巷では取得可能なAWS認定資格をフルコンプリートすることを"全冠"と呼ぶそうですね。アラフォー文系分析官の筆者も先日晴れて全冠を達成することができました。その過程で私が感じた四方山話をこちらで共有できればと思います。
はじめに
筆者は文系卒でありエンジニアのバックボーンを持たない人間です。そんな私ですがAWS認定試験を通じて、自身の知識や行動パターンに変化が現れていきました。せっかくの機会ですので、分析職の目線からAWS認定試験にまつわるポエムを発表していきたいと思います。以下のような分析職の方々を想定読者層としております。
- エンジニアリング領域の知識に悩みを持つ分析職の方
- AWS認定資格の受験を検討されている分析職の方
- CLFやSAA取得済みで次のAWS認定試験にお悩みの分析職の方
- AWS認定試験全冠するメリットをざっくり知りたい方
なお、AWS認定試験は、充実の公式資料を始めとして、素敵な書籍や素晴らしいブログが多数存在しておりますので、私自身の具体的な勉強方法については割愛させていただきます。
目次
1.前振り
2.全冠達成のメリット/デメリット
3.試験情報アラカルト
前振り
資格取得の背景やAWS認定試験受験前の筆者のスキルセットについて軽く触れています。メリット/デメリットをすぐに確認したい方はこちらからどうぞ。
分析職の分業化
私の名刺には「データサイエンティスト(DS)」という肩書が入っていますが、知人に私の職業を説明することは骨が折れる作業の一つです。
データサイエンティストに代表される分析関連職については、比較的新しい職業であるため、役割定義が発展途上な部分もあることは分析業務に携わる方なら既にご存じなのかと思います。
有名な「ビジネス/サイエンス/エンジニアリング」というフレーズに代表されるように、業務の領域が多方面に広がっており、ジャンルを問わず様々な相談も持ち込まれたり、持ち込んだりする場面に遭遇します。
近年では、さすがに一人で何でもできるスーパーマンに頼るよりも、業務や専門知識といった軸で職務を線引きした分業によるチーム体制がスタンダードになってきたかと感じています。
分業後も、業務内容や必要なスキルセットは所属企業や分析環境によって振れ幅がありますが、データサイエンティストよりも機械学習エンジニアのほうが情報システムには詳しいであろうことは、同業の方であればご理解いただけると思います。
結節点であるPM
分業化が進んでいるとはいえ、分析職の世間一般的なイメージとしては、「プログラミングしてる≒ITに強い≒情報システムに強い」という連想がされているのかとは思います。冒頭記載の知人への職業紹介のシーンでも「ITお詳しいんですね」というリアクションはよく頂きます。
そのような世間のイメージを強く体感するのが、プロジェクトマネージャー(PM)になるのかと思います。プロジェクトのコミュニケーション結節点であるPMは、一昔前と同様に幅広い領域のお話についていかねばなりません。
どの職種でもあるあるの話?
私は前職がアプリ企業の営業職だったのですが、その際も同じような悩みに直面していました。営業だから自社サービスの販売/顧客管理が専門領域のはずなのに、顧客側は自社システムへの組み込みやwebプロモーション全般の相談、NDA契約や経理にまつわる話など様々な話に対応していく必要がありました。
当時の私は、中小企業診断士というビジネス関連を広くカバーする資格を取得していたこともあり、未経験の相談でもスムーズにキャッチアップすることができた原体験がありました。
AWS認定試験で幅広くキャッチアップ
そのような体験もあったので、幅広くエンジニアリング領域をカバーできる手法はないものかと模索していました。当初はIPAの情報処理技術者試験やその他ベンダー試験も候補としていましたが、取得までにかかる時間や業務での親和性からソリューションアーキテクトアソシエイト(SAA)の勉強を始めました。
SAA取得を通じた勉強が非常に役に立ったため、すべての認定資格を取得しようと決意したという背景になります。
ところでAWS認定資格ってどんなもの?
AWSサービスについて一定の知識(Not Skill)を有していることを証明するものです。認定は3年間有効で失効前に更新する必要があります。
2022年12月時点では、基礎1科目、アソシエイト3科目、プロフェッショナル2科目、専門知識6科目あります。1科目あたりの受験料が約1万‐3万円程度、試験に合格するともらえる半額バウチャー使えばもう少しお安くはなるのですが、それでも痛い出費には変わりなくという感じですね。合格するとデジタルバッチがもらえます。
全部コンプリートするとコレクションが完成したみたいでちょっと嬉しくなります。
受験時のスキルセット
受験直前の筆者のAWSのレベル感は以下の通りです。AWSはあくまでデータの取得/分析/レポート作成を行うツールと割り切って使っていました。
- AWS利用経験は約1.5年程度
- Athena, S3, EC2, Code兄弟, ECS/ECR, QuickSightなどを利用
- IAMとかVPCはよく分からないし怖くていじれない
獲得までの道のり
- 2021年9月頃から勉強を始めて、2021年11月半ばにSAAを取得。
- 業務でAWSのCI/CDツールを使っていたので、DVAの勉強を継続。
- そこからブランクありつつも初の専門知識であるセキュリティも合格。
- 調子に乗ってANSに挑むも敢え無く撃沈。
- ここで闘志に火が付き、全資格取得に向けて勉強を本格化。
全冠達成のメリット/デメリット
個人的に感じた5つのメリットと2つのデメリットをご紹介します。
メリット
技術的な素養が高まる
AWS認定試験のラインナップは広範囲に及びますので、これまで触れてこなかった技術面での下地作りには非常に役に立ったと思います。私の場合は情報学部での教育や開発者向け新卒研修などを受けていたわけではなく、業務上で必要な知識を都度インプットしていたので、AWS認定試験を通じて技術面の一般教養的な部分は強化されたと感じています。
またAWSサービスはOSSやエンタープライズ製品をそのまま利用できるパターンも存在しています。基礎知識のみならず、実務における実践的な問題解決の引き出しも増やすことができたかと思います。
世間一般的な情報システムの用語/課題が理解できる
AWSのサービスがリリースされる背景には既存の問題が存在しています。サービス理解を通じて、既存システムが抱える課題とAWS流の解決方法を学ぶことができました。
この「既存システムが抱える課題」については、分析業務だけに従事していると中々見えてこない部分になります。AWSがビジネスとしてサービスを取り扱っているということは、それなりにニーズとして発生しているポピュラーな課題でしょうから、一定程度の汎用性のある課題および解決策をインプットできたのではないかと考えています。
特にAWS公式のBlack Beltシリーズでは、技術の説明のみならず、実際の企業内での一般構成部分をシンプルに説明されていることが多く、初学者のとっかかりとして大変参考になりました。
<出典: AWS BLACK BELT ONLINE SEMINAR: Amazon Route 53 Resolver>
AWSの中で重要サービスや思想が理解できる
複数の領域を学んでいくと、重複する分野や考え方が何度も登場します。S3/VPC/IAMといった基本的なサービスやWell-Architectedフレームワークといった考えが該当します。そうするとある程度初見のAWSサービスでも「AWSならこうするんだろうな」「裏側はあの仕組みを利用しているかな」という勘どころが働くようになります
AWS認定資格それぞれのレベル感が分かる
AWS認定試験受験前は「AWS認定○○取得済み」といった方々の理解度が自分の中で定まっていませんでした。「XX プロフェッショナル」とか「XX スペシャリスト」という名称から相当ハイレベルなイメージをいただいていましたが、現在は「最低限これくらいは理解しているのだろうなぁ」という基準値を持つことができました。この基準値は業績評価や採用面接を行う際に被評価者の方のレベルを測る際のちょっとした目安となっています。
「AWSがちょっとワカル」人に認定される
現在従事しているプロジェクトにおいて、AWSを利用しているため、「AWSがちょっとワカル」ということで、重宝されるようになっていきました。試験勉強の知識はもちろんのこと、ハンズオントレーニングを通じてテスト環境で色々といじっていた経験も積めたので、AWS関連のトラブルシューティングや細かいチューニングなどの相談はだいぶ解像度が高く対応することができるようになりましたし、
デメリット
コストがかかる
非エンジニアリング系出身の方が一から勉強しようとした場合、金銭面および時間的側面のコストはそれなりに必要にかと思います。また仮に一般的なエンジニアリング関連の知識をお持ちの場合でも、AWS関連する概念や用語や専門試験固有のドメイン知識をインプットする必要があります。12個の資格で重複部分があるとはいえ、数か月単位で勉強時間を投下する必要性があるのではと感じています。
金銭面も1-3万円の受験料に加え、参考書籍や有料の解説動画などに手を出すとそこそこお金が掛かります。加えてAWS認定試験は更新制ですので、資格維持にもお金が掛かるのでそのあたりは事前に検討しておくポイントかと思われます。
身にならない資格取得パターンがある
これは悩ましい部分ですが、「その資格取得のパターンって本質的には意味ないよね」と自問自答しながらも取得したケースがありました。私の場合、アソシエイトレベルの資格を先に取得していたため、入門資格である資格を取得すべきか迷いました。また分析業務に従事している人間からすると"AWS認定機械学習ー専門知識"は専門知識部分は正直得るものが少なく受験するのを躊躇してしまいました。
AWS認定試験は実務能力を保証するものではないので、なおのこと全冠はその方の価値観によって左右される面もあるのかと思います。
試験情報アラカルト
私が本記事で読者の方にお伝えしたかったことは上記までであらかた語れたかと思います。ここから先は私が試験当時に記載していた感想や主観的な試験難易度、私がもう一度全冠取得するなこうすると取りやすいのではないかというルートを書き残しておこうと思います。
各試験の雑感
取得時の時系列に沿って各試験の雑感(ポエム)を紹介します。
AWS Certified Solutions Architect - Associate (2021.11)
- 略称: SAA
- これまで知らなかった知識がいっぱいで楽しい
- 一般的なIT用語なのかAWS用語なのかが分かるようになった
- AWSサービスの全体感は掴めるようになる
- 割と最後のほうまでSAA時代に勉強した知識に助けられた
AWS Certified Developer - Associate (2022.1)
- 略称: DVA
- SAA知識+業務経験で4割くらいは知っている肌感
- webサービスやアプリ開発で利用推奨されているサービスは分析官には縁がなくてつらい
- 推しサービスがlambdaになった
- 「手作業は"悪"」という思想が叩き込まれた
AWS Certified Security - Specialty (2022.6)
- 略称: SCS
- SAA/DVA取得済みであったのでサービス名称や使い道はなんとなく知っている
- 各サービスの使い分けや細かい設定部分が問われる
- 一般的なセキュリティ界隈のドメイン知識を抑える必要あり
- セキュリティ関連のAWSサービスの仕組みの解像度が上がった
AWS Certified Cloud Practitioner (2022.9)
- 略称: CLF
- SAA/DVA/SCS取得済みでAWSの知識はあったので模試だけやって挑む
- コストの話からVPCネットワークの話まで範囲広い
- オンプレからの移行検討トピックから受験層が垣間見える
- 半額バウチャーが2枚体制になると受験スピードがアップ
AWS Certified SysOps Administrator - Associate (2022.9)
- 略称: SOA
- 1週間程度の準備期間のうち、8割は実技ラボ対策
- ネットワーク, セキュリティ, CI/CD周りのサービスを体験
- 企業向けのコスト管理/アカウント管理は普段の実務では扱わないので難しい...
- ラボ試験は普段からコンソール触っていればある程度の土地勘は働くかと思う
AWS Certified Data Analytics - Specialty (2022.9)
- 略称: DAS
- Analyticsと銘打っているもののデータエンジニア成分多め
- 前身の資格が「Big Data Specialty」だった流れを汲んでいる
- 弊社の分析ではあまり扱わないリアルタイム処理関連のサービスも取り扱う
- 大規模分散処理フレームワークのコンポーネントを理解しておかないとつらい
AWS Certified Database - Specialty (2022.10)
- 略称: DBS
- DASと試験範囲の重複が多い
- 想定以上にセキュリティや運用の知識が問われたり、データ移行サービスの詳細が問われるのも特徴
- 普段扱わない時系列DBや台帳DBの勉強は面白かった
- サービスの正式名称を意識しだす(ex. Cloud Watch Logs/Cloud Watch Insights)
AWS Certified Machine Learning - Specialty (2022.10)
- 略称: MLS
- 勉強していて一番負荷が少なかった
- 分析関連とAWS知識が半々出てくる印象
- 非分析官も対象なので分析関連の知識は易しい(ex.混合行列, 正則化)
- 分析官ならSAA取得されていれば取得難易度は高くないはず
AWS Certified DevOps Engineer - Professional (2022.10)
- 略称: DOP
- これまで勉強したスペシャリティ知識があれば大丈夫
- DVA/SOAはサービス単体だがDOPは組み合わせが問われる
- 正直、国語の問題な感じがプンプンする
- この試験に合格するとDVA/SOAが再認定されるのがメリット
AWS Certified Solutions Architect - Professional (2022.10)
- 略称: SAP
- 前評判では「最難関」と言われているがそこまでではなかった
- スペシャリティだともう一段踏み込んだ問題割合が多い
- SAPの高難易度問題≒スペシャリティの中難易度問題といった印象
- SAPの高難易度問題が各分野から幅広く出てくるイメージ
AWS Certified Advanced Networking - Specialty (2022.11)
- 略称: ANS
- 2022.9/2022.11と事前に2回受験経験あり
- 新/旧でテストの内容がガラッと変わっているので混乱した
- ネットワーク知識は「マスタリングTCP/IP 入門編」でカバー
- 問題文のネットワーク構成図を正しく書く練習が効果的だった
AWS Certified: SAP on AWS - Specialty (2022.12)
- 略称: PAS
- ERPパッケージ"SAP"の専門用語がツライ
- 基本的にはAWS上でSAPをどう移設/構築/運用するかという視点
- SAPの中身自体を深く問われることはない
- SAPとANSがなければ受からなかったと思う
主観的な難易度
事前知識やその他資格取得状況によっても変化しますので、あくまで目安の一つです。
name | level | comment |
---|---|---|
ANS | 5 | 他のAWS資格で問われるネットワークサービスの概念より2階層くらい深堀り理解が必要。 |
SOA | 4 | 実技があるので、コンソール経由の操作の勘所が必要。 |
SAP | 4 | ネット上では難しい意見多いが、専門系の初級-中級レベル問題しか出ない印象。 |
PAS | 4 | 未知のSAP用語にとにかく苦しむ。SAPとAWSの連携なのでSAP本はさらっとで十分だった。 |
DOP | 3 | 問題文は確かに長いので、国語力と集中力が問われる。 |
DAS | 3 | 分析系資格と思いきや試験内容はデータベースエンジニアっぽい。 |
SAA | 3 | 初期に取得する資格としては広範囲の理解が必要。 |
SCS | 3 | 一般的なセキュリティ知識+AWSのセキュリティへの理解があればOK。 |
DVA | 2 | ある程度AWS上で開発的な経験があるとそこまで苦しまない |
DBS | 2 | 単体としてなら取得価値あるかも。DASと内容重複しているイメージ。 |
CLP | 1 | もっと抽象化された問題が出るかと思ったが、意外と難しいしSAAにはないコストや移行の話もあった。 |
MLS | 1 | SAA取得後のデータ分析官ならほとんど難易度感じないと思う。 |
データ分析職におすすめの全冠資格取得ルート
AWSは未経験、業務でのプログラミングも分析目的で利用しているイメージです。前提として基本的なサイエンス関連の知識は取得済みという想定です。
- まずはSAAで全体知識を取得
- MLSでスペシャリティ試験の感覚を養う
- CLF取得でバウチャー予備ゲット
- 他試験への応用範囲が広いSCSでセキュリティの知識
- クリアできると以後の問題がぐっと解きやすくなるANSを取得
- 内容に重複が多いDAS/DBSを同時期に受験
- DVAで幅広い範囲の勉強を思い出す
- ここまでの知識があれば実務対策もできるはずなのと思いSOA取得
- 長文問題になれるためDVPを取得
- 長文問題かつ範囲が広いSAPを取得
- 他の試験より独立性が高いSAP on AWS取得
最後に
この記事がどなたかの試験受験のきっかけになりましたら幸いです。