TL;DR
スクラムというフレームワークを人生における様々なタスク解決に応用できないか?と思い至った経緯と、現在の状況を記載します。
スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術
ソフトウェア開発における「スクラム」を提唱した1人である、ジェフ・サザーランド氏の書いた本を読みました。タイトルにもあるように、スクラムの本質は仕事のスピードを上げること。上げるということは、なるべく早くその仕事を達成できるようになる、ということに繋がっていきます。スクラムとはそのためのフレームワークです。
スクラムについて詳しいことはここでは記載しません(きっと多くの記事や本で解説されていると思いますので)。なお、提唱者本人ということもあって用語解説はもちろん、特にその背景などがしっかりと説明されているため、当著はかなりおすすめです。
スクラムはソフトウェアの世界以外でも応用が可能
この本の最後の方に「世界を変える」という章がありました。なんでも、スクラムというのは例えば貧困問題や教育現場といったソフトウェアとは異なる世界においても応用が可能とのことです。当著では実際に事例も交えて紹介しています。
「スクラム」の語源はラグビーから来るものですが、この発想は提唱者のサザーランド氏発祥のものではなく、日本の学者のとある論文の中で使用された経緯から来ているようです。そもそもその論文は、これまたとある日本企業の経営について書かれたもののようで、こういったところからもスクラムは、本質的にはソフトウェア開発に限った概念ではないと言えそうですね。
さて、この章を読んでいて真っ先に自分が思いついたのが、まさに主題に関わる「スクラムを人生にも活かせないか?」ということでした。
人間は怠惰なように出来ている
主語がデカすぎだろうと思った方はすみません。ただ、やらなければいけないことをついつい後回しにしたり、特に意味もなくダラダラとYoutubeなんかを見てしまい振り返ってみると無駄な時間だったと少し後悔に駆られる、そんな経験は少なからず誰しもにあるのではないかと思います。
なかなか自分のやるべきことが進んでいかない、あれこれと手をつけてはいるが結局何も達成できていない。もちろん責任の主なところは自分にあるのですが、その理由について「自分は頑張る能力がないダメな人間」などと帰結してしまうのはなんだか悲しいです。さらに、この体験は悪い方に循環します。いいことがありません。
だから、人間はもともとサボりがち・楽したがり、そういう仕様である、と捉えてもいいのではないかと考えます。その仕様に抗うような言動は人間の本能に抗うことになると言えるので、無理にすることではない、と思考を転換させられます。
大事なのは、そんな人間をうまく扱うための仕組みです。
人生スクラムを実践してみる
かくいう私もどうすれば人生における自分のやるべきことを達成していけるのだろうと考えていました。だから、そんなタスク完了までの流れをスクラムフレームワークに委ねてみることにしました。「よくあるタスク管理を大げさに言っているだけ」と捉えられてしまうかもしれません。ただ、スクラムの持つ「スプリント」や「レトロスペクティブ」といった機能は強力です。人間を短期間の渦に巻き込むようなイメージです。そうするとその仕組みの中で上手く自分が動いてくれるのではないか、と考えました。
また、大事なことはタスクの完了です。ただし、タスクの完了はあくまで手段であり「何のためにそれをするのか」という目的についても留意し続けます。
とはいえ人生における目的というのを見つけるのは結構、いやかなり難しいです。
しかし参考までに、簡潔でまとまっていて良かったと思えたおすすめの本を貼っておきます。
それでは順を追って、実際に私がやってみたことを記載していきます。
1. タスク管理ツールの選択
いくらでもあると思いますが、おすすめはNotionです。まさに超便利なメモ帳。おそらく新規登録後、Notionのワークスペースを開くといかにもタスク管理ができそうなテンプレートがデフォルトで表示されます。そうはならない場合はタスク管理テンプレートから複製ができたりします。ただ、ここは使い手の好みだと思います。何が正解ということは無いです。
2. 登場人物の把握
- プロダクトオーナー・・・自分
- スクラムマスター・・・自分
- チームメンバー・・・自分
お察しの通り、自分しかいません(笑)。自分が自分の人生において価値を生み出すエピックやストーリーを見極め、決定します。作業の進捗状況は、自分で管理します。作業が円滑に進むような工夫を、自分がします。もちろんその作業をするのも、自分です。流石に自分のことを製品(=プロダクト)とまで捉える必要はないですが、「何が自分の人生の価値を高めるか、かつそれは定められた期間内に実現が可能か」ということを考え続けます。
3. エピックを洗い出す
やるべきことを洗い出すにあたって、最大の単位になります。エピックです。
スクラムではアマゾンを引き合いにこんな例を出していました。
利用者として、世界最大規模のオンライン書店が欲しい。どんな本でも、いつでも欲しいときに買えるように
このようにコンセプトを包括的にまとめた大きな目標のようなものが、エピックと言えます。
人生に例えるなら「お金持ちになって、世界中に豪邸を建てたい。いつでもそこを拠点として旅行ができるように」とかでしょうか。
4. ストーリーへの分解
ただ、エピックでは単位が大きいです。スクラムでは短期間で成果を出すことを求められます。成果は形として残すことが重要です。エピックへ向かうための物語、「誰が」「何を」「何のために」行うのかという明確な完了目標と背景を持った概念が必要です。ここでようやく出てくるのが、ストーリーになります。次はこの粒度にまで分解していきます。
例えば3で述べたエピックに「いろんな領域に詳しく、設計や実装ができるフルスタックエンジニアになりたい」があるとします。すると必要なストーリーは複数出てくるはずです。
モバイルアプリエンジニアの私なら「iOSアプリをリリースして成果を上げる」「Jetpack Composeについてまとめた記事をたくさん投稿して役に立つ」だったり、それ以外でも例えば「Solidityを学び、いち早く信頼度の高いスマートコントラクトをデプロイする」といったストーリーが出てくるでしょう。
気をつけたいのはストーリーを闇雲に増やさないようにすることです。「何のためにやるのか」「それは自分の目標達成にとって重要か」を考えるようにし、それが説明できるものを選び取っていきます。
5. タスクへの分解
実際に作業をするための最小単位です。ストーリー達成に必要なものを細分化します。
ただし、通常のソフトウェア開発であればこれらは各人の作業として分解が可能なのですが、人生スクラムは基本的に一人でこなすため、無理にタスクにまで分解しなくて良いケースもあると思います。
6. スプリントプランニング
おなじみスプリント計画。スプリント期間は1週間が良いかなと思いますが、あまり長すぎなければ明確な答えはないと思います。それより大事なことは優先度と見積もりです。
ここでも詳しいことは述べませんが、優先度とは「もっとも価値が高くリスクが低い項目の順」を指します。見積もりとは「そのストーリーを完了させるための作業量を考える」ことです。いわばストーリーポイントを考えることになります。ストーリーポイントは犬やシャツのサイズなどでよく、人間が比較しやすいものであればなんでも良いと思います。私は最終的にそのスプリントで達成したストーリー(および付随するタスク)の合計量として表現されるベロシティを測りたかったため、フィボナッチ数にすることにしました。
7. スプリント開始
1で述べたように、私はNotionのテンプレートをカスタマイズし、このようにしました。そして計画した通りに今も走っています。
各ストーリーはこんな感じ。特にWhyとDefinition of Doneの部分を明確にできるといいです。ex. Qiita入門
8. スプリントレトロスペクティブ
スプリント期間が終わったら最終日に振り返りを行います。もちろん一人になりそうですが、誰か近くで見ていた人がいるなら何か聞いてみるといいかもしれません。KPTは次回のスプリントに持ち込み、活かします。
結果、5月の初旬で33だったベロシティは1ヶ月で48まで上がりました。上記の画像はこの記事を投稿した週のスプリントを指し、67となっています。つまりなるべく前スプリントよりも高い数値を設定して、優先順にストーリーを消化していくようにしていきます。
このように今のところ、上手く自分をコントロールできているように思えます。
注意したいところ
まず一つは、マルチタスクをしないこと。これも人間の仕様でほとんどの人は得意ではないと、サザーランド氏が述べています。ただし人生スクラムにおいて「自炊をする」とか「新聞を読む」みたいな時間的制約のあるものは並行しても問題ないかと思います。なるべく優先度高いものから完了を狙い、スプリント終了後に「いろいろ着手したけど何も終わってない」という事態を避けます。
二つ目は、多くの仕事をすること自体が目的にならないこと。いわゆる手段の目的化を防ぐこと、です。そうなりかけている時は今一度「何のためにそれをやるのか」「それをすることによって何を得られそうか」などという十分な理由や仮説を立てるといい気がします。
さいごに
現在の自分の人生におけるスクラム流の取り組み、またその取り組みに至った経緯をお伝えしました。こうして欲しいというわけではなく、皆さまの持つ何かを達成する上での参考に、少しでもなれたら幸いです。