ユニタリ変換とは
線形変換の一種です。量子力学とか線形代数学にかかわる概念です。
ユニタリ(Unitary)という言葉は、数学的には「単位性を保存する」という特性を表しているようです。
図の作成: https://claude.site/artifacts/27e67ff5-ca47-44b0-93a8-a2965201f7a1
登場背景
量子力学からの記述要請
量子力学が誕生した1920年代、物理学者たちは原子スケールの現象を記述する新しい理論体系に直面していました。特にシュレーディンガーは波動関数という概念を導入し、粒子の状態を確率的に表現しようとしました。この波動関数は時間とともに変化しますが、その変化は物理的な制約を満たす必要がありました。
最も重要な制約は、確率の総和が常に1でなければならないという条件です。これは波動関数の大きさ(ノルム)が保存されなければならないことを意味します。
ディラックによる定式化
ディラックはこの状況をより厳密に数学的に定式化しました(ブラ・ケット記法)
量子状態をヒルベルト空間のベクトルとして表現し、その上での変換としてユニタリ変換を扱います。これにより、波動関数の時間発展や測定過程を統一的に理解することを可能としました。
基本的な理解まとめ
ユニタリ変換は他とどこが違うのか?
- 非ユニタリ変換と異なり、長さと内積を保存する
- 可逆変換であり、逆変換も同じくユニタリ
ユニタリ変換の持つ意味は何か?
- 量子状態の物理的に実現可能な変換を表現
- 量子情報の保存を保証。量子力学的な時間発展を記述
量子コンピュータの理論において、量子ビットの操作をユニタリ変換として記述することが標準的になっています。(へえ、そうなんだ)
エルミート性とは
エルミート(Hermitian(ハミルトニアンともいう))という言葉の意味は、数学的には「自分自身の共役転置と等しい」という特性を表します。
(語源は、フランスの数学者Charles Hermite より)
登場背景
エルミート性の数学的記述
シュレーディンガーによる波動力学における波動関数による量子状態の記述において、物理的な観測量は実数値を与えなければならないという制約がありました。この制約を満たす数学的操作として、エルミート演算子が導入されることになりました。
1926年にディラックとフォン・ノイマンは、これらの理論を統一的に理解するための数学的枠組みを確立しました。彼らは、量子力学の基礎として以下の構造を定式化しました:
- 物理系の状態はヒルベルト空間のベクトルとして表現される
- 観測可能量はエルミート演算子として表現される
- 測定値はエルミート演算子の固有値として得られる
- 測定後の状態は対応する固有ベクトルになる
ユニタリ変換とエルミート性の関係
ユニタリ変換とエルミート性の関係について。量子力学上の意味あいと共に説明します。
数学的な関係性
- エルミート演算子:実数の固有値を持つ
- ユニタリ演算子:絶対値1の固有値を持つ
- 両者とも完全直交系を形成する固有ベクトルを持つ
物理的な意味づけ
時間発展における関係
- ハミルトニアン:系のエネルギーを表現
- ユニタリ演算子:そのエネルギーによる時間発展を表現
量子測定での役割
- エルミート演算子:測定可能な物理量を表現
- ユニタリ演算子:測定基底の変換を表現
- 測定過程:
- 観測量A → エルミート演算子
- 基底変換U → ユニタリ演算子
経路積分とユニタリ変換・エルミート性の関係
経路積分とは
経路積分はファインマンが1948年に導入した量子力学における粒子の運動を考える画期的な方法です。
2つの違いと関係
- シュレーディンガー方程式は波動関数の時間発展を直接扱います
- 経路積分は「あらゆる可能な経路の重ね合わせ」として量子現象を理解します
経路積分の考え方では、始点から終点までのあらゆる可能な経路を考慮します。各経路には、その経路に沿った作用(ラグランジアンを時間で積分したもの)に基づく位相因子が割り当てられます。ラグランジアン=運動エネルギーと位置エネルギーの差として定義され、エルミート性と密接な関係があります。
数学的等価性
これら二つは、同じ物理的内容の異なる表現方法です。
ユニタリ時間発展演算子による状態の遷移振幅は = 経路積分を用いて表現することができます。
対応関係
- ユニタリ性:確率解釈の整合性(確率の保存)を保証
- エルミート性:物理量の観測値が実数であることを保証
- 経路積分:作用の実数性と経路積分の測度の性質として現れる
具体的には、始状態から終状態への遷移振幅は、すべての可能な経路についての積分として表されます。各経路の寄与は、その経路に沿った作用を用いて決定されます。
数式を含む詳細解説(開くことは非推奨)
シュレーディンガー方程式による量子力学の記述
量子系の時間発展は波動関数$ψ(x,t)$によって記述されます。
この波動関数は以下の微分方程式に従います。
$$i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\psi(x,t) = \hat{H}\psi(x,t)$$
$\hat{H}$:ハミルトニアン演算子で、系のエネルギーを表す
この方程式の形式解は以下。
$$\psi(x,t) = e^{-i\hat{H}t/\hbar}\psi(x,0)$$
ユニタリ時間発展演算子$U(t) = e^{-i\hat{H}t/\hbar}$:波動関数を初期状態から任意の時刻へと変換します。
経路積分による量子力学の理解
経路積分では、量子系の振る舞いを別の視点から捉えます。
$$\langle x_f, t_f | x_i, t_i \rangle = \int \mathcal{D}[x(t)] e^{iS[x(t)]/\hbar}$$
- $\langle x_f, t_f | x_i, t_i \rangle$:初期点$(x_i, t_i)$から終点$(x_f, t_f)$への遷移振幅
- $\mathcal{D}[x(t)]$:すべての可能な経路についての積分
- $S[x(t)]$は経路$x(t)$に沿った作用:$S = \int_{t_i}^{t_f} L(x,\dot{x},t) dt$
- $L$:ラグランジアン:$L = T - V$(運動エネルギー - ポテンシャルエネルギー)
両者の関係
- 数学的等価性:両方の定式化は完全に等価で、同じ物理的予測をします。
-
関連性:
- ハミルトニアン$H$とラグランジアン$L$はルジャンドル変換で結ばれています:$H = p\dot{x} - L$
- シュレーディンガー方程式のユニタリ発展は経路積分の位相因子$e^{iS/\hbar}$と対応しています
物理的解釈
- 経路積分では、古典的には「ありえない」経路も含めたすべての経路が量子的振幅に寄与する
- 古典的極限($\hbar \to 0$)では最小作用の経路(古典的軌道)の周りの経路が主に寄与する
おわりに
量子力学の方面からユニタリ変換などの諸々の概念について学びました。
笑っちゃうくらいマジむずいです。
あとハミルトニアンとかエルミートとかカタカナ揺らぐの勘弁してください。トラップすぎます。