Xcodeの拡張機能開発をしようと思ったときに、ふと以下のようなことについて考えた
「OSSにすればコミュニティで開発できるから、自分の負担が減る。」
「GitHubにスターが付けば、エンジニアとしての実力評価に繋がる。」
しかし、同時にこうも思った。
「OSSを使ったビジネスモデルを確立している企業や団体以外のOSSってコミットが数年前で止まってるのをよく見るけど、自分が使いたいのに更新されてなければ意味なくない?OSSを管理し続けるモチベーションって何?」
「そもそもOSSでどう収益あげているの?」
そこで開発に進む前に一度手を止めて論文を読んだのでまとめた。
オープンソースソフトウェアのビジネスモデルの研究
この論文を読んだ。
歴史
三行でまとめ
最初は研究などでOSSが当たり前だったが、
IBMによって1960~70年代に商用ソフトウェアという流れが始まった。
けどその後LinuxがOSSで大成功して、OSSの流れが再度出来ていった。
詳しく
IBMの計算機は1960年代の初めまでは6機全てが別のOSによって動いていたが、1964年に機種を選ばずに使用できるようにシステム360シリーズを発売した。
IBMは接続仕様を公開して、周辺機器を他者が開発しIBM機に接続運用できるようにしたが、この動きはコンピューター本体にも拡大し、互換機ビジネスの隆盛を招いた。それはIBMにとって痛手であり、1969年よりソフトウェアの有償提供を踏み切り、価格分離された「商用ソフトウェア」という考えが生まれた。
これ以前は、研究などでソースコードも同時に公開するのが当たり前の流れだった。
商用ソフトウェア全盛期にもソースコード公開の活動は継続され、代表的な成功例はLinux Torvaldsが手がけた**Linux。**これにより、インターネットを介して世界中のプログラマが1つの研究室に所属しているともいうべき環境が造り出され、インターネット上のプログラム開発者は、公開されたソースコードを見ながら、足りない機能を次々に追加してまた公開した。このようにして公開されたプログラムは次々と改良され、いつの間にかビジネスで使う事の出来る信頼性、品質を備えるようになっていった。
OSSのビジネスモデル
OSSのビジネスモデルについて分類したものが、既存の研究でいくつかある。
立命館経営学の竹田教授の分類
OSSを「ソフトウェア開発者」と「ユーザー事業者」の二分したときに妥当な分類。
1. 寄生モデル
OSS自体を販売や開発するのではなく、OSSを利用したいと言った顧客にOSSを導入する支援を行ったり、要員の教育を代行したり開発したシステムの保守を行うことを業務とするビジネス
大きな事業には発展することが難しい制約がある。
2. 共生モデル
自社のビジネスにOSSを本質的に取り込み、差別化を図り戦略的優位性を獲得しようとのモデル
戦略的地位構築手段としてのOSS
Microsoft社の製品に対抗してIBMをはじめとする電機各社がLinuxをサーバ機のオペレーティングシステムに採用したことなどが言及されている。
3. 一体化モデル
(これは読んだ論文と、引用元の論文での解釈が異なっていたため、引用元の論文のものを記載)
ユーザー数が期待できないアプリケーションについてのOSS化
開発から導入までのコスト以上に運用や保守にコストがかかることは常識なので、ソフトウェアを共有することで保守・強化のコストを案分し、軽減することが目的。
一企業の投資によって開発されるアプリケーションをOSS化することには種々の困難があるが、戦略的な差別化に関わらない業務についてはOSS化によるコスト軽減は今後の企業情報戦略において一つのオプションとなることが期待できる。
Optaros社の分類
ソフトウェア開発者のOSSへの参画動機を分類
Proprietary Offerings(プロプライエタリ オファーリング)
ソフトウェアのOSS版は、一連のプロダクト・ラインの エントリ用として無償で提供され
それとは別に、一般企業が必要とする追加機能、ないし機能強化版が有償のライセンスで提供される。
Dual Licenses(二重ライセンス)
OSSもコマーシャル版も同一のソースコードからなる。
OSS版はGPL(無保証の条件付き利用)で普及
有償のコマーシャル版はサポートなどの付加価値を付けたもの
Subscriptions(購読型)
ソフトウェア自体に価格はない。
パッケージングや新バージョンのリリース、修正パッチ、サポートのために年間利用料を払う。
「寄生モデル」に相当する。
Value Add Services(付加価値サービス)
OSSを使って、顧客の抱えるプロジェクトに対するコンサルテーションやインテグレーション、サポート、ホスティングなどを通した総合的なソリューション提供。
フリーの形態の分類
クリス・アンダーセン氏によれば、無料商品は以下のように分類できる。
フリー1 「直接的内部相互補助」
無料の提供物の恩恵を受ける消費者が、他の有料物にお金を支払うことによって、直接的に無料化した部分のコストを回収できるという方法
(ゼロ円の携帯電話を手に入れると、必ずキャリアの2年間の契約が必要となる)
フリー2 「三者間市場」
コンテンツやサービスなど二者間が無料で交換することで市場を形成し、 第三者があとからそこに参加するためにその費用を負担
(地上波TVがわかり安い例。視聴者は放送局のTVを無料で視聴することが出来、その費用の負担に対して収益をもたらすのはスポンサー企業)
フリー3 「フリーミアム」
有料のプレミアム版に対する基本版を無料で配布し,有料版の収益で無料版を支える
(これはアプリなどでもよく見られる。cookpadなどもプレミアムで人気順検索など解放される。)
フリー4 「非貨幣市場」
注目や評判、喜びや満足感など、貨幣以外のものを対価として得る。
(GitHubのStarなども含まれると思う)
OSSが外部から支援を受ける理由
Karl Fogel氏は著書「オープンソースソフトウェアの育て方」で、
OSSプロジェクトが外部から支援を受ける理由として次のうちのどれか、もしくはいくつかが当てはまるとしている。
- コスト負担を共有する
- サービスを拡大する
- ハードウェアの営業をサポートする
- 競争相手を弱体化させる
- 宣伝効果を狙う
- デュアルライセンスで売り上げを立てる
OSSの成長段階
Fogelは、
「オープンソースプロジェクトが失敗に終わる可能性は、おそらく90~95%とみていい」
と述べている。
これはベンチャー企業の生存率とよく似ており、成長段階は
(1) シード期
(2) スタートアップ期
(3) 急成長期
(4) 安定成長期
の4つに分類できるとしている。
当初の問題
自分がXcode拡張機能をOSSで作ろう!と思った時の
「OSSにすればコミュニティで開発できるから、自分の負担が減る。」
「GitHubにスターが付けば、エンジニアとしての実力評価に繋がる。」
という考えが、
- クリス・アンダーセンの「フリー4: 非貨幣市場」
- Karl Fogelによる「コスト負担を共有する」
に該当していたと理解した。
しかし、調べたものが「オープンソース・アプリケーション」の文脈で語られているので、ライブラリとしての考えはまた違うように思う。
感想
今回難しいのが、拡張機能という点。
自分自身Sublime TextやAtomにもプラグインを入れている。
けれど、自分が使っているプラグインのサポートが数年前で止まっていてバグ挙動が多い。なんていうのもザラにある。「ちゃんと動いたらお金払ってでも使うのに〜。」と思うこともしばしば。
最終的には、自分がどのような価値設計をするのかによると思うが
OSSの運用は、きちんと目的・利益・良い点・悪い点を考えて。むやみやたらにOSSにするのはやめる。
という事を念頭に開発を進めていきたい。
参考
[第3回 フリー価格――価格をタダにするビジネスモデル]
(http://bizacademy.nikkei.co.jp/marketing/mkeyword/article.aspx?id=MMACzr001005062012)