はじめに
Stokesの定理は、物理学科はもちろん、大学1年生全員が力学や電磁気で必ず出会うことになるベクトル解析における定理です。そんな初期に習う定理ですが、これによって、私はかなり頭を抱えることになります。なぜだと思いますか?それは、少なくとも私が探した限りでは、教科書やネットのどこにも、完全な証明が見当たらなかったからです。とはいうものの、実は、完全に証明してそうなもの(式があまりにも煩雑で証明できているのかどうかは判断しかねました)も見つけはしました(笑)。ですが、それは私にとってはかなり美しくない証明にしか見えず、証明できていたとしても、その証明にあまり意味を見出せそうにありませんでした。なので、今回、私が学部1年生の前期の頃に1週間ほど考えて辿り着いたStokesの定理の完全な証明を紹介したいと思います。この証明は合っている自信があります。というのも、これはかなり明快で簡潔な証明であるからです。実は、2回ほど人前で発表する機会があり(とはいっても、少人数ですが)、どちらにおいても指摘は何も受けず、一定の評価を得ることができました。
過去の私のようにStokesの定理の証明に悩んでいる学生の助けになれば良いなと思います。
Stokesの定理とは
各成分が$C^1$級の任意のベクトル場$\textbf{A}$(感覚的に述べると連続で滑らかなベクトル場)において、次の公式が成り立つという定理である。
\displaylines{
\oint_C\textbf{A}・d\textbf{r}
=
\int_S\big(\nabla×\textbf{A}\big)・\textbf{n}\hspace{1mm} dS\\
}
ここで積分経路$C$は閉回路、$S$は$C$を端とする任意の開曲面であるとする。また、$\textbf{n}$は積分経路$C$について右ねじの向きで$dS$に垂直な単位ベクトルとする。要は下のような設定である。
ここでポイントなのが開曲面$S$は任意であるということである。実は、いろいろな参考書やネットにある説明では、開曲面$S$が平面である場合でしか証明していないのがほとんどであり、任意で成り立つことの証明は骨が折れるという理由で知識として与えるに止まる。しかし、私がこれから述べる証明は、発想は確かに必要であったかもしれないが、開曲面$S$が平面である場合の証明に少し毛が生えたようなものであり、全く骨の折れるものではない。なので、気負わず気軽に読み進めてほしい。
証明
はじめに、補題として以下の①を示す。
①ある閉曲線の線積分はそれらを分割した線積分の和に等しい
議論の簡単のために、上の図のように積分経路$C$を$C_{1}$と$C_{2}$に分割した場合を考える。このとき、積分経路$C_{1}$で線積分したものと積分経路$C_{2}$で線積分したものの和について考えると、赤線の線積分の部分は合計すると0となり、積分経路$C$で線積分したものと等しく、①を満たすと分かる。無数に積分経路$C$を$C_1$,$C_2$,$C_3$,・・・と分割したときも同じ議論で①を満たすことが示される。
補題①により、以下の等式が成り立つ。
\displaylines{
\oint_C\textbf{A}・d\textbf{r}
=\lim_{N\to\infty}
\bigg(\sum_{i=1}^N \oint_{C_{i}}\textbf{A}・d\textbf{r}\bigg)・・・(1)
}
次に、微小の周回線積分($\oint_{C_{i}}\textbf{A}・d\textbf{r}$)について考える。つまり、下の図のような状況である。
ここで、閉回路$C_{i}$上に直行座標系$stw$を設定する(後で説明するが、ここがポイントである)。つまり、下の図のような状況を考えている。
これで、微小の周回線積分($\oint_{C_{i}}\textbf{A}・d\textbf{r}$)を実際に計算する準備ができた。では、実際に計算してみよう。以下では$\textbf{A}$の$stw$直交座標系の各成分を$A_s$、$A_t$、$A_w$とする。つまり、$\textbf{A}=(A_s,A_t,A_w)$とする。
\displaylines{
\begin{align}
\oint_{C_{i}}\textbf{A}・d\textbf{r}
&=A_s\big(s,t-\frac{dt}{2},w \big)ds+A_t\big(s+\frac{ds}{2},t,w \big)dt \\
&\hspace{5mm}-A_s\big(s,t+\frac{dt}{2},w \big)ds-A_t\big(s-\frac{ds}{2},t,w \big)dt \\
&\hspace{10mm}※これはdsとdtが微小であることによる近似式である\\
\\
&=\Bigl( A_s\big(s,t-\frac{dt}{2},w \big)-A_s\big(s,t+\frac{dt}{2},w \big) \Bigl)ds\\
&\hspace{5mm}+\Bigl(A_t\big(s+\frac{ds}{2},t,w \big)-A_t\big(s-\frac{ds}{2},t,w \big)\Bigl)dt\\
\\
&=\Bigl( \frac{\partial A_t(s,t,w)}{\partial s}-\frac{\partial A_s(s,t,w)}{\partial t}\Bigl)dsdt\\
&\hspace{10mm}※これは、テイラー展開をすることにより直ちに得られる\\
\\
&=\bigl(\nabla^,×\textbf{A}(s,t,w) \bigl)_wdsdt\\
&\hspace{10mm}※\nabla^,=\Bigl(\frac{\partial}{\partial s},\frac{\partial}{\partial t},\frac{\partial}{\partial w} \Bigl)である\\
&\hspace{10mm}※\bigl(\nabla^,×\textbf{A}(s,t,w) \bigl)_wは\nabla^,×\textbf{A}(s,t,w) のw成分とした\\
\\
&=\bigl(\nabla^,×\textbf{A}(s,t,w) \bigl)・\textbf{e}_wdS_i\\
&\hspace{10mm}※\textbf{e}_wは\textbf{w}方向の単位ベクトル、S_iはC_iがつくる面積\\
\\
&=\bigl(\nabla×\textbf{A}(x,y,z) \bigl)・\textbf{e}_wdS_i\\
&\hspace{10mm}※(\bigl(\nabla^,×\textbf{A}(s,t,w) \bigl)・\textbf{e}_w=\bigl(\nabla×\textbf{A}(x,y,z) \bigl)・\textbf{e}_wは、回転(rot)と内積の\\
&\hspace{14mm}意味を考えると明らかである\\
&\hspace{10mm}※要するにs,t,wに依存する\nabla^,をs,t,wに依存しないある直行座標系xyzの\\
&\hspace{14mm}\nablaに変更できたことを意味する\\
\\
&=\bigl(\nabla×\textbf{A}(x,y,z) \bigl)・\textbf{n}dS_i \hspace{40mm}・・・(2)
\end{align}
}
式$(2)$を式$(1)$に代入すると
\displaylines{
\begin{align}
\oint_C\textbf{A}・d\textbf{r}
&=\lim_{N\to\infty}
\bigg(\sum_{i=1}^N \bigl(\nabla×\textbf{A}(x,y,z) \bigl)・\textbf{n}dS_i\bigg)\\
&=\int_S(\nabla×\textbf{A})・\textbf{n}dS
\end{align}
}
したがって、Stokesの定理
\displaylines{
\oint_C\textbf{A}・d\textbf{r}
=
\int_S\big(\nabla×\textbf{A}\big)・\textbf{n}\hspace{1mm} dS\\
}
が無事示されたのである。これで証明は終了である。
証明のポイント
この証明のポイントは、積分経路$C$に対して座標を1つ設定するのではなく、微小の積分経路$C_i$の各々に対し座標を設定することで座標を無数に設定したことにある。また、もうひとつのポイントとして、$(2)$式を見れば分かるように、微小の積分経路により積分した結果を$s,t,w$に依存しない形でうまく表すことができることにもある。これらにより、任意の開曲面Sでの証明がかなり鮮やかに与えられるのである。
おわりに
今回、この記事を担当したのは、九州大学理学部物理学科1年(2024年度)の安成温也(やすなりはるや)です。最後まで記事を読んでくれた方には、「はじめに」で述べた”明快で簡潔な証明”といった意味が分かってくれたのではないでしょうか?最後まで記事を読んでくれた方、本当にありがとうございました。私が考案した、このStokesの定理の完全な証明法が誰かの助けになることを強く願っています。