こんにちは。KDDIアジャイル開発センター(KAG)のサービスデザイナー よねみちです。
生成AIを用いたto Bプロダクトのスクラム開発や、お客様のDX・新規事業創出のきっかけとなるデザインスプリント支援、デザイン思考の研修講師などを担当しています。
また、KAGは今年度初めて新卒のエンジニア・デザイナーに入社いただきました。
そんな中で新卒デザイナーのOJTトレーナーとしても任命いただいており、直近は後輩の育成にも力を入れています。
この記事では、「(Y)やったこと」「(W)わかったこと」「(T)次やること」の3つの要素で構成される振り返りのフレームワーク「YWT」をOJTに取り入れた話を紹介します。
リモートOJTの難しさ
弊社はフルリモートの会社のため、OJTも基本的にはリモートです。
*ワークショップを行う場合や、イベント、日頃のランチ・飲み会目的などで出社して会うこともしばしばあります。
リモートワークは自立的に働く上ではワークライフバランスをとりやすい素晴らしい環境ですが、まだ仕事のリズムが掴めていない新卒や、そんな新卒を指導する人にとっては難しさもあります。
特に、トレーナー側の私としては、後輩の様子を観察できない というのが大きな難しさでした。
観察したい「後輩の様子」とは大きく分けて以下の3点です。
- 進捗:振られたタスクを理解して、進められているか。どこかで大きくつまづいていないか
- 学び:自分のタスクや、私を含む周囲のメンバーの仕事から適切に学びを得られているか
- モチベ:モチベーションを持って働けているか。何にモチベーションを感じやすいか
3点目のモチベーションに関しては1on1などの施策で補えていたのですが、「進捗」「学び」に関しては全てをミーティングで同期的に行うのは負荷が高く、非同期化する手段を模索しました。
「YWT」振り返りを日報代わりにする
一般に、仕事のリズムがまだない新卒の進捗を把握したり、本人のアウトプットの意識づけを行なったりする目的で日報を書かせることがあると思います。
日報でその日の成果や学びを報告してもらえば、僕が知りたい「進捗」「学び」が非同期的に得られそうな気はします。
私自身、新卒時代に日報を書いて、当時の先輩に報告していた記憶があります。
しかし、当時書いていて楽しくなかったし時間がかかって大変だった。だから、別の手段をとりたい。
そこで、デイリーで振り返りをやってもらい、それのメモ(FigJam付箋)を使って毎日の状況シェアを行うことにしました。
今回、採用した振り返りフレームワークは「YWT」です。
- Y:やったこと
- W:わかったこと
- T:次やること
の3つの項目で書く比較的シンプルなものです。
なるべく短時間でできる内容にしたいこと、「進捗」と「学び」の視点が出やすいフレームワークにしたいことからYWTを選定しました。
やり方は以下の通り。
- 後輩には、FigJamボード上で、毎日の終業時にYWTでセルフ振り返りをしてもらう。なお、日中でも書きたい内容が思いついたら適宜メモしてok
- 先輩(私)は、FigJamボードを隙間時間でチェック。付箋へのコメントや疑問点へのリプライなどを記載する
- 必要に応じて、振り返りで出てきたネタについて1on1や打ち合わせでディスカッションする
記載内容や量などには特に制約など設けず、思い立ったことを自由に書くことを優先しています。
やってみた結果
アウトプットまでのプロセスが見えてきた
観察したい「後輩の様子」1点目の「進捗」について、良い効果がありました。
報告書ではないので多少推しはかる必要がありますが、後輩が行なっていることや時間をかけていることが見えてくるようになりました。
例えば、「(タスクを実施するための)参考資料探しに思ったより時間をかけてしまった」など。
また、これまでは「わざわざ先輩に助けを乞うほどではない」と隠れていたのであろう、些細だがトレーナー目線ではサポートした方が良さそうなことも見えてきたりもしました。
実際にサポートするかは育成課題の難易度調整を踏まえて決めるのですが、その判断精度を上げる大切な情報になりました。
学びの深さが見えてきた
観察したい「後輩の様子」2点目の「学び」についても良い効果がありました。
「わかったこと付箋」の書きっぷりから何にどういった深さで学びや気づきがあったのかを察知できるようになりました。
こちらの期待よりも浅めの気づきに留まっているものや、とても本質的なことに気づけているものなど。
私はしばしば「エンジニアやPOへの説明のついでに、後輩に学んでほしいことを伝える」ような、大事なことを背中で語るテクニックを使うことがあります。
こういった背中語りが後輩に届いたのかチェックすることもできるようになりました。
それを踏まえて、より深い気づきを得てもらうための解説を次のミーティングで差し込んだり、ナイスな気づきをより細かく言語化してもらったりとプラスアルファの学習機会を創出できました。
また、YWTを継続することで、配属直後と比較して徐々に学びの深さが深まっていることも付箋で追えるようになりました。
1on1などの場でこれまでの成長を見返す良い材料になっています。
ゆるいコミュニケーションの場が生まれた
運用開始時には想定していなかった別の効果も生まれました。
非同期で付箋を使ってやり取りするプロセスを経て、文通のようなゆるさのコミュニケーションの場が生まれました。
わざわざslackで伝えたりミーティングの場で話したりするほどのことではないけれど、なんとなく話したい聞きたいことが解消できる空間になっています。
特に、仕事へのスタンスやマインドなど、1on1でいきなり話し出すには大袈裟な感じがありつつも、先輩としてしっかり伝えていきたいことを伝えやすい場になっていて捗ります。
付箋でこういった内容を軽く書いておいて、折を見て口頭でも話すような形を取ることが多いです。
考察:振り返りと日報との差
一般的な日報と比較して、今回試みた振り返りによる状況シェアには以下のような特徴があると感じます。
自分のための活動になる
日報などの報告書の場合、それを作成するのは読み手のためです。
読み手が現状を把握するために記載する。
一方、振り返りを行うのは自分自身のためです。上司やトレーナーのためにやるわけではない。
この主目的の差が毎日取り組むモチベーションに影響を及ぼしていると考えています。
必ずしも読んでもらえるかわからない報告書を書くのは相当辛いですが、振り返りであれば自分自身のために続けたくなる。
結果的にきちんと継続した施策になっているのは後輩のコツコツまじめに取り組む姿勢によるところが大きいのですが、施策の設計としても続けやすいものになったと思っています。
整理しなくていい
報告書を書く場合は、状況を赤裸々に並べれば良いものではなく、事実を整理し解釈を持って読み手視点でまとめることが求められます。
ビジネスパーソンの必須スキルだとは思いますが、毎日やるにはだいぶ負担が大きい。
例えば私が新人の頃、5行程度の報告文をまとめるのに平気で30分かかったりしていました。
一方で、セルフ振り返りであれば、事実や感じたことをありのまま書いていけば十分です。
毎日の終わりに10分程度でサクッとやる運用には向いてるなあと思います。
*なお、情報をまとめて言語化するスキル自体はとても大切ですので、議事録など別の場でトレーニングしています。
ワイワイ楽しくやりやすい
FigJamの素敵なところでもあるのですが、付箋にスタンプを押したりしてワイワイした雰囲気を作りやすい。
「楽しくやる」がカルチャーの弊社にとってめちゃめちゃ大事な要素です。
おわりに
今回はアジャイル開発のプロたるKAGっぽく、振り返りをOJTに取り入れた話でした。
やってみると、後輩本人の学びを促進しつつ周囲の先輩もその様子を見て緩く繋がれる、良い取り組みになったと思います。
後進育成をされている方に参考となれば幸いです。