はじめに
機械学習やディープラーニングというと、PythonのTensorFlowやPyTorchが有名ですが、今回は、Rustで作られたディープラーニングライブラリ「RustTensor」を紹介します。
RustTensorは教育的な目的で開発されており、テンソル計算の仕組みや自動微分の仕組みを理解するのに適したライブラリです。
RustTensorとは?
RustTensorは、以下の特徴を持つテンソル計算ライブラリです:
- Rustで一から実装 - メモリ安全性とパフォーマンスを両立
- CPU/CUDA両対応 - CPUバックエンドとGPUバックエンドを選択可能
- 自動微分機能 - 勾配計算を自動で行う
- 豊富な演算子 - 基本的な算術演算から複雑な活性化関数まで対応
- 教育目的 - 内部実装が理解しやすく設計されている
主な機能
基本的なテンソル操作
use rust_tensor_lib::{Tensor, CpuBackend};
fn main() -> Result<(), Box<dyn std::error::Error>> {
// テンソルの作成(勾配追跡を有効にする)
let a = Tensor::<CpuBackend>::from_vec(vec![1.0, 2.0, 3.0], &[3], true)?;
let b = Tensor::<CpuBackend>::from_vec(vec![4.0, 5.0, 6.0], &[3], true)?;
// 演算の実行
let c = &a + &b; // 要素ごとの加算
let d = c.mean(None)?; // 全体の平均値を計算
// 結果の表示
println!("a: {:?}", a.to_vec()?);
println!("b: {:?}", b.to_vec()?);
println!("c = a + b: {:?}", c.to_vec()?);
println!("d = mean(c): {:?}", d.to_vec()?);
// 勾配の計算
d.backward()?;
// 勾配の参照と表示
if let Some(grad_a_ref) = a.grad() {
let grad_a_data = CpuBackend::copy_to_host(&*grad_a_ref)?;
println!("aの勾配: {:?}", grad_a_data);
}
Ok(())
}
ニューラルネットワークの構築
RustTensorでは、基本的な層から複雑なネットワークまで構築できます:
- 全結合層(Dense/Linear)
- 畳み込み層(Conv2D)
- プーリング層(MaxPool2D)
- 活性化関数(ReLU、Sigmoid、Tanh等)
インストール方法
基本的なセットアップ
Cargo.tomlに以下を追加します:
[dependencies]
rust_tensor_lib = "0.1.0"
CUDAサポート付き
NVIDIA GPUを使って高速化したい場合:
[dependencies]
rust_tensor_lib = { version = "0.1.0", features = ["cuda"] }
CUDA使用時の注意: CUDAを使用する場合は、NVIDIA CUDA Toolkit 11.0以降と適切な環境設定が必要です。詳細はリポジトリのREADMEを参照してください。
サンプルの実行
リポジトリをクローンして、様々なサンプルを試すことができます:
git clone https://github.com/ramsyana/RustTensor.git
cd RustTensor
# CPU版MNISTトレーニング
cargo run --example train_mnist_cpu
# GPU版(CUDA必須)
cargo run --features cuda --example train_mnist_gpu
# CNN版MNIST
cargo run --example train_mnist_cnn_cpu
# サイン波回帰
cargo run --example sine_regression_cpu
実装されている機能
テンソル演算
- 基本演算: 加算、減算、乗算、除法(ブロードキャスト対応)
- 行列演算: 行列積、転置
- 三角関数: sin、cos、tan
- 指数・対数: exp、log、pow、sqrt
- 活性化関数: ReLU、Sigmoid、Tanh、Softplus、ELU
最適化アルゴリズム
- SGD (確率的勾配降下法)
- Adam
- Adagrad
- Momentum SGD
ニューラルネットワーク層
- 畳み込み層 (Conv2D)
- プーリング層 (MaxPool2D)
- 転置畳み込み層 (Conv2DTranspose)
学習リソース
RustTensorは教育目的で設計されているため、ドキュメントも丁寧です:
他のライブラリとの違い
RustTensorは以下の特徴を持ちます:
- 言語: Rust(メモリ安全性とパフォーマンスを重視)
- 目的: 教育・学習用途に特化
- 現状: 開発中(実験的用途)
- GPU対応: CUDA対応
- 自動微分: 対応
適用例
RustTensorは以下のようなケースに適しています:
🎓 学習目的
- ディープラーニングフレームワークの内部構造を理解したい
- 自動微分の仕組みを学びたい
- テンソル計算の実装方法を知りたい
🚀 Rustプロジェクト
- Rustで機械学習アプリケーションを作りたい
- 実験的なMLプロジェクトを試したい
🔬 研究・実験
- カスタムオペレータを実装したい
- 新しい最適化手法を試したい
- 独自のネットワーク構造を実験したい
注意点・制限事項
現在のRustTensorには以下の制限があります(READMEより):
- 発展途上: 開発中で、APIが変更される可能性がある
- 教育・実験目的: 現在は教育と実験用途に最適化されている
- 高次微分: 現在は1次微分のみサポート
まとめ
RustTensorは、Rustでディープラーニングを始めたい方や、フレームワークの内部構造を理解したい方に適したライブラリです。Rustファンの方はぜひ試してみてください!
関連リンク
- GitHub Repository
- Are We Learning Yet? - Rustの機械学習エコシステムの総合ガイド
- ユーザーガイド - 詳細な使用方法
- アーキテクチャドキュメント - 内部設計の解説