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モチベーションの理論とTech企業の人事施策事例(『世界標準の経営理論』より)

Last updated at Posted at 2022-02-12

この記事って何?

『世界標準の経営理論』について

史上初!世界の主要経営理論30を完全網羅した解説書

経営学の標準的な理論30個が体系的かつ網羅的にまとめられた書籍です。
普遍的な理論を深く解説し、理論ドリブンに現象を説明するため、汎用性が高く体系的な理解が得られます。

モチベーションの理論とTech企業の人事施策事例

この記事では上記書籍の30章のうちの1つ「モチベーションの理論」を要約します。
また、書籍内外に存在するTech企業での人事施策例を理論と対応づけて紹介します。
(書籍外から参照する事例はその旨記述しており、あくまで理論との対応づけは私の解釈です)

前段|モチベーションとは何か

モチベーションの定義

様々な定義がうたわれるが、概ね共通し、この本で前提とするのは以下3要素。

  • 人を行動に向かわせる
  • 熱意を持たせる
  • 行動を持続させる

内発的動機と外発的動機

モチベーションには以下の2種類がある。外発的動機よりも内発的動機の方が行動の持続性や熱量を高めることがほぼ定説となっている。

  • 外発的動機
    • 報酬・昇進など、外部から与えられる影響で高まるモチベーション
  • 内発的動機
    • 純粋に「楽しみたい」「やりたい」という、内から出てくるモチベーション

モチベーションのメカニズムの全体構造

以下の6つの理論について事例を適宜交えつつ説明する。
以下図が理論1〜5の全体像である(PSMは別枠)。

    1. ニーズ理論
    1. 職務特性理論
    1. 期待理論
    1. ゴール設定理論
    1. 社会認知理論
    1. プロソーシャル・モチベーション(PSM)

スクリーンショット 2022-02-12 23.59.28.png

1. ニーズ理論(Needs Theory)

理論の概要

「根源的な欲求があり、欲求がモチベーションとなり、行動に影響を与える」という考え。
モチベーションの全体構造を説明できるものではないため、書籍では深く解説されていない。

2. 職務特性理論(Jobs Characteristics Theory)

理論の概要

職務特性理論では内発的動機を重視する。
内発的動機を高める職務」には特性があるとし、その特性を以下のように定義している。

  1. 多様性 : 従事者の多様な能力を必要とすること
  2. アイデンティティ : 従事者がプロセスの最初から最後まで職務に携われること
  3. 有用性 : 他者の生活・人生などに影響を与えること
  4. 自律性 : 従事者が自律性を持って仕事できること
  5. フィードバック : 従事者が職務の成果を認識できること

この基準に沿うように職務をデザインすることで従業員のモチベーションを高められる可能性がある。

事例|Googleの20%ルール (書籍外事例)

Googleの20%ルールは有名だ。
エンジニアは勤務時間の20%を日常業務とは別だが自分の興味を惹く、Googleのビジネスに関係すると思われるプロジェクトに回せる。

これにより生まれたイノベーションも数多くあるというが、以下のようにも捉えられる。
内発的動機を高める上では良いルールのように思われる。

  • 自律性 : 自分の意志で実行しているためほぼ100%自律的である
  • アイデンティティ : 自分の好きで始めたプロジェクトなので最初から最後まで関わることになる可能性が高い
  • 有用性 : 自分が有用だと考えて取り組んでいるため、他者貢献を感じる可能性も高い

3. 期待理論(Expectancy-valence Theory)

人の動機は、その人が事前に認知・予測する『期待』『誘意性」『手段性』の3つに影響を受ける」と考える。

  • 期待 : 行動することで、どれくらいの確率で成果に結びつくと思われるか
  • 誘意性 : 結果、得られる見返りはどれくらい大きいと思われるか
  • 手段性 : 上げたパフォーマンスは見返りに直結するのか

「期待(確率) × 誘意性」が高いほど、得られる見返りの期待値が高く、モチベーションは上がる
また、自分の業務成果が見返りに直結する(手段性が高い)ほどモチベーションが上がる。
(例 : 完全歩合制では業務成果が見返りに直結する)

スクリーンショット 2022-02-13 0.24.47.png

次のゴール設定理論・社会認知理論は上記の期待理論を前提とする。

4. ゴール設定理論(Goal Setting Theory)

理論の概要

ゴール設定理論は「ゴール・目標の設定」をモチベーションの基礎として加えた。
以下の2つの要素がモチベーションを高めるとする

① 「より具体的で、より困難・チャレンジングなゴール」の設定

具体性が重要なのは、例えば「ユーザーを増やせ」と言う抽象的な目標より、「当サービスのコアユーザーである20代女性ユーザーの満足度を徹底的に高めろ」と言う具体的な目標の方が遥かに高くモチベーションが湧く。
また、簡単なものでなく、(その人に見合った範囲内で)チャレンジングな目標であればあるほど、達成された時の満足度が高くなり、行動にコミットする。

② 達成した成果についての明確なフィードバック

成果に対してフィードバックを受けることで、満足度を高め、次により高いゴールを設定することができる。
フィードバックがないと、現時点の成果がわからないので、「次はどのような目標が達成できうるか、どのような努力をすれば良いのか」もわからず、適切なゴールが立てられなくなる。

「具体的で困難な目標 → パフォーマンス → フィードバック → さらなる高い目標」と言う好循環でモチベーション・パフォーマンスが上がっていくのである。

スクリーンショット 2022-02-13 0.36.42.png

事例|Adobe Check-In (書籍外事例)

Adobeでは Check-Inという人事評価制度をとっている。
ここでは3つのステップが取られる。

  1. Expectations : マネージャーが従業員に期待することを確認しお互いに合意する
  2. Feedback : Expectationsに対する従業員の進捗に対してのフィードバックを、マネージャーと従業員で双方向的に、頻繁に行う
  3. Development : 社員が自身のパフォーマンスを理解したら、今後の成長のための学習や経験という観点で、具体的な行動を伴う目標を設定する

また、ここでゴールはSMARTなものが良いとされる。

  • Specific(具体的)
  • Measurable(測定可能)
  • Attainable(到達可能 = 達成可能かつ成長の機会のあるもの)
  • Relevant(組織・事業部の目標に関連する)
  • Time-bound(期限を定める)

具体的でチャレンジングかつ達成可能なゴールを設定し、頻繁にフィードバックを行うというのは、ゴール設定理論に沿った制度と言えるのではないだろうか。

5. 社会認知理論(Social Cognitive Theory)

理論の概要

(社会認知理論は広範なもので、そのうちモチベーションに関する部分のみの解説)
ゴール設定理論の発展形と捉えられる理論である。自己効力感という概念が組み込まれる。
自己効力感とは、自分の能力への自信である。

自己効力感が目標の高さ(ゴール設定)と、行動に影響する(コミットメント) というのが社会認知理論の主張である。
自分に自信があれば高い目標を設定する(a)し、逆境でも行動・努力を持続できる(b)。
結果、自己効力感が高いと優れた成果をあげやすく、それによりさらに自己効力感が増していく(c)。

スクリーンショット 2022-02-13 1.05.00.png

自己効力感そのものに影響を与えるとするのが以下の4要素である。

  1. 過去の自分の行動成果の認知
  2. 代理経験 : 他者の行動・結果の観察による変化。例えば自分と似た人が業務を成功させれば「自分もできるはずだ」と考え自己効力感が高まる
  3. 社会的説得 : ポジティブな言葉を周囲が投げかけること
  4. 生理的状態 : 精神的に不安に陥ると「自分にはできない」という心理に繋がる

6. プロソーシャル・モチベーション(Prosocial Motivation)

理論の概要

プロソーシャル・モチベーション(PSM) は「他者視点のモチベーション」のことだ。
PSMが高い人は他人の視点に立ち、他人に貢献することにモチベーションを見出す。

内発的動機 × PSM

内発的動機とPSMには補完効果がある。双方が高いレベルにあると他者への貢献を自らの楽しみとして感じられる
内発的動機は行動へのコミットメントと持続性に強く影響するため、PSMが持続し、高いパフォーマンスに繋がる。

スクリーンショット 2022-02-13 1.13.00.png

また、内発的動機 × PSM はクリエイティビティを高めるとされている。
クリエイティビティは「新奇性」と「有用性」から成る。つまり、「斬新で人に役立つ」ものがクリエイティブだ。

PSMは「他者視点に立つ」ことであり、PSMが高い人は「相手にとって有用か」を考えられる。
さらに内発的動機が高いと、他人に役立つことを「楽しい」と感じるから、クリエイティブな作業へのコミットメントが高まるのだ。

事例|リクルートの 内発的動機 × PSM

リクルートに存在する企業文化が2つある。
以下の2つは「内発的動機 × PSM」そのものであり、結果的にリクルートはトップクラスの人材輩出企業となっているのだ。

1. 「で、お前はどうしたいの?」文化

リクルートでは社員が「結局自分は何をしたいのか」を徹底的に突き詰める。内発的動機の啓蒙そのものである。

2. 「顧客とのイタコになって考える」

徹底的に顧客視点に乗り移り、顧客の「不満」「不安」などの「不」を突き詰め、解消することを考える。PSMそのものである。

(参考)「リーダーシップの理論」について

リーダーシップは「他者を動機付ける」ことを重要な要素に持ち、モチベーションと対になる概念です。
書籍内に「リーダーシップの理論」の章もあるため、そちらもご参照をお勧めします。
書籍内では TFL(Transformational Leadership) × SL(Shared Leadership)の高い組織で、「内発的動機 × PSM」が育まれ、結果組織の高いパフォーマンスに繋がる、という、モチベーションとリーダーシップを跨った筆者の考察がなされています。

参考文献

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