※記事は、あくまで筆者の個人的な見解・意見によるものです。
SIerやIT業界で仕事をしていると、訓練と勉強を勘違いしているエンジニアをよく見かけるようになりました。
特に、文系出身でIT業界(SIer)に新卒入社してからプログラミングなどの訓練を始めた人、長年客先常駐で業務知識ばかり身につけてきた人、正直そこまでIT技術に興味や関心がない人、自己啓発に対する意識が低い人において、これは多く見られる傾向があると、個人的に感じています。
訓練と勉強は似ているようで異なるもの
訓練と勉強とは、似て異なる性質があります。
それぞれの単語の意味は、以下の通りです。
訓練
1 教えこんで慣れさせること。特に、習慣や能力、技能などを体得させ発展させる組織的な教育の活動をいう。
2 軍隊や工場などでの実地教育の総称。また、軍事教練などの類。
- 精選版 日本国語大辞典 より引用
勉強
1 努力をして困難に立ち向かうこと。熱心に物事を行なうこと。励むこと。また、そのさま。
2 気がすすまないことを、しかたなしにすること。
3 将来のために学問や技術などを学ぶこと。学校の各教科や、珠算・習字などの実用的な知識・技術を習い覚えること。学習。また、社会生活や仕事などで修業や経験を積むこと。
- 精選版 日本国語大辞典 より引用
つまり、自身が所属する会社組織において、業務上で求められる技術(スキル)を身につけることは訓練であって、勉強ではありません。そしてこれは、会社組織に所属する者としての義務
なのです。
逆に、勉強とは今は使うことはないが将来使う可能性のある技術(スキル)・知識を身につける
ことです。必要とされる前に実践することが勉強であり、それを業務で「今」使用しなければならなくなった時点で、それは勉強ではなくなります。
この話をよりエンジニア視点で考えるなら、エンジニアは、自身が持つ技術(スキル)を顧客や自身が所属する会社に対して提供
しているのであって、その対価として、顧客や会社はお金(単価や給与)を支払っているということに置き換えられます。決して、エンジニアの勉強のためにお金を支払っている訳ではないのです。
つまり、仕事上必要になる技術を業務時間中に学ぼうとするクラリスエンジニアは、職業人の心構えとしては言語道断であると言えます。「業務で"今"使わなければならない技術をこれから訓練始めて身につけます」
と言う人は、世間一般に仕事ができない人と分類されて然るべきなのです。これは極めて当然のことであって、それを自己認識できていない人は、職業人としてのプロ意識に欠けていると言えるでしょう。
会社として訓練のみを提供することは正しいことでもある
ここまで話をしていると、**「会社として、社員が訓練ではなく勉強することを支援しないのは問題だ」**といったような、不平不満の声をよく耳にします。「勉強するにはお金がいるのに、自分が汗水流して働いて得たお金を使って、新たに勉強するのは不公平だ」「会社として社員の勉強に対して投資をするのは義務だ」「勉強する時間を会社業務の一つとして定義・提供するべきだ」などといった持論を展開する人を私は多く見かけてきました。
私は、正直これらの持論には全く共感できません。なぜなら、会社側の立場として考えた際、これらの会社が雇用者に勉強の機会を提供しないことは普通のこと
と考えられるからです。
会社としては、訓練されていない人の仕事
は、それは付加価値の低下に直結してしまいます。付加価値が低下してしまうと、会社はビジネスの継続において直接的なダメージを受けてしまうのです。そのため、経営者が訓練に対して(一時的にでも)投資する
ことは、会社として価値ある内容であり、別に特別なことではありません。
それに、あなたが経営者だとしたら、他に仕事を依頼する場合に、仕事ができない、使えない人材に対して、高い対価(金額)を支払いたくはないと思うのではないでしょうか。つまり、ビジネスとはそういうものなのです。
もちろん、会社側としても、社員に「勉強もしてほしい」と思っていることはあると思います。ただし、経営者の観点からすると、各従業員の勉強に対してどのくらい投資すればどの程度の成果が出るのかということがわからない
ため、勉強に関する投資計画などをたてることが正直難しいという側面があります。お金は湯水のようには使えません。故に、会社の立場からすれば、勉強という成果指標があいまいなものに対する投資の優先順位
は、極めて低いものになってしまいがちなのです。そのため、会社が社員の訓練に対して投資を行い、勉強に対して投資を行わないということは、ある意味、当然の結果であることを理解する必要があります。
また別の観点では、経営者として「給料分働くために求めているスキルを早く身につけなさい
」という意図で、訓練に対して投資が行っているという考えもあります。その場合、職業人として、これはやって当たり前なものと化すのです。
こういった概念や観点について、理解ができていないために、自己中心的な持論を展開してしまう例が多く見受けられてしまうのだと、私は考えています。
OJTは明確な訓練(トレーニング)であり勉強ではない
企業の場合、(原理的に)所属する社員の大多数は訓練不足
であるものと考えていいでしょう。企業規模が大きくなればなるほど、間違いなくそういう事象に直面しやすいのです。そして、訓練不足は企業のビジネスの根幹に関わる重要な事項のため、躊躇してしまう時間など本来皆無なのです。勉強する人が少ない、などという事案よりも真っ先に対処するべき、企業としての課題であるためです。
そのために存在しているのがOJTです。OJTの目的は非常に明確です。「一日でも早く一人前の給料もらえるための技術を身につけろ」
という訓練がOJTの目的であって、職業人として、これはできて当然の話なります。そのため、OJTを勉強と勘違いしてはいけません。勘違いしてしまった時点で、あなたは勉強することへの取り組みをやめてしまうきっかけになってしまうので、これは絶対に避けるべきです。
残業するよりも勉強する時間を確保する
ここまでの話をすると、あなたが残業で行うすべての事柄は、訓練であって勉強ではないということを少しでも理解して頂けたのではないでしょうか。近年は、働き方改革
が進んでいるため、どこの企業も「うちは他社に比べて残業全然していません」と言った常套句をよく耳にします。ですが、これに騙されてはいけません。そのような企業であっても、現場や時期によっては、サービス残業や無駄な残業が横行していて、数字上、残業していないように見えているだけといったケースが多く見られるからです。そしてそういった環境に身を投じてしまうと、自分以外の力で改善を行うのは、非常に難しいものです。
つまり、エンジニアとして、残業の問題は自分の力で解決するしかありません。他力本願ではなく自分の力で変えていくしかないのです。たとえ、所属している組織の雰囲気が悪くなったとしても、無駄な残業をするくらいなら、(最悪、啖呵を切ってでも)帰って勉強したほうがいいのです。無駄な残業が人事評価につながるぐらいなら、あなたはその会社に居続けることを辞めたほうがいいのです。なぜなら、有限である時間を無駄に浪費してしまうことで、5年・10年後、あなたが、中身がなく応用が利かない、無能な人材と化してしまう可能性(リスク)が大きいからです。
これまでと違い、最近は1年
という短い期間で、様々な技術や業界が目まぐるしく変化していくのがIT業界です。その世界に身を投じているのなら、このことは意識しておくべきでしょう。またこれまでと違って、終身雇用というものは保証されなくなってきている状況です。エンジニアなら、なおさらの話です。あなたが今持っている技術が、5年後10年後も同じように重宝されるとは限りません。
自分の持つ技術が重宝されなくなる未来において、あなたがクラリスエンジニアと化してしまうことが嫌なのであれば、まず勉強できる環境づくりに注力し、勉強し続けることをきちんと考えましょう。
本当にあなたに自由な時間はないのか
「そんなこと言っても仕事は現場常駐で朝早くから終電まで仕事だし、土日も出勤。休みがないから勉強する時間がない。」という声を上げる人もいることだと思います。でも、本当にそうでしょうか。あなたは、目の前に広がっている仕事に対して生産性が高く無駄が少ない形で取り組んでいる
結果として、その現状が生まれていると客観的視点で断言できるでしょうか。より作業時間を短縮し、自由にできる時間を作り出すにはどうしたらいいか、考え続けているでしょうか。休みの日に、友人と遊んだり、ゲームしたり昼寝ばかりして、せっかくの自由に使える時間を無駄にしていることはないでしょうか。
もし、本当にそうだという方
の場合は、あなた自身が壊れてしまう前に、転職などで、その環境から一刻も早く脱出することをお勧めします。
そうではなく、心に思い当たる節がある方は、今すぐ認識を改めましょう。あなたは、時間が限られていながらも勉強している人たち
が、自分が知らないだけで世にたくさん存在していることについて、きちんと認識するべきです。そして、そういった人たちと競争をしなければならない環境にあなたは身を投じている、ということを理解するべきだと思います。(もちろん休息を取ったりリラックスすることもとても重要なことです)
自分のために使える自由に時間
は、自分自身でしか作り出すことができないのです。他人に作ってもらうものではありません。そしてその自由な時間をいかに有効活用出来ているか
の違いが、時間が経てば経つほど、あなたのエンジニア人生に大きなインパクトを与えることになるでしょう。
職務経歴書は転職しなくても書いてみよう
さて、ここまでの話を聞いたはいいものの、正直、何から始めればいいのかわからない
という人もいらっしゃると思います。私は、そういう人に対して、自分の職務経歴書を書いてみることをお勧めしています。
職務経歴書とは、転職活動を始めるにあたってまず必要になるものです。職務経歴書を書き始めると、あなたは自分が携わってきたプロジェクトの内容や、技術(スキル)、仕事の内容を定量・定性的に書くことになります。
その際、あなたはプログラミングの技術、インフラやミドルウェア、各種フレームワークに対しての知識・経験といった、内容をどれだけ記載することができるでしょうか。業務外で、どれだけ自分が自己啓発に対して時間を費やしているのか、記載することができるでしょうか。「自分がどういったプロジェクトでどういう役割を任されていて、どれくらいの規模の仕事をしているのか」、「それはどういう意図や目的があって行われているものなのか」など、あなたは客観的・具体的に把握し、自分の文章に落とし込むことができるでしょうか。
はっきり言います。世間一般に言う「出来るヤツ」というのは、業務の内容も定量・定性的にきちんと書けるし、業務外でも人一倍に時間を費やしている人たちがほとんどです。つまり、見えない努力を陰でちゃんとしているのです。そして、客観的な視点で見た時、現在の自分は、そんな人たちと競えるわけがない状況にいることも実感することでしょう。(そんな状態で転職活動を実際に始めればより実感できると思いますが、)自分の職務経歴書というものが、いかに魅力のないものなのかを、自分で痛感することと思います。
※そういった意味では、転職エージェントを介して転職活動を行うことは、ぶっつけ本番で痛い目を見なくて済むための一種の保険でもある、とも言えるかもしれません。
でもそれは、あなたにとってとても重要なことだと、私は思います。
その結果、あなたが自身の5年・10年後のキャリアについて考え直す
きっかけとなり、今の自分の能力の中で足りないことについて勉強しようと思い奮い立つ、良い機会になると思うからです。
さいごに
私は、新卒入社した会社で4年間、自社プロダクト開発関連の業務に従事してきました。その中で、要件定義や設計などの上流工程から、開発・テスト、導入支援や運用・ヘルプデスクといった下流工程、プロジェクト/プロダクトマネジメントやスケジュール管理などのマネジメントまで、幅広く経験してきましたが、正直に言うなら毎日終電帰り
といった時期も多くありました。(幸い、休日出勤はほとんどなかったです)
そのため、正直、SESや客先常駐といった現場は、自分で経験したことがありません。(同僚や友人の経験談はよく聞いています…)
ですが、その経験もあって、通勤時間や寝る前の1時間、休日などの時間はその多くを勉強することに費やそうと心がけることがより強くなりました。OSやミドルウェア、ネットワークやプログラミング言語といった技術
をはじめ、OSSやライセンスなどに関する法務知識
、ソフトウェアアーキテクトなどの設計技法
、スクラム/アジャイルやリーン開発といった開発手法や開発モデル
など、幅広い内容を勉強をしてきたつもりです。幸運なことに、通勤経路に大型書店もあったため、仕事帰りに興味のあるIT関連書籍やビジネス本を購入して、それらを自由にできる時間に読む習慣が身に着くようにもなりました。
(つっこまれるかもしれないので、あえて正直に言うと、私はKindleはあまり好きではありません。意識して避けています。)
そうして勉強に多くの時間を費やすように心がけてきたことで、多角的視野で業務を分析・改善したり、生産性向上に寄与するきっかけにもつながりました。将来に向けた自身のキャリア形成について、深く考える時間を増やすこともできました。新しい業務で、これまでにない能力・スキルを求められた際に、勉強をしていたことでクラリスエンジニアにならずに済んだ経験もあります。そしてこれらは、自分のエンジニアとしての価値向上にも繋がっていると思っています。
この記事を1人でも多くのエンジニアが読んで、それぞれが「勉強しよう」と自分の認識を考え直すきっかけとなり、将来の日本のIT業界全体の成長に少しでも寄与出来れば幸いです。
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