると、ひとつひとつの存在感が出てきれいに聞こえます。また、事前セッティングによりハウリングを抑制するためにも使われます。

・ゲート(GATE)

一定の音量以下の音を圧縮します。ノイズ抑制等に使われます。

§2-3 スピーカー(speaker)

以上で集音し、整えた音を出力するPAの末端の機器になります。すでにライブハウス等では組み込まれていますので、操作することがあまりないことが多いと思います。(ステージにスピーカーごと持ち込んで行う大規模なイベントもあります。)スピーカーは、(当たり前かもしれませんが)ここまで取り扱ってきた電気信号を、私たちの耳で聞こえる音に変換する機器です。主にその方式と役割の2つによって分類されています。

・方式による分類

・パッシブ(passive)

パッシブスピーカーは、入力された電気信号をそのまま何もせずに(受動的に→passive)音に変換するスピーカーです。ミキサーで整えた音の信号を「パワーアンプ」にて増幅したのちに入力する必要があります。また、パワーアンプとパッシブスピーカー同士の接続用に後述のスピコン端子が採用されています。

・パワード(powered)

パワードスピーカーは、パワーアンプを内蔵した(→powered)もののことで、入力された電気信号を増幅して音に変換するスピーカーです。ミキサーとスピーカーの間にパワーアンプを必要としません。

・役割による分類

・メインスピーカー

観客に向けて設置された、メインとして使用されるスピーカーのことです。大型のものが多いです。

・サブウーファー

観客に向けて設置された、メインスピーカーで補いきれない低音を主に出力するスピーカーのことです。

・フットモニタースピーカー

ステージ上に置かれるスピーカーで、演者側へスピーカーから演奏音を流します。これがないと演者は基本的に観客側に流れている音は反射音としてか聞こえないのでよく聞こえません。(§1の用語から再掲)

・サイドフィル

ステージ上に、袖側に置かれ、真横を向いているスピーカーのことです。フットモニタースピーカーは短い範囲しかカバーできませんので、ボーカル等演者が移動すると音が聞こえなくなる可能性があります。それを補いどこにいても聞こえるよう設置するスピーカーがサイドフィルです。

§3 PAで使う主なケーブルと端子

以下では、PA業務で主に使用するケーブル・端子や、その伝達方法などを紹介します。この他にも使われるケーブルはありますので、それらは扱うときに都度各自調べてください。

§3-1 ケーブルの伝達方法

マイク(ライン)ケーブルを使用して、音を伝達する方法は、主に、バランス接続とアンバランス接続の2種類があります。それぞれの特徴とその仕組みを見ていきましょう。

・バランス接続

バランス接続は、グランド(GND)、ホット(HOT)、コールド(COLD)、の3つを使用して音声信号を伝達します。HOTは音の信号の正相を、COLDは逆相を送信します。それにより、ノイズに強い転送方法となっています。その理由は、転送途中に載るノイズはHOTとCOLDに同じ方向で乗りますが、再生機器側では逆相を反転して正相に重ねますので、ノイズ自身は正相と逆相を足されてしまい、打ち消しあって消されるからです。主に、バランス接続は、キャノン(XLR)ケーブルなどがそれにあたります。

・アンバランス接続

アンバランス接続は、バランス接続とは違い、グランド(GND)、ホット(HOT)、の2つを使用して音声信号を伝達します。バランス接続のようにノイズを打ち消すような仕組みはありませんので、弱点としてノイズに弱いことが挙げられます。しかしその代わりに、バランス接続より安価です。

§3-2 よく使われるケーブルや端子

・キャノンケーブル(XLRケーブル)

PAをする上で使用しないことはほぼないともいえるケーブルです。呼び方は、「XLRケーブル」や、開発したキャノン社(日本のキヤノンではないです)から取って「キャノンケーブル」と呼ばれる3ピンのケーブルです。先ほど挙げたようにバランス接続が可能で、マイクやミキサーからアンプ等幅広く使われています。機器から出力する用に機器にオス(マイク本体にはオス)、機器に入力する用に機器側にメス(ミキサーのInputにはメス)端子が使用されるのが普通です。また、XLRケーブルを使用することでファンタム電源を供給することが可能です。
XLR端子
XLR端子(個人撮影)(左:メス、右:オス)

1番がGND、2番HOT、3番COLDが現在の主流です。が、一部2番COLD、3番HOTも存在します。

・フォーンケーブル

フォーンケーブルは、キャノンケーブルと違い、色々な種類があります。まずその端子の大きさの違いで標準、ミニ、その極数の違いにより2極、3極に分かれます。
端子の大きさの違いでは楽器等の接続に用いられる標準フォーンが端子直径6.35mm、普段イヤホンやヘッドフォン等でよく目にするミニが端子直径3.5mm、トランシーバー等に採用されているマイクロが2.5mmです。(2.5mmと3.5mmは直径で呼ぶことがあります)

発展:雑学
ちなみに、直径の表記で⌀3.5mmのように表されていることがあります。これは直径記号(DIAMETER SIGN)で日本語では「まる」「ふぁい」「ぱい」と読みます。製図等手書きの際ではギリシャ文字「φ」(ふぁい)で代用することがあります。これらに似ている記号が色々ありますが、文字コードの規格のひとつであるUnicodeでは、すべてを違うものとして定めています。
直径⌀ (U+2300) / 空集合∅ (U+2205) / 大文字ファイΦ (U+03A6) / 小文字ファイφ (U+03C6) / ファイϕ (U+03D5) / 大文字斜線付きO(オー)Ø (U+00D8) / 小文字斜線付きO(オー)ø (U+00F8) / 無声両唇摩擦音の国際音声記号ɸ (U+0278) / 円唇前舌半狭母音の国際音声記号ø (U+00F8)

極数は、そのケーブル内に何本の電線が通っているかを示し、その分情報を伝達できます。(ただし、最低1本はGNDとして使用するので最高で極数-1が情報伝達に使用されます。(LRそれぞれに対しGNDを用意するように使用することもあります。))
また、T(チップ)R(リング)S(スリーブ)の3文字を使用して、2極はTS、3極はTRS、4極はTRRS...というふうに表すことが多いです。TSは1情報しか送れないのでモノラルのアンバランス接続、TRSは2情報送れるため通常ステレオ(L,R,GND)のアンバランス接続、またはモノラルのバランス接続(正相,逆相,GND)に使用されます。
ギターなどとアンプを繋ぐケーブルをよく演奏者が「シールド」と呼びます。この「シールド」は標準フォーンのTS(モノラル・アンバランス接続)を指します。
ミニとシールドケーブル
ステレオミニ(左)とシールド(右) (個人撮影)


TRRSとTRS
TRRS端子(3.5mm;左)とTRS端子(3.5mm→標準TRS変換アダプタ;右) (個人撮影)

「シールドケーブル」と一般的に言うと、標準フォーンTSのみではなく、本来の意味である電磁波によるノイズを減らすために電磁シールドが施されたケーブルのことを指します。

・RCA端子

意外とよく見る端子です。白と赤の端子で音声のLRを伝達します。
(その他RCA端子には色々な用途とそれに対応する色が設定されています。)
一昔前はコンポジット映像端子の黄色と赤・白の三本で映像と音声を入出力するために使われていました。
RCA端子

RCA端子、赤白(左:オス、右:ミニコンポにあるメス端子)(個人撮影)

・スピコン端子

パワーアンプとパッシブスピーカーを繋ぐために使われる端子で、差し込んだ後回すことでロックをすることができます。プロ向け製品に主に採用されます。
スピコン端子
スピコン端子(左:機器側、右:ケーブル側)(いらすとや より)

発展:物理
シールドケーブルのところで、電磁シールドという言葉が出てきました。電磁シールドというのは、導体で囲むことで、内部が外部の電磁場から影響を受けないようにされたシールドのことで、ケーブルでは導線の周りを包むようにシールドが施されています。外部を囲むように設置される導体のことを、ファラデーケージとよびます。ファラデーケージの例としては、車(落雷を受けても中の人間は感電しない)、鉄筋コンクリート製の建物(その中からは外部からの電波等(携帯向けのデータ通信用など)につながりにくくなります)などがあります。
ファラデーケージは導体製で、外部の電界によりファラデーケージ内部の電気量が静電誘導され、その静電誘導された電気量により内部に新しく電界ができます。その内部にできた電界と外部の電界が打ち消しあうため、ファラデーケージ内は外部の電界に影響されないのです。

さいごに

ここまでお読みいただきありがとうございました。この記事が少しでもお役に立てたのであれば幸いです。

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