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失敗の本質 日本軍の組織論的研究
著者: 戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎
ISBN: 978-4478370131
ノモンハン事件・ミッドウェー作戦・ガダルカナル作戦・インパール作戦・レイテ沖海戦・沖縄戦と、第二次世界大戦前後の「大日本帝国の主要な失敗策」を通じ、日本軍が敗戦した原因を追究すると同時に、歴史研究と組織論を組み合わせたノモンハン事件・太平洋戦争の学際的研究書。
各作戦は失敗の連続であったが、それは日本軍の組織特性によるのではないかと考えた。「戦い方」の失敗を研究することを通して、「組織としての日本軍の遺産を批判的に継承もしくは拒絶」することが出版の主目的であった(「本書のねらい」)。
(wikipediaより https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%B1%E6%95%97%E3%81%AE%E6%9C%AC%E8%B3%AA)
各作戦に共通している失敗の原因
連絡をはっきりしない
-
遠回しな表現
- 本当は中止と伝えるべきところを「兵力をxxに抑える」みたいな微妙な表現に
- それで中止と解釈するのは無理あるやろ
- (負けそうなので)自分が責任負いたくない
- 忖度
- 「表情から察して欲しかった」
- 無理だろ
- 本当は中止と伝えるべきところを「兵力をxxに抑える」みたいな微妙な表現に
-
そもそも通信自体の品質が微妙
- 電報が遅れて届いたり、届かなかったりしてた
- 隊員の急な補充、艦隊の乗り換えで通信機をうまく扱えていない
-
連絡があっても無視する
- 関東軍(満州)が中央軍の指示をことごとく軽視 > 敗戦へ
認識がずれている
-
こうだと思って言った
- 相手は反対の意味で受け取っている
- 忖度だったり、勘違いだったり
- 相手は反対の意味で受け取っている
-
敵機の規模を見誤る
- でかい空母だと思った > ただの駆逐艦でした
-
(敵味方関係なく) xxの行動は〜に違いない!
- その後の研究で全く見当違いだったことが判明
- まあこれは仕方ないことではあるが
- 思い込みが強く作用していることはNG
- その後の研究で全く見当違いだったことが判明
-
なぜこの作戦をやるのか?という認識があっていない
- 作戦目的が曖昧
- 結果異なる行動に出る
NOと言えない空気
- 負けを認められない
- どう考えても無茶な状況なのに反論できない
- 反論しても権力で握りつぶされる
- 人情論に支配される
- 大将「あいつ頑張ってるからこの作戦やらせたい」
- 結果末端の人間が死にまくる
- かの有名なインパール作戦
- 根回し、根回し、根回し、、、
- 作戦を失敗と認め実際に撤退するまでに2ヶ月以上(ガダルカナル)
- 大将「あいつ頑張ってるからこの作戦やらせたい」
合理的な判断ができない - 1
-
勝つためにどうする?という観点の議論になっていない
- とにかく突撃!
- 過去の成功体験から抜け出せない
- うちの部隊はこうしたい、あっちの部隊はああしたい
- 折衷して中途半端な作戦に
- 部隊の統率も取れず、戦果半減,,,
- とにかく突撃!
-
長期的な展望が無い
- 短期決戦で全てを決めていくという前提ばかりだった
- 「いざそれが崩れたら?」 > 「そんなことは起こらん!」という根性論で返される
- 兵站を用意するという発想がない
- 最初にコケたらずっとコケ続けることになる
- 短期決戦で全てを決めていくという前提ばかりだった
合理的な判断ができない - 2
- 日本軍は帰納的、米英は演繹的に戦略を導いている
- 結果、航空戦に軸足を移した米英の勝利につながった
- 日本にも可能性があったのに結果を元に発展させるという考え方がなかった
- アンバランスな技術体系
- 戦艦大和とかいらねーから!
- 標準化して大量生産という発想もなかった
- 結果、ソナーやレーダーの技術開発で遅れをとった
不確実な状況に対応できていない
- やってみたら失敗だった
- 「そのまま突き進め!!」 (「えっ」)
- 英・スリム司令官 - 「日本軍の欠陥は、作戦計画が仮に誤っていた場合にこれを直ちに修正する心構えがかなかったことである」
- 山本七平 - 日本軍の最大の特徴は「言葉を奪ったことである」
- 「そのまま突き進め!!」 (「えっ」)
- 日本は奇襲戦法を好んだが、戦争後期ではその作戦自体が相手に筒抜けだった
- 暗号が解読されていたり
- 属人的な組織
- 学習を軽視した組織
つまり。。。
日本軍は実力不足だけではなく、組織力の無さでも敗北した
- 建設的な議論をし
- 正しい目的を据えて
- 正しい認識の元に
- 正しい行動をし
- 不測の自体にも目的に沿った対応する
ことができれば、少なくとも個別の作戦ではもっと勝てる可能性は十分にあった
ん?これって。。。
ソフトウェア開発と同じでは?
「われわれの抱える主要な問題は、そもそも技術的ではなく社会学的なものである」
--- ピープルウェア (著: トム・デマルコ)
この間あったこと
PO「他社に追従してxxの機能を実装してください」
dev「ok」
....
dev「できました」
PO「結構いいね~」
企画「ですね。ただ、こことここはちょっと修正しましょう」
dev「それをやるとこっちはどうします?」
PO「確かに。そうなるとこっちも気になる。。」
企画「確かに。てゆーか、本来このプロダクトが達成したいこと にはどう繋がるんだっけ」
dev「えっ」
PO「えっ」
企画「えっ」
他社の機能が自社にないことは確かに見劣るかもしれないが、それは我々が到達したいゴールに近付くものなのか?という議論が不十分だった。
失敗から学ぶべきこと
目的をはっきりさせよう
WHY --なぜそれをやるのか?-- が一番大事。
WHY > HOW > WHAT という一貫性に沿って進めていく。
えてしてみんなwhatから入りたがるが、これはアンチパターン
- 売り上げ xxxxx達成!
- 顧客満足度 yy% up!
- zzフレームワークを使った最新の技術!
本来これらはwhyから出発した結果としてついてくるべきものであって、最初に目指すべきではない
参考: WHYから始めよ! (著: サイモン・シネック)
不確実な状況に適応する
やるべきことは決まった、ではそれに沿ってやっていくわけだが、想定外のことが起こるのは当たり前。
その時にどう対応するかが大事。
日本軍の失敗から学ぶことは
- 自己を正しく認識し、客観的に事実を把握する
- 正確な情報を、正確に連絡する
- 言うべきことを言う
- 目的に基づいた合理的な判断を行う (個人ではなく全員にとって)
戦略は固定的な法則に基づくものではなく、状況に応じて変異・進化させていくべきものである
(米軍はまさに日本との戦いの中で自らの戦略を再構築し続けることで勝利した)
アジャイルとかスクラムに似てる!
アジャイルソフトウェア開発宣言
- プロセスやツールよりも個人と対話を、
- 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
- 契約交渉よりも顧客との協調を、
- 計画に従うことよりも変化への対応を、
価値とする。
(アジャイル宣言の背後にある原則もよく読みましょう)
スクラムガイド
- 透明性、検査、適応
- 確約(commitment)・勇気(courage)・集中(focus)・公開(openness)・尊敬
(respect)
まとめ
ソフトウェア開発の現場においては、組織に対して下記のような意識を持って臨むこ必要がある。
- 変化に適応する (プロダクトを変える)
- 自己革新 (自分を変える)
- 健全な組織構造、組織文化の醸成 (チームを変える)
とはいえ、こういうド正論を進めるには、
- 自由に発言できる心理的安全の整備
- その発言を元に全員のコンセンサスを取るのが前提というルール
をきちんと整備しているという前提が必要で、それをできるかは結局は トップの器量次第 、という難しい現実があったりもする。
あと、よくよく考えるとここで挙げた失敗は「悪い失敗」がほとんど。
世の中には価値のある失敗とそうでないものがある。
価値のある失敗により早くたどり着く ために、ここで挙げたような失敗には捕まらないような意識のすり合わせをしておくのが重要かなと思う。