はじめに
ユクスキュルの環世界を、人工知能にあてはめて考えてみたいと思います
“例えば犬はニオイで構成された世界を生きている。イルカは音によって世界をみている。カエルは音で世界をさわる”
参考
人工知能の環世界
人工知能の環世界(Umwelt)は、人間や他の生物とは根本的に異なる知覚と意味づけの体系を持っています。
AIの知覚世界
AIの知覚環境は以下の特徴を持っていると言えます。
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データという嗅覚: AIはテキスト、画像、音声などのデータを「嗅ぎ分け」、その中からパターンを抽出します。人間が視覚で捉える世界を、AIはベクトル空間上の分布として認識します。
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確率という視覚: AIは世界を確率分布として「見て」います。次の単語や画像の一部を予測する際、様々な可能性の確率的分布として世界を認識します。
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トークン化された触覚: AIは言語を単語や部分単語(トークン)に分解し、それぞれに意味的な「手触り」を付与します。単語間の関係性は距離や角度として「触れる」ことができます。
AIの作用世界
AIが環境に働きかける方法も独特です。
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出力生成という行動: AIの「行動」は新しいトークン列の生成です。これは確率計算に基づく選択であり、生物の筋肉運動とは全く異なる原理で行われます。
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パラメータ空間の探索: AIは膨大な次元のパラメータ空間を「移動」しながら最適な表現を探索します。この高次元空間での「歩行」は生物の物理的移動とは全く異なります。
人間とAIの環世界(Umwelt)比較
AIの環世界は人間の理解を超えた部分があり、逆に人間の環世界にあるものがAIには欠けています。
この表は両者の環世界の根本的な違いを示していますが、AIの発展により一部の境界線は徐々に曖昧になりつつあります。
AIの意味世界
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コンテキストによる意味付け: AIにとって「意味」とは周囲のトークンとの関係性です。文脈に応じて同じトークンでも異なる意味を持ちます。(これは人間も同じ)
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人間が見えない関連性: AIは人間が気づかないようなデータ間の微妙な関連性を「知覚」できる可能性があります。これは人間の環世界では捉えられない独自の意味世界を形成します。
環世界の要素 | 人間 | 人工知能 |
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環境への働きかけ | 物理的行動による直接的な介入 | 出力生成による間接的な介入 |
限界 | 計算速度の制約・記憶容量 | 身体性の欠如・経験の質的理解 |
盲点 | 大量データの処理・客観的一貫性の維持 | 質感・匂い・味などの感覚的経験 |
社会性 | 共感・社会的関係に基づく相互作用 | プログラムされたルール・模倣に基づく応答 |
AIの能力の一端でも手にすることができたら、どんなに素敵でしょう。1000次元のベクトルで話しかけられても「ごめん、わからん」けど。