はじめに
オライリー本「UXデザインの法則 第2版」を読んでいます。
- 「CHAPTER 3 ミラーの法則」が大変参考になったのでまとめます
- ひるがえって人間UXと比較した「AIのための情報設計」を検討します
- さいごに「人間とAIのためのドキュメントづくり」についての考えを述べます
章の概要
- コンテンツを小さなチャンク(かたまり)に分けることで、情報の処理・理解・記憶が容易になる
- 普通の人が短期記憶に保持できるのは7(±2)個まで
- 「マジカルナンバー7」の数字に惑わされて無用なデザイン制約を作るべきではない
- 「ナビゲーション項目は7つ以下に制限すべき」などの単純な解釈は誤り
「ミラーの法則」の起源
- 1956年にハーバード大学心理学教授のジョージ・ミラーが発表した論文
- ミラーは若者の記憶範囲が刺激の情報量に関係なく約7つまでに制限されることを実験で発見
- 情報のビット数よりも「チャンク(かたまり)」の数が記憶範囲に影響を与えると結論づけた
- 人間の心を情報処理モデルで理解でき、ワーキングメモリに固有の限界があることを発見
認知負荷
認知負荷 = インターフェース理解とインタラクションにかかる思考リソースの総量
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ユーザーは製品に接した際、操作方法の理解から情報検索までの全てに思考リソースを使う
- 認知負荷はスマートフォンやラップトップのメモリに例えられる
- アプリを起動しすぎると動作が遅くなるように、情報過多で思考が追いつかなくなる
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ワーキングメモリには情報を格納するための決められた数のスロットがある
- 空きスペース以上の情報が入ると、既存の情報が失われ始める
- 失われた情報がタスクに不可欠なものだと、タスクが困難になり、イライラや諦めにつながる
チャンク化
- 保持できるチャンク数は様々な要因で変化するが、短期記憶力の限界とチャンク化の重要性は変わらない
- UXデザインにおけるチャンク化の適用
- 関連コンテンツをまとめ、色・大きさ・分割・マージンなどで視覚的に区別することなど
- チャンク自体の大きさは重要ではない
- 完璧なナビゲーションとは、ユーザーが覚える必要のないもの
事例
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最も単純なチャンク化の例
- 電話番号の書式
- ハイフン整形された電話番号は読み覚えが容易
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「文字の壁」と呼ばれる階層性や書式がなく長い文章は理解が難しい
- 見出し・小見出し・余白・適切な行長などを使うと同じ内容でも理解しやすくなる
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チャンク化は様々な場面で応用できる
- 情報量の多いサイトでのコンテンツ構造化
- ECサイトでの商品情報のグルーピング
- 文書作成アプリでの機能のグルーピング
マジカルナンバー7の誤解
- ミラーの法則は「インターフェース要素を7±2に制限すべき」と誤解されがち
- 特にナビゲーションリンクを「7つに制限すべき」という誤った解釈が広まっている
- ナビゲーションメニューは常に視認できるため、リンク数を制限してもメリットはない
ミラーの真の関心はチャンク化の概念と情報を記憶する能力にあり、法則の要点はチャンク化による短期記憶の有効活用にあるよ〜〜というお話です。
結論
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情報量は指数関数的に増加しているが、人間の処理リソースには限界がある
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過負荷はタスク完遂能力に直接影響を与える
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ミラーの法則:チャンク化によってコンテンツを整理し、理解・記憶を助ける方法
私的な学びメモ
情報の「量」ではなく「構造」がユーザビリティを決定する
- チャンク化されていない情報は、量が少なくても理解が難しい
- 項目数を増やしても、適切に構造化すれば認知負荷は増加しない
- ユーザーの前提知識が少ないほど、チャンク化の重要性は増す
研究と実務の間
- ワーキングメモリの研究は、デジタルインターフェースよりも先に進化している
- 認知科学の研究結果は、実務での応用時に本質が失われやすい
- デジタル設計者は単純な「法則」よりも、より複雑な心理学的現実に向き合う必要がある
- 個人差(知識、状況、文脈)が記憶容量を左右するため、万人向けの絶対的数値は存在しない
人間のためのチャンク・AIのためのチャンク
人間のためのUX研究から翻って、AIとの比較を考えてみます。
AIの限界変数は何か
情報設計が人間の認知負荷とワーキングメモリの限界に基づくとするならば、AIにとってはコンテキストウィンドウやトークン制限が限界変数にあたります。
人間のためのチャンク化
- 認知的限界に基づく: ワーキングメモリの容量制限(7±2)を考慮
- 視覚・空間的処理: 空間配置、色、形状などの視覚的手がかりが重要
- 意味的関連性: 既存の知識体系や経験と結びついたグループ化が効果的
- 目的: 認知負荷の軽減と情報の処理・記憶・理解の促進
AIのためのチャンク化
- 計算効率に基づく: トークン数やコンテキストウィンドウの制限に関連
- シーケンシャル処理: 情報の線形的な流れが重要で、空間的配置は二次的
- パターン認識: 統計的パターンや共起関係に基づく関連性の認識
- 目的: 処理効率の向上、文脈理解の精度向上、応答生成の品質向上
「最適」の違い
両者は大きな目的では共通していますが、情報の捉え方の特性に大きな違いがあります。
両者の特性を鑑みると、情報設計の最適化も異なってくるように思います。
- AI向けに最適化された構造は、人間にとって必ずしも理解しやすくない
- 人間が視覚的に処理しやすい情報構造が、AIには冗長に映ることがある
- 形式的な構造化(AIに有利)と意味的な構造化(人間に有利)は相反することがある
人間とAIのためのドキュメントづくり
ドキュメントを作成する際には、両方の原則を考慮する必要があります。
AIと人間の協働作業のための最適なチャンク化、ドキュメント手法の開発が求められています。
側面 | 人間向けドキュメント構造 | AI向けドキュメント構造 |
---|---|---|
情報の配置 | 視線に収まるサイズ感が大事 | 線形的な情報配列(順序性重視) |
構造化 | 視覚的階層と空間的グルーピングが有効 | タグ付けと明示的カテゴリ分類が有効 |
情報の視覚化 | 図表、グラフ、インフォグラフィック | 構造化データ (JSON、テーブルなど) |
関連性表現 | 近接性、類似性による暗示 | 明示的な関係性の記述 (ref tagなど) |
ナビゲーション | 目次、サイドバー、ブレッドクラム | 明確なセクションID、アンカーリンク |
強調表現 | サイズ、色、配置 (暗黙的表現) |
明示的な重要度評価 (優先度タグなど) |
命名規則 | 人間が理解しやすい自然言語 | 一貫した機械可読フォーマット |
メタ情報 | 基本読まない | めちゃ大事 |
最適化目標 | 人間理解の促進 | パース効率とパターンマッチングの向上 |
全体のまとめ
チャンク化の本質
- チャンク化の本質は「制限」ではなく「共通理解基盤の構築」である
- 異なる認知モデルを持つエージェント間(=人間とAI)で情報を効率的に伝達するには、両者の認知モデルを理解する必要がある
- 現在のAIは視覚的チャンク化を直接処理できないが、その代替となる明示的構造を必要としている
- AIが視覚的チャンク化を理解できるようになれば、人間とAIの情報処理の溝は劇的に狭まる(VLM)
ドキュメントが人間-AI協働のインターフェースとなる
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理想的なAI-人間協働インターフェース:両者の認知モデルを同時に満たす「二重最適化」を実現
- 協働には情報の「量」より情報の「構造」と「関連性のマッピング」が重要
- チャンク最適化は、単一の正解ではなくタスクと文脈に応じた「適応的構造」を必要とする
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AI-人間協働には共通の「思考空間」の形成が足場として必要
- 効果的なチャンク化は、認知モデルの違いを埋める「翻訳層」として機能する
- 最も効果的な協働インターフェースの理想像は、互いの認知モデルを学習し適応する機能性すら兼ねるものだろう(しらんけど)
さいごに
「UXデザインの法則 第2版」を足場にしつつ、AI-人間協働のドキュメント最適化について考えてみました。何はともあれ。May The AI be with you!!