コロナの関係で中止になった種コン2020に出す予定だった機体の設計計画書の一部を公開します。
2020年春に種子島でぶちかます予定だったネタをどこにも公開できないまま2020年が終わってしまうのはあまりにも不完全燃焼すぎるのでここに公開して供養します。
今後のCanSat開発の参考にしてください。
種子島ロケットコンテストについて ⇒ http://jaxa-rocket-contest.jp/
SOMESATについて ⇒ https://somesat.com/
可能な限り当時の設計計画書の原文のまま掲載しています。
このプロジェクトは事実上の凍結状態でコロナ関係の問題が収束しても再開する予定はありません。
本文中に出てくるミッションやアイデアについては流用していただいて問題ありません。
CanSatに使用する場合は連絡は不要ですが、報告していただけると開発者が喜びます。
CanSat以外に使用する場合も基本的には連絡は不要ですが、確認事項がある場合はこちらからお問い合わせください。
ミッション内容(該当するものすべて☑印)
カムバック:□フライバック式 ☑ローバー式 □カムバックではない
画像撮影 :□動画 ☑静止画
データ取得:☑GPS測位 ☑加速度 □姿勢 ☑地磁気 □気温 ☑気圧
無線通信 :□無 ☑有(通信規格:TWE-LITE 13ch)
その他:
機体諸元
項目 | 数値 |
---|---|
収納時寸法(パラシュート含む) | 直径 143mm × 長さ 240mm |
展開時寸法(パラシュート含まず) | 横幅 250mm × 奥行 260mm × 高さ143mm |
質量(パラシュート含まず) | 45グラム |
質量(パラシュート含む) | 1040グラム |
外観図
システム図
ミッション定義
目的:ARLISSに向けた軽量大型CanSatの技術獲得
SOMESATではえだまめシリーズとして超小型軽量CanSatの開発を行ってきたが、今回はARLISS参加を意識して走破性の高い大型CanSatの開発に挑戦をする。今回の大会ではえだまめシリーズを基に多数の新要素を盛り込んだ機体を開発し、それらが有用であるかの検証を行いながらARLISS用の機体の設計方針の模索を行う。そこで、プロジェクト全体としてのサクセスクライテリアを表1のように設定する。
また、新要素は単に詰め込めばいいというわけではなくある程度の品質や信頼性も保証しながら開発をする必要がある。そのため、信頼性の目安として「高度30m程度から投下後、落下地点から300m程度以内の範囲にあるゴールになら確実に0mゴールすることができるようにする」を目標として開発を行う。あくまでも軽量大型CanSatの技術獲得と新要素の検証が主目的であるため、今回はロケットでの打ち上げによる振動や砂漠を10km以上走ることができるといった要求は省略する。これらのことを言い換えると、種子島ロケットコンテスト程度の環境下なら確実に動作するような機体を開発するということになる。そこで、信頼性や品質に関する目標をCanSat競技での目標に置き換えてサクセスクライテリアを表2のように設定する。
表1 プロジェクト全体でのサクセスクライテリア
サクセスレベル | 目標 |
---|---|
ミニマムサクセス | 軽量大型CanSatを試作することができる。 新要素が単体で動作することを確認できる。 |
ミドルサクセス | 全システムが連携して一連の動作ができることを確認する。 (成功率は低くてもいいので、投下から0mゴールまでの一連の動作を連続してすることができる。) |
フルサクセス | 長距離走行試験や長時間試験を行い、機体の耐久性と限界を知ることができる。また、ARLISS用の機体に採用できそうな技術や今回開発する機体の改善点を見つけることができる。 |
表2 CanSat競技に対するサクセスクライテリア
サクセスレベル | 目標 |
---|---|
ミニマムサクセス | 安全に着地し、正常に動作を開始する。 |
ミドルサクセス | 走行開始から誘導までの一連の動作ができる。 制御履歴が正常に取得できる。 |
フルサクセス | 0mゴールを達成する。 |
エクストラサクセス | 種子島ロケットコンテスト 2連覇 |
特徴
1.大型なのに軽量な機体
えだまめシリーズで培ってきた技術をベースに電装系を1枚の基板上に実装することにより、CanSat本体の軽量化と小型化を実現した。タイヤは大型化しつつ軽量化を実現するため、タイヤ断面を図4のように両側面と中央部の3ヶ所に内側にフランジを追加した。これにより、過去の小型CanSatからタイヤの厚さはほぼ変えることなく質量当たりの比強度を増すことができ、タイヤの軽量化に成功した。
2.縦に配置された基板
従来のえだまめシリーズでは基板が横に配置されていたため、縦方向の荷重に対してたわみが発生しやすくなっていた。このため、強い衝撃や振動が加わると基板が変形し、実装されている部品のはんだ面に応力が加わりクラックが発生しやすいという問題があった。今回の機体では、外観図のように基板を縦に配置することにより、着地の衝撃や走行の振動により変形を減らすようにした。また、今までのえだまめシリーズでは本体基板上に垂直にカメラと無線機を固定していたため、接合部に応力が集中するという問題があった。これについても、基板を縦に配置することによりカメラや無線機を基板に対して面で固定することができるようになり、応力の集中を回避できるようになった。
3. 落下分散を狭くしつつ着地速度を遅くするための錘とパラシュート
機体本体の質量は350g弱のためレギュレーション上限まで700g程度の余裕がある。この余裕を利用し、図5のように3m程度のロープで錘を吊り下げるような機構を用意した。この錘によって落下時の質量を増やし、落下速度を速め落下分散を狭くすることができる。高度3m以下になると錘が先に地面に着くため、落下している部分の質量が自動的に減ることになる。これによって、着地直前にパッシブに減速する動作を実現する。能動的な制御は一切行わないため、ロープや接合部の強度にさえ注意すれば誤動作のリスクを完全に排除することができる。図6に高度30mから投下後、高度3mで質量が1000gから350gに変化した場合の落下速度のシミュレーション結果を示す。シミュレーションより速度は4.9m/sから3.1m/sに37%減速することが確認できる。機体の破壊に影響するであろう運動エネルギーは速度の2乗に比例するため各速度の2乗の比を計算すると、1-{3.1}^2/{4.9}^2=0.60となり運動エネルギーは60%減少することが確認できる。3m程度高さから2次減速を始めても60%という大きな差を生じさせられるため、この減速機構はある程度有用であると予想される。(パラシュートの断面積や抗力係数、終端速度は落下実験の実測値に基づいている)
4.従来よりも信頼性と速度が向上した画像処理システム
昨年度と同様にRaspberryPiやOpenCVは使わず、C言語で画像処理をベアメタルで実装している。浮動小数点演算を整数演算に置き換えたり、処理の最適化を行ったりしたことにより、昨年度よりも使用メモリと消費電力を削減しつつ、動作速度を向上することができた。また、処理に時間のかかる画像処理を別マイコンに分離することにより、制御処理と画像処理を並列に実行することができるようになった。今回の画像処理では図7のように、ゴールの赤色のカラーコーンの他に紫色のパラシュートの識別もできるようにした。パラシュートを画像認識することにより、落下後パラシュートを避けるように動き絡まることを回避できるようにした。
さらに、制御履歴を両方のマイコンで複数の媒体(Flashメモリ、micro SD、テレメトリ)に記録する冗長系を組むことによりシステムの信頼性を上げるようにした。画像はmicroSDのみに記録しているが、microSDが故障しても正常に画像処理は継続できるようになっており、誘導には影響が出ないようにしてある。図8に画像処理系のデータの流れを示す。
5.少ない部品数
今回の機体では電装系を全て1枚の基板にまとめてあり、それ以外の要素はボディ・モータ・タイヤ・電池・テールスキッド・パラシュート程度である。タイヤとボディは3Dプリンタ製、ギヤードモータや電池ボックスは既製品であるため、各要素がそろえば特殊な加工を一切すること無く組み付けるだけで機体が完成する。このような構造にすることにより、予備部品を用意しておけば現地で故障が発生しても短時間で壊れた箇所のみを組み替えることができるようになる。構造を単純化することによりメンテナンス性を向上させる他に、信頼性の向上も期待できる。さらに、予備部品との組み換えには特殊な工具を必要としないため、現地に持ち込む工具の量を減らすこともでき、大会参加時の荷物の量を減らすことも可能になる。
開発計画 (2019年12月2日 設計計画書提出時)
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11月までに完成・完了しているもの
- 1機目の機体
- 各デバイスを動かすためのプログラム(ライブラリ)
- 機体の動作確認
- 落下試験
今後の予定
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12月
- 誘導プログラムの作成と調整
- 短距離走行試験 (地上スタートで100m程度先のゴールを目指せるかの確認)
- 長距離走行試験 (数km以上を長時間連続で走らせ、機体の耐久性を確認)
- 試験結果に基づく問題点の抽出と再設計
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1月
- 機体の修正
- 予備機の作成
- 本番用プログラムの作成
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2月
- End to End試験 (北部九州合同実験1)
- 調整期間
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北部九州合同実験は『ISTSプレイベントCansat Competition in Oita』として2020年12月に日本文理大学で開催されました。 ↩