動画編集やエンコードの定番ツールであるFFmpegは、豊富な機能を持つ反面、そのコマンドライン構文の複雑さが初心者の壁となることがよくあります。しかし近年、AIの発展により、この課題を解決する興味深いツールが登場してきています。
この記事では、FFmpegをより使いやすくする2つの革新的なAIツールを紹介します:
- LLMpeg - コマンドラインで自然言語をFFmpegコマンドに変換
- AI Video Composer - GUIベースで直感的にFFmpegを操作
これらのツールを使うことで、複雑なFFmpegコマンドを理解していなくても、自然言語で動画編集や変換が可能になります。それぞれのツールの特徴と実践的な使用方法を詳しく見ていきましょう。
AIが変えるFFmpegの使い方
FFmpegの従来の使い方では、複雑なコマンドライン引数やフィルターの理解が必要でした。例えば、「動画を5倍速にして、明るさを調整し、モノクロにする」という単純な操作でも、以下のような複雑なコマンドを書く必要がありました:
ffmpeg -i input.mp4 -vf "setpts=0.2*PTS,eq=brightness=0.2,format=gray" -y output.mp4
しかし、AIツールの登場により、このような操作を自然言語で指示できるようになってきています。
注目の自然言語インターフェースツール
LLMpeg:シンプルで直感的なコマンドライン作業
LLMpegは、自然言語の説明をFFmpegコマンドに変換するコマンドラインユーティリティです。OpenAI APIを利用して、人間の言葉をFFmpegの命令に翻訳します。2024年1月にGitHubで公開された比較的新しいプロジェクトですが、その使いやすさから注目を集めています。
シンプルな使用例として、以下のような自然言語コマンドが使用できます:
# LLMpegコマンド
llmpeg remove audio from exampleVid.mov
# 生成されるFFmpegコマンド
ffmpeg -i exampleVid.mov -c:v copy -an output.mov
このような簡単な指示で、適切なFFmpegコマンドが生成されます。-c:v copy
は動画をそのままコピーし、-an
は音声を除外するオプションです。
より複雑な例として、「動画を5倍速にして、明るさを20%上げ、モノクロにする」という指示も理解できます。特筆すべき機能として:
- 実行前のコマンドプレビュー機能により、生成されたコマンドを確認できる
- 複雑なフィルターチェーンもサポート
- より直感的な動画処理が可能
AI Video Composer:ブラウザですぐに試せる動画編集ツール
AI Video Composerは、2024年初頭にHugging Face上で公開された革新的なWebベースツールです。@victormustarによって開発され、@cocktailpeanutによって広く共有されたこのツールは、アリババクラウドのQwen2.5-Coderを活用してFFmpegコマンドを生成します。
特筆すべきは、このツールがHugging Face Spaces上で直接試用できることです。インストールや複雑な設定なしで、ブラウザから即座に利用を開始できます。必要なのは編集したいメディアファイルをアップロードするだけです。
ユーザーは自然言語で編集内容を指示できます。例えば:
"画像を背景にして、中央に音声波形を表示する"
↓
ffmpeg -i ai_talk.wav -i bg-image.png -filter_complex [0:a]channelsplit=channel_layout=stereo[left][right];[left][right]amerge=inputs=2,showwaves=s=1080x200:mode=line:colors=white[left_wave];[1][left_wave]overlay=(main_w-overlay_w)/2:(main_h-overlay_h)/2 -c:v libx264 -c:a aac -y output.mp4
このツールの主な特徴は:
- ドラッグ&ドロップによる直感的な操作
- 画像、音声、動画など多様な入力形式に対応
- カラーグレーディングやテキストオーバーレイなど、高度な編集機能を自然言語で制御
特に、以下のような操作が簡単に実行できます:
- 動画の結合と分割(サイドバイサイド表示を含む)
- モノクロ変換や色調補正
- 再生速度の調整
- 音声の可視化
- テキストの追加
- フォトスライドショーの作成(2秒間隔などの指定も可能)
- フリップやクロップ
- 逆再生
技術的な注意点として、1080x1080などの標準的な解像度で最も安定して動作することが確認されています。
使用するAIモデルについては、以下の選択肢があります:
- 標準設定:Qwen2.5-Coder(32B)
- 軽量版:Qwen 14B(8.5GB)- メモリ使用量を抑えたい場合に推奨
- DeepSeek Coder - オープンソースの選択肢として利用可能
これらのモデルは必要に応じて切り替えることができ、環境や用途に応じて最適なものを選択できます。
活用例
これらのAIツールは、様々な場面で活用できそうです。
コンテンツ制作での活用
FFmpegの知識が十分でない場合でも、直感的な操作で動画編集が可能になります。コマンドラインで実行できるFFmpegは、複数の動画を一括処理する際に特に威力を発揮します。
開発現場での活用
動画処理パイプラインの構築時に、プロトタイプを素早く作成できます。また、複雑なフィルターの組み合わせを試す際の実験ツールとしても有用です。同時にFFmpegコマンドの構造を学ぶ良い機会にもなります。
自動化プロセスでの活用
定型的な動画処理タスクを自動化する際に、AIツールを介することで設定の手間を大幅に削減できます。特に:
- 動画の圧縮処理
- フォーマット変換
- 一括処理のワークフロー作成
などで効果を発揮します。
制限事項
考えられる制限事項や考慮点を挙げてみました。
技術的な制限
AI生成されたコマンドは、常に完璧というわけではありません。特に:
- 生成されたコマンドの手動調整が必要になることがある
- 外部のAIサービスに依存、あるいはローカルでAIモデルを動かす場合は相応のリソースが必要
実用面での考慮事項
実務での使用を検討する際は、以下の点に注意が必要です:
- OpenAI APIを使用する場合のコスト
- AIによる処理のオーバーヘッド
- 生成されたコマンドの検証作業の必要性
まとめ
AIツールの登場により、FFmpegの利用はより直感的で効率的なものになると期待します。自然言語による操作は、FFmpeg初心者の学習曲線を大幅に緩やかにすると期待しています。
紹介した2つのツールは、若干異なるアプローチでFFmpegの操作を簡易化しています。LLMpegはコマンドラインに慣れた開発者向けの選択肢となり、AI Video Composerはブラウザ上で即座に試せる手軽さが特徴です。特にAI Video Composerは、Hugging Face上で直接利用できるため、FFmpegやAIツールの可能性を手軽に体験したい方にお勧めです。
これらのツールは従来のFFmpegの使用方法を完全に置き換えるというよりは、サポートしてくれる役割として捉えるべきだと思います。自分の習得しているオプションは自分で調整するなど、従来の方法とAIツールを使い分けることでこれまで以上に効率的な動画処理が可能になると思います。