はじめに
千葉大学・株式会社Nospareの川久保です.
今回は,初学者レベルから学部上級レベルの統計学関連の教科書を,順を追って紹介していきます.普段,経済学をはじめとする社会科学(経済学・経営学や政治学など)を学ぶ学生に教えているので,タイトルに「社会科学向き」と入れてみましたが,これから紹介する多くの本は,他の応用でも役に立つものが多いはずです.
入門書
大屋幸輔『コア・テキスト統計学』
厳密さと初学者に対する分かりやすさのバランスのとれた本です.演習問題を集めた副読本もあるので,こちらと併せて学習すると効果的だと思います.
久保川達也・国友直人『統計学』
入門書としては,やや硬派な教科書ですが,しっかり学びたい人にはお勧めの教科書です.「1.記述統計」「2.確率」「3.推測統計」と標準的な構成をしている中,最後の第4部では社会・経済データとして標本調査や時系列分析の話題にも触れているのも本書の特徴です.
数理統計学
久保川達也『現代数理統計学の基礎』
分布論,統計的推測決定理論,線形モデルといったトピックを,数学的に学んでいきます.統計学の応用に関心がある場合,数理統計学を必ず学習しなければいけないわけではありませんが,数理統計の理解を深めると読める本の幅が広がります.数学的には,学部教養レベルの微分・積分と線形代数の知識があれば十分です.逆に文系の学生(昔の私です)からすると「数理統計を学びながら,重積分や行列演算のテクニックを磨いていく」ぐらいの気持ちで勉強するといいと思います.最後の2章では,計算統計や確率過程といった現代的な話題にも触れています.
竹村彰通『現代数理統計学』
硬派な教科書ですが,丁寧に学習したい人向けの教科書です.昨年,新装改訂版が出版されました.
R入門
今井耕介『社会科学のためのデータ分析入門』(上・下巻)
今井先生著"Quantitative Social Sciences (QSS)"の訳本です.
Rの入門書としても最適ですが,社会科学のデータ解析例が豊富で,計量社会科学・計量政治学に関心がある人にとっても面白い内容です.
計量経済学
浅野皙・中村二朗『計量経済学』
経済学をデータ分析により実証していくための方法論が計量経済学で,基本的には使う統計学のツールは回帰分析です.多くの計量経済学の入門書が行列表記を避けている一方,行列を用いながらも平易に解説している数少ない本です.
西山慶彦・新谷元嗣・川口大司・奥井亮『計量経済学』
「1.基礎編」(回帰モデルの基礎),「2.ミクロ編」(操作変数法やパネルデータ分析など),「3.マクロ編」(主に時系列解析)と分かれていて,計量経済学の広範なトピックが1冊にまとまっています.実証例も豊富です.
その他の話題
小西貞則・越智義道・大森裕浩『計算統計学の方法』
ブートストラップ,EMアルゴリズム,MCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ)法という3つの計算統計の代表的な手法についてまとめられた本です.
小西貞則『多変量解析入門』
計量経済学では主に回帰分析が用いられますが,回帰分析以外にも様々な多変量解析の手法があります.非線形回帰,判別分析,主成分分析といった様々な多変量解析の方法論がまとまった本です.
土屋隆裕『概説 標本調査法』
多くのデータ解析ではランダムサンプルを暗に仮定していますが,実際の標本調査の現場では層化抽出法をはじめとする複雑なサンプリングが行われています.これは母集団における様々な集団をくまなく調査するために,あえてバイアスをかけてサンプリングを行っていると見ることができます.そのようなサンプリングの手法や,そのデザインの下でとられたデータに対する解析法などをこの本で学習できます.
終わりに
株式会社Nospareには,統計学の様々な分野を専門とする研究者が所属しております.統計アドバイザリーやビジネスデータの分析につきましては株式会社Nospare までお問い合わせください.